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マイク・ディグリー タコに魅せられて

「”希望のスポット”の中に深海も入れてください」マイクは語りかける。ここでは、75万ビューを超える Mike deGruy のTED講演を訳し、タコの魅力と環境汚染の関係について理解する。

要約

水中カメラマンのマイク・ディグリーは数十年にわたり海を観察しています 卓越した話術で、ミッション・ブルーのステージに立ち、わたしたちに彼の驚嘆と興奮、そして懸念を伝えています —- 地球の青い心臓である海について。

Mike deGruy filmed in and on the ocean for more than three decades — becoming almost as famous for his storytelling as for his glorious, intimate visions of the sea and the creatures who live in it.

 

1 タコの強さと敏捷さに夢中になった

私は幼い頃にタコに夢中になりました。アラバマ州のモビールで育ちました。ここにはモビール出身の方もおられるでしょうね。モビールは5つの川が合流して形成される 美しいデルタ地帯に位置しています。そこは ワニが這い たくさんの魚が泳ぎ ヌマスギからはヘビが垂れ下がり あらゆる種類の鳥がいます。生き物に興味を持つ子どもならば そこはまったく魔法のような場所なのです。川の水はモビール湾から メキシコ湾に注ぎます。

初めて本物のタコに遭遇したのは たぶん 5歳か6歳の頃でした。メキシコ湾で泳いでいて 海底にいる小さなタコを見つけました。私は手を伸ばしてタコをつかまえ、すぐに その強さと敏捷さに夢中になりました。指をこじあけ 手の裏に回ろうとするので この暴れん坊を持っているのがやっとでした。そのうち タコは手のひらの上で大人しくなり 明滅させるように色を変えはじめ 脈打つように色を変えました。やがて 脚を下にしまいこみ 球形に丸まって 2本の白い縞のある茶褐色に変わりました 「すごい こんな生物初めて!」感動しました。しばらく見とれたあと 放さねばと思い 彼をそっと手から降ろすと 手から逃れたタコは 離れ業を見せたのです。海底の小石の上に着地した次の瞬間 バシュッと一瞬で消えたのです。私の目の前でです。

 

2 6歳にしてタコについて知ると決めた

そこで私は6歳にして決めました。もっとこの生物について知るんだと。やがて私は大学で海洋生物学の学士号を取り ハワイに行き ハワイ大学の 大学院に入学しました。ハワイ大学在籍中 ワイキキ水族館で働きました。そこには 魚類用の大水槽はたくさんありましたが 無脊椎動物の展示はあまり多くありませんでした。骨なし生物大好き人間の私は すてきな仲間を連れてこようと思い立ちました。学生として無脊椎動物について学んでいたので それらを採集し 入念なセットをこしらえて展示しました。

水槽の魚は鑑賞するにはすばらしいですが 彼らは人間と関わりません。でもタコは違います。タコの水槽に とくに早朝 まだ誰もいない時に行ってみてください。タコは起き上がってあなたを見るでしょう 「アイツ 俺を見てるのか…あ、本当に見てる!」 そして水槽の正面まで近づくと 一匹一匹に個性があることに気づくでしょう。その場を動かないタコもいますし 水槽の奥の岩陰に隠れるタコもいるでしょう。その中にすごいのが一匹いて 私が水槽の正面に来ると じっと私を見つめました。彼の目の上に小さな角が出ていました。私は水槽の真正面で ガラスの 10センチほどのところにいました。タコは小さな岩の上に座っていましたが 岩を離れて水槽の正面にやって来ました。ガラス越しに15センチ程の距離でにらみ合いました。実際このくらいの近さでしたね。今は老眼でダメですが 昔はよく見えました。私たちはじっとにらみ合いました。タコは触腕を伸ばし 小石を一握り掴むと 濾過装置から水槽に注ぐ 流水の中に放ったのです。チチチチッ 小石はフロントガラスに当たって落ちました タコはもう一度小石を掴んでまた放ち… チチチチッ 同じことを繰り返しました。次にタコは腕を一本上げました。私も上げました。続いてもう一本 私も もう一本 腕競べは私の負けです。だって彼はまだ6本ありますからね。その日私が見たことは 遊びという言葉でしか説明できませんでした。無脊椎動物には稀な 極めて洗練された行動です。

 

3 そうだ、映画制作者になろう!と決心した

その後 私が博士課程3年の頃 愉快な出来事がありました。実際それはその後の私の人生を変えるものでした 手短に言うと ある男性が水族館を訪れ 私と数名の同僚たちに 南太平洋に行って 彼のために生物を収集してほしいと言ったのです。出発の際 彼は16ミリカメラを2台持たせてくれ この調査の記録を映像に残すようにと言いました。よし 僕たちの映画か これは面白いことになるぞ。私たちは調査を行い 記録を残しました。それは映画史上 最低の映画でしたが 最高で最上の体験でした。そこで頭の中でランプがひらめいて 待てよ これからもこれをずっとやれるのでは? そうだ 映画制作者になろう!と決心したのです。その仕事から帰るやいなや 何をやったら良いのかもよくわからないままに 大学院を中退し 映画制作の看板を掲げました。幸運でした。それまでに学んだことがとても役立ちました。野生動物の映画制作者が 自然の中で動物を撮影する 特に行動を撮影する場合 対象がどんな動物で どのように振る舞うか 行動するかなど 基礎的な知識はとても役に立ちます。

 

4 1週間後には私たちを無視するようになった

しかし タコの本当の姿は 海の中で 映画制作の過程で学びました。彼らを映画に撮り 海中の彼らの住み家で 彼らが本来の生活を送る様子を 長期間共に過しながら学んだのです。以前 オーストラリアの ワンツリー島に行きました。明らかにその島では進化が かなり早いペースで起こっていて 私が行ったときには 少なくとも3本以上の木が 島に生えていました。とにかく 一本の木が 美しいサンゴ礁のすぐそばに生えていました。そこは1日2回の満潮時に かなり激しく 潮が出入りする水路になっていました。そこは美しいサンゴ礁で 入り組んだ岩礁にはたくさんのタコを含む 多くの生物がいました。タコにはよくあることですが オーストラリアのタコは まさに変装の名人です。実際 ほら ここに一匹いるでしょう。最初の難関は 彼らを見つけることで それは本当に大変でした。だからこう考えたのです。1ヵ月滞在して タコたちが私たちに慣れれば 彼らを脅かさずに 生態を観察できるだろうと。最初の約一週間で 近づける限界を探りました。毎日少しずつ近づいて行き 彼らが落ち着かなくなる距離を測ったのです。数時間毎に 近づいたり離れたりを繰り返すうち 一週間後には 私たちを無視するようになりました 「どうやら悪さはしないらしい」と考え 普段通りの生活を始めました。ほんとうにごく近い距離から 交尾や 求婚や喧嘩を見守りました それはほんとうに信じられないような経験でした。

 

5 一番すばらしかったのは採餌行動

目撃し 記憶している中で 一番すばらしかったのは 採餌行動です。彼らはさまざまな技術を持っていて それを餌を捕まえるために使っているのです。そのうちの1つは視覚を使うものでした。3メートル先から 珊瑚の塊を見つけて 泳ぎ寄ります。カニが見えるのかどうかはわかりませんが 海底から跳び上がり 珊瑚の塊の上に乗るのです。そして触腕を広げると 珊瑚をすっぽり覆い 隠れているカニを探し出すのです。触腕に触れたが最後 カニはお陀仏です。この中がどうなっているのか知りたかったので 観察する方法を工夫しました。話に聞いていたくちばしの動きを初めて観察できました。すばらしかったです。

特定の種類の生物の映画をたくさん撮りたいならば 広範囲に分布している生き物を選ぶでしょう。タコはどの海にもいて 深海に住んでいるものもいます。潜水艇に乗って深海へ行きたいという 私の強い願望が タコのせいかどうかはわかりませんが とにかく私は深海が大好きなのです。それはまったく新しい体験です。

 

6 中深海は海の95%の領域を占める

もしあなたがすべてから逃れて これまで見たこともないものを見たいと思うなら 絶好のチャンスは 潜水艇に乗ることです。潜水艇に乗り込んでハッチを閉め 酸素のバルブをひねり 空気浄化装置をオンにして 出発です。下へと降りてきます。地上とのつながりは切れ 陽気なラジオともお別れです。潜水艇が下降するにつれ 外は静まり 静寂が広がります。楽しい時間の始まりです。潜行するにつれ 水の青さは どんどん深く濃くなり やがて深いラベンダー色になり さらに600mほど潜ると漆黒です。ここは中深海の 領域です。

中深海の生物についてだけでも たっぷりお話しすることがあります。私が知る限り 疑いもなく 最高にへんてこな形状の とんでもない振る舞いをする 生物が 中深海にいる といえば十分でしょう。この領域は海の95%の領域を占めます。ここをさっと通り過ぎて 中央海嶺に降りて行きましょう。ここはさらに驚くべき所です。

 

7 地溝帯こそ活動の現場

中央海嶺は広大な海底山脈で 64万kmの長さで地球の海底をうねっています。海嶺は巨大な山脈で数百から 数千メートルの高さにもなり それが海面にまで至ると ハワイ諸島のような島を形成します。この山脈の頂は パックリと開いていて地溝帯を作っています。この地溝帯こそ 活動の現場なのです。ここには文字通り数千の活火山が 6万kmの長さに渡って 常時噴火を続けているからです。大陸を載せたプレートが動き マグマがわき上がって隙間を埋めます。新しい海底が 目の前で 形成されていくのを目撃できます。地溝帯の上にある3千~4千mの海水は すさまじい圧力となり 海水を地球の中心まで 押し込もうとします。マグマ溜りにぶつかった海水は 超高温に熱せられて ミネラルで過飽和の状態になり 逆流し 海底近くまで押し戻されて イエローストーンの間欠泉のように噴き出すのです。実際この辺り一帯は 飾りたてた イエローストーン国立公園のようです。

 

8 噴出する熱水は摂氏300-400度だが、あたりの海水はほぼ氷点の温度

噴出する熱水は摂氏300~400度にもなる一方 あたりの海水はほぼ氷点の温度です。急激に冷やされるため 溶けていたミネラルが 析出され 凝固したミネラルが 黒煙を形成します。塔や煙突のような噴出孔を形成し 3~10mもの高さになります。この煙突の回りの熱水には 生物がひしめき合っています。ブラックスモーカーが立ち並び 3mはあろうかという チューブワームがいます。チューブワームの頭には 赤い羽毛のようなものがついています。チューブワームの集団の中に さまざまな生物が住んでいます。小エビ 魚 ロブスター カニ 二枚貝や節足動物の集団が 凍り付く寒さと煮えたぎる熱の間で 危険なゲームをしてします。

 

9 化学合成の環境が生命の源

この生態系の存在が 発見されたのは 33年前のことです。発見は科学の常識ををひっくり返し 科学者たちに 地球上の生命の起源を再考させました。この熱水噴出孔の発見以前は 地球上の全ての生命の源は 太陽と光合成にあると思われていました。しかしここには太陽光はなく 光合成もありません。化学合成の環境が生命の源です。そしてここでは全てが 短命です。この 驚異の熱水噴出孔を 撮影するときっと 他の星にいるのだと思うでしょう。これが地球上であるというのは驚くべきことです。まるでエイリアンがいる異星のようですから。しかし8年後同じ熱水噴出孔に行くと そこは死の世界となっている可能性があります。熱い海水はなく 生物は死に絶えています。煙突は立っていますが ゴーストタウンのようです。薄気味悪いゴーストタウンで 生物はいません。しかし15kmほど下がったところでは プシュー!別の火山があり 熱水噴出孔の 新しい生態系ができあがっているのです。この熱水噴出孔の生物たちの誕生と死は 30~40年単位で 海嶺全体で繰り返されます。

 

10 熱水噴出孔の生物群が短命な理由

この熱水噴出孔の生物群の 短命な性質は 35年間 私が撮影旅行をしながら 見てきたものと 実はあまり変わらないのです。ある湾に行き すばらしいシーンをいくつか 撮影したとします。帰宅して 家で考えます 「さて 次に何を撮ろうかな。そうだ あの湾に行けば撮影できる ソフトサンゴと口脚類がたくさんいるから」 行ってみると 皆死に絶えています。珊瑚の形もなく 一面の藻類で豆スープのようです。一体何が起きたんだ? あたりを見回すと 後ろの丘の斜面が開発され ブルドーザーが大量の土砂を掘り起こしています。こちらでは ゴルフコースが建設中です。しかもここは熱帯で 狂ったように雨が降ります。雨水は斜面を流れ 建設現場の土砂を押し流し サンゴを覆って死なせます。ゴルフコースの肥料や殺虫剤も 湾に流れ込みます。殺虫剤は幼生や小さな生物を皆殺しにし 肥料は鮮やかな色のプランクトンを増殖させ その結果が豆スープです。

 

11 私たちはそっとしておけばいい

しかし心強いことに 真逆の現象も見てきています。以前ゴミためのような湾に行きました 見るなり うへっと思い 島の反対側に行って撮影をしました。5年後 再訪すると あの同じ湾がすばらしく美しく回復しています。生きたサンゴに魚が群れています。海水は澄み切っていて 何が起こったの?と思うでしょう。これはどうしたのかというと 地域の共同体が行動を起こしたのです。丘陵での自然破壊を知り 阻止したのです。法律を作り 認可を制定し 住宅建設とゴルフコースの管理に 責任を負わせ 堆積物や化学物質が 湾に流れこむのを阻止したのです。湾はよみがえりました。海はすばらしい回復能力を持っています。私たちはそっとしておけばいいのです

マーガレット・ミードが いみじくも言っています。思慮深い少数の集団が 世界を変えるのだと。全く そのとおりのことが起きています。思慮深い小さなグループが 湾を変えたのです。私は草の根運動の大ファンです。講演もたくさんしていますが 毎回の講演の終わりの 最初の質問はこれです 「でも私に何ができます? 私は1人の人間でしかなく 問題は巨大で世界規模なので圧倒されます」 もっともな質問です。

 

12 私たちは思考し理性を持っている

私の回答は それを巨大で 圧倒される世界的な問題ととらないで あなたの裏庭を いや あなたの心をみつめて あなたの住む場所の問題を 直してください ということです。あなたの近所に癒しのスポットをつくって 他の人にも同じ事をするように薦めてください。その癒しのスポットが地図上に 点在するようになるかもしれません。今の私たちは通信手段があるため 中国で起きていることをアラスカですぐ知ることができます。ニュージーランドではこうで イギリスでは… 世界中の人ががお互いに話しているのです。地図上の孤立した地点というのは今やありえません。ネットワークを作っているからです。この癒しのスポットが広がり始め もっと広がり 重なることで 良い事が起きるでしょう。これが私の回答です。裏庭を いや鏡をみてください。今やっていることよりも もっと責任あることができますか? できるならばやりなさい。広めなさい。熱水噴出孔の生物たちは 自分たちの住む世界の生と死について ほとんど何もできませんが 地上の私たちは違います。私たちは思考し理性を持っているはずです。私たちの行動を変えることで あの湾の健康を取り戻した人々のように 環境に影響を与えることができるのです。

 

13 「希望のスポット」の中に深海も入れてください

TEDPrize受賞者のシルヴィアは 受賞記念講演で 海を保護するために 私たちにできることを ほんのちょっとでなく できるかぎりたくさん 何でもしてくださいと 懇願しています 「希望のスポット」と彼女は呼んでいます。私はこれに大賛成です。私の希望はそれらの「希望のスポット」の中に 深海も入れてくださいということです。歴史的にこの領域は 乱用されないまでも ひどく無視されてきました。海洋投棄などでです。埋め立てには大きすぎる 毒性が強すぎるものは 海洋投棄が行われています。私は深海にも 「希望のスポット」ができることを望んでいます。今私の願いはかなっていませんが こう言うことはできます。シルヴィアの願いをかなえるために 私はできることをなんでもするでしょう。そして私は実行します。ありがとうございます。

 

最後に

6歳にしてタコについて知ると決めた。そうだ、映画制作者になろう!と決心した。一番すばらしかったのは採餌行動。中深海は海の95%の領域を占める。地溝帯こそ活動の現場。噴出する熱水は摂氏300-400度だが、あたりの海水はほぼ氷点の温度。化学合成の環境が生命の源。「希望のスポット」の中に深海も入れてください

和訳してくださったHIROKO ITO 氏、レビューしてくださった Haruo Nishinoh 氏に感謝する(2010年4月)。

タコの才能 いちばん賢い無脊椎動物 (ヒストリカル・スタディーズ10)


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