前回は、貸借取引や金融商品からの派生取引 デリバティブとリスクの移転についてまとめた。ここでは、市場と早期是正措置による監視 金融ビッグバンと金融システム安定化について解説する。
1 金融規制とその問題点
銀行規制の体系
銀行規制は大きく事前的規制と事後的規制に分けられる。前者には参入規制や価格規制などの競争制限的規制と、自己資本比率規制のようなバランスシート規制がある。後者には預金保険機構によるペイオフや資金援助、早期是正措置などがある。
競争制限的規制の内容
参入規制、価格規制、商品規制などを競争制限的規制という。参入規制は業務分野規制(垣根規制)とも呼ばれ、銀行・証券分離規制、銀行・信託分離規制、長短分離規制、生・損保分離規制などがある。価格規制は預金金利規制や株式売買委託手数料規制などがある。商品規制は、新しい金融商品を売り出す場合には、金融庁から認可を受けなければならないというものである。
競争制限的規制による非効率性
競争制限的規制は金融機関同士の競争を制限するため、金融機関の利用者にとっては使い勝手の悪い非効率な金融機関を生み出す原因にもなった。そのため、欧米主要国でも日本でも、事後的規制によって金融システムの安定化を図ろうとするようになっている。
2 金融ビッグバンとは何か
金融業の収益構造の変化
90年代末に金融ビッグバンの動きが強まった背景には、金融・証券業における収益構造の変化と、その変化への対応が遅れたために生じた、日本の金融・証券業の国際競争力の低下がある。
情報通信技術の発達とアンバンドリング
金融業における収益構造の変化をもたらした大きな要因の1つは、情報通信技術の著しい発達である。債券の証券化やデリバティブなどは、これまで1つの金融商品あるいは単一の組織に「束ね」られていた金融仲介機能を分解(アンバンドリング)して供給する現象と捉えることができる。
イノベーションを有利にするシステム改革
金融機関が顧客に良質なサービスを提供するためには、情報通信技術を最大限活用できるように金融システムを設計する必要がある。そのためには、革新者が創業者利潤を得ることができるようにしなければならない。つまり、参入、商品開発、料金設定についての自由化を徹底的に進める必要があるのだ。
金融サービス法の制定と自己責任原則
従来日本の金融システムは、行政指導に代表される裁量的な行政のもとに置かれてきた。今後は、ルール型行政への変更に伴って、取引者間での紛争は司法の場に持ち込まれることが多くなるだろう。
3 金融システムの安定化
銀行とその他の金融機関との相違
銀行はその他の金融機関と違って、預金という決済システムの中核を担う金融商品を扱っている。この決済手段が使えなくなると金融仲介機能が麻痺し、経済活動も大幅に縮小してしまう(システミック・リスク)。
預金保険機構の仕組み
預金保険機構とは銀行が負債として負っている預金残高に一定比率を掛けた預金保険料を各銀行から徴収し、その収入と積立金とによって運営される公的機関である。銀行が破綻した場合の預金保険の発動形態には、ペイオフと呼ばれる預金保険金の支払と、営業譲渡、合併等に対する資金援助とがある。
預金保険制度とモラルハザード
預金保険制度の問題点は、預金者が銀行経営に無関心になってしまうことと、銀行のモラルハザードが起こりやすいことである。
可変的保険料率制度
可変的保険料率制度とは、金融監督当局の評価に応じて銀行を高リスクから低リスクまで9グループに分け、高リスクの銀行ほど高い保険料率が課せられる制度である。
情報開示による市場の監視機能の活用
銀行経営の情報開示よる市場の監視機能を活用することも重要である。非付保預金を持つ大口の預金者や投資家に自己資本比率や不良債権の量などを開示することで、個々の銀行の経営の安定化に貢献することができる。
金融検査と早期是正措置
金融検査によって、早期に不健全な銀行を発見して経営の健全化を義務づけたり、債務超過銀行の早期破綻処理を進めれば、ある銀行の経営破綻が次々に他の銀行に伝染し、それによって金融システムが不安定化することを回避できる。その意味で、早期是正措置は重要である。早期是正措置とは、金融監督庁が銀行をその自己資本比率に従って3つに区分し、それぞれの区分ごとに是正措置をとるように銀行を促すことである。
自己資本比率の意義
自己資本比率の意義は、預金の返済の確実性を高めるために、銀行は貸倒リスクに応じて資金調達における自己資本の割合を高める必要があることである。
金融システム安定化のための緊急措置
金融システム安定化のための緊急措置の1つに、公的資金による優先株等の購入をする資本注入がある。資本注入を受けた銀行は不良債権を早期に処理するだけでなく、収益を上げて優先株等の市場価格を引き上げるように努力する必要がある。
最後に
銀行規制は事前的規制から事後的規制が重視されるようになった。金融ビッグバンの背景は金融業の収益構造の変化と、その対応の遅れによる日本の金融業の競争力低下。金融システム安定化のために、預金保険制度や可変的保険料率制度、金融検査と早期是正措置などがある。事後的規制と情報開示による市場監視、そして監督当局による金融検査と早期是正措置が鍵。
次回は、国内総生産の決定と変動、景気変動 金融と景気と物価についてまとめる。
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