「精神異常の殺人者の脳や遺伝性について興味はありますか?」ジムは語りかける。ここでは110万ビューを超える Sloan Scholar のTED講演を訳し、殺人者の脳と遺伝の関係、そして自らを振り返る怖さについて理解する。
要約
精神異常の殺人者がテレビ番組に取り上げられることがありますが、一体何がそうさせるのでしょうか?精神科学者のジム・ファロンが脳のスキャンや遺伝子分析について話をします。彼の話は、殺人者の遺伝性(や育った環境)についてのつまらない書物を明らかにするかもしれません。フィクションの意外な展開としては奇妙すぎる中、自身をぞっとさせる彼の興味深い家系について話をしてくれます。
Sloan Scholar, Fulbright Fellow, Professor Emeritus of Neuroscience, Jim Fallon looks at the way nature and nurture intermingle to wire up the human brain.
1 精神異常の殺人者の脳を分析してみたら?
私は神経科学者で、カリフォルニア大学の教授です。過去35年間に渡り 私は行動について研究を行っています。その行動は、遺伝子や 神経伝達物質やドーパミンなどに基づいています。研究は、回路分析で行っています。そのような感じの研究を普段しています。ところが、どういうわけか最近 ちょっと違った趣旨の研究をすることになったのです。そもそも同僚との会話がきっかけでした。彼が精神異常の殺人者の脳を 分析してみたらどう?と言ったのです。
2 どのようにして精神異常の殺人者になるのか?
これがこれからお話する内容になります。問題は「どのようにして精神異常の殺人者になるのか?」です 私が言う精神異常の殺人者というのは これからお話する人々のことを言います。私が研究した脳には 皆さんが御存じの人の脳も含まれているでしょう。私が脳を手にした時点では何を調べているのかわかりません。これはブラインドテストで、正常な人の脳も含まれていました。
3 どの様に精神異常の連続殺人者になるかは、いつ脳に損傷が発生したかによる
70個ほどの脳を調べたところ いくつかのデータが抽出されました。これらのデータを遺伝子、脳の損傷 脳と環境との相互作用に基づいて 理論的に調べ その仕組みがどのように機能するのか調べるのです。脳の具体的な部位 脳の最も重要な部位に興味があります。これらを調べてきました。遺伝子の相互関係 後成的影響と呼ばれるもの 脳の損傷、環境 これらがどうつながっているかということです。どの様に精神異常の連続殺人者になるかは いつ脳に損傷が発生したかによります。まさにタイミングの問題なのです いろんなタイプの精神異常者がいます。
4 殺人者と連続殺人者の脳の共通点は、眼窩前頭皮質の損傷
パターンを紹介します。殺人者と連続殺人者の脳を 一人ずつ見ていったところ、共通点がありました。眼窩前頭皮質に損傷があったのです。眼窩前頭皮質とは、目のすぐ上で 眼窩と側頭葉の内部のことを言います。調査した全員に損傷がありましたが 損傷はすべて少しずつ違いました。他のタイプの脳の損傷もありました。鍵となるのは 主な暴力的な遺伝子 MAO-A遺伝子の影響です。
5 暴力的な遺伝子は正常な人にも存在するが、男性のほうが影響が大きい
暴力的な遺伝子は、正常な人にも存在します。皆さんの中にも、この遺伝子が存在しています。この遺伝子は判性遺伝子で、X染色体上に存在します。母親からのみこの遺伝子は受け継がれます。つまり、こういう理由でたいていの場合 男性が精神異常の殺人者になるか もしくは攻撃的になるのです。娘は父親から1つのX染色体を、もうひとつのX染色体は 母親から受け継ぐので、遺伝子の影響が弱くなります。しかし息子の場合、母親からしか X染色体を受け継ぐことができないのです。
6 この遺伝子があると胎児の脳がセロトニンに浸される
こうして母親から息子に遺伝子が受け継がれます。発育中、脳のセロトニンに非常に関係があります。セロトニンは、人を落ち着かせたりリラックスさせたりする 効果があるとされているので、とても興味深いですね。しかしこの遺伝子があると 胎児の脳がセロトニンに浸されます。そのため脳全体がセロトニンに反応しなくなるのです。その後の人生において機能しなくなります。
7 暴力を見たり関わったりするのは三次元空間の中
私はこの話をイスラエルで発表しました。ちょうど昨年の事です。その事はいくつかの結果をもたらしています。理論上この事が意味するのは この遺伝子が思春期よりもずっと早い段階で 暴力的な方法で現れるには ささいなストレスや叩かれたりといった事ではない 本当に心を苦しめるトラウマ的な何かに 関わっている必要があります。しかし実際のところ、暴力を見たり 関わったりするのは、三次元空間の中なのです。ミラーニューロンシステムが機能しています。
8 問題はこの遺伝子が凝縮される傾向にあること
そのため、この遺伝子を持っていて ある特定の状況で 多くの暴力を目にしたら 目も当てられない状態が起こります。私が考えていることが世界中で 絶えず暴力がある地域で起こるかもしれません。結果としてこの暴力の全てを見る 子どもたちの世代となるのです。もし私が少女で、暴力事件の多い地域に住む14歳の少女だったら、仲間を求めるでしょう。自分を守ってくれるタフな男を求めるでしょう。問題はこの遺伝子が凝縮される傾向にあることです。現代の少年少女たちがこの遺伝子を持っています。そのため、私は数世代後に 危険な状態になるかもしれないと考えています。
9 母方には暴力に関係した人がいないが、父方にはいた
これは思いつきだったのです。しかし、私の母がこう言ったのです 「精神異常の殺人者について講演をしているそうね。自分が正常な家の出身であるかのように話しているのね」 私は言いました「一体何について話しているの?」 母は私の家族の系譜について話しました。もちろん、母は父方の責任だと非難しています。母の非難は問題の内の一つです。母方には暴力に 関係した人がいませんが、父方にはいたのです。
10 初めての息子による母殺しは、私の7世代前の先祖によるものだった
母は言いました、「いいニュースと悪いニュースがあるわ。あなたのいとこは、コーネル大学創設者エズラ・コーネル。でも、リジー・ボーデンもあなたのいとこなの」。私は言いました「だから?僕達の縁戚にリジーがいるだけだよ」。母が「いいえ、更に悪いの、この本を読んで」と言いました。「異常な殺し(Killed Strangely)」という本があります。これは史実に基づいた本です。初めての息子による母殺しは 私の7世代前の先祖によるものです。それが最初の母殺しの事件です。この本はとても興味深いものです。なぜなら魔女裁判や 当時の人々の考えが記されているからです。しかし、これでは終わらないのです。父方のコーネル家の7人の男性が 皆殺人者だったのです。ちょっと一呼吸しましょうか(笑)。第二次世界大戦中、私の父や3人の伯父は皆 良心的兵役拒否者でおとなしい人たちでした。しかし、時々リジー・ボーデンのような人が 100年に3度ほど現れるのです。いわば予定されているような感じなのです (笑)
11 「我が身をつねって人の痛さを知れ」
この話の教訓は 「我が身をつねって人の痛さを知れ」ですが むしろこういった感じなのです(笑)。行動を起こすべきだったのです。子どもたちはそれに気付きました 子どもたちは皆、大丈夫そうに見えます。しかし、孫たちはここで懸念されていることになるでしょう。それで家族全員のPETスキャンを 開始したのです (笑)。PETスキャン・EEG・遺伝子分析をして 悪い知らせがどこかにないか見るのです。現在、一つの兄弟(息子と娘)だけが 仲が良くなかったということが判明しています。彼らのパターンは全く同じです。同じ脳・EEGを持っています。彼らは今できるだけ近くにいます。しかし、悪いニュースがどこかで起こるでしょう。それがいつ出現するか分かりません。私の話は以上です(笑)
最後に
暴力的な遺伝子は正常な人にもあるが、男性のほうが影響が大きい。この遺伝子は環境によって凝縮される傾向がある。我が身をつねって人の痛さを知ろう。
和訳してくださった Sayuri Kitani 氏、レビューしてくださった Masayo Komine 氏に感謝する(2009年7月)。