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ガバナンスと金利に問題あり 米国の先行改革や他国に学ぶ財投改革

前回は、3つの改革は必然だった 財投・郵貯・政策金融改革の経緯と現状についてまとめた。ここでは、ガバナンスと金利に問題あり 米国の先行改革や他国に学ぶ財投改革について解説する。

1 米国の参考例

連邦信用改革法

改革前の状況

米国の連邦信用計画(Federal Credit Program)の特徴として保証の割合が比較的大きいことが知られている。政策決定の際に、直接融資や債務保証の将来コストを認識せず、当該年度の財政支出のみが考慮されているので、債務保証が著しく拡大してきたのである。

 

信用改革法

その対策として連邦信用改革法(Federal Credit Reform Act)が1990年成立、92年施行された。その中で中心的な概念は将来コストを推計するサブシディ・コスト(subsidy cost)である。具体的な計算方法は以下の2つである。

1つは、直接融資や債務保証が行われる全期間についてのキャッシュ・フローの現在価値を連邦政府のコストと定義している。もう1つは、このコストを連邦信用計画が実施される初年度にすべて把握するとしたことである。

直接融資の場合は、融資額と将来返済されるキャッシュ・フローの現在価値との差額がコスト(サブシディ・コスト:借り手の受ける便益・補助金相当)と見なされる。サブシディ・コストとは、政府からのキャッシュ・アウト・フローである融資額から、元利金の返済と手数料収入に、デフォルト、期限前償還、延滞などへの課徴金、不良債権の回収などを加味したキャッシュ・イン・フローの現在価値を控除した金額である。他方、債務保証の場合のキャッシュ・アウト・フローは利子補給とデフォルトの際の政府支出額であり、キャッシュ・イン・フローは保証手数料、追徴金、不良債権の回収額である。

ただし、サブシディ・コストの予測は金利水準やモラルハザード、そして過去のデータの蓄積不足などから容易ではない。そのため、毎年の予算編成時に、サブシディ・コストの再推計を行い、修正を加えることによって推計精度の向上を図っている。

信用改革法の実施により、プログラム別に直接融資と債務保証のコストの比較が行われるようになった。例えば、教育ローンの連邦家族融資制度(FFEL)と連邦直接学生融資制度(FDSL)において、国民の負担するサブシディ・コストを比べると、前者が学生の借入額の9.03%なのに対して、後者はわずか4.44%であった。

この差の主な原因は利息の差であり、いずれも期間16年で調達金利は7.2%だが、FFELの場合には融資額の4.8%相当の利息を政府が支払うのに対し、FDSLの場合は1.3%の受け取りだったのである。また、手数料についても、FFELの場合には政府支援機関(GSEs)であるサリー・メイ(Sallie Mae:学生金融公庫)への支払いがあるので、その分FDSLよりも高くなっていた。

このように、連邦信用改革法が適用されたことによって、国民負担の比較が明示的に行えるようになった。さらに、GSEの見直しもされ、サブシディ・コストの推計による政策・政府機関の見直しが行われているのである。

 

連邦政府業績結果法

1990年信用改革法の後に行われた試みは、連邦政府業績結果法(Government Performance and Result Act: GPRA)である。その基本的な考え方は、政府の施策を段階分けし、各段階のコスト、成果等をできる限り数量化し、予算編成に活用するとともに政府の説明責任を確保しようとするものである。

連邦政府業績結果法の背景としては、連邦財政赤字及び政府活動の効率性・有効性に対する不信感が挙げられる。同法の重要な部分は、業績評価の枠組みである。重要な概念は、以下の4つである。

  1. 投入(Inputs):政策目的として5カ年の戦略計画、業績目標としての毎年の業績計画、サブシディ・コストや行政費用などを記載
  2. 算出(Outputs):政府活動の指標で、政府の財・サービスの生産ともいう。例えば、信用供与活動の場合、件数、金額、民間金融との関係、供与先の業績改善・満足度など
  3. 成果(Outcomes):算出によりもたらされる直接的・間接的な効果。例えば、低所得者やマイノリティの教育達成度、住宅保有比率、新規事業比率
  4. 社会に対する影響(Net Impacts):プログラムがない場合と比較した場合のNet Effect(プラス効果ーマイナス効果)として測定される

 

2 諸外国の財投類似制度

米国

米国では、政府関連機関(連邦政府機関、政府支援企業)が国庫、民間からの資金を原資として、住宅、農業、貿易、教育及び中小企業支援等の分野に対して、融資、債務保証等を行っている。また、政府による金融活動全般について連邦信用計画というかたちでまとめられており、連邦信用計画のうち日本の財政投融資に相当するものは、次の3形態により、民間・地方公共団体・外国政府等に対しての信用供与を行っている。いずれも、ほとんど20年超の超長期金融になっている。なお、金融市場ににおけるシェアは13〜19%である。

  1. 連邦政府機関(Federal Entity)による直接貸し付け:原資は税収、借入金、回収金など
  2. 連邦政府機関による保証:財政資金等を背景にし、民間金融機関の貸付に関する保証を実施
  3. 政府支援機関(GSEs: Government Sponsored Enterprise)による与信:主な原資は当該企業の債券発行による資金

 

フランス

フランスでは、預託供託公庫(CDC)が日本の郵便貯金に相当する国民貯蓄公庫等からの預託や、市中での債券発行、借入等による資金を統合管理として、民間、国有企業、地方公共団体等への貸付を行っており、日本の制度とかなりの類似点が見られる。なお、金融市場におけるシェアは17%で、他の特殊金融機関を含めると23%に達する。

また、フランスでは、これらのCDCなどの特殊金融機関の他にも、国の予算の一部である「貸付勘定」(4年以上の投融資活動)などの金融活動も公的金融とする考え方がある。

 

ドイツ

ドイツでは、復興金融公庫(KfW)等の特別銀行グループが市中での債券発行、欧州復興計画(ERP)特別財産等からの借入等による資金を原資とし、地方公共団体、民間企業、外国への貸付(4年以上の長期)を行っている。連邦予算資本勘定等を除いても、金融市場におけるシェアは4〜7%で、貯蓄銀行等を含めると27〜44%となる。

ドイツにおける公的金融機関は、連邦、州または自治体によって設立・運営される金融機関であり、大部分は公法上の法人格を有するが、私法上の形態(株式会社等)をとるものであっても、国又は自治体が持ち分の全部あるいは大部分を所有するものは含まれる。

 

英国

英国には、日本の一般会計にほぼ相当する統合国庫資金勘定の剰余金や、国債の発行収入金、年金資金等を統合管理する国家貸付資金勘定(NLF)があり、このNLFから国有企業、地方公共団体等への貸付が行われている

英国では、従来から金融市場が発達し、建築組合による住宅融資が広く利用されており、また、税制の活用によって住宅政策が推進されていることもあり、公的な貸付が金融市場に占めるシェアは2%程度と小さい。

 

日本

「失われた10年」と「民の萎縮、官の拡大」 改革後の資金の流れの変化でも述べたように、日本の2003年度の公的金融のシェアは26%である。これを5%にまで削減させることが、一連の改革の目的の1つである。

 

3 将来の財政投融資の姿

財投機関債か財投債か

財投改革の手段として、財投機関債と財投債のどちらが有効かという議論がある。いずれも資金調達手段というインプットとしては役立つが、政策効果であるアウトプットを統制することはできない。そのため、まずは財政投融資の問題点の把握をする必要がある。

 

財政投融資の改革

財政投融資の問題点

財政投融資の問題点は、ガバナンス(運用)と金利(調達)の問題に大別できる。ガバナンスの問題としては、通算された政策コストが明示されていなかった点である。

金利の問題としては、7年以上の預託について、10年利付国債の表面利率を基準に金利が付されてきたが、これが預託金の流動性の対価といえるかどうか。さらに、最近では預託者、特に年金財政に配慮して、10年利付国債の表面利率に一定の上乗せをした設定となっている。そのため、各機関における調達コストが引き上げられているのだ。

 

改革の方向

財政投融資の改革の方向として、ガバナンスの確保と金利の市場化が検討されるべきである。ガバナンスについては、特に出口の財政投融資対象機関がポイントである。民主主義プロセスを機能させ、厳格なコスト分析(米国例)による国民負担や徹底したディスクロージャー(情報公開)の導入などにより政府活動を定期的に評価することが有効である。また、コスト分析導入後には、政府活動の目標・業績についての客観的な評価をする必要がある。さらに、長期にわたる活動であるから、ストック的な視点から見ていく必要があり、幅広く民間を含む専門的な複数の視点・機関で議論するとよいだろう。

金利の問題については、欧米のように市場金利体系をそのまま政府内金利にすればよい。また、一層の市場原理が機能するように財政投融資取引の証券化は有力な選択肢として検討されるべきである。具体的には、預託に変えて債券発行が検討されるべきであるし、財政投融資対象機関でも資金調達の多様化から債券発行や証券化などの市場と調和した方法が検討されるべきである。

ここで、郵便貯金(または公的年金)の民営化と財政投融資の改革の関係は、両者には直接的論理的な関係はない。財政投融資にとって郵便貯金は資金調達手段の1つにすぎない。また、郵便貯金を民営化すべきかどうかは、それが提供しているサービスを民間でも提供可能かであり、国営化のままなのであればその維持コストが国民に容認されなければならない。つまり、財政投融資金利の市場化というかたちでの財投改革により、郵政民営化への圧力は避けられなくなっただけなのである(ALM、財投債、政策コスト分析が財投改革の三本柱 財務省が隠した爆弾参照)。

 

最後に

財政投融資の問題点は、ガバナンス(運用)と金利(調達)。前者は米国の連邦信用改革法、連邦政府業績結果法という先行改革を参考にすればいいし、後者は市場金利体系の応用や財政投融資取引の証券化を行えばいい。他国にも日本の財政投融資に似た制度はある。他国の試行錯誤から学ぼう

次回は、郵便、貯金、保険、窓口という4分社化の経緯と予測 郵政民営化についてまとめる。

財投改革の経済学


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