「金融工学はマネーゲームに勝つための秘法だと信じてしまうと、大損するリスクを見破れないかもしれません」著者は語りかける。ここでは、吉本佳生『金融工学 マネーゲームの魔術』を5回にわたって要約し、サヤ取りという金融工学の本質を理解する。第1回は、金融工学とリスク。
資産運用の3つの戦略
資産運用の戦略は以下の3つに分けられる。
- 正統派:株価を左右する諸要因(ファンダメンタルズ)を分析して、将来株価が上昇すると予想される株を買う。ファンダメンタルズの例は、企業業績、産業の成長性、国の金利や物価や景気など
- 実践派:過去の株価の変動パターンだけを見て、将来の株価を予想し、株価が上昇すると予想される株を買う
- 策略派:株価が上昇しても下落しても、どちらでも儲けられるような取引を工夫する
金融工学とは何か?
金融工学とは、①様々な金融取引を分析対象として、②高等数学を用いて精緻な理論モデルを構築し、③現実の計算の上ではコンピュータを活用するというのが主な特徴である。具体的には、ポートフォリオ理論(資産運用の効率を高める工夫)と先物やオプションやスワップなどのデリバティブ(金融派生商品)の2つが特に重要である。
金融取引のリスクの種類
金融取引のリスクの種類には、個々の取引のリスクとして5つ、金融システム全体でのリスクの合計6つがある(ALM手法と標準的な財務手法を用いリスクを管理せよ ALMの基本参照)。
- マーケット・リスク:金利や円相場など、資産価格の相場変動によるリスク
- 信用リスク:取引相手が倒産するなどで、取引(返済や受渡など)が実行されなくなるリスク
- 流動性リスク:市場の流動性(取引量)が不足して、市場価格で取引が成立しなくなるリスク
- 取引操作上のリスク:事務上のミスや管理システムの障害などによるリスク
- 法的なリスク:法的な問題で取引が無効となることなどのリスク
- システミック・リスク:ある市場で生じたショックが他の市場に連鎖的なショックを引き起こすことのリスク
マーケット・リスクの測り方
マーケット・リスクの測り方を株価の変動リスクを例に考える。そのためには、将来の株価の変動を確率的に予想することが必要である。例えば、横軸に予想収益をとり、縦軸にその予想収益をもたらすケースが発生する確率を棒グラフで示して(確率分布)判断するのだ。
標準偏差でばらつきを見る
確率分布の幅をみることで、リスクの大きさを示すことができる。平均を中心にしてばらつきをみるものが標準偏差であり、その数値が大きい場合にはばらつきが大きいことになる。ただし、標準偏差でリスクを測るには平均も合わせて判断することや、形の崩れた確率分布の場合には注意が必要である。
ダウン・サイド・リスク
ダウン・サイド・リスクとは、値下がりによって損失を被る確率をリスクの指標とするものである。ただし、ダウン・サイド・リスクはそのマイナスの度合いまでは考慮に入らないため、標準偏差の考え方も必要に応じて取り入れたほうがよい。
VAR
VAR(Value at Risk)とは、最大限でどれだけの損失を覚悟していればいいのかを示す指標である。例えば、95%の確率で損失は最大で10万円に収まるという言い方をする。
信用リスクと格付け
信用リスクとは、お金を貸しても返ってこないというリスクのことである。こうした信用リスクの大きさを「格付け」することを仕事にしている機関がある。しかし、財政赤字、国債暴落、復興増税、産業政策、格付け 国家財政の真相でも述べるように格付けより「CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)」のほうが客観性が高い。
最後に
資産運用の戦略は正統派、実践派、策略派の3つ。金融取引のリスクにはマーケット・信用・流動性・取引・法的・システミック・リスクの6つがある。マーケット・リスクの測り方の典型例は、標準偏差、ダウン・サイド・リスク、VARの3つ。未来や過去を分析するか、負けない戦略を練ろう。
次回は、収益とリスクで選ぶ資産の組み合わせ ポートフォリオ理論とサヤ取りについてまとめる。
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