「成長は死んでいません。なぜなら新しい機械の時代の特徴はデジタル、指数関数的、組合せだからです」エリックは力強く語りかける。ここでは、25万ビューを超える Erik Brynjolfsson のTED講演を訳し、機械と共に競争したときの可能性を理解する。
要約
機械がますます多くの仕事を奪う中で、失業したりいつまでも賃金が増えないという人が増えています。もはや成長が止まったということなのでしょうか?エリック・ブリニョルフソンはそうではない、これは根本的な経済再編のための成長の痛みなのであると言います。コンピューターをチームメートにできると、なぜ大きな革新を迎えられるのか。惹きつけられる事例を用いて語ります。 ロバート・ゴードンによる反対意見と合わせてご覧ください。
Erik Brynjolfsson examines the effects of information technologies on business strategy, productivity and employment.
1 成長は死んでいません
成長は死んでいません(拍手)。120年前のことから 話を始めましょう。当時アメリカの工場では動力が電気に変わり 第二次産業革命の火が付いたところでした。驚くべきことに その後30年もの間 工場の生産性は 向上しませんでした。30年間です。その間に幹部達はすっかり入れ替わります。つまり 当初の幹部は 単に蒸気エンジンを電気モーターに変えただけで 電気による柔軟性を活用できるように 工場を再編成したわけではないので。 新しい仕事の仕組みを発明したのは次の世代でした。その結果 生産性が急上昇すると 2倍や3倍の改善も見られました。
2 今の時代の汎用技術はコンピューター
電気は汎用技術の一例です。その前の蒸気エンジンも同様です。汎用技術は経済成長の大半を促進します。これを補完するイノーベーションが次々に始まるからです。電球しかり 工場の再編成しかり では今の時代に 汎用技術はあるでしょうか。もちろん コンピューターです。でも 技術だけでは不十分です。技術に 未来の全てを委ねることはできません。人が未来を形づくるのです。工場の再編成が必要だった― 旧世代の幹部たちと同様に 組織や さらには経済システム全体を 見直す必要が生じるでしょう。この見直しは まだ不十分です。今から示すように 生産性に関しては 順調な推移ですが そのことと雇用とは分離されてしまい 典型的な労働者の収入は伸び悩んでいます。この問題は「イノベーションが終わった」と 分析されることがありますが これは誤りです。時代の変化に伴う成長痛です。この時代をアンドリュー・マカフィーと私は「新しい機械の時代」と名づけました。
3 「歴史はくり返さないが韻を踏む」
データを見ていきましょう。アメリカで1人当たりのGDPを示します。多少の凹凸はありますが 全体として 定規に沿うような真っすぐなグラフです。グラフの目盛は対数です。つまり一定の成長ということは 実際の数値では成長が加速しています。こちらは生産性を示したものです。70年代半ばに少し停滞が見られます。第二次産業革命の時にも同様の停滞がありました。工場をどう電化するべきかを模索した時期に相当します。停滞の後 生産性は再び加速しました。「歴史はくり返さないが 韻を踏む」 という言葉の通りかもしれません。今では 生産性は史上最高に達し 「大不況」にも関わらず 2000年代の生産性の伸びは90年代を上回ります。好景気だった90年代は 70年代や80年代よりも生産性が伸びていました。第二次産業革命の時期よりも急速に成長しました。このデータはアメリカだけの話 世界に目を向ければさらに良くなります。過去十年の間に 世界の所得は 史上かつてない伸び率で成長を遂げました。
4 新しい機械の時代の特徴はデジタル、指数関数的、組合せ
ただ これらの数字は進歩をむしろ過小評価しています。新しい機械の時代には 物質的な生産よりも 知識を作り出すことが重視されるからです。物質よりも精神 腕力よりも知力 物よりもアイデア 困ったことに伝統的な経済統計では扱えません。なぜならどんどん無料のものが増えているからです。ウィキペディア グーグル スカイプ そしてウェブに公開されれば このTEDトークも無料、無料で手に入るというのは良いことですよね。ええ もちろんです。でもそういうのは 経済学者はGDPに含めません。価格がゼロのものは GDP統計における重みもゼロです。統計によれば 音楽業界は10年前の半分の規模になっていますが 私は これまでになく多くの良い音楽を聴いています。みなさんもそうでしょう? 私の研究による推定では GDP の総計金額は 毎年3000億ドル相当の ネット上で無料の物やサービスを見逃しています。さて未来に目を向けましょう。極めて頭の切れる何人かの人が 成長は終わったのだと論じています。しかし 将来の成長について理解するためには 成長を引っ張る原動力について 予測しなければなりません。私は楽観的です。なぜなら新しい機械の時代の特徴が デジタル 指数関数的 組合せ だからです。
5 デジタル化された物は複製できる
デジタル化された物は複製できます。品質は完璧で コストはほぼゼロで たちどころに届けられます。過剰の経済へ ようこそというわけです。デジタル化された世界には目立たないメリットもあります。科学と進歩において計測は不可欠です。ビッグデータの時代になって これまでにない方法で世界を計測できるようになりました。
6 指数関数的に急速に進歩する
第二に 機械の時代の特徴は指数関数的です。コンピューターは他に類をみないほど急速に進歩します。今の子どものプレイステーションは 1996年の軍用スパコンより強力です。でも人は直線的な成長を考えてしまいがちで その結果 指数関数的な発展には驚かされてばかり。かつて 授業でもこう教えていました。コンピューターにだって苦手なことがある。道路で車を運転することなどだ (笑) そのとおり この写真でアンディと私がバカみたいに笑っているのは ルート101のドライブ直後だからです。そう 自動運転だったのです。
7 組合せによって革新が革新の構成要素となる
第三に新しい機械の時代は組合せが特徴。停滞派の人は 低いところに実った果実のようにアイデアは もう尽きてしまったと見ています。しかし実際はすべての革新が 更なる革新への構成要素となります。こんな例があります。私の学生の一人が ほんの数週間で アプリを開発して たちまち130万人の利用者を獲得しました。簡単にできたのはアプリを フェイスブックを使って作ったから。フェイスブックはウェブを使い ウェブはインターネットを使い― と どんどん続いてきたわけです。
8 いずれかひとつだけでもゲームチェンジャーになる
デジタル 指数関数的 組合せ このいずれかひとつだけでも ゲームチェンジャーです。3つが合わさって 驚愕するような 革新の大波が現れています。工場で働くロボットや チータより速く走るロボット 高いビルを一跳びで越えるロボットも登場します。そう ロボットによる革新は 猫の移動にまで及びます(笑)
9 最も大事な発明は機械学習
さらにもっとも大事な発明は 機械学習です。IBMのワトソンを見てみましょう。クイズ番組の『ジェパディ!』の 優勝者の成績を示すグラフです。初めのうち ワトソンはぜんぜん駄目でした。しかし どんな人よりも素早く上達して デイブ・フェルッチが このグラフを MITの私のクラスで見せた直後に ワトソンが『ジェパディ!』の世界チャンピオンを破りました。歳は7歳 ワトソンはまだ子どもみたいなものですが 最近では一人でのネットサーフィンも許されています。次の日からは回答にひどい言葉が混じり始めました くそっ (笑)
10 知的な機械を作っている時代
でも ワトソンの成長は速くて コールセンターでは試用を経て 採用され始めています。法律や銀行や医療でも試されており 一部で使われ始めています。知的な機械を作っている― まさにそのときに 人類の歴史で最も重要な発明が登場しているときに 革新が停滞していると論じる人がいるのは皮肉なことではありませんか。最初の二つの産業革命と同じように 新しい機械の時代の影響が全て 明らかになるには 少なくとも百年はかかるでしょう。しかし最終結果は圧倒的なものです。
11 技術が先行して取り残される人が増えている
では何も心配することはないのでしょうか? あります。技術発展に 未来の全てを委ねるわけには行きません。生産性は史上最高ですが 仕事に就ける人の数は減っています。ここ十年で生み出された富はかつてないものですが 大半のアメリカ人の収入は減りました。これが生産性と雇用との 大きな分離であり 富と仕事との分離です。この大きな分離によって何百万人もの人が 幻滅させられていますが 他の多くの人と同じように その基本的な原因を誤解しています。技術が先行してしまっていて 取り残される人が増えているのです。今では 繰り返しの作業なら 機械にわかる指示としてプログラムすれば 百万回でも繰り返させられます。
12 人は機械と対立して競争し、負けている
最近 耳にしたこんな会話が こういう新しい経済をよく表しています。「最近では HRB の税務サービスは頼まないことにしたよ。ターボ・タックスだけで申告書はできてしまうし この方が早くて 安くて正確だ」 経験を積んだ事務員が 39ドルのソフトウェアに勝てるものでしょうか。無理です。今では 何百万人ものアメリカ人が 早く安く正確に申告書を作成しています。インテュイット社の創始者は 十分報われていますが 申告書作成の事務員は17パーセントが職を失いました。今起きていることの縮図です。ソフトウェアやサービスだけでなくメディアや音楽でも 金融や製造業や 小売りや貿易でも つまりあらゆる産業に起きていることです。人は機械と対立して競争しています。たくさんの人がその競争に負けています。
13 機械と共に競争しなければならない
繁栄を広く分かち合うにはどうすればよいでしょうか。技術を減速させるというのは答えではありません。機械と競争する代わりに 機械と共に競争しなければなりません。これが我々の大きな課題です。
新しい機械の時代は 15年前に始まりました。チェスの世界チャンピオンだったガルリ・カスパロフが スーパーコンピューターのディープ・ブルーと対戦し 機械が勝った。その日からです。今では 携帯電話で動作するチェスのプログラムでも チェスの名人に勝てます。こんな厳しい状況の中でコンピューターと対戦するときの― 戦略を聞かれたオランダの名人 ヤン・ドネルはこう答えました 「金づちを持って行くよ」(笑)
14 人が未来を形づくる
しかし 今ではコンピューターも世界のチェス王者ではありません。人でもありません。人とコンピュータとが共に戦うことができるフリースタイルのトーナメントを カスパロフが開催したのです。優勝チームにはチェスの名人もいないし スーパーコンピュータもありませんでした。優勝チームにあったのは優れたチームワークで 人とコンピューターが組んだときに どんなコンピュータにも 単独のどんな選手にも勝つことを示しました。機械と共に競争することは 機械と競争することに勝ります。技術に 未来の全てを委ねることはできません。人が未来を形づくるのです。ありがとうございました(拍手)
最後に
機械と共に競争することは、機械と競争することに勝る。機械が学習できるところは機械に任せて、機械と協働しよう。
和訳してくださった Natsuhiko Mizutani 氏、レビューしてくださった Akinori Oyama 氏に感謝する(2013年4月)。
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