前回は、原資産、取引手法、取引方式で分けられる包括的な概念 デリバティブについてまとめた。ここでは、外貨預金、住宅ローン、不公平の拡大要因 個人のための金融講座について解説する。
1 一般の人にとって外貨預金が不利な理由
外貨預金の仕組み
外貨預金は通貨間の金利の差と円相場の影響を強く受ける。つまり、外貨預金は金利リスクと為替リスクの2つを負った、リスクの大きい資産運用方法である。
外貨預金は不利なギャンブル
外貨預金が不利なギャンブルといえる理由は、多くの個人にとっては円安という予想にしか賭けられないからである。プロのディーラーは円安を予想すればドルを買い、円高を予想すればドルを売って日々ギャンブルをしている。しかし、一般的な個人の場合は、円高が続いている間は損失を取り返すチャンスがない。しかも、最初に円を外貨に替えるときと、運用後に外貨を円に替えるときの両方で手数料がかかるのだ。
リスクを減らす工夫は有効か
通貨オプション取引などを利用してリスクを減らす工夫がされた外貨預金もある。典型例は為替予約だが、為替予約によって為替リスクをなくそうとすると、ドルの金利の有利さがなくなってしまうのだ。外貨預金をせずにドル売りの為替予約だけを単独で契約することができればよいが、小口の資産しか持たない一般の個人がそうした取引をするのは難しいのである(原資産、取引手法、取引方式で分けられる包括的な概念 デリバティブ参照)。
損失を認めないのは危険な考え方
外貨預金をはじめてから円高になって損をしたにもかかわらず、「海外旅行で使えばいい」などといって損失を認めないのは危険である。そもそも円高になってから海外旅行に行くためのドルを手に入れることができたはずなのに、損失を認めたくないがためにそうした論理を使う人がいるのだ。
外貨預金の手続が簡単な銀行はサービスのよい銀行か
外貨預金の手続が簡単な銀行は、決してサービスのよい銀行とはいえない。これまで述べてきたように、外貨預金には大きなリスクがあるため、それをしっかりと説明する責任が金融機関にあるのだ。自分がどんな仕組みかわからないような金融取引をするときには注意が必要である。
リスクを小さくするための外貨預金利用例
リスクを小さくするための外貨預金利用例としては、輸入を多くしている会社に勤める人が、円安による所得変動リスクを抑えるために外貨預金を買うというものがある。また、円安で損をするような輸入企業の株式と外貨預金を組み合わせて持つということも考えられる。ただし、そもそも預金にこだわらなければ、ドル預金をする代わりにアメリカ国債を購入するという方法もあるのだ。
2 住宅ローンの考え方
固定金利と変動金利
住宅ローンを組む際に、固定金利と変動金利のどちらを選ぶべきなのかについて検討する。一般的に言われることは、すでに金利が十分に低いときには金利が上がる可能性の方が高いため、固定金利の方が有利だとされている。しかし、変動金利の将来推移についての予測が正確に行われていれば、結果として固定金利と変動金利は大体同じくらいの条件になるといえる。
住宅ローンの持つリスク
住宅ローンの持つリスクとは、単純に表面上の金利だけでなく、自分の所得の変動や地価の変動についても考えることが重要である。もしローンが払えなくて、その住宅を得ることでローンを精算しようとしても、買ったときより住宅の価値は下がっているため、ローンだけが残るという事態に追い込まれる可能性が高くなる。これは、住宅ローンの「元本金額」が固定されているために生じるリスクである。
また、金利がどのようなときに変動するかを考えると、景気の善し悪しが重要である。結論を言えば、景気変動によって大きく所得も変動するような人にとっては、変動金利の方が所得変動のリスクを緩和できる。一方、所得が安定していて景気の影響を受けにくい人は、固定金利にする方がよいだろう。
将来の住宅購入のために
将来の住宅購入のために著者が行っているのは、8割以上の資産を株式で持つことである。その理由は、長期的に見ると株価と地価は比較的連動しているため、地価が変動するリスクを避けることができると考えているからである。もし資産を預金で保有していると、地価が下がったときは住宅が買いやすくなるが、地価が上がったときは住宅が買いにくくなる。つまり、資産を株式で持つことで、将来住宅が買いやすくなるようなポートフォリオを組んでいるのである。
3 金融は不公平なもの
不公平を拡大する要因
不公平を拡大する要因は情報と金融の2つである。情報は簡単にコピーできるという性質を持っているため、1人の供給者が大勢の人に対して一斉に情報を供給し、大勢の人からその料金をもらうことができる。パソコンのソフトウェアやデータだけでなく、音楽や小説や映画やメディアやプロスポーツや科学技術なども情報である。
金利の違い
金融は広義には情報に含まれるが、個人や企業の信用度によって金利が大きく差が出る。例えば、資産や所得も少ない個人はかなり高い金利を払わないとおカネを借りられないが、大企業などは安い金利でおカネを借りることができる。また、おカネを運用する際も、もともとおカネを多く持っている人ほど高い金利で運用できるのである。このように、立場が違えば何が有利で何が不利かが全く違ってくるのが金融の世界なのである。
最後に
一般的に外貨預金は円安という予想にしか賭けられない不利なギャンブル。住宅ローンのリスクの本質は元本金額が固定されていること。不公平を拡大する要因は情報と金融。立場が違えば役立つ情報も違う。
次回は、ヘッジ・ファンド、貿易、セット商品 応用と実践のファイナンス講座についてまとめる。
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