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高齢化、若年雇用の悪化、女性の社会進出 格差問題の本質は何か

前回は、日本の地方にはなぜ豪邸街がないのか 日本の「意外な事実」の経済学についてまとめた。ここでは、高齢化、若年雇用の悪化、女性の社会進出 格差問題の本質は何かについて解説する。

1 世界はいつ不平等になったのか

産業革命を経て拡大した格差

産業革命までは各国の所得格差は最大でも3.6倍にすぎなかったが、産業革命以後は差が拡大し、2006年ではアメリカとインドでは12倍の開きが生まれた。これは、グローニンゲン大学のアンガス・マディソン教授が、日本、アメリカ、ドイツ、フランス、イギリス、イタリア、メキシコ、中国、インド、トルコ、エジプトについて、紀元1年より2006年までの1人当たり実質GDP(1990年の購買力平価ドル表示)を示したデータからわかる。

 

豊かさは搾取によって生まれたわけではない

このデータからわかることは、豊かさは搾取によって生まれたわけではないことである。豊かな国が変わったのに、貧しい国は変わらなかっただけである。豊かな国には、豊かになることが守られる制度があった。国家が、個人の努力によって得た富を没収することがなかったり、他国の優れた技術を学ぶことが奨励されていたのである。

 

2 格差問題の本質は何か

格差問題の本質は、日本の高齢化が進んで格差の大きい高齢者が増えたからである(総務省統計局「全国消費実態調査」より)。

 

高齢化以外にもある所得格差の要因

高齢化以外の所得格差の要因は、正社員になれた若者とフリーターのままの若者の所得格差が大きいことである。若者が正社員とフリーターなどに分化した理由は、80年代は景気が良くて、90年代には経済が低迷していたことである。小泉改革と格差拡大とは何の関係もなく、不況が作り出す若者の不安定雇用こそ克服すべき格差である。

 

3 グローバリゼーションは格差をもたらすのか

どの国で格差が拡大したのか

OECDのデータから、1990年と2006年の男性労働者の賃金格差を示したものをとると、格差が拡大しているのは旧共産圏にあったハンガリーやポーランドのような国である。他に、オーストラリア、ノルウェー、韓国、アメリカで格差が拡大している。日本はほとんど拡大しておらず、フィンランド、フランス、カナダでは縮小している。なお、賃金格差の指標は、賃金の十分位に分けた場合の上位2番目の賃金の平均が、上位第10十分位(最下位の分位)の平均の何倍かで表している。

 

格差は高賃金国ではなく中低賃金国で拡大している

格差は高賃金国ではなく、ハンガリー、ポーランドのような中低賃金国で拡大している。OECDのデータにはないが、低賃金国の中国も格差が拡大している。これは、おそらく共産主義体制の悪平等の反動と、これらの国が混乱の中にあってヨーロッパ型の福祉国家になる余裕がないからだろう。

ただし、この統計には零細企業のデータが入っていない。日本で格差の原因となっているのは、流通や外食や介護などの低賃金のサービス労働の拡大だと考えられる。グローバリゼーションによる格差拡大ではないが、こうした問題にも目を向ける必要がある。

また、グローバリゼーションが格差を縮小させる効果もある。貧しい国が工業化して安価な製品を輸出するようになれば、豊かな国の買うものが安くなるからだ(100円ショップやユニクロなど)。

 

グローバル格差論の危険

グローバリゼーションが格差をもたらすという議論は政府に責任はないという意味が含まれ、ときに鎖国をしようという発想になる。しかし、これは貿易や新しい技術や経営方法をもたらす資本流入の利益を否定することであり、危険なことである。

 

4 「均等法格差」は生まれたのか

夫の所得が高いほど妻の有業率は低いが、30歳未満では逆転する

夫の年齢別・所得階層別の妻の有業率を調べると、夫の所得が高いほど妻の有業率は低いが、30歳未満では逆転することがわかった(内閣府「経済財政白書」より)。これは、今後は妻の有業率は夫の所得にかかわらずフラットになっていくことを示唆している。

 

ダグラス・有沢法則の消滅が意味するもの

ダグラス・有沢法則とは、夫の所得が低ければ妻は働き、高ければ妻は働かないというものである。1970年代までのアメリカと近年までの日本で見られた現象だが、現在のアメリカでは成立していない。このことは、以下の5つの問題を提起する。

  1. 格差対策を行うには格差の原因を究明することが必要
  2. 高所得カップルの子どもを税金で面倒を見ることへの疑問
  3. 保育料は所得を得るための必要経費として所得控除を認めるべき
  4. 大都市の地価上昇につながる
  5. 地方の発展には男女とも働ける仕事が必要

 

5 地域間の1人当たりの所得格差は拡大したのか

格差拡大はまだ限定的

都道府県ごとの1人当たり県民所得格差について、「ジニ係数」と「上位5県/下位5県の比」で見ると、2002年以降、差は拡大している。しかし、その程度は95年のレベルにすぎず、90年に比べればまだ平等である。

 

格差拡大の原因究明が先決

格差拡大の原因として、小泉政権の構造改革路線のうち、特に政府投資を削減したことによって地方が切り捨てられて疲弊したという説があるが、これは明らかではない。政府投資とともに政府消費の関係もあるため、その要因がはっきりしないのである。

 

6 地域間の所得格差は拡大したのか

経済力格差は拡大している

県民所得格差について、都道府県ごとの総額で「ジニ係数」と「上位5県/下位5県の比」を見ると、格差は2002年以降大きくなっている。

 

格差拡大の原因はやはり明確ではない

公共投資や政府消費、そして景気と格差の関係をみても、その原因は明確ではない。

 

なぜ格差を縮小することが必要か

そもそもなぜ地域格差を縮小することが必要かの議論をするべきである。仮に移動できない高齢者がいたとしても年金制度が維持できれば問題ないし、移動できない市町村の議員や公務員は地域活性化のために働く必要があるだけだ。

 

7 外車販売台数で地域格差を見ることができるか

外車は経済力の象徴

外車は経済力の象徴で、外車が売れる県ほど所得や消費のレベルが高いと推測できる。そこで、都道府県ごとの外車販売台数について見ていく。

 

貧しくなる中で拡大した格差

外車が一番売れているのは東京都である。以下、2008年では、神奈川、愛知、大阪、兵庫、埼玉と続き、ぼとむからは島根、鳥取、高知、佐賀、沖縄という順になる(日本自動車輸入組合調べ)。また、この「外車格差」を過去と比べると、より不平等になっている。

 

8 日本の生活保護制度はどこが変なのか

給付総額は少なく、保護されている人はさらに少ない

日本の公的扶助支出額のGDPに占める比率は、わずか0.3%であり、OECD諸国の平均(2.4%)の約8分の1と極めて小さい。公的扶助を受けている人々の総人口に占める比率も0.7%と低く、OECD諸国の平均(7.4%)の約10分の1にすぎない。しかし、他の先進国との比較で、公的扶助を受けている人口の総人口に占める比率は相対的には大きい。つまり、公的扶助を受けている人1人当たりへの支出額は、先進国の中では大きい。具体的には、対現役勤労者世帯の平均所得比では7位(54%)で、購買力平価換算(給付平均からの差の割合)では11位である。

 

日本の生活保護水準は高い

日本の1人当たり公的扶助給付額は主要先進国の中で際立って高いが、公的扶助を実際に与えられている人は少ないといえる。橘木俊詔氏によれば、日本で生活保護水準以下の所得で暮らしている人は人口の13%と推計しているが、実際に生活保護を受けている人はわずか0.7%なのである。今後は、日本も給付水準を引き下げて、生活保護を受ける人の比率を高くすべきである。

 

9 日本はなぜ貧しい人が多いのか

やはり日本は平等ではないようだ

2006年のOECDのレポートによると、日本のジニ係数は先進14カ国中5番目に不平等、相対的貧困率(定義は後述)では2番目に不平等だというのである。ただし、同調査は福祉事務所経由で調査が行われるので、そもそも所得の低い人の補足率が高くなり、それゆえ不平等度が大きくなるという批判がある。

 

日本的不平等の本質

日本的不平等の本質は、ジニ係数よりも相対的貧困率が高いことである。相対的貧困率とは、所得が低い人から高い人を並べてちょうど真ん中にある人の所得(中位所得)の半分以下の所得しかない人の比率である。貧しい人が多いか少ないかの指標で、とても豊かな人が多いのではなくて、貧しい人が多いとこの数字が高くなる。相対的貧困率が高い理由は、個人への所得再分配が少ないからである。

 

格差に対して、どう対処すればよいのだろうか

日本を格差社会にする要因は5つある。①高齢化、②若者の雇用環境が悪いこと、③グローバリゼーション、④夫婦共働きが増えている、⑤地域ごとの格差である。これらの格差の中で特に重要なのが、若者の格差個人間または家計間の格差である。

こうした格差を防ぐためには、生存権を満たすためのお金を直接配ってしまった方が安上がりなのではないか。もしくは、負の所得税を導入して、最低限の所得保障を与えた上で、あるレベルに達するまで低い税率で課税することである。これなら、働く意欲を阻害することは小さいだろう(生活保護、歳入庁、負の所得税、ストック課税 大阪維新の格差対策参照)。

 

最後に

格差問題の本質は、高齢化と若年雇用の悪化と女性の社会進出である。様々な格差を取り上げたが、究極的には個人の格差を解消すればよい。そのためにも、歳入庁を早期に設立し、負の所得税を導入しよう

次回は、人口減少は恐くないが、高齢化は恐い 就業者数と労働時間の増加が重要についてまとめる。

新潮選書 日本はなぜ貧しい人が多いのか 「意外な事実」の経済学


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