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ジョアンナ・ブレイクリー ファッション界の自由な文化から学ぶこと

「映画・音楽・ソフトウェア業界にみられる著作権法の厳しい規制力は、ファッション業界にはほとんど及んでいません」ジョアンナは語りかける。ここでは、85万ビューを超える Johanna Blakley のTED講演を訳し、クリエイティブ産業がファッション業界から学べることについて理解する。

要約

映画・音楽・ソフトウェア業界にみられる著作権法の厳しい規制力はファッション業界にはほとんど及んでおらず、それがファッション業界の革新性と売上の両方のためになっている、とジョアンナ・ブレイクリーは語ります。その他のクリエイティヴ産業は皆ファッション業界から何を学ぶことができるかについてブレイクリーがTEDxUSC 2010で講演します。

Johanna Blakley studies the impact of mass media and entertainment on our world.

 

1 ファッション業界では知的財産保護はほとんど存在しない

イタリアのファッションデザイナーである ミウッチャ・プラダの驚くような話を聞きました。彼女はパリの古着屋に 友達と行き バレンシアガのジャケットを見つけました。プラダはそれがとても気に入り 裏返して 縫い目を見たり 作りを調べました。友達が「もう買えば」と言うと 「買うけどレプリカも作るわ」と言ったのです。皆さんの中に学者の方がいたら 「それは盗作だ」と思うでしょう。でもファッションに詳しい者からすると これは明らかなプラダの才能であり 移り変わるファッションの中から 寸分も変える必要がない 最新の今風なジャケットを 見つけることができるということです。

また このようなことをするのは 法に反するかもと思うかもしれません。実は法にはふれないのです。ファッション業界では 知的財産保護はほとんど存在しません。商標保護はありますが 著作権保護はなく 特許保護と言えるようなものもありません。実際にあるのは商標保護だけなのです。つまり ここにいる誰かの服を どれでもいいのでコピーして 自分のデザインとして売っても かまわないのです。コピーできない唯一のものは その衣料品についている 商標ラベルだけなのです。これがいたるところにロゴが散りばめられた 商品を見かける理由の1つです。ロゴをコピーできない為 デザイン自体をコピーすることが 複製品デザイナーにとって困難になるのです。でもサンティー・アリーに行くと ありますね。キャナル・ストリートにも たまにはこういうのも面白いですね?

 

2 服飾は著作権保護を認めるには実用的すぎる

どうしてこうなるのか。ファッション業界に 著作権保護がない理由は何かと言うと だいぶ前に裁判所が 服飾は著作権保護を認めるには実用的すぎると 判決したからです。私たちの服の重要な構成部分が 少数のデザイナーに所有されるのは避けたかったのです。そうなると誰かが所有しているという理由で 袖や襟にも許可が必要になるからです。でも実用的すぎる?皆さんもファッションをそう捉えますか? これはヴィヴィアン・ウェストウッドですが 答えはノーです。バカバカしすぎる 不必要すぎるというところでしょうか。

さて 所有権なしでは イノベーションする意欲も出ないという 著作権を支えるロジックをご存知の皆様は ファッション業界の決定的な成功と 経済的な成功に とても驚くかもしれません。私が今日主張したいのは ファッション業界に 著作権の保護がなかったからこそ ファッションデザイナー達はかえって 体を覆うだけのものという 実用本位のデザインを 芸術と呼べるものに高めることができたということです。この業界には 著作権の保護がないため とてもオープンでクリエイティヴな 創造性の環境があります。

 

3 人々がコピーし合うのが合法

彫刻家や写真家 映画監督やミュージシャンといった 同じ創作分野の人間と違って ファッションデザイナーはどの同業者のデザインを 見本としてもかまいません。ファッション史上のあらゆる服飾から どのような要素を選んで 自分のデザインに組み込んでもいいのです。また時代のトレンドから何かをアレンジすることでも知られます。これは映画「アバター」の衣装に 影響を受けているのではと思います。ほんの少しかもしれませんが 衣装の著作権も取る事ができません。

ちなみにファッションデザイナーは クリエイティブ産業のなかでも特に 考えられる素材はなんでも利用するほうです。このウェディングドレスは 実は先割れスプーンでできています。このドレスはアルミニウムでできています。このドレスを着た人が歩くと 風鈴のような音が実際するそうです。言ってみれば コピー文化なのですが その不思議な影響の1つに トレンドの創造があります。流行は魔法のようですがどうやって起きるのでしょう? それは人々がコピーし合うのが合法だからです。

ファッション業界頂点の少数の人間が 私達が何を着るか決めているようなものだと 信じている人もいます。でもそういった高級デザイナーも含めて どんなレベルのデザイナーに聞いても 答えは同じで 主にインスピレーション得るのは 自分なりにいろいろ組み合わせたスタイルをしている 一般の人がいる街の中なのです。ここで実際にクリエイティブな着想を 得ているのです。つまり この業界はトップダウン型でありボトムアップ型でもあります。

 

4 我々の顧客層は模倣品を買う顧客層とは違う

さてファッション業界に著作権保護が無いことで 最も恩恵を受けてきたのは おそらくファストファッションの大手でしょう。彼らは高級デザインを模倣し 安く売ることで有名です。そして多くの訴訟に直面してきましたが デザイナー側が勝つことは通常ありません。これ以上の知的財産保護は必要ないと 裁判所は繰り返し何度も言っています。このような模造品を見ると 高級ブランドの経営は どう成り立っているのかと思わせます。200ドルで買えるものになぜ1000ドル払うのか? 私達が数年前にここU.S.Cで会議を開いた1つの理由がこれでした。会議の題名は 「共に語ろう:ファッションと創造性の所有」 私たちはトム・フォードを招き まさにその質問をしました。彼の答えはこれです。ちなみに 彼はグッチの主要デザイナーとして 仕事を成功させたばかりです。

トム・フォード:多くの調査の結果 いや それほどでなく極めて単純な調査の結果 我々の顧客層は模倣品を買う顧客層とは違うと分かりました。

考えられますか。サンティー・アリーにいる人々は グッチで買い物をしないんです(笑) 全く違う客層なのです。そしてご存じのように模倣品が オリジナルの高級品と同じであることは決してなく 少なくとも素材はいつも安価なものです。でも安物であっても 実際には魅力的な要素を持つことがあり 消えそうなトレンドをいくらか延命させることもあります。模倣にも多くの長所があるのです。その1つで多くの文化批評家が指摘しているのが 私たちには今 かつて無かった幅広い範囲の デザインの選択肢があるということです。これは主にファストファッション産業のおかげです。これはいい事です。私たちには沢山の選択肢が必要です。

 

5 ファッションは自分の個性を表現する

好むと好まざるに関わらず ファッションは自分の個性を表現するのです。ファストファッションにより 世界のトレンドは以前よりも急速に確立されるようになりました。これは実際トレンドを仕掛ける人にはうれしいことです。トレンドが確立していれば 商品が売れるからです。ファッションに敏感な人たちは 最先端にいたいと考えています。皆と同じ服など着たくはないのです。それで できる限り早く 次のトレンドに乗ろうとします。

そうです。おしゃれな人たちに休みはありません。誰もが絶賛する素晴らしいアイデアを出すため 毎シーズンデザイナーは奮闘しなければなりません。そして実はこれは 結果的にはとてもいいことなのです。今ではもちろん 創造のプロセスに対する 模倣の文化が与える影響は 様々なものがあります。靴デザイナーとして大成功しているスチュワート・ワイツマンは 彼の真似をする人に対して文句を言ってきました。でも私が読んだあるインタビューで彼は やり方を考え直すことになったと言っていました。真似するのが難しい 新しいアイデアと商品を創り出す必要があったのです。そして彼は鉄かチタンで作らなければならない ウェッジヒールのボウデンを生み出しました。現にこれを安価な材料で作ると 二つに割れてしまいます。彼に少し工夫をさせたわけです。

 

6 ジョークも著作権で保護されない

これで思い出したのが ジャズの偉人 チャーリー・パーカーです。こんな逸話をご存じでしょうか。彼がビバップを創作した理由の1つは 白人のミュージシャンには まず真似出来ないだろうと思ったからだそうです。真似するのが難しすぎるようにしようとしたのです。ファッションデザイナーたちが常にやっていることです。ブランドを反映する 特徴的な外見や美意識を 演出しようとしているのです。模倣されても誰にでも分かります。ランウェイでそのスタイルは既に発表されていて そのコンセプトはまとまったものだからです。私はこのガリアーノが大好きです。話を続けましょう。

コメディの世界と似ているとも言えます。皆さんがご存じかどうか知りませんが ジョークも著作権で保護されません。とても面白い名文句があっても 誰でも盗用し合うことができます。でも今では違った種類のコメディがあります。ファッションデザイナーと同じように キャラクターや独自のスタイルを展開し ファッションデザイナーのデザインと同じように 彼らのジョークは その設定の中でのみ面白いのです。例えば 誰かが ラリー・デイヴィッドのジョークを盗んでも それほど面白くありません。

 

7 生き残るために自分自身を模倣する

その他にファッションデザイナーたちが 模倣の文化の中で生き残るためにやっているのは 自分自身を模倣することです。自分のデザインを模倣するのです。ファストファッションの大手と提携し 全く別の客層 つまりサンティー・アリーの人々にも 商品を売る手段を見つけています。

ファッションデザイナーによっては 「ファッションデザイナーを尊重しないのはアメリカだけで 他の国では芸術的なデザインに対して 保護が存在する」と言う人もいます。でも他の二つの世界的大市場を見てみると そこにある保護は 実際は効果が無いと分かります。例えば3番目に大きな市場である日本では 服飾を保護するデザインの法律がありますが 新規性の基準が非常に高く これまでなかった服飾で全く比類のものであると 証明しなければなりません。ファッションデザイナーが 取得することがほとんどない アメリカの特許の新規性基準と 同じようなものです。

逆にEUでは 新規性の基準はとても低く 誰が何を登録してもかまいません。ファストファッション産業のメッカで 大勢の高級デザイナーもいますが 一般的に服飾は登録されず 訴訟もそれほど多くありません。これは新規性の基準が低すぎるからなのです。誰かのドレスを持ってきて 裾を3インチ短くしたものを EUで新しい独自のデザインとして登録できるのです。これでは模倣デザイナーを阻止できません。実際に登録内容を見てみると EUにおける多くの登録は ほとんど同じデザインの ナイキのTシャツです。

 

8 実用的なものは著作権保護がない

でもダイアン・ボン・フルステンバーグは諦めませんでした。アメリカファッションデザイナー協議会の 議長である彼女は 協議会メンバーに ファッションデザインでも著作権保護を 獲得するつもりだと言っています。小売業者はこの考えを受け流しています。この法案が進展するとは思いません。海賊版のデザインなのか 単なる世界のトレンドの一部なのか 見分けるのはあまりに難しいと分かっているからです。それぞれのスタイルを誰が所有するのか? これは難しい質問です。何人もの弁護士と裁判所での長い時間が必要です。それはあまりに高くつくと小売業者は判断したのです。

ご存じの通り 著作権による保護が無いのは ファッション業界だけではありません。他にも著作権保護がない産業は多くあります。例えば食品業界です。レシピの著作権をとることはできません。レシピは指示を集めた事実だからです。また比類のない独創的な料理でも その外観や雰囲気の著作権はとれません。自動車も同様です。どれほど風変わりでも かっこよくても 外観のデザインの著作権はとれません。実用的なものだからというのが理由です。家具も同様です。実用的すぎです。手品のトリックもレシピのように一連の指示だと思います。著作権保護はありません。髪型にも著作権保護はありません。オープンソースのソフトウェアに関しては 著作権保護は無い方がいいと決めています。そのほうがより革新的になると考えたのです。データベースの著作権を取るのも非常に難しいです。タトゥーアーティストは著作権を欲しません。かっこよくないから デザインは共有します。ジョークにも著作権保護はありません。花火 ゲームのルール 香水の匂いにもないです。これらの産業のいくつかは 小規模なように見えるかもしれませが これが低・知的所有権産業 つまり 著作権保護が非常に少ない産業の 総売上です。そしてこれが 映画と書籍の総売上です(拍手) すごい差です (拍手)

 

9 著作権法における2つの論理

だからファッション業界の人と話をしたら 「しーっ 実はお互いのデザインを 盗み合うことができるなんて 誰にも言わないで。恥ずかしいから」という感じです。でもいいですか これは革新的です。先ほどの売上げがとても少なかった産業を含む その他の多くの産業が考える必要があるかもしれない モデルなのです。なぜなら現在 多くの著作権保護がある産業は あたかも何の保護もないような状況に いるからです。どうしていいのか分からない状態です。

著作権保護のない産業が 非常に多く存在すると知ったとき 著作権の原則とは具体的には何なんだろうと思いました。全体像が見たくても弁護士は提供してくれないので 自分で作りました。著作権法の論理には 2項対立したような基準が主に2つあります。本当はもっと複雑ですがこのような感じです。まず それは芸術的なものか? そうなら保護されるに値します。それは実用的なものか? その場合保護されるに値しません。この二択は難しくはっきりしません。

 

10 創造性と所有

もう1つは それはアイデアか? それは自由社会の中で、 自由に広まるべきものか? その場合保護はありません。それともそれは誰かが創った 物理的に固定されたアイデアの表現で 作者は一定の期間所有して 収入を得ることを許されるべきか? 問題はデジタルテクノロジーによって この「物理的に固定された表現」と 「アイデアの概念」を区別する基準が 無くなってしまったことです。最近では 私達は本は書棚にあるものと 認識していませんし 音楽を手にとれる物体だとも 思っていません。デジタルファイルなのです。私達の頭のなかで 物理的な実体とは結びつきません。またこれらは簡単にコピーして送信できる為 実際には物理的な物体というよりも アイデアのように 私たちの文化において行き渡っています。

さて 創造性と所有について話すとき 概念的な問題は本当に 難しくなります。そしてこの対応は弁護士だけに任せておくべきではありません。弁護士は頭が切れます。私のボーイフレンドも弁護士でいい人です。彼は頭が良いです。聡明です。でも徹底的に話し合い どのようなデジタル世界の所有権のモデルが 最も革新をもたらすか検討するのは 異分野の人々からなるチームによって 行なわれるべきです。そして私の意見としては 今後クリエイティヴ産業のモデルを 探し始める場所として ファッション産業は最適だと思うのです。

この調査プロジェクトについてもっと知りたい方は 私たちのウェブサイトReadyToShare.orgに来てください。このプレゼンテーションをおしゃれにしてくれた べロニカ・ジュリキに心から感謝します。どうもありがとう。

 

最後に

ファッション業界では知的財産保護はほとんど存在しない。服飾は著作権保護を認めるには実用的すぎる。人々がコピーし合うのが合法。ファッションは自分の個性を表現する。ジョークも著作権で保護されない。実用的なものは著作権保護がない。クリエイティブ産業のモデルを探す場所としてのファッション産業

和訳してくださった Keishi Nagino 氏、レビューしてくださった Sawa Horibe 氏に感謝する(2010年4月)。

グーグル、アップルに負けない著作権法 (角川EPUB選書)


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