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ディディエ・ソネット 経済危機を予測するには

2007-2008年の経済危機は、予測不可能で一度限りのものだと思いませんでしたか?」ソネットは語りかける。ここでは、90万ビューを超える Didier Sornette のTED講演を訳し、経済危機観測所の分析による経済危機の予測可能性について理解する。

要約

2007-2008年の経済危機は、予測不可能で一度限りのものだと思いませんでしたか?ディディエ・ソネット氏と彼の率いるFinancial Crisis Observatory(経済危機観測所)は、不安定な成長システムに対して一連の初期兆候を分析し、バブルの弾けそうな瞬間を追跡してきました(まさに今、また起ころうとしています)。

Didier Sornette studies whether it is possible to anticipate big changes or predict crises in complex systems.

 

1 世界中の株式市場を合わせると約30兆ドルの損失を生んだ

むかし むかし 人々は経済の成長と繁栄の中に暮らしていました。この時代は「大いなる安定」と呼ばれましたが 多くの経済学者や 政策立案者 - 中央銀行による間違った思い込みでした。終わりのない成長と繁栄をもたらす 新しい世界になったのだという間違った観念です。確かに当時 GDPは着実に伸びており インフレも抑えられ 失業率も低く 市場の変動もうまくコントロールされていました。しかし2007年と2008年に起こった大不況は 大暴落を引き起こし幻想を打ち壊しました。金融部門で生まれた数千億ドルの損失が 世界のGDPの損失を 5兆ドルまで増大させ 更に世界中の株式市場を合わせると 約30兆ドルの損失を生みました

 

2 全く予期しなかったことで晴天のへきれき?

そして この大不況に対する解釈はこのようなものでした。これは 全く予期しなかったことで 晴天のへきれきであり 神の怒りのようだったということ 誰のせいでもない。そこで これに対して 私たちは Financial Crisis Observatory(経済危機観測所)を開設しました。リアルタイムで起きている金融バブルを 調査分析して バブルが弾ける時期を事前に特定するのが目的です。この経済観測所の科学的な支柱は何でしょう? 「ドラゴンキング」理論です。ドラゴンキングは極端な出来事を意味します。他のものとは規模が違う 特別なもの 飛び抜けたものです。特殊なメカニズムが引き起こすので 発生を予測したり 制御することもできるでしょう。

 

3 金融市場のリスクの良い指標となるのが価格の最大下落率

金融の時系列を見てみましょう。特定の株や 理想的な株 世界の指標を見ても同じですが このような 起伏が見られます。実は金融市場のリスクの良い指標となるのが 価格の最大下落率です。これは最高値で買い 最安値で売るような最悪の状況を表す値です。統計を見ると 異なった規模の - 最大下落率の発生頻度が分かります。グラフが それを示しています。興味深いことに 振幅の規模は違っても このような価格変動の99%が 典型的なべき乗則に従って起こることがわかります。この赤い線ですね[縦軸:最大下落率の相補累積分布] でも 興味深いのは例外がいくつも[縦軸:最大下落率の相補累積分布] 赤い線から外れて存在する事です「横軸:NSDEQの価格変動 (%)] 他の99%の価格変動を基に「横軸:NSDEQの価格変動 (%)] 予測した数よりも「横軸:NSDEQの価格変動 (%)] 少なくとも100倍もの例外が 発生しています。原因は 強力な依存性にあります。損失が損失を呼び また損失が 別の損失を生み出す そのような依存性が 標準的な危機管理ツールでは見逃されています。小さなトカゲしか見ておらず ドラゴンキングを見逃しているのです。ドラゴンキングの根本的なメカニズムは 徐々に不安定 つまりバブルに 向かっていく過程であり バブルが極限を迎えると大抵 暴落が起こります。これは 水をゆっくり加熱することと似ています。試験管の温度が沸点に近づくと 液体が不安定な状態になり そこで気化が起こります。この過程は まったく直線的ではなく 従来の手法では予測することはできません。様々な要因が絡み合って発生するもので 基本的に内部から生じるものです。暴落 そして危機の原因は システムの内部にある不安定な性質にあるはずで ほんの少しの動揺がこの不安定を生み出すのです。

 

4 極端な出来事は基本的に予測できない?

これは 良く耳にする ブラックスワン理論と関係あるかと 思う方もいるかもしれません。黒い白鳥は滅多にいないので それに出会うことで白鳥は白いという 確信が崩れ去るという理論です。この理論の捉えるのは事の予測不可能性 極端な出来事は基本的に 予測できないという概念です。私のドラゴンキング理論とは正反対です。この理論では極端な出来事の多くは 理解でき 予測することもできるのです。この能力を身に付ければ稀な出来事をきちんと 予測できるようになるのでしょう。ドラゴンキングで黒鳥をやっつけましょう(笑)

 

5 危機が起こる時期の情報は、超急成長の初期の段階にある

この理論で予想される早期の警告信号は たくさんあります。ひとつを紹介しましょう。正のフィードバックによる超急成長 どういうものでしょう? このような投資をしたとします。1年目に5%のリターンを受け取り 2年目には10% 3年目は20% 翌年は40%の見返りがあったらすばらしいですね。これが超急成長です。普通の急成長だったら 一定の成長率を保ちます。例えば10%ほど しかしバブルが起こっている間は 正のフィードバックが何度も起こり 前回の成長が 次の成長をさらに推し進めるという このような超急成長の形になります とても強力で 持続可能ではありません。重要なのは この類のモデルから数学的に答えを出すと ある時点で無限大になることです。つまり いつか危機を迎え システムが崩れレジームが転換する時が来るのです。崩壊かもしれないし停滞するかもしれません。更に 重要なのは 危機が起こる時期についての情報が 超急成長の初期の段階にあるということです。

 

6 アリアン・ロケットの主要部品の破損診断が我々の初成功

この理論を試し我々の 最初の成功となったのは アリアン・ロケットの主要部品の 破損診断でした。微小破壊音を使うと –これは 構造体の発する かすかな音ですが –この音から 構造へのストレスや損傷の進み具合がわかります。正のフィードバックが重ねて起こり ダメージがダメージを生む状態では かなりの精度で 破損が起こるときの 予測が可能になります。あまりにも良い成果が認められ 今では飛行検査の初期段階で活用されています。

 

7 似た理論が生物学や薬学、出産やてんかん発作にも見られる

もっと驚くべきは同じような理論が 生物学や 薬学 出産や てんかん発作にも見られるということです。妊娠7ヶ月から 母親は 一時的な前兆の陣痛を感じ始めます。それは不安定さが成熟していく兆候であり 赤ちゃんを産むこと ドラゴンキングが生まれます。事前の兆候を測定する事によって これから起こるであろう問題を 事前に特定できます。てんかん発作も様々な規模で現れます。脳が最も危機的な状態になると ドラゴンキングが現れますがある程度予測可能なので 患者がこの病気に対処できるようになります。多くのシステムにこの理論を採用してきました。地滑り 氷河の崩壊 ビジネスの成功の予測にもです。レンタルビデオ YouTube映画など しかし最も大事なのは 金融に対してです。この理論は 我々が経験した金融危機の 根本的な原因を明らかにしたと思います。バブルの30年の歴史に根ざしてします。1980年に始まった世界規模のバブルは 1987年に崩壊し その後も数々のバブルがありました。最も大きかったのは「新経済」のITバブル 2000年に崩壊しました。多くの国での 住宅バブル 世界中での 金融派生商品バブル 株式市場バブルもそうです。商品市場バブル負債とクレジットバブル バブル バブル バブル…世界規模のバブルが起きました。これは市場が世界的に - 過剰評価されていたことを表す証拠であり 2007年に突然 崩壊した 永遠に続くと信じられたマネーマシンの幻想を表しています。

 

8 近年私たちが体験してきた主要なバブルの予測

問題は 特に量的緩和を通して 同じことが繰り返されていることで 2008年以来も危機を脱するためには新たなマネーマシンが 必要だという考えです。アメリカ ヨーロッパや 日本においてもです。量的緩和や緊縮政策が 核心を攻めなければ失敗に終わると 理解するのに重要です。永続的なマネーマシンの考えを 生む構造を攻めなければいけないのです。私は 大きなことを言いました。信じられるかって? 過去15年の間に 我々は象牙の塔から出て 事前に世間に発表してきました 「事前に」ということを強調しておきます。バブルや行き過ぎた経済が 経済危機によって明るみになる前です。近年私たちが体験してきた 主要なバブルの予測です。それぞれに興味深い話がありますが 今回は いくつかだけお話ししましょう。巨大バブルについてです。

 

9 2007年の終わりに今のバブルはレジームを転換させるだろう

中国の奇跡を知っていますね。これは巨大バブルへの株式市場の反応を表しており たった数年の間に 300%も成長しました。2007年の9月に 私はマクロヘッジファンドのマネジメント会議の 講演を頼まれました。そして予測を発表したのです。2007年の終わりに今のバブルは レジームを転換させるだろうと。崩壊するかもしれないし維持できるはずがないと。頭脳明晰で 野心があり様々な情報を持った - マクロヘッジファンドの責任者たちがどう反応したか 想像できますか? バブルを上手く乗りこなして 莫大な富を築いていた人たちです。彼らは私に言いました 「ディディエ君、市場は過剰評価されているかもしれない。でも忘れてることがある。2008年8月に北京オリンピックがある。だから中国政府が 経済を管理することは明らかだし 問題を避けるためなら 何だってする。株式市場も管理するだろう」と。

 

10 私の講演から3週間後、市場は20%下落した

私の講演から3週間後 市場は20%下落しました。その後 市場の変動や 経済の混乱を引き起こし 年度末には 損失は70%に上っていました。どうしてこんなにも間違った判断をするのでしょう。科学的な裏付けを誤解したり 無視します。不安定な状態が続き システムが成熟するとどんな不安要素も 管理することは不可能になってしまうというのに。中国市場は崩壊しましたが立ち直りました。2009年に この小規模な新しいバブルは 持続不可能だと決定しました。我々は事前に予測を再度 発表しました。2009年の夏までには市場は是正され 今の状態は続かないと。この予測を見た評論家たちは 「まさか ありえない」と言いました 「中国政府がついている。失敗の経験を生かししっかり管理するはずだ。この成長から利益を得たいのだから」 失敗の経験を生かさなかったのは評論家の方かもしれません。危機は起こり市場は是正されました。

 

11 自己充足的予言を避けるための「経済バブル実験」

そうなると 評論家はこう言います「そうか 君が予測を発表したこと自体が 市場に影響を与えたんだ。”予測” とは呼べないな」よっぽど私にパワーがあったんでしょうね。興味深いことです。経済科学を発展させることは 基本的には現在まで不可能でした。人は意識的に先読みをするので 自己充足的予言という問題が生じます。そこで新しい科学的手法を発明しました 「経済バブル実験」です。概要はこうです。市場を観察します。過剰 バブルを特定し 調査し レポートを書きます。バブル崩壊時期の予測を書いておきます。発表することはなく秘密にしておきます。現代の暗号機能を駆使して ハッシュして 公開キーを公表します。そして半年後に レポートを公開します。作成記録も含まれています。国際的なアーカイブを通して行なわれるため 後から発表したと責められることもありません。

 

12 バブルはどこにでもあるんですね

最近の分析をご紹介しましょう。2013年5月17日ちょうど2週間前 アメリカの株式市場は 不安定な状態にあったので 5月21日にウェブで発表したのです。レジームが転換するだろう と。翌日 レジーム転換し始めました。金融崩壊ではありません。巨大なバブルができる まだ初期の段階です。惑星の大きさにテーマを変えても プロセスは同じです。どこを見ても同じです。生物圏 大気圏 海の中でも このような超急速軌道が現れ 維持不可能な方向を明らかにし 相転移を知らせます。この右の図は 数々の研究の とても素晴らしい集大成で いまから数十年間は非直線的な変化が 実際に起こりえることを示唆しています。バブルはどこにでもあるんですね。これは楽しみだとも言えます。私のような 大学教授 –マスコミの言う バブルを追い ドラゴンを退治する者にとっては最高です。しかしドラゴンは退治できるのでしょうか? つい最近 他の機関と協力して 動的システムを研究しました。大きな輪のように見えるドラゴンキングを 排除するためにわざと とても小さな動乱を タイミングよく起こしたのです。

 

13 私たちには社会と地球を維持させる責任がある

〈Gouverner, c’est prevoir〉 「統治とは 計画と予測である」 しかしこれは 人類の直面する 最大の問題ではありません。私たちには高まる試練と危機に面している 社会と地球を維持させる 責任があるのです。ドラゴンキング理論には希望があります。システムの多くには 予兆となるサインがあることが分かりました。危機を事前察知する手法の開発は可能ですから 準備をして 対策を取れば 責任を持って対処する事ができます。過剰経済や大不況のような危機 不意をつかれたヨーロッパ危機を 2度と繰り返さないために。ありがとうございました(拍手)

最後に

2007-2008年の経済危機は、世界中の株式市場に約30兆ドルの損失を与えた。経済危機観測所の目的は、バブルが弾ける時期を事前に特定すること。金融市場のリスクの良い指標となるのが価格の最大下落率。危機が起こる時期の情報は、超急成長の初期の段階にある。アリアン・ロケットの主要部品の破損診断が我々の初成功。私たちには社会と地球を維持させる責任がある

 

和訳してくださった Ayumi McMullen 氏、レビューしてくださった Yuriko Hida 氏に感謝する(2013年6月)。

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