前回は、市場と早期是正措置による監視 金融ビッグバンと金融システム安定化についてまとめた。ここでは、金利変動は国内総生産や物価に影響を及ぼす 金融と景気と物価について解説する。
1 国内総生産の決定と変動
総供給と総需要の定義
景気変動の最も重要な指標は国内総生産(GDP)である。GDPとは、ある期間に一国の国内で生産された物とサービスのことである。GDPを供給側から見るときは総供給と呼ばれ、需要側から見るときは総需要という。総需要は民間消費、民間総投資、政府支出、および輸出から輸入を差し引いたものの合計をいう。
総供給と総需要による国内総生産の決定と変動
GDPは総供給と総需要が等しくなるように決定される。決定されるとは、総供給と総需要が等しくなるとき、他の事情(金利や為替レートなど)に変化がなければ、GDPは変化しないという意味である。
総需要の変動による景気変動
総需要のうち民間消費は、GDPの変動に応じて緩やかに変動する傾向がある。政府支出は、通常、GDPとともに増大する傾向がある。それに対して、民間の投資と輸出はGDPの変動を引き起こす要因である。民間投資とは、工場・事務所・店舗などを新たに建設したり、それらを拡張したり、新たに機械を導入したりすることである。これらの投資は、①将来の売上や収益の見通し、②技術革新、③将来の賃金の動向、および④期待実質金利などに依存して変動する。
投資乗数
投資乗数とは事務所建設などの民間投資の増大に端を発して、次々に生産と消費と所得とが増大していくメカニズムである。
2 景気変動と金融
設備投資と金融
実物資産への投資という意味では、在庫投資と設備投資とに分類することができる。在庫投資とは、企業が将来の生産のために原材料を調達したり、将来の販売を見込んで現在の売上以上に製品を生産したりすることをいう。前者を原材料在庫投資といい、後者を製品在庫投資という。それに対して設備投資は、長期的な売上を予想して現在の工場を拡張したり、新しい設備を導入したりすることである。設備投資はそれから得られると予想される長期的な利益と長期金利とを比較して、前者が後者を上回る限り実施されると考えられる。
名目金利と実質金利の区別
名目金利は貨幣で測った金利である。実質金利は名目金利から期待インフレ率を差し引いた金利である。物価が変化しない場合には名目金利と実質金利は一致する。
投資と金利との関係を考える上での注意
一般的に金利が低いと設備投資が増えるとされているが、ここでいう金利は実質金利である。また、実質金利が低下しても、設備投資から得られる将来の収益について経営者が弱気になっていれば、設備投資は行われない。
資金の利用可能性
資金の利用可能生とは、ある名目金利でどれだけ資金が利用可能かというものである。しばしば、企業の内部留保が増加すると、設備投資も増加するという関係が観察されるが、それが原因である。
金融仲介機能とクレジット・ビュー
資金の利用可能生という点では、「貸し渋り」などを行わないかといった金融仲介機関の役割が重要である。金融政策として金利や貨幣供給量だけでなく、金融機関の資金供給能力をも重視する考え方をクレジット・ビューという。
地価と土地担保金融
金融仲介機関は貸出先の信用の審査をする手段として、貸出先がどのような資産を担保として差し出すことができるかを重視する。クレジット・ビューの立場からは、土地のような金融にあたって担保となる資産の価格変動も、金融とマクロ経済の関係を考える上で重要である。
消費と金融
金利が低下して資産価格が上昇することによって消費が増加することを、消費の資産効果という。
金利変動による景気変動
期待実質金利の変化は在庫投資、設備投資、住宅投資、耐久消費財支出などに影響を及ぼし、名目金利の変化は資産価格の変化を通じて消費に影響を与える。このように、金利変動は総需要の変動をもたらし、それを通じてGDPや物価に影響を及ぼすのだ。
最後に
金利変動は総需要の変動をもたらし、それを通じてGDPや物価に影響を及ぼす。民間投資は、①将来の売上や収益の見通し、②技術革新、③将来の賃金の動向、および④期待実質金利などに依存して変動する。金融緩和政策の肝は実質金利の低下。
次回は、目的と手段、金利と為替レート、マネーサプライ 金融政策とマクロ経済についてまとめる。
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