exploration

エディス・ウィダー 「いかにして巨大イカを見つけたか」

「皆さん、探検に出かけましょう。しかし、動物が怖がって逃げないような方法で進めましょう」エディスは語りかける。ここでは、75万ビューを超える Edith Widder のTED公演を訳し、巨大イカを見つけるに至った方法論とその原動力を理解する。

要約

人類は水中撮影を始めたときから巨大イカ(ダイオウイカ)を探し求めてきました。しかしその深海の怪物を見つけることは難しく、今まで撮影に成功したことはありませんでした。海洋学者であり発明家でもあるエディス・ウィダーは、ダイオウイカの初の撮影を可能にした知見とチームワークについて語ります。

Edith Widder combines her expertise in research and technological innovation with a commitment to stopping and reversing the degradation of our marine environment.

 

1 クラーケンは人間や船やクジラを飲み込むと言われていた

クラーケンは恐ろしい怪物で 人間や船やクジラを飲み込むと言われていました。また あまりの巨大さゆえに島と間違えられることもありました。そのような物語の真偽を判定する際には おとぎ話と船乗りの伝説の違いを心に留めておくのが賢明です。その違いとは出だしだけ。おとぎ話は「昔々…」で始まるのに対し 船乗りの伝説は「これはマジな話だぜ」で始まることだけの違いです (笑)

 

2 逃がした魚には尾ひれがついて回るもの

逃がした魚には 尾ひれがついて回るものです。それでも海には確かに巨大な生き物が生息しており 証拠のビデオも手にすることが出来たのです。ディスカバリーチャンネルでご覧になった方はご存じのことでしょう。私は 昨年夏に日本沖で行われた調査に 参加した3人の科学者の1人でした。背が低いのが私です。あとの2人は窪寺恒己博士とスティーブ・オシェイ博士です。

 

3 動物を引き寄せることに着目した方法

この歴史的な出来事に参加できたのは TEDのおかげです。2010年に シルビア・アールのTED wishを叶えるため ガラパゴス諸島のリンドブラッド・エクスプローラ号上で ミッション・ブルーというTEDイベントが開かれました。私は海洋探索の新しい方法について話しました。動物を怯えて逃げさせるのではなく引き寄せることに着目した方法です。マイク・ディグリーも招待され 大いなる情熱をもって海への愛を語ってくれました。彼が長年携わっているダイオウイカ探しに 私のアプローチを適用することも 話し合いました。ディスカバリーチャンネルのイカ専門家たちの会合である イカ・サミットに私を招待してくれたのはマイクです。その夏のサメ週間でのことでした (笑)

 

4 深海に棲息するイカを光で寄せ集めて静かに観察することを提案した

私は 深海に棲息するイカを光で寄せ集めて 静かに観察することを提案しました。静かで耳障りでない機器で 探査することが重要だと強調しました。何百回も潜った経験から気づいたことですが さまざまな機材を用いて 漆黒の深海で過ごす中で 深海潜水調査艇で潜ったときの方が どの遠隔操作艇を使ったときよりも もっと多くの動物を見たという印象でした。ただ深海潜水艇の視野が広いせいというだけかもしれません。それでもティブロンを使ったほうがヴェンタナの時よりもたくさんの動物を見た気がしたのです。その2つの潜水艇の視野は同じですが 推進システムは異なります。

 

5 水力推進装置が多くの動物を怖がらせ逃げられてしまう原因

そこで 騒音レベルと関係があるのではないかと疑い始めました。水中マイクを海底に設置し それぞれの潜水艇を同じスピードで走らせ 同じ距離から 発した音を録音しました。ジョンソン・シーリンクからの音は ここではほとんど聞こえないでしょう。電気推進装置を使っておりとても静かです。ティブロンも電気推進装置を使っていて こちらもまあ静かですが少々騒がしくなります。しかし最近の遠隔操作艇のほとんどには水力推進装置が用いられ ヴェンタナのような音がします。これが多くの動物を怖がらせ逃げられてしまう原因だと考えました。

 

6 赤く光るルアーをカメラに取り付けることを提案した

そこで 深海イカ狩りのために 光るルアーを カメラに 取り付けることを提案しました。推進装置やモーターを持たない ただのバッテリー式のカメラです。照明は赤い光だけなので もっぱら青を見るために適応した ほとんどの深海生物には見えません。私たちの目には見える赤は 深海では赤外線と同等なのです。メデューサと名づけたこの撮影装置は 船尾から海に投げ込みます。600メートル以上のケーブルで海面のブイに繋がれており 海の流れのままに漂い 光るルアーの青い光だけが 深海の生物の目に入ります。私たちはそのルアーを電子クラゲ (e-jelly) と呼んでいました。深海に多数生息するクラゲであるアトーラの 生物発光を模して作られたからです。

 

7 アトーラが発する光の風車は自己防衛の一種

アトーラが発するこの光の風車は 生物発光警報機として知られていますが 自己防衛の一種です。電子クラゲがルアーとして活用可能な理由は ダイオウイカがクラゲを補食するからではありません。このクラゲは捕食者に食べられそうになっている時にだけ 光を放つのです。そしてさらに大きな捕食者の 注意を引くことで最初の捕食者が襲われれば この隙に逃げ出すチャンスが 生まれるかもしれないからです。助けを求める叫び土壇場での最後のあがきであり 深海では一般的な自己防衛の形なのです。

 

8 「バン!何てこった!」

このアプローチはうまくいきました。以前の探査では ダイオウイカは一瞬たりとも ビデオに収められませんでした。今回は6回も成功しました。初回の映像から猛烈に興奮しました。

エディス・ウィダー: 何てこと!本当に?科学者: おお、つかまってる!

まるで おかしなダンスを踊って私たちをからかっているようでした。出て来ては隠れるような そんなからかうような仕草を4回繰り返し 5回目にはカメラの近くにやってきて私たちは歓声を上げました。(音楽) 見ろよ。

科学者: バン!何てこった!(拍手)

 

9 さらに驚愕したのはトライトンで撮影された映像

全身が見えました。私が本当に驚いたのは ダイオウイカがe-jellyに覆いかぶさるようにして その隣の巨大なものを攻撃したことです。おそらくe-jellyの捕食者だと勘違いしたのでしょう。さらに驚愕したのは トライトンで撮影された映像です。ディスカバリーの映像にはでてきませんが 窪寺博士が餌として使ったイカは 体長1メートルのソデイカに ライトを取り付けた イカのルアーです。これは はえ縄漁でも用いられます。ダイオウイカはこの光に おびき寄せられたんだと思います。

 

10 伝説の生き物を高解像度の映像で捉えた

今ご覧頂いているのは 赤い照明で写した超高感度カメラの映像です。ダイオウイカがやって来たとき窪寺博士にはこれだけしか見えていませんでした。これを見て彼はとても興奮し もっとよく見たいと思い懐中電灯をつけましたが それでもダイオウイカは逃げませんでした。博士は思い切って潜水艇の白色ランプをつけて 歴史を覆う霧を払い 伝説の生き物を高解像度の映像で捉えたのです。まさに息を飲む瞬間でした。もしこの生き物が触手を完全な状態で保持しており それを伸ばしたなら 2階建ての家ほどになったことでしょう。

 

11 海洋探索にもNASAのような組織が必要

どうしてこんな巨大な生物が 海に生息しているのに今まで撮影されずにいれたのでしょう? 海の探査はほんの5パーセントしかカバーできていません。まだまだ発見は尽きません。何百万年もの進化を経た素晴らしい生物もいるでしょう。生物活性のある化合物が 想像もつかないような恩恵をもたらすかもしれません。しかしながら 私たちが海洋探索に 注ぎ込んだ資金は 宇宙開発と比べてほんのわずかに過ぎません。海洋探索にもNASAのような組織が必要です。この地球上の生命システムを 解明し 保護する必要があるからです。必要なのは ― ありがとう(拍手)

 

12 探検はイノベーションの原動力

探検はイノベーションの原動力です。イノベーションは経済成長の原動力です。皆さん 探検に出かけましょう。しかし 動物が怖がって逃げないような方法で進めましょう。マイク・ディグリーがかつて言ったように 「現実から逃れ 新しいものを見たり 誰も見たことのないものをぜひ見たいのなら 潜水艦に乗りなさい」 マイクはこの冒険に一緒に来るはずでした。彼の冥福を祈ります (拍手)

 

最後に

探検はイノベーションの原動力。イノベーションは経済成長の原動力。探検に繰り出す好奇心を育もう

TED公式和訳をしてくださった Tomoshige Ohno 氏、レビューしてくださった Natsuhiko Mizutani 氏に感謝する(2013年3月)。

NHKスペシャル 世界初撮影! 深海の超巨大イカ [Blu-ray]


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