前回は、効率的なゼロ・クーポン債とリスク分散ができるREIT 投資信託についてまとめた。ここでは、「元本確保で大儲け」はあり得ない ○○型投資信託とヘッジファンドについて解説する。
1 リスク限定型投資信託
安全な株式投資がしたい人たち
毎月分配型投資信託とともに、近年流行した投資信託に「リスク限定型投資信託」がある。この投資信託の本質は、客から預かったお金のほとんどを安全確実な資産で運用し、ほんの一部を”株式のオプション取引”を中心とした運用を行うものである。オプション取引では、かなりの確率で投資した金額を失うが、運がよければ大儲けも可能である。「大損の危険性を排除した上で、大儲けの可能性を追及したい」という要望に応えて開発された金融商品だが、そのほとんどは手数料の分だけ損をしがちである。
2 元本確保型投資信託
元本確保で大もうけは可能か?
元本確保型投資信託は、満期まで保有した場合に元本と分配金が確保される投資信託である。ただし、中途解約の際には元本割れになる可能性があり、解約できるのは「年2回の解約請求可能期間のみ」である。その理由は、おそらく運用会社が10年もの国債で運用しているからである。つまり、こうした商品を買うならば、直接自分で10年もの国債を買うほうがよいのだ。また、インフレが心配ならば個人向け国債にすればよい。
また、「日経平均リンク債」などと呼ばれる仕組み債もあり、日経平均株価に応じて株式に転換される債券である。こうした商品は”経路依存型オプション取引”も行われることもあり、元本確保といいながら損失を被る可能性が高いのである(オプション取引を理解できない人は手を出すな! EB債と特約付商品参照)。つまり、投資信託などで元本確保を売り物にしている商品は、よほどの知識がないとわからない仕組みになっており、知識がある人ほど買わない商品なのである。
3 外貨建て元本確保型投資信託
元本確保型投資信託には外貨建ての商品もある。例えば「日本の株価に連動しながら元本確保をめざすファンド(豪ドル建)」といったものである。外貨建てな分、為替リスクと株価リスクの両方にさらされる。また、こうした商品はたいがい信託報酬やその他の手数料が高額になる。つまり、外貨建て資産を持ちたいならば、為替手数料の安いネット銀行で外貨預金をし、残りを自分で株式オプション取引を行えばよいのだ(日本で暮らすなら外貨建て資産はほとんど必要ない 外貨運用参照)。
4 ロング・ショート型投資信託
金融テクノロジーへの幻想
金融テクノロジーを使った取引では「株価の下落でも儲ける」運用ができる。ただし、こうした運用は個人でもそれほど難しいものではない。いわゆる空売り(値下がりを予想して保有していない株や商品を売ること)や空買い(値上がりを予想して保有していない株や商品を買うこと)である。ただし、予想が外れたら差額分と取引手数料(レンタル料)を払う必要がある。この取引を複数組み合わせた商品が、「ロング・ショート型投資信託」である。単にリスク分散をしているにすぎず、販売手数料や信託報酬の分、損する可能性が高いのだ。
また、高度な金融テクノロジーの本質は裁定取引(サヤ取り)であり、金利差や価格差を利用して売買し、利ざやを稼ぐことである。例えば、金利の低いところで金を借り、金利の高いところで貸し出せば、元手が少なくても多額の利益を手にすることができる(レバレッジ)。悪くいえば、金融知識の乏しい客から手数料を多くとることも、金融機関としては合理的な取引だということである。
5 ファンド・オブ・ヘッジファンズ
庶民でも投資できるヘッジファンド
ヘッジファンドとは、代替投資の1つで、通常は私募によって機関投資家や富裕層などから私的に大規模な資金を集め、金融派生商品などを活用した様々な手法で運用するファンドのことである。個人向けのヘッジファンドもあり、複数のヘッジファンドを組み合わせた「ファンド・オブ・ヘッジファンズ」も登場している。これまで述べてきたように、販売手数料や信託報酬に加えて成功報酬もとられることが多く、さらに特殊な債券のことが多いため、売買コストも高いのだ。
最後に
「元本確保で大儲け」そんなうまい話はない。まずは評価基準となりそうな10年もの国債の金利を調べること。リスク限定型投資信託は手数料分だけ損しがち。元本確保型投資信託より個人向け国債を買うこと。外貨建て投資信託より外貨預金と株式オプション取引を行うこと。ロング・ショート型投資信託より空売り・空買いを行うこと。ヘッジファンドよりバンガード・トータル・ワールド・ストックETF等、世界の株式にバランスよく投資すること。○○型投資信託を買うなら、ネット銀行を使って自分で分散投資しよう。
次回は、社会的責任投資・インド株ファンド、新規公開株 新しいテーマの商品についてまとめる。
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