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リチャード・セイモア 美をどう感じるか

「物語、美術作品、顔、デザインされたオブジェ…どのようにしてそれらを美しいと感じるのでしょうか?」セイモアは語りかける。ここでは、80万ビューを超える Richard Seymour のTED講演を訳し、美に対する私たちの反応について理解する。

要約

物語、美術作品、顔、デザインされたオブジェ — どのようにして、それが美しいと感じるのでしょう?またなぜ、そのことは重要なのでしょうか?デザイナーであるリチャード・セイモアは、美に対する私たちの反応と、美的な物の驚くべき力を追求します。

As a partner in seymourpowell, Richard Seymour designs idea-driven products — from household goods to trains and motorcycles.

 

1 「神様に見える」

私が幼い頃 ちなみに私にも幼い頃がありました。父が 18 世紀の時計職人の 物語を聞かせてくれました。この時計職人は とてもとても美しい時計を作っていたのですが ある日 客が作業場に訪れて 以前買った時計を整備して欲しいと言ってきました。職人は時計を分解し 取り出した部品の一つに はずみ車がありました。その作業を見て客は気付きました。はずみ車の裏に彫刻がしてあったのです。言葉が彫ってありました。お客は職人に言いました 「どうして誰の目にも付かない内部に 言葉を彫ったんだい?」 時計職人は振り向いて答えました 「神様に見える」 私は信仰深くありません。父も同じです。ただその時 ここで何かが起こっているのに気付きました。血管や神経や 筋肉の詰まったはらわたで感じました。ありふれた筋肉です。とにかく何かを感じました。生理的な反応でした。その時以来 私の考え方は変わりました。

 

2 私たちは美しさを考えるのか、それとも感じるのか

デザイナーとして仕事をする中で 次の単純な問いを自問し始めました。私たちは美しさを考えるのか それとも感じるのか。皆さん恐らく既に答えを知っているでしょう。いえ どちらだと考えているかは分かりませんが 私は感じる方だと思います。デザイナーとしてキャリアを重ねていき ワクワクするものに出会うようになりました。自動車デザインの最初期の作品 そこにとてもわくわくするものがありました。沢山の作品の中で 私はあるものを見つけました 心奪われました。皆さんも覚えているかも知れません。車のドアをバタンと閉めたとき 灯りが直ぐに消えたのを覚えていますか? そして確か BMW だったと思いますが 緩やかに消えるライトを導入しました。覚えていますか? 私ははっきりと覚えています。初めて見たときのことを覚えていますか? 私はなんてすてきな と考えていたのを覚えています。実際 私は緩やかに消えるライトが 嫌だと言う人に会ったことがありません。これは一体どういうことだと考えました。

 

3 考えるよりも感じて欲しい

そしてそのことを自問するようになったのです。最初 人に聞いて回りました 「これ好き?」「うん」 「どうして?」「とても自然に感じるから」 または「いい感じだから」 私はこれでは充分でないと考えました。もっと掘り下げなければなりません。デザイナーとしてこの仕組みを示す言葉 操る操作盤が必要だからです。そしていくつか実験をしました。突如 全く同じ事をしている ものがあると気づきました。明かりから暗がりへ六秒で — まさにこれです。それが何か分かりますか?どなたか?

今 脳の考える部分を– 応答の遅い部分を使っていますね。でもこれは思考ではなく感覚です。お願いがあります。この先 14 分かそこら 物事を感じて頂けますか?

考えるよりも感じて欲しいのです。私はリラックスの感覚を覚えました。期待感と合わさったリラックスです。私が見つけたのは 映画館あるいは劇場でした。ここで確かに起こりました。六秒で明かりから暗がりへ その時 あなたはどう感じますか? 「あぁ 映画が始まってしまう」 それともこうでしょうか? 「素晴らしい 楽しみだ 期待に満ちてきた」 私は神経科学者ではありません。条件反射という物が存在するのかも知りません。でもそれなのかもしれません。なぜなら私がお話しした北半球の方々で 映画を観る人はこの感覚を覚えるからです。私がお話しした方々でも 映画や劇を見ない人は 同じようには感じません。皆が好きですが 他の人よりもはまる人もいます。

 

4 美は大脳辺縁系にある

こうなると違う見方もできます。感覚ではなく脳で考えており 美は 大脳辺縁系にある–時代遅れでもないでしょう。それは快楽中枢で おそらく私の視覚 触覚 感情は 思考を素通りしているのではないか。感覚器から快楽中枢への経路は 思考を司る大脳皮質を通る経路より短いのです。快楽中枢へ先に着きます。ここに作用させるにはどうしたらよいでしょう? また反応の内 どの程度が 知識によるものでしょう? あるいはこれから知ることによるものでしょう?

こちらは私が知る中で最も美しいものの一つです。ビニール袋なのです。最初それを見たとき 何も美しくなんてないと思いました。後に知ったのは — 後露光というやつです — 汚い水たまりや 大腸菌などで汚れたどぶ川に このビニール袋を沈めると 汚れた水からの 浸透作用で袋の中にしみこんでくる水は きれいな飲用水となるのです。その途端 このビニール袋が とても美しく思えました。

 

5 感情脳に切り替えてください

ではもう一度お願いします。感情脳に切り替えてください。頭を空っぽにして 感じることに集中してください。見てください。何を感じますか? 美しいですか?わくわくしますか? 私は皆さんの表情をしっかり観察しています。この絵を見て なんだか退屈そうな男性や 若干乗り気な感じの女性がいます。むじゃきな感じの絵ですね。実はこんな絵なのです。いいですか? ハイジという五歳の少女が 脊椎ガンで死ぬ前に 地球上で最後に描いた絵です。彼女の最後の行動です。最後の物理的な運動でした。絵を見てください。むじゃきさと その中の美を見てください。美しく見えますか?

止まって!どう感じていますか? それをどこで感じていますか? 私はここで感じています。皆さんの顔を見ていますよ。それが何かを伝えてくれるからです。あちらの女性は泣いていますね。皆さんは何をしているでしょう? 私は何かしているところを観察します。表情を観察します。反応を観察します。人が物事にどう反応するか知る必要があるからです。美に出会ったとき 驚くほど美味しいものに出会ったとき 最も良く見られる表情は OMG (oh my god) と私が呼ぶものです。ちなみに 喜びは伴いません 「素晴らしい!」とは違います。まゆはこんなになり 目は焦点を失い 口はだらんと開きます。これは喜びの表現ではありません 他の何かがあります。何か奇妙なことが起こっています。快楽に私たちが受け取る さまざまのものが混ざり込んでいるようです。

 

6 大きな感情的反応を引き起こす物事を意味する言葉「ポイニャンシー」

「ポイニャンシー」とはデザイナーとして私が好きな言葉です。これは大きな感情的反応を引き起こす物事を意味する言葉です。大抵は悲しみの感情ですが 私たちの行動の一部です 気持ちよいことについてだけではありません これは美のジレンマ 美のパラドックスなのです。私たちはいろいろなものを感覚で受け取っています。好き 嫌い ワクワクする 恐ろしいなどが混ざって ある感覚を受け止めます。出来事に関する感覚です。情念 これは明らかに皆さんも 少女の絵に見出したでしょう。達成感 気付き 「知らなかった あぁ これは新しい」という感覚 これもあの絵にありました。こういった道具を組み立てていくと デザインの観点から 私は非常に興奮します。なぜなら既に述べたように これらは認知や処理に先立って 脳に到達するものと考えられるからです。電気化学の仕組みです。

他に私が興味を持っているのは 本質的な美と外来的な美は 区別できるかということです。本質的な美とはつまり とにかく精巧で美しい何か 普遍的に美しい何かです。見つけにくいものですが 何か思い当たりますか 万人にとって美しいもの 事前情報なしに 美しく思えるものを見つけるのは非常に困難です。故に多くのものは外来的な美です。理解する前に情報に影響されます。あるいは裏に情報が付与されたりします。先ほどお見せした少女の絵のようにです。

 

7 美とは対称性のことではない

美についてお話しするにあたって ご覧のような形で 顔を用いて 数々の実験が行われてきた事実に 触れずには進めません。私が最もつまらないと思う説の一つは 美とは対称性のことだというものです。明らかに違います。これはもっと興味深いもので 顔の半分を人々に呈示し 最も美しい顔からそうでない順に 並べてもらい 最後に顔全体を呈示するというものです。半顔でも顔全体でも同じ結果になりました。美とは対称性のことではなかったのです。実際この女性は特に非対称な顔をしており どちら側も美しいです。しかし 異なっています。

デザイナーとしてこれは放っておけず パーツ分けをしてこのようなことをしました。個々の要素が何なのか調べようとしましたが 頭では分かりませんでした。あの目を見て喜びや 美しさを感じることは出来ます。眉からは感じませんでした。耳の穴も全くです。どれほど自分の役に立ったのかわかりませんが どこからその信号が来ているのかを 調べる助けにはなっています。もちろん私は神経科学者ではありません。しかし思考する部位を素早く素通りして 前認知的な快要素を もたらす物事を どう組み上げていけば良いのかについて。

 

8 人は物事を自分本位に見る

アナイス・ニンとタルマドが度々教えてくれたのは 人は物事を自分本位に見るということです。だから私は恥を捨てて打ち明けます。何が私にとって美しいかをです。これは MV アグスタの F1 です。あぁ これは本当に なんというか どれほど絶妙な物体か表現し切れません。しかし何故これが絶妙かは分かります。長い歴史が重ねられ 幾重にも積み重なっています。物理的世界に現われているのはごく一部で もっと大きな何者かなのです。伝説や勝負やディテールが幾重にも共鳴しています。いくつか説明しますと 空気を切り裂く物体の層流に関して 見ての通り この上ないデザインです。興奮してしまうデザインです。それをここで感じます。

この部分は 自動車デザインの大きな秘密である 反射マネージメントです。形の問題ではありません この形状がどう光を反射するかなのです。視点の動きに連れて揺らぐ光が流れ 動きを感じるオブジェとなります。静止しているのにも関わらずです。なんと巧みな反射の取り扱いでしょう。このペダルに刻まれた細かいレリーフは ライダーにとって その下の何かを意味します。このバイクの場合 駆動チェーンが時速 500 キロで回り エンジンのパワーを伝えています。私はこういったものを目にすると すごくわくわくします。

 

9 目に映らない凄さは創造した頭脳

チタンのロックワイヤーです。どれだけ素晴らしいものか伝え切れません。ナットが高速回転している車輪から脱落するのを防ぎます。熱中してきました もちろん レースバイクにはサイドスタンドがありません。ロードバイクなのでスタンドもあり この小さな隙間に折りたためます。見えなくなります。この曲面ラジエーターの難しさときたら– 何のためにこうしたのか? 車輪をこれまで以上に空力設計の中に取り込む必要があったからです。費用はかさみますが 素晴らしいのです。何よりも凄いのは ブランドロイヤルティです。アグスタ伯爵 このバイクの偉大な歴史です。

目に映らない凄さは これを創造した頭脳です。マッシモ・タンブリーニ イタリアでは 彼は「ザ・プラマー」 「マエストロ」とも呼ばれています。なぜなら彼は実際にエンジニアであり 工芸家であり彫刻家でもあるからです。一点の妥協も感じさせません。

 

10 美を損ねるのは簡単

しかし私や私の同業者は 美について常に妥協と向き合わなければなりません。何とかしなくてはならないのです。サプライチェーン テクノロジー その他諸々と 常に向き合わなければなりません。そしてそこに妥協が入り込んできます。では彼女を見てください。ちょっとあそこで妥協しなくてはなりませんでした。あのパーツを一ミリだけ動かす必要がありました。気付いた人はいませんね? 変化が分かりましたか? 三つのパーツを一ミリ動かしました かわいいですか?そうですね 美しいですか?劣化したかもしれません。それでも消費者は問題ではないと言います。なら良いでしょう? もう一ミリ動かしましょうか。誰も継ぎ目や変化に気付かないでしょう。美を損ねるのはこんなに簡単です。なぜなら美は信じられないほど難しいものだからです。ごく僅かな人しか出来ません。フォーカスグループでも無理です。チームでも希に成功するくらいでしょう。全ての要素を同時に統合するには 中枢皮質とでもいう物が必要なのです。

 

11 バレエを楽しめる理由の1つはその難しさが分かるから

これは美しいボトルです。ご存じのように デザイナーである ロス・ラブグローブの作品です。本質的な美にとても近いです。水がどんなものか知ってさえいれば 美しさを感じられます。これが美しいのは さわやかで美味しいものを体現しているからです。私は皆さん以上にこれが気に入っています。これを作るのがどれだけ難しいか知っているからです。このように光を屈折させる物を 正確に加工して作製し 失敗なく製造ラインを動かすのは 気が遠くなるほど難しいのです。その水面下では白鳥のように 無数の困難があります。拍手喝采です。これはシンプルな物の素晴らしい例です。先ほど見せたバイクは 極めて複雑なものでした。その複雑さゆえに その美の作用も 異なる仕組みのものでした。

恐らく皆さんは私と同様に バレエダンサーの踊りを楽しむでしょう。楽しめる理由の一つは その難しさが分かるからです。これが信じられないほど痛いことも考慮しているかもしれません。一点で立っているときのダンサーのつま先を どなたか見たことがありますか? 優雅なアラベスクやプリエをしている時 足元は大変なことになっています。そのことの理解が 行動の美しさに関する感覚を より強く 大きくするのです。

 

12 最初の一瞬に支配されている

間違えてマイクロ秒と書いてありますが 無視してください。また感じることについてです。美を感じるプロセスの初期段階で 頭ではなく感覚で受け取る物の トリガーを どのようにすれば与えられるかについてです。少し実験をしてみます。準備はよいですか?ある物を一瞬だけ呈示します。良いですか?はい 一瞬見て それは自転車だと思いましたか? 違うんです。パッと見て速そうだと思いましたか?思いましたよね。現代的だと思いましたか?思いましたよね。そう思う前の一瞬にあれの情報が入ってきています。そしてその時 脳が動き始めた以上 脳はそれに対処しなくてはなりません。このバイクはこんな感覚を引き起こすような デザインがすごいのです。グリーンテクノロジーで皆にとって良いものであり 軽く そして未来的な物であるという感覚です。

では何が駄目なのでしょう? 何も駄目ではありません。なぜならエコの面で これは極めて健全な作品だからです。ただ皆 最初の一瞬に支配されています。何分の一秒かの出来事に支配されています。そこで私の大半の仕事の 成否が明らかになるのは 店頭の商品棚です。その時点で勝敗が決まります。50 100 200もの商品を 商品棚で見かけるでしょう。私はその中で勝負し 皆さんに 最初に訴えかけられるようにするのです。

 

13 物の感情機能性を追求しよう

最後に私の大好きな層 知識についてです。ご存知の方もいらっしゃるでしょう。これの凄いところは そして私が繰り返し見てしまうのは 嫌がられ退屈に思われていることである 衣服の畳み方を扱っているからです。これが実際に出来たら — できる方はいますか?試した事は? どうですか? 凄いでしょう? ほら もう一度見たくありませんか? 残り2分なので時間がありません。でもネットで見てください。YouTube で 「folding T-shirt」で見つけてください。あれが低賃金の若者の T シャツのたたみ方です。皆さんおそらく知らなかったでしょう。でもどう感じますか? やると素敵な感じがします。楽しみになります。また誰かに教えると — もう教えたでしょうが 賢く思われます。そこらで提供されるいろいろな知恵 それは費用がかかりません。なぜなら知識はタダだからです。ここまでの話をまとめます。

形状は機能に従う? たまにだけです。形状とは機能です。形状は示唆します。形状は私たちが考える前に答えを教えてくれます。だから私はデザイナーとして「形状」も 「機能」も使うのを止めました。私が現在追求しているのは 物の感情機能性です。それを正しく捉えることが出来たら 素晴らしい物を作れます。何度でも作れます。どんな製品やサービスか皆さんご存知で すでに幾つかお持ちです。火事で逃げる時 とっさに持って行くような物です。そんな物は皆さんと 感情の絆で結ばれています。考えるよりも早く伝わる 電気化学の仕組みによる絆です。どうもありがとうございました(拍手)

 

最後に

考えるよりも感じて欲しい。美は大脳辺縁系にある。大きな感情的反応を引き起こす物事を意味する言葉「ポイニャンシー」。多くのものは外来的な美。美とは対称性のことではない。目に映らない凄さは創造した頭脳。美を損ねるのは簡単。バレエを楽しめる理由の1つはその難しさが分かるから。「神様に見える」お天道様が見ている。物の感情機能性を追求しよう

和訳してくださった Keiichi Kudo 氏、レビューしてくださった Natsuhiko Mizutani 氏に感謝する(2011年5月)。

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