前回は、財投改革、郵政民営化、政策金融改革 公的金融システムと政策分析についてまとめた。ここでは、「失われた10年」と「民の萎縮、官の拡大」 改革後の資金の流れの変化について解説する。
1 「失われた10年」の資金の流れの変化
2001年度と1990年度の資金の流れを比較する。この機関はバブルの絶頂期から「失われた10年」である。
まず家計部門は、民間金融機関に対して預金が160兆円増加し、郵貯・簡保に対しては170兆円増加している。一方、民間金融機関では、家計からの預金は160兆円増加したが、国債・地方債への投資が150兆円増加し、企業部門への貸出(ネット)は110兆円減少している。つまり、家計部門も民間金融機関からも政府部門に資金が流れ、企業部門へは資金が流れていかなかったのである。こうした事情のため、政府資産の対GDP比は、日本は151%だが、米国は12%にすぎない。
2 諸改革後の資金の流れの変化
改革後の姿
諸改革により資金の流れが2003年度末から2017年度末までにどのように変化するだろうか。以下の7つの前提によって将来像を描く。①名目GDP(510→810兆円)、②国債・地方債残高(700→1120兆円)、③マーシャルのk(1.4→1.5)、④民間預金残高(510→1090兆円)、⑤財投残高半減(340→170兆円)、⑥郵貯・簡保の運用、⑦郵貯・簡保の減少(140兆円)→個人国債増(90兆円)・民間預金増(50兆円)。
その結果、家計部門から民間金融機関に対して預金が580兆円増加し、郵貯・簡保に対しては140兆円減少する。ただし、国債は90兆円増加する。一方、家計から民間金融機関への預金の増加は、国債・地方債への投資を390兆円増加させるものの、企業部門への貸出(ネット)を140兆円増大させる。
郵貯・簡保はすでに民間金融機関になっているという前提であるから、家計資産に占める公的金融のシェアは26%から5%へ激減し、民間負債に占める公的金融のシェアは17%から6%へ激減するなど、資金の流れは「官から民へ」と大きく変化する。
郵政民営化を行わなかったらどうなるか
2001年の財投改革後は、郵貯は自主運用となって市場から国債を購入するので、0.2%の預託金利の上乗せの利益補填、その他国庫内であったために得られた運用上のメリットはすべて断たれている。
その上で、郵貯が民営化されなかったら、信用リスクをとるような貸出業務は行えない。その理由は公的主体であり、失敗した場合に国民負担となるため、信用業務によるリスクをとることができないからである。このことは、郵貯が民営化されない場合、将来的に郵貯経営は困難となることを意味している。
特殊法人改革・政策金融改革を行わなかったらどうなるか
特殊法人改革・政策金融改革を行わずに、2003年度と2017年度が同じ残高規模であると、財投債(または財投機関債)が90兆円増加することになる。これは民間企業への貸出が90兆円減額することになり、企業部門への資金の流れを「官から民へ」と変えることはできない。
3 おわりに
民間部門が自己責任原則の下でリスクをとり、新たな価値創造を行っていくことが市場経済の基本である。「民の萎縮、官の拡大」という構図を打ち破り、際限なく拡大してきた公的部門に歯止めをかける必要がある。郵政民営化を本丸とする一連の公的金融改革は日本再生の上で避けては通れない道である。
最後に
「失われた10年」は、民間金融の萎縮と公的金融の拡大の歴史。諸改革を行えば、家計資産に占める公的金融のシェアは26%から5%へ激減し、民間負債に占める公的金融のシェアは17%から6%へ激減する。郵政民営化を本丸とする一連の公的金融改革は必然。
次回は、郵貯・資金運用部の歴史と郵貯シフト 郵貯の経済分析についてまとめる。
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