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対象分野の選定基準は公益性と金融リスクの評価困難性 政策金融改革

前回は、公的年金と道路民営化に将来キャッシュフロー分析を適用 特殊法人改革についてまとめた。ここでは、対象分野の選定基準は公益性と金融リスクの評価困難性 政策金融改革について解説する。

1 海外の政策金融

海外の政策金融の現状を見ると、直接融資についてみれば、日本の政策金融の規模は名目GDP比17.8%とかなり大きいことがわかる。2004年度の名目GDPに占める政府系金融機関の直接貸出残高の割合は、日本17.8%(90.2兆円)、米国2.8%(34.8兆円)、英国5.7%(11.9兆円)、ドイツ3.1%(9.9兆円)、フランス7.5%(17.4兆円)となっている。なお、ドイツなどでは代理貸付(民間金融機関を通じて融資する方式)という間接融資の手法によるものが大きく、対GDP比で10.7%を占める。

 

ドイツ

ドイツの全国レベルの政策金融は、特殊課題銀行14行の中で最大のものである復興金融公庫(KfW: Kreditanstalt fur Wiederaufbau)とドイツ農林金融公庫(Landwirtschaftliche Rentenbank)の2機関がある。

復興金融公庫は、戦後の西ドイツ復興を目的として、1948年11月に設立された。設立当初は欧州復興計画(ERP:マーシャルプラン)による見返り資金を主要原資として長期産業資金を供給していたが、その後より広い分野で業務を行うようになり、現在では中小企業、住宅、地域インフラ、環境、輸出、途上国援助等政策金融のほとんどの分野をカバーする業務を単一機関で行っている。

これらの分野への政策関与の手法として、融資、保証、金融機関の既存債権の証券化、出資がある。従来から融資の比重は高く保証の比重は低かったが、最近は証券化業務が急速にシェアを拡大している。一方、EU域内における競争政策が厳格化される中、輸出金融、プロジェクトファイナンスを2007年末までに商業ベースの子会社に移管することが決定された。これによって、政策金融と商業金融の分離が可能になり、商業金融において民間金融機関と競争条件を同じにするための措置(政府保証・税制優遇なしなど)がとられた

 

フランス

フランスでは、戦後3大商業銀行(クレディ・リヨネ、ソシエテ・ジェネラル、BNPバリバ)など国有商業銀行が伝統的に多かった。しかし、1986年の政権交代に伴い国有化政策が見直され、金融機関を含む国有企業の民営化法がつくられた。その結果、1980年代末より国有商業銀行が相次いで民営化された。

民営化の進め方・手順については、政策金融業務として維持すべき機能とそうでないものを区別し、前者は政策金融機関として存続させ、後者は民営化後も政府援助なしに収益が確保できるかどうかの判断基準により廃止か存続(民営化)かを決定した。民営化後も引き続いて公的業務を行っている例もあるが、政府との関係はあくまで「業務委託」であり、通常業務(民間業務)とは別勘定で行うなどの措置がとられている

1980年代半ばから始まった民営化の動きの中で、①4つの政策金融機関(産業向け中長期信用等機関、地方自治体・インフラ向け機関、貿易支援2機関)は民営化、②中小企業向け2機関は統合となった。また、預金供託公庫(CDC: Caisse des Depots et Consignations)は、1816年に公的機関として設立され、政策金融機関の中で圧倒的な規模を占めてきたが、1984年から2001年にかけて民間金融機関と競合関係にある業務を順次分離・子会社化してきた。

 

イタリア

イタリアでは、1990年アマート法により、公法機関として設立された銀行の株式会社化を押し進めた。1994年以降、マーストリヒト条約により設定された国家財政目標の達成のため、政府資産の売却や政府保有の金融機関を含む政府機関の民営化を実施して、民営化及び不動産の売却益を公債の返済に充てている

これまで民営化された主な政策金融機関としては、イタリア信用銀行(Credito Italiano)、イタリア商業銀行(Banca Commerciale Italiana)、イタリア動産公庫(Istituto Mobiliare italiano)などがある。

 

2 将来の政策金融の姿

公的金融システムについて小さな政府を確立するためには、公的部門への資金の流れにおける入口である郵政民営化とともに、出口の政策金融改革についても同時に行う必要がある。

 

対象分野選定の基準

政策金融の対象分野を選定する基準には、公益性と金融リスクの評価等の困難性がある。いずれも「民間にできることは民間に委ねる」という基本から導き出されたものである。

 

公益性

公益性とは、政府の介入によって明らかに国民経済的な便益が向上する場合である。例えば、国が定める中小企業政策、農林漁業政策、資源・エネルギー政策、沖縄政策等の経済・社会政策にかかるものに限定すべきである。

 

金融リスクの評価等の困難性

金融リスクの評価等の困難性とは、情報が乏しいこと、あるいは不確実性や危険性が著しく大きいことによってリスクの適切な評価等が極めて困難なため、民間金融による信用供与が適切に行われない場合である。

民間金融では対応できない部分についてのみ政策金融で対応することとし、市場機能が最大限に活用できる手法で行う。市場機能の活用の度合いが大きいものから、証券化支援、間接融資、債務保証、代理貸し、直接融資の5つがあるが、これを金融リスクの評価等の困難性の小さいものから順に当てはめればよい(市場化テスト)。また、金利リスクについては金利スワップ等の金融技術の活用、信用リスクについては金融リスクを分解(unbundling)し、部分的なリスクを切り離せばよい(フラット35など)。

 

政策金融の対象外となる分野

公共性の低い分野

所属団体向け中小企業組合金融は、中小企業によるメンバーシップ性の互助金融なため、公的な政策金融で行う必要性は低い。また、貿易・投資金融・事業開発等金融(アンタイドローン)では、貿易・投資は基本的には民間の商業ベースの企業活動であることから、国として直接関与する必要性は薄く、公益性は低い。ただし、資源開発金融など、国の資源・エネルギー政策に深くかかわる案件については、政策金融機関と民間金融機関との協調融資などを行う。

 

金融リスクの評価等の困難性が低い分野

地方公共団体向け金融では、公募地方債を発行できる地方公共団体には、民間資本市場における資金調達が可能であるので、政策金融としての対応は不要である。たとえ公募地方債を発行できなくとも、民間金融機関からの信用供与や共同発行、さらに財政融資という手段もある。また、公営企業金融公庫は、地方公共団体の公営企業会計(特別会計に相当)向けの資金調達を行っているが、レベニュー債(事業目的別歳入債券)の仕組みなどで起債は比較的容易である(高速道路無料化、子ども手当、成長戦略 民主党の政策の問題点1参照)。さらに、大企業向け金融では、大企業は民間資本市場で資金調達が可能であるので、政策金融としての対応は不要である。

 

公益性・金融リスクの評価等の困難性が高い分野

公益性と金融リスクの評価等の困難性の両方が高い分野でも、民間金融では対応できない部分についてのみ政策金融で対応し、市場機能が最大限に活用できる手法で行う。

 

規模の縮減

日本の直接貸出は欧米より突出しており、民間金融機関と競合関係がある。対象見直しの結果、商工中金民営化(2004年度末貸付残高9兆5888億円)、公営公庫廃止(同25兆240億円)、国際協力銀行の貿易・投資金融・事業開発等金融の廃止または民営化(同8兆4997億円)、日本政策投資銀行の民営化等により大企業向け貸付残高(約11兆円)の削減となれば、50兆円を上回る減額が可能である。

 

組織の見直し

対象分野の見直し・規模の縮減に対応した効率的な組織が必要である。省庁別・政策別等の縦割りの組織でなく、単一の組織とすれば限られた資源を効率的に活用することができる。例えば、円借款(経済協力の一部)については、他の経済協力業務(無償、技協)を行う機関(国際協力機構等)と統合すれば、現在の国際協力銀行で行われている商業的な金融と経済協力を分離することができ、しかも非商業的な援助も統合することができる。

具体的には、民営化または廃止が適当な日本政策投資銀行、商工組合中央金庫、公営企業金融公庫を除く現行6機関は1つに統合し、政府が全額出資する株式会社とする

 

政策金融の手法の革新、融資条件の適正化の徹底等

2008年度までの準備期間においても、政策金融の手法の革新、融資条件の適正化の徹底等可能な措置は、現行機関において速やかに実施する。

 

3 政策金融改革の現状

公的金融システムを金融理論から見れば、郵貯は受信サイドであり、政策金融機関は与信サイドになる。その意味で、郵政民営化と政策金融改革は同時に行われる必要がある(財投改革、郵政民営化、政策金融改革 公的金融システムと政策分析参照)。

政策金融改革は、郵政民営化法案が国会で成立した直後、2006年10月中旬から経済財政諮問会議が少し先行し、途中から経済財政諮問会議と自民党でほぼ並行して議論が行われた(3つの改革は必然だった 財投・郵貯・政策金融改革の経緯と現状参照)。その結果、政策金融残高は半減し、日本政策投資銀行、商工中金が完全民営化、公営企業金融公庫が廃止されることとなった。

なお、政策金融改革は「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律」(通称「行政改革推進法」、2006年5月26日成立)と、それに基づく「株式会社日本政策金融公庫法」(2007年5月18日成立)、「株式会社日本政策投資銀行法」(2007年6月6日成立)、「株式会社商工組合中央金庫法」(2007年5月25日成立)、「地方公営企業等金融機構法」(2007年5月23日成立)で法的な整備は終了している。

 

最後に

政策金融の対象分野の選定基準は、公益性と金融リスクの評価困難性の2軸で判断できる。日本の政策金融の直接融資は諸外国と比べて大きく、商業金融との分離や競争条件の整備がなされていなかった。しかし、市場機能の活用や組織の見直しによって、政策金融残高は半減している。民間金融の発展のためにも改革を止めてはならない

次回は、政府資産負債管理、国債管理、財政再建 財投改革が及ぼす他の政策への影響についてまとめる。

財投改革の経済学


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