「ハッピーで健康的な微生物環境を提供する建物はデザインできるでしょうか?」ジェシカは語りかける。ここでは、80万ビューを超える Jessica Green のTED講演を訳し、生物学的デザインの可能性について理解する。
要約
私たちの体や家は微生物に覆われています。中には善い細菌もいますし、悪さをする細菌もいます。私たちの生活スペースを共有する細菌や微生物について研究するTEDフェローのジェシカ・グリーンはこんな風に問いかけます ― ハッピーで健康的な微生物環境を提供する建物はデザインできるでしょうか?
Jessica Green wants people to understand the important role microbes play in every facet of our lives: climate change, building ecosystems, human health, even roller derby — using nontraditional tools like art, animation and film to help people visualize the invisible world.
1 全ての物が見えない生態系で覆われている
全ての物が 見えない生態系で覆われています。バクテリア ウィルス 菌類と言った小さな生物です。私たちが使う 机やコンピューター鉛筆 建物― 全ての物が常在菌でいっぱいです。そこで 私たちが物をデザインする時 この見えない世界のデザインや 体内の生態系との 関わり方についても考えることができます。
2 私たちの身体は何兆もの微生物のすみか
私たちの身体は何兆もの微生物のすみかです。これらの生物が私たちの体の一部をなしています。腸にいる微生物は体重と気分に影響を与えます。皮膚にいる微生物は免疫システムを高めたりします。口腔内の微生物は口臭をなくしたり― しなかったり ここでの重要なポイントは人の生態系が 接触する全ての生態系と相互作用すること。例えば 鉛筆に触ると 微生物が移動します。私たちの身の回りの 見えない生態系をデザインすることができれば これまでにない方法で 私たちの健康によい影響を与えてくれるでしょう。
3 「微生物の生態系をデザインすることはできますか?」
よくこんな事を聞かれます。「微生物の生態系をデザインすることはできますか?」私は可能であると信じています。これは私たちが既にやっていることで 無意識に行っています。ここでデータをご覧いただきます。建築に焦点を合わせた私の研究の一部です。意図的 あるいは 非意図的な設計が この見えない世界に どう影響しているかをお見せします。
4 埃から細菌の細胞を取り出し、胞内にある遺伝子の配列を比べた
これはオレゴン大学のリリス・ビジネス・コンプレックスです。建築家と生物学者のチームと組んで この建物内の300を超える部屋からサンプルを得ました。建物内の微生物の化石記録の様なものを入手したかったのです。そこで 埃を採取しました。埃から細菌の細胞を取り出して それぞれの細胞内にある遺伝子の配列を比べました。ですから 私のチームは プロジェクトの間掃除機をよくかけました。これはティムです。このティムの写真を撮影した時 彼に言われたのは 「ジェシカ 僕がいた前の研究グルーブでは コスタリカの熱帯雨林で野外調査をしていてた。あの頃とは状況が一変してしまったよ」と。
5 アルファプロテオバクテリアが多く見られる
ではまず 私たちが各部屋で見つけたものを紹介します。オートデスク社と共同で作成した 可視化ツールを使ったデータで見てみましょう。このデータの見方ですが まず 円の外側を見てください。様々な細菌グループがいます。中心のピンク色の塊を見ていただくと 各グループの相対的な存在量が分かります。12時の方向を見ると アルファプロテオバクテリアが多く見られます。1時の方向をみると 桿菌が比較的少ないことが分ります。
6 化粧室を熱帯雨林、オフィスは温帯草原と考えるのが好き
同じ建物内の異なるスペースも見てみましょう。化粧室の中を見てみましょう どれも似たような生態系です。講義室を見てみると どれも同じような生態系です。しかし 異なるタイプのスペースでは それぞれが 根本的に異なっていることが 分かります。私は 化粧室を熱帯雨林だと考えるのが好きです。ティムに言ったのは「微生物だけ見てみれば ある意味 コスタリカにいるようなものよ」と。そして オフィスは温帯草原と考えたいです。
7 生態学の重要な原理は分散
この考え方は設計者にとって重要です。生態学の原理を使えるからです。生態学の重要な原理とは分散でしょう。生物が動き回る法則です。微生物は人々や 大気を介して 拡散されます。ですから この建物内で最初にやりたかったことは 空調システムの確認でした。機械技師は空調装置を設計する時 空気の流れと温度が適切で 人々が心地良く感じられるようにします。この時 理化学の原理を応用しますが 生物学も利用できるはずです。この建物内にある 同じ空調装置に棲む 微生物を見てみると それぞれが ほぼ同じであることが分かります。この微生物を違う空調装置の 微生物と比べると 根本的に異なっていることが分かります。この建物内の部屋は群島のようになっています。つまり機械技師はエコエンジニアでもあり 建物内に望むような 生物群系を構築することができます。
8 微生物は人を介しても拡散する
微生物は人を介しても拡散します。デザイナーは人々が交流しやすいように 各部屋を近くにまとめます。例えばラボとオフィス間でアイディアを交換しやすくするためです。微生物が人々を介して移動することを考えると 近くにある部屋はとても似通った生物群系になると 予測できます。これは まさに私たちの調査どおりでした。隣接している講義室を見ると 同じような生態系を構成しています。しかし 歩いて かなり離れた事務所へ行くと 生態系は根本的に変化します。生物地理学的パターンによる 拡散の力を 目の当たりにして 院内感染のような 難題に 取り組むことが可能であると思いました [20人に1人が入院中に院内感染する]。これはある意味で建物の 生態学的な問題ではないかと考えています。
9 チャーリー・ブラウンは地球規模の気候変動についてとても懸念している
この建物についてもうひとつ ご紹介します。チャーリー・ブラウンとの共同研究です。彼は建築家で 地球規模の気候変動についてとても懸念しています。環境にやさしいデザインに生涯を捧げています。彼が私に出会い彼のデザイン選択によって 建物の生態系と生物学に どのような影響を与えるか 定量的な方法で 研究できることに気付いて 本当にワクワクしていました。研究に新しい方向性をもたらしたからでしょう。彼は エネルギーの問題だけでなく 人々の健康も考慮するようになりました。彼は この建物の 空調システムや 換気方法のデザインを手がけました。
10 空気孔を通して外気を取り込む方法
ですから 最初に皆さんにお見せするのは― 建物の外から採取した大気です。これは 外気のバクテリア共同体独特のパターンです。時間と共にどのように変化するか分かります。次に 私たちが実験的に 講義室を操作した様子をお見せします。夜中に講義室を閉鎖しました。ですから通風はありません。多くの建物がこんな風に管理されています。恐らく 皆さんの職場もそうでしょう。会社が電気代を節約するためです。ここでの発見は土曜日に換気口を開けるまでは 空気が比較的淀んでいたこと 講義室に入ると 悪臭がしました。私たちが得たデータは前日にいた人々が残した 空気中のバクテリア群に起因していることを 示していました。これとは対照的なのが― 持続可能で より自然なデザイン戦略を用いた 空気孔を通して外気を取り込む方法です。これらの部屋の大気は比較的 外気と良く混じり合います。チャーリーはこれを見て目を輝かせていました。彼は設計段階で 良い選択をしたと 感じたようです。なぜなら エネルギーも節約できますし ビルに住む常在菌を消し去ることができたからです。
11 有用な微生物を取り入れたデザインができるかもしれない
私が お話したことは建築に関してですが 全てのデザインに関係しています。有用な微生物を取り入れたデザインができるかもしれません。飛行機の中や 電話などです。最近 私は新しい微生物を発見しました。BLIS(抗菌タンパク質)と呼ばれていて 病原菌を予防してくれて 息もきれいにしてくれます。もし受話器に BLISが生息していたら最高じゃないですか?デザインに対する意識的なアプローチ 私は生物学的デザインと呼んでおり 実現可能なことだと考えます。ありがとうございました(拍手)
最後に
私たちの身体は何兆もの微生物のすみか。生態学の重要な原理は分散で、微生物は人を介しても拡散する。受話器に病原菌を予防する微生物が入る未来も近い。
和訳してくださった Mari Arimitsu 氏、レビューしてくださった Tomoyuki Suzuki 氏に感謝する(2013年3月)。