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フレデリック・カプラン 「情報の世界をめぐるタイムマシンの制作」

「タイムマシンを作るにはデジタル化と推定が必要です。ただし、その規模は大きくなっています」カプランは語りかける。ここでは、18万ビューを超える Frederic Kaplan のTED講演を訳し、検索とシミュレーションがもたらす研究の変化について理解する。

要約

中世のFacebookを見れたら、どうでしょう? これは、それほど突飛な話でもありません。楽しく興味深いトークで、研究者・エンジニアのフレデリック・カプランが堂々発表するのは「ヴェネツィア・タイムマシン」というプロジェクトです。全長80キロにも及ぶ保管庫にある書籍をデジタル化し、1000年にもわたるヴェネツィアの歴史や地理を再現します。(TEDxCaFoscariUで撮影)

Frederic Kaplan seeks to digitize vast archives of historical information to make maps that move — through time.

 

1 この画像はクリックでき、地球上のほぼ全ての地点にズームインできる

これは 地球の画像です。アポロ17号から撮影されたあの有名な写真に よく似ていますよね。でも ちょっと違います。この画像はクリックでき クリックすることで 地球上の ほぼ全ての地点にズームインできます。例えば これは空から見た― ローザンヌ工科大学(EPFL)のキャンパスです。多くの場合 近くの通りから見た建物の様子も見ることができます。本当に素晴らしいことです。

 

2 この素敵なツアーには「時間」が欠けている

でも この素敵なツアーにはあることが欠けています 「時間」です。この写真がいつ撮影されたのか分からないばかりか 空撮写真と同じ時期に 撮られたのかさえ分かりません。私の研究室で開発しているツールは 空間だけでなく 時間を超えて旅ができるようにします。私たちが投げかけている問いはこうです。過去のGoogleマップのようなものを作れないか? つまり Googleマップの上部にスクロールバーを付けて それで年を遡れるようにできないか? 百年前や 千年前の様子を 見られるようにできないか? 過去のソーシャル・ネットワークを再現できないか? 中世のFacebookを作れないか? タイムマシンを作れないか? 単に「不可能だ」と言うこともできるでしょう。しかし 情報という観点から考えたらどうでしょう。これは 「キノコ型情報」と呼んでいるもので 縦軸に 時間 横軸に デジタル情報蓄積量を示したグラフです。過去10年 たくさんの情報があることは一目瞭然ですね。そして 時間を遡るにつれ情報は減っていきます。過去のGoogleマップや Facebookを作るためには この部分を広げてちょうど 長方形にする必要があります。どうすればいいでしょうか。

 

3 タイムマシンを作るにはデジタル化と推定が必要

1つは デジタル化です。資料はたくさんあります。新聞や書籍―それも何千という書籍です。これらを全てデジタル化して そこから情報を抽出できます。もちろん 昔に行くにつれ情報は少なくなるので 十分ではないかもしれません。ですから歴史学者のように 「推定」を行うのです。コンピュータ科学の世界で言うシミュレーションです。ここに 航海日誌があるとしましょう。それを ただの日誌でバチカンの船長が ある航海をつづるものと捉えるのではなく その日誌に書かれているのは 当時 数多くされた航海の代表例だと捉えるのです。こうして推定をするわけです。建物の外観を描いた絵があれば それを単に 特定の建物を描いたものとするのではなく おそらく同じ構造は情報が残っていない― ほかの建物にも採用されていたと考えるのです。ですからタイムマシンを作るのに 必要なものは2つです。大量の保存記録と 優秀な専門家です。ヴェネツィア・タイムマシンという プロジェクトについてお話しします。これは ローザンヌ工科大学と ヴェネツィア・カ・フォスカリ大学との共同プロジェクトです。

 

4 光学式文字認識ができないことを解決するために音声認識を参考にした

ヴェネツィアに特有なのは 政府がずっと 非常に官僚的であることです。あらゆることを記録してきています。今日のGoogleのようなものです。ヴェネツィアの古文書館には 全長80キロにわたる保管庫があり ヴェネツィア生活の全てが 千年以上にわたり記録されてきています。出航・到着した船も 全て分かります。市内の あらゆる変化が記録されています。これらの情報は全て そこにあるのです。今 デジタル化の10年計画を立てており この膨大な資料を 巨大な情報システムに 変えようとしています。目標として掲げているのは 一日 450冊の本をデジタル化することです。当然 デジタル化したところで十分ではありません。というのもこれらの文書が 書かれているのはたいてい ラテン語やトスカナ語 ヴェネツィアの方言なので 文字に起こして 場合により 翻訳もして 索引を付ける必要があり どう見ても簡単なことではないのです。特に これまでの光学式文字認識(OCR)方法は 印刷原稿には使えますが 手書きの文書となるとうまく行きません

これを解決するため参考にしたのは 音声認識の分野です。音声認識は不可能と思われたことですが ただ条件を加えるだけで 実現することができます。必要なのは使われている言語の― 良いモデルです。つまり構成が整った文書の― 良いモデルがあればよいのです。これらは行政文書ですから 多くは構成が整っています。膨大な保存記録を細かく分類し 同じような特徴ごとに分類ができれば うまくいく可能性があります

 

5 文書から100万件の出来事を抽出、場所、歴史を検索できる

その段階まで行けば他のこともできます。この文書から出来事を抽出できるのです。実際 おそらくこの保存記録から 100万件の出来事が抽出できます。さらに この巨大な情報システムは さまざまな方法で検索できます。こんな質問もできます 「1323年に この宮殿に住んでいたのは誰?」 「1434年にレアルト市場で 鯛はいくらで売られていた?」 「ムラノのガラス職人の 給料はいくらだった? 例えば この10年で」 もっと大きな質問もできます。意味に応じてコード化されているからです。それを場所と結びつけることもできます。多くの情報は場所と関係しているからです。そこからこの都市の 素晴らしい歴史をたどることができます。この都市が千年以上もの時を超えて 常に環境との均衡を保ちながら 持続的な発展をとげてきた― その軌跡をたどるのです。都市の歴史を再構築して さまざまな形でビジュアル化できます。当然 ヴェネツィアを理解するにはその都市だけではなく 広くヨーロッパという文脈で見る必要があります。ですからヨーロッパで起こった― 全ての事柄を記録するのです。海洋帝国時代のヴェネツィアの動きを 再現することもできます。どのようにアドリア海の支配を強めていき どのように 当時 中世で最強の帝国になり 東から南にわたる ほとんどの海上航路を押さえたかです。

 

6 シミュレーターで欠けている情報の再構築も可能

他のこともできます。こうした海上航路には 決まったパターンがあるからです。さらに一歩進めて シミュレーション・システムを作り 地中海のシミュレーターを作れば 欠けている情報でさえ 再構築をすることができ こんな質問も受けられるようになります。まるで旅行代理店に相談する感じで。「1323年6月にコルフ島から コンスタンチノープルに行くには どこで船に乗ればよいですか?」と。おそらくこの質問へは 1日、2日、あるいは3日の誤差で答えられます。「いくらかかりますか?」「海賊に遭遇する可能性は?」という質問もです。

 

7 科学的課題はこのプロセスの各段階において不確実性や矛盾を制限・数量化し説明をすること

もちろん ご承知の通り このようなプロジェクトで核となる科学的課題は このプロセスの各段階において不確実性や矛盾を 制限・数量化し説明をすることです。誤りは どこにでもあります。文書にもです船長は違う名前で 船は実は出航しなかったかもしれません。翻訳や解釈上の誤りもあるでしょう。さらに アルゴリズム的処理を加えれば 認識や抽出においても 誤りが出てくるでしょう。ですから ここにあるのは非常に不確実なデータなのです。

 

8 「メタヒストリー情報」もコード化すればよい

では どうすればこうした矛盾を見つけ修正できるでしょう? 不確実性の形式をどう説明できるでしょう? 難しいことですができることとしたら プロセスの各段階を記録して 歴史的情報だけでなく いわゆる「メタヒストリー情報」もコード化するのです。歴史的知識がどう形成されたか 各段階で記録するのです。これによってヴェネツィアの 歴史を1つに収斂させられるとは限りません。でも おそらく完全に記録をもとにした― ヴェネツィアの歴史を再構築できます。もしかしたら地図は一つでなく 複数あるかもしれません。システムはそれを許容すべきなのです。不確実性の新たな形式を扱わないといけないからです。その形式は この種の巨大データベースには新しいものなのですから。

 

9 新しい研究成果を伝えるのにヴェネツィアは最適

では この新しい研究成果を どうすれば 多くの人に伝えられるでしょう? あらためて申し上げるとヴェネツィアはそれに最適です。毎年 何百万もの人々が訪れており 未来の博物館をつくるには 最もふさわしい場所なのです。想像してみてください。下に ある年の 再現地図を置き 壁にはその再現に使用された― 例えば 絵画などの 資料が見られるのです。この没入型システムによって その年のヴェネツィアに入り込んで再構築し まわりの人とその体験を共有できるのです。一方でヴェネツィアの原稿などの 文書から始めて それから何が言えるか見せることができます。どのように解読がされ どのような文脈で文書が再生されたかなどです。こちらの画像は ジュネーブで現在行われている展示で 同様なシステムを使って出したイメージです。

 

10 「デジタル古典研究者」という新たな世代を育む必要がある

結論として言えるのは 人文科学の研究は 今 進化を遂げようとしています。ちょうど 30年前に生物科学に起こったような進化です。まさに規模の問題なのです。こうしたプロジェクトは 1つの研究チームでできる範囲を大きく超えるもので 人文科学にとっては今までなかったことなのです。私たちは しばしば小さなグループや 数名の研究者だけで研究する傾向にありますが あの古文書館を訪れてみれば 1つの研究チームでできることを超えていて 共同で行うべきものというのがわかるでしょう。こうしたパラダイム・シフトに向けて私たちは 「デジタル古典研究者」という新たな世代を育む必要があるのです。彼らこそ このシフトにふさわしいのです。ありがとうございました。

 

最後に

共同の研究チームによって人文科学は進化を遂げられる。検索とシミュレーション技術は研究は変わる

和訳してくださった Yuko Yoshida 氏、レビューしてくださった ASAKO SHIMAOKA 氏に感謝する(2014年1月)。

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