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流動性供給、資本注入、金融緩和の3本柱 世界同時不況への対応策

前回は、物価上昇率を合わせておけば為替相場はあまり変わらない 金融政策と為替についてまとめた。ここでは、流動性供給、資本注入、金融緩和の3本柱 世界同時不況への対応策について解説する。

CDS

クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)とは、信用リスクをヘッジ(回避)するための取引の証券化関連商品である。簡単に言うと、お金を貸した企業が倒産して、そのお金がなくなってしまうかもしれないことに対する保証・保険を金融商品化したものである。

証券化関連商品とは、細かい金融技術の積み重ねの上に成り立っている精緻なものである。そのため粗雑に扱うと間違えることもあるし、そもそも扱う人の能力を超えているものもある。金融業の肝である信用リスクを管理する手法として脚光を浴びたが、同時に金融危機に拍車をかけたのである。

 

境目がなくなった銀行と証券会社

銀行がつぶれると預金者が被害を受け、保険会社がつぶれると保険契約者が被害を受ける。そのため、預金者保護、保険契約者保護のために不良債権を買い取ったり、公的資金を注入したりするのである。

一方、証券会社が潰れても投資家には被害は受けない。その理由は、投資家は証券会社の株を持っているのではなく、一般企業の株を持っているからである。証券会社は間を取り次ぐだけである。

しかし、先に述べたCDSのような金融技術によって、銀行と証券会社の境目がなくなったのである。例えば、銀行の証券化によって貸付債権を売ることで、一種の株式の持ち合い状態になっていた。

さらに、その金融取引のレバレッジに規制ができていなかったため、規模が大きくなった後にどこか1個がつぶれたら(今回は実体経済の不動産価格)、それが全部に伝播するという仕組みになっていたのである。

著者はこうした取引の規制について、レバレッジの効いた金融商品や信用リスクなどを取り込んだ金融商品は、一カ所に集めることで規制と監視を強めることが重要だとしている。つまり、店頭取引を証券所取引に作りかえて、取引所で衆人環視の中で正々堂々と取引を行ってもらうのである。しばしば「規制を強化する」というが、金融工学の有用性を殺さないようにしなければならない

 

危機に際しての金融政策

金融危機に対応するには3つの手段しかない。その3つは、大きく金融機関対策2つと実体経済対策1つに分けることができる。

  1. 中央銀行が流動性供給を行う
  2. 財務省が公的資本注入を行う(支払い能力の担保)
  3. 中央銀行が金融緩和を行う

流動性供給と金融緩和の違いは、前者は資金を引き揚げるが、後者は資金を引き揚げないことである。金融緩和は1〜2年後から効果が出始める。

 

日本の政策ミス

日本は流動性供給と資本注入は行われていたが、金融緩和ができていなかった。しかし、2013年現在はアベノミクスと黒田日銀総裁によって行われている。

 

給付金支給に意味はあるか

給付金支給は埋蔵金(財政投融資特別会計の剰余金)を国民の手に戻すということで意味がある。ただし、本当は埋蔵金は50兆円ほどあるのだから、20兆円くらいを定額給付金にすべきだろう(特別会計には資産負債差額がある 「埋蔵金」とは何か参照)。

 

財政再建を考える

財政再建を考えるとき、国は企業になぞられるべきである。日本の借金(国および地方の長期債務残高)は約1000兆円あり、国民一人当たり800万円にのぼる(2013年7月現在)と説明されるが、これは誤解が生じやすい。個人や家計は一般的に貯蓄が多く、借金はあまりない。住宅ローンはあるが、資産の範囲である。つまり、この説明だと借金はゼロにすべきということが暗黙の前提になってしまうのである。

また、政府が借金の話をするときには、資産の話はしない。しかし、政府は690兆円もの資産を持っている。資産の内容も、現金・預金37兆円、有価証券91兆円、貸付金(政府系金融機関、地方公共団体に対するもの)217兆円、運用寄託金(公的年金預かり金の一部)96兆円、出資金65兆円と金融資産が大きい。もちろん、現金・預金の一部、運用寄託金などは、国の運転資金や将来の年金給付などのために必要なものである。しかし、政府機関、特殊法人、独立行政法人への公的資金の提供に合理的な理由はない(日本の純債務は300兆円にすぎない 日本の資産と負債参照)。

 

いっこうに収まらない円高・株安

2008年10月末、日銀は世界同時利下げにも加わらず、大方の予想を下回る水準の0.2%の利下げしか行わなかった。このため、日本の金利は相対的に割高になり、円高が進行した。

また、日銀が超過準備に金利をつけるという話もリークされた。超過準備とは、金融機関が、法律により日銀に預け入れなければならない最低金額(法定準備預金額、所要準備額)を超えて日銀に預けている準備預金のことである。なお、2013年7月現在も0.1%の金利がついている。

これによって、見かけ上ハイパワードマネー(ベースマネー)は増えるが、金利がつくため銀行から日銀への積み上げが増すばかりで、かえって世の中にお金が出回らなくなる。また、それが下限金利になってゼロ金利政策ができなくなる。

 

日銀批判をしないメディア

残念ながら、日銀を批判するメディアはほとんどいなかった。2001年3月から06年3月までの「量的緩和政策」の歴史は活かされなかった。それに関する研究によれば、量的緩和政策は金利に換算して0.5%〜1%の引下げ効果があったのだ。

 

25兆円の量的緩和と、25兆円の政府通貨発行を!

金融危機のような非常時においては、国の果たす役割が重要である。著者は具体的な対策として、25兆円の量的緩和と、25兆円の政府通貨発行をすべきだとしている。その財源で、2年くらい社会保険料を免除するのである。

「平時は市場、非常時は国家」というのが世界のほとんどの経済政策担当者の共通認識である。経済成長があってこその財政再建である。

 

最後に

著書は2008年12月に発行されたものであるが、金融政策の基本的な考え方が網羅された良書である。2013年7月現在、アベノミクスによってデフレ脱却のための金融緩和政策が採られている。ここで提案されていることが、やっと実現に向かっている。残るは成長戦略。政府にできるのは競争政策、規制緩和、貿易自由化、教育投資、技術開発、マクロ経済の安定程度。あとは賢い民間に任せよう

この金融政策が日本経済を救う (光文社新書)


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