前回は、アップルとグーグルは競合しない 「iWorld」と検索連動型広告についてまとめた。ここでは、ガラケー黄金時代はなぜ終わったのか 市場の成熟化とiPhoneについてまとめる。
1 黄金の2000年代前半
先進サービスが世界をリード
1999年2月、iモード誕生から、日本はケータイ大国として急速な進化を遂げてきた。音声のみならず、データ通信やファイナンスなどを世界に先駆けて発展させてきた。
ブラウザ・携帯メール
携帯メールは複数のブラウザでも表示可能なオープンなコミュニケーションツールである。携帯電話同士でのメッセージのやりとりは海外でもなされてきたが、双方向、リアルタイム、端末を選ばないという3つの特徴を持つものはなかった。また、ブラウザにおいてHTMLのサブセット版を用意したことで、パソコン向けとほぼ同じ記述ルールでコンテンツを用意することができた。バックエンドでもインターネットと同じサーバーやデータベースのインフラを流用することができたのだ。
オープンなアプリマーケット
2001年1月に発売した端末にある「iアプリ」はJavaに対応しており、世界で初めて商用モバイルサービスを採用した。初期の段階では誰でもアプリを開発・公開できる状態からスタートし、徐々にドコモの認証が必要な2段階方式をとって柔軟な対応を行った。
音楽ダウンロード
1999年12月にはカラー液晶を搭載し、着信メロディに初めて対応した502iシリーズをリリースした。MIDIのコンタクト版の仕様を採用することで、コンテンツプロバイダーの負担を最小限にした。
決済
電子決済もiモードが起こしたイノベーションの1つである。そのベースは、月々の通話・通信料にiモードサービスなどの利用料と合わせて請求を行うキャリア決済である。そこに、2004年からサービスが開始されたおサイフケータイが加わった。ソニーが開発したFeliCaチップを採用し、iアプリとの連携を可能としたのだ。
セキュリティ
セキュリティについても日本のケータイが世界に先行して取り組んできた分野だ。紛失時にも携帯電話に電話をかけるだけでICカードや電話帳の閲覧・発信などを利用できなくする遠隔ロック、地震発生時などに電話やメールがつながりにくくなっても安否の確認ができる災害伝言板、緊急通報位置通知、緊急速報などである。
端末強化
2000年12月にJ-PHONEがスタートさせた「写メール」は、カメラ付きケータイの利用を一気に広めた。2001年にドコモから初めて登場した防水ケータイ、さらにはワンセグケータイなど端末のハードも多機能化・高機能化を続けてきた。
2 オペレーター主導モデルの功罪
オペレーターがリスクをとっていた
2000年代前半の日本のケータイの繁栄の要因は、キャリア(オペレーター)が主導権を握っていたことと、右肩上がりを続けたARPU(月間電気通信事業収入)である。海外ではこうした例は見受けられず、ノキアやサムスンのようにハードウェアメーカーが主導しているケースが多い。
販売奨励金
販売奨励金とは、販売店がユーザーを新規獲得すると、そこから継続的に発生する利益の一部をオペレーターから販売店に支払うというものである。販売奨励金によって、海外と比べて通信・通話料が高くなっているとの批判もあるが、全国各地に販売代理店が生まれるなど、携帯電話の普及の原動力ともなった。
3 モバイルコンテンツ市場の創造
コンテンツ市場も1兆円規模に
1999年にはゼロだったコンテンツ市場が、2005年には公式コンテンツだけで5000億円、09年には1兆2500億円の規模にまで成長した。同時に、着うたフルなどの音楽配信や電子書籍もケータイが主流になっていった。
4 潮目の変化
市場の成熟化
すでに1人1台のケータイを持つのが当たり前になってからは、オペレーターの収入は新規純増の指標よりもARPUで測られるべきである。ARPUは「既存ベースユーザー×1人当たりの収入」であるため、新規純増は意味がない。
政府によるビジネスモデルへの介入
2007年、突然、政府がそれまでのビジネスモデルに介入した。総務省の「モバイルビジネス研究会」において、端末につけている補助金の不公平を是正せよ、という意見が出されたのである。
携帯電話の販売数が30%減少
端末価格が提示されるようになり、月賦で購入した場合は24ヶ月間は買い換えができないといった「縛り」が始まった。その結果買い控えが起こり、2008年の携帯電話販売数は30%減少した。販売代理店もそれまでのような商売を展開することができなくなり、メーカーもキャリアが一括購入してくれる台数が減って売上が低下していった。
海外展開がうまくいかなかった原因
海外展開がうまくいかなかった原因は、国内のビジネスがうまく回りすぎていてその必要がなかったことと、海外で同様の事業を回すことができるスキルを持った経営陣がいなかったからである。海外の通信事業会社の通信料収入を直接得るためには、株式51%以上を取得し、実質的に買収しなければならないのだ。
技術と利益
少額の投資を行った上での技術ライセンスの供与といった海外展開では、あくまでも技術の標準化を巡る議論での発言権を獲得するくらいしか効果はない。技術だけでは利益を得ることはできないのである。
5 iPhone登場
ソフトバンクのiPhone獲得
スティーブ・ジョブズが当初出していたiPhone販売の条件は、通信料収入の20%の還元だった。しかし、端末を定価販売し、通信料をできるだけ安くする方針に転換していた日本のキャリアを見て、「販売奨励金をつけて端末の販売価格を安くする」ことを求めた。他のケータイが5万円前後する中、iPhoneは2万9800円という低価格で販売されたため、そのシェアは広がっていった。
iPhoneがもたらしたキャリアの戦略転換
iPhone発売後は、ドコモのGalaxySが半額程度で売られるなど、販売奨励金モデルが復活している。しかし、携帯メールやフィルタリングが利用可能になるSPモードをつけるのが遅れるなど、サービスの整備よりも端末を安く売り、通信料収入を期待するモデルに転換したことを裏付けているのだ。
最後に
ガラケー黄金時代は販売奨励金モデルへの政府の干渉によって終わった。それまで国内のビジネスがうまく回りすぎていたこと、海外展開するだけの経営スキルが経営者になかったことも大きな要因。iPhoneの登場によって、実質的に販売奨励金モデルは復活している。イノベーションを継続させることの難しさが伝わる。
次回は、土管化するキャリアとしかけづくり エコシステムの作り方についてまとめる。
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