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ジャスティン・ホール・ティピング 「送電網を必要としないエネルギーを」

「あなたが取り組んでいる問題は困難すぎて無理ですよ」(この子に向かって言ってみろ)ジャスティンは心の中でそう思う。ここでは、90万ビューを超えるJustin Hall-TippingのTED講演を訳し、喉が渇いて瀕死の少女をどうにかするために必要な知恵について考える。

要約

窓ガラスで発電ができたとしたら世界はどうなるでしょう?事業家ジャスティン・ホール・ティピングが、これを実現する素材や、いかに「通常」という概念を問うことが類稀な飛躍的進歩に繋がるかについて説明する心を打つ講演です。

Justin Hall-Tipping works on nano-energy startups — mastering the electron to create power.

 

1 「通常」という言葉が逆の意味で用いられている

なぜこれらの問題を解決できないのでしょう? 問題が何かは分かっています。いつも何か障害があるようです。なぜでしょう? 2000年3月15日のことですが B15 氷山がロス棚氷より分離しました。新聞にはこう書かれていました。「これは全て通常の過程によるものです」 その記事を読み進めていくと今度は 「崩壊したのは 元の大きさに戻るには 通常50~100年ほどかかる氷棚でした」 。同じ「通常」という言葉が 二つ別々の ほとんど逆の意味で用いられています

 

2 人間は「通常」というメガネを通して見ている

今日このあとに B15氷山を訪れたとしたら このようなものを目にするでしょう。高さ 300 メートル 長さ 122 キロメートル 横幅 27 キロメートル そして重さ2ギガトンの氷山です。そこに「通常」なんてないでしょう。でも人間は世界をこのような観点で 「通常」というメガネを通して 見ています。これが障害の一つとなり 真の解決法を生み出せないのだと思うのです。それからたった 90 日後に 20世紀最大とも言える 発見がなされました。それは史上初の ヒトゲノムの解読です。これは人間の細胞50兆個の一つ一つに 含まれているコードであり 私たちの在り方を決定しています。細胞一つ分のコードを取り出し 拡げてみると 長さ1メートル 厚さ2ナノメートルになります。2ナノメールとは原子20個分の厚さです。

 

3 重大問題の答えがミクロの世界にあるとしたら?

そこで思いました。私たちの抱えるいくつかの重大問題の答えが ミクロの世界にあるとしたら? 有益・無益の差が ほんの数個の原子が あるかないかで決まる世界に あるとしたら? さらにもし エネルギーそのものである 電子を 精密に制御できたとしたら? そこで私は世界中を巡り できる限り優秀な科学者たちを 大学で探しました。今しがた述べた考えを 実現しうるメンバーをです。そして彼らの並外れたアイデアを 推し進める会社を設立しました。

 

4 太陽エネルギーを空間で活かす

6年半にわたる 180名の研究者の努力の結果 研究所は数々の 驚くような開発をしました。今日はそのうちの三つを紹介します。地球の資源を使い尽くすのを止め 代わりに 必要なエネルギーの全てが その場で 安全かつクリーンに低コストで賄えます。私たちがほとんどの時間を過ごす 空間について考えてください。太陽から膨大なエネルギーが 私たちのもとに届きます。部屋を照らす光は良いのですが 夏の暑い盛りには 涼しく保ちたい部屋に 熱となって射し込んできます。冬はその逆です。空間を 暖かくしたいのに 熱は窓から逃げてしまいます。

 

5 窓が熱をコントロールできたら素晴らしくない?

必要に応じて窓が 外に逃げる熱を内に反射したり 入ってくる熱を外に反射できたら 素晴らしいとは思いませんか?これを実現できる素材の一つは 優れた物質である炭素が化学反応で形を変えたものです。このとても美しい化学反応は 蒸気を吹き付けられたグラファイトが 蒸気化した炭素となり、それが凝縮すると 別の形状になることで起こります。六角形模様の網が丸められた形状です。この六角形網の炭素は カーボンナノチューブと呼ばれ 皆さんの髪の毛一本の 十万分の一の太さです。銅に比べ 千倍 伝導性があります。このようなことがどうして可能なのでしょう? ナノスケールの作業において一つ言えるのは 状態や作用が通常と大きく異なることです。炭素は黒いと思うでしょうが ナノスケールにおいては 実は透明で 柔軟なのです。またこの形状の炭素は ポリマーと組み合わせて 窓に付けると、完全な着色状態の時には 全ての熱と光を反射し 完全な消色状態の時には 全ての熱と光を通します。着消色の度合いはどのようにも変えられます。ちなみに状態を変えるのに必要なのは 1ミリ秒間流す2ボルトの電流です。一旦状態を変えるとそれが また次に変えるまで保たれます。

 

6 照明に頼らず夜を過ごせたらどう?

私たちがフロリダ大学で この驚きの発見に取り組んでいた時 通路の向こうの 別の科学者を訪ねるよう言われました。するとその科学者は 非常に目覚しい研究していました。想像してみてください。人工照明に頼らず 夜を過ごすことができたらどうでしょう? 夜でも物が見えなくては駄目ですよね? これがそれを可能にします。二つのナノ物質でできています。検知する物質と描画する物質です。最終的な厚さは 「点」の 6百分の一です。夜間の赤外線を取り込み 二つの小さなフィルムの間で 電子に変換し 透かして見える画像を 映し出せるようになっています。TED の皆さんに史上初めて この仕組みをお見せします。まず 透明性をお見せします。透明性は重要です。透かして見ることができるフィルムです。そして照明を消します。すると小さなフィルムを通して見ることができます。驚きの鮮明度です。

 

7 未来の発電所とは発電所がなくなることです

これに取り組んでいて閃きました。これは赤外線を取り込み 電子に変換しています。ではこれを これと組み合わせたら? 突如 窓に貼り付けられるプラスチックの表面で エネルギーを電子に変換できることになります。また柔軟であるため どんな表面にでも貼り付けることができます。未来の発電所とは 発電所がなくなることです。発電とその利用についてお話ししました

 

8 未来の送電網とは送電網がなくなること

次はエネルギーの貯蔵についてです。あいにく 現在使用されている一番のものは 150 年前に フランスで開発された 鉛蓄電池です。対費用面に関しては これはとにかく最高です。でも人々が蓄電のために家の地下室に これを50個置くわけないですから。テキサス大学ダラス校の科学者を訪ね この図を渡しました。実際はダラス・フォートワース空港の 外にある食堂でのことでした。「これを作れますか?」と尋ねると 科学者たちに あっさりと「できるよ」と言われました。そうして彼らが作ったのが eBox です。eBoxは新しいナノ物質を使い 外側で電子を一時的に置き、必要になったら 放出し徐々に送り出せるか試しています。これができれば 発電できるということです。クリーンに 効率的に 安く その場でです。自分の電気ですから 必要なければ 窓で光に再変換して 直線上にある 他の人のところへビームできます。そしてその時 電線は必要ありません。未来の送電網とは送電網がなくなることで、クリーンで効率の良いエネルギーは いつか無償になるでしょう。

 

9 私たちは皆 毎日グラス8杯の水が要ります

以上を経て パズルの最後の一片に辿り着きます。水です。私たちは皆 毎日 グラス八杯の水が要ります。人間だからです。水がなくなると—現に既に枯渇した地域もあり 他の地域でもその恐れがあります— 海水から真水を得なくてはなりません。それには淡水化プラントが必要になります。建設費用は 19 兆ドルです。膨大なエネルギーも必要となります。実際 世界の石油供給量の二倍の エネルギーが 淡水化ポンプを稼動するのに必要となります。そんなことは到底無理です。でもエネルギーが制限なく 簡単に低コストで 伝送できたら、どのような水をどこでも利用し 必要な形に変えることができます。

 

10 喉が渇いて瀕死の少女をどうにかしたい

非常に頭脳明快で理解のある 科学者たちと協力でき嬉しく思います。他の大勢の人たちより 特に理解があるわけではありませんが、世界に対する素晴らしい視点を持っています。研究所での開発が 世界で利用されるのを見れて嬉しく思います。私にとって長い道のりでした。18 年前 新聞である写真を見ました。ケヴィン・カーターによる写真です。スーダンでの飢餓を 取材しに行ったときのものです。その日以来 この写真を 肌身離さず持っています。喉が渇いて瀕死の少女の写真です。どう見ても絶対に間違っています。起こり得ていいことではありません。何かやりようがあるでしょう。どうにかすべきです

 

11 「この子に向かって言ってみろ」

ですから 誰かが 「あなたが取り組んでいる問題は 困難すぎて無理ですよ。資金も十分でなく 時間も足りない。他にもっと 面白い課題が身近にあるのでは」と言うたび、私は「この子に向かって言ってみろ」と 心の中で思うのです。でも口では お礼を言って次の人にあたっていました。これが問題を解決せねばならない意義です。そして私に分かっているのは 自然の構成要素であり 生命の本質であるものを 精密に制御する方法です。電子の制御です。 ありがとうございました。

 

最後に

送電網を必要としないエネルギーを求める意義は「水」。それは、喉が渇いて瀕死の少女をどうにかしたいという想いである。話す間に、迫力がある。

和訳してくださった Keiichi Kudo 氏、レビューしてくださった Sawa Horibe 氏に感謝する(2011年10月)。

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