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普天間基地移設から尖閣諸島まで 国際政治のバランス感覚

前回は、消費税は地方の重要な財源 日本の財政とプライマリーバランスについてまとめた。ここでは、普天間基地移設から尖閣諸島まで 国際政治のバランス感覚について解説する。

普天間基地移設問題

普天間基地問題を解決するにはどうすればいいか。著者の提案は以下の2つ。

  1. 外務省と防衛省の大臣、副大臣、政務官、事務次官を替える
  2. 1.でうまくいかなければ、外務省と防衛省の権限を一部分官邸に移す

1.か2.を行った上で、新たな移転先やアメリカと交渉をすればよい。役人を御するのは人事とカネである。具体的には、天下り先を取り上げて人事を行えばよいのである。

 

尖閣諸島中国漁船衝突事件

2010年9月に発生した「尖閣諸島中国漁船衝突事件」に端を発し、その後日中関係のガンとなった尖閣諸島問題を考えてみる。

まず、初動前の国際関係の把握がダメであった。普天間基地の問題で、日米関係がぎくしゃくしていた。日本にとって隣国であるロシアと中国との関係は、日米関係が良好であることが支えになっている。その関係が乱れれば、ロシアも中国も黙ってはいないということである。

次に、初動においても問題があった。事件が起きた尖閣諸島周辺の海域は日本固有の領土であり、そこを管轄する海上保安庁は海上警察である。その警察の艦船に対して体当たり的な衝突事件を起こしたのだから、現行犯逮捕するのが当然であった。

しかし、今回の場合、事件から逮捕まで約半日を要してしまったのである。こうした危機対応にあたるのは官房長官だが、その官房長官はその後もちぐはぐな対応を続けていた。

9月9日の送検からわずか4日後に船長以外の船員全員と、衝突事件の重要な証拠である漁船を中国側に帰してしまった。その後、船長の抑留を10日間延長するという石垣簡易裁判所の決定に対する中国側の対応を受け、勾留期限前にもかかわらず船長を処分保留で釈放するという事態になったのである。

 

「尖閣諸島の解決は次世代の知恵に委ねる」という棚上げ論

1970年以前には、中国も台湾も尖閣諸島は日本の領土と認識していたことについては、多くの証拠が残されている。その中国、台湾が突如尖閣諸島の領有権を主張し始めたのは、1968年から国連が行った海洋調査により、この地域に巨大な海底油田が存在する可能性が発表されてからである。

1972年に田中角栄政権が日中国交正常化を達成し、戦時賠償の放棄を日中共同宣言でうたった。この背景には、中国が武力衝突にまで発展した中ソ紛争に苦しみ、経済近代化へのてこを求めていたからである。当時の中国からすれば、尖閣諸島問題など瑣末なことだったのである。

そして、1978年秋、日中平和友好条約批准のために、当時副首相であった鄧小平が来日する。「尖閣諸島問題の解決は次世代の知恵に委ねよう」という趣旨の発言はこのときになされた。

この発言には2つのポイントがある。1つは「尖閣諸島問題」で、そもそもこの問題があることを認めることは、日本が中国に歩み寄ることになる。もう1つは「次世代」で、この言葉が何を意味するのかを探る必要がある。

 

「次世代」と「革新的利益」

「次世代」とは、日中戦争や日中国交正常化を体験していない世代のことであり、これからの日中関係をどのように形成していくかという戦略のことである。中国政府はこれを明確に認識しており、その知恵の1つが「尖閣諸島周辺の油田を共同開発しよう」という提案である。

領土は守られなければならない。しかし、変化に対応する、可能ならば他に先んじて対応することは、一国のリーダーにとって重要な仕事であるはずである。

さらに、2010年10月2日付けの香港紙「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」が、北京の外交筋の話として、中国指導部がこの年に入ってから、尖閣諸島など東シナ海の領土・領海問題を、台湾、チベット、新疆ウイグル問題と同じ「核心的国家利益」と位置づけたと報じた。

この報道が真実だとすれば、いま日本固有の領土である尖閣諸島が、これらの地域と同様に扱われようとしているということである。これに対して日本外交は、完全に後手を踏んでいるのである。

 

日本の外交

民主党の外交には言葉、すなわち通訳に対する考えの浅さがうかがえた。民主党の細野豪志氏が中国を訪問したときも、当時の菅首相が温家宝首相と会談したときも、日本側には中国語通訳がついていなかったのだ。

日本語を英語に、その英語を中国語に訳すという重訳した場合、正確な意思を伝えることはかなり難しい。さらに、会談中に中国語で交わされる相手の会話が全くわからないことである。これでは全く外交にならない。

 

安全保障とお金

国家が安全保障のための軍を維持するには、莫大なコストがかかる。日本の自衛隊ですら年間5兆円の防衛予算を使っており、アメリカはその10倍以上の予算である。そのため、日本はお金を出すことによって解決できることは少なくないのである。

武力で協力できないことに金銭をもって充てることは恥ずかしいことではない。暴力に訴えるのではなく、経済力で問題を解決できるなら、それはむしろ素晴らしいことである。

日本の優位点は、核兵器を持たないことと経済力である。しかし、GDPは中国に抜かれ、経済政策の失敗でデフレを脱することができなかった。国際政治が専門の著者が、金融政策や財政政策について発言を続けているのは、日本の優位点を復活させたいからである。

 

最後に

「日本の優位点は核兵器を持たないことと経済力」納得である。著者が真に日本の国益を考えていることが伝わってくる。いい意味での商売人根性が、いまの日本の豊かさを支えている。エコノミックアニマルは蔑称ではない

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