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メリアン・バンジェス 込み入ったデザインの美しさ

「私の作品は心の赴くまま興味のあるものを追いかけることです」メリアンは語りかける。ここでは、55万ビューを超える Marian Bantjes のTED講演を訳し、込み入ったグラフィックデザインの美しさについて理解する。

要約

グラフィックデザインで個性を出しすぎるのは異端とされているのにもかかわらず、まさにそうしてキャリアを築いてきたメリアン・バンジェスが、どのように店頭やバレンタインカード、それだけでなく遺伝子図までをそのトレードマークとなった繊細なデザインで創り上げたか説明します。

At the intersection of word and form, Marian Bantjes makes her art.

 

1 あゝ大好きな歯医者様

まず始めに詩の朗読をします 「あゝ 大好きな歯医者様 私の口の中には貴方のゴム手袋の指…貴方のくぐごもったささやくような声… せめてマスクを下げてもらえませんか 歯医者様 マスクを下げてください」(笑)

OK このプレゼンテーションでは みなさんの右脳にしっかりと エクササイズしてもらいます。たくさんの画像をお見せしますが 話していることと関係ない場合もありますので 脳みそを半分にわけて 片方は画像に身を委ね もう片方で私の話を聞いてください。あることがきっかけで人生観が変わった そんな私の個人的な話です。それは6年前のことで グラフィックデザインとタイポグラフィーを20年続けた後で 普通のグラフィックデザイナーのやり方をやめ 仕事の仕方を変えて もっと個人的なアプローチをとりました。好きなことをして生活の糧を得る ささやかな試みをしようとしたのです。すると奇妙なことが起こりました。私の人気が異様に 上がったのです。私の現在の作品は どうも人の心を掴むようで 私自身もビックリしています。今でもしょっちゅう 一体どうなっているんだろう?と思います。でも私の作品のアピールは 私がなぜ制作するかということに 関係しているようだと分かってきました。

 

2 私の作品は心の赴くまま興味のあるものを追いかけること

今 私はグラフィックアーティストと名乗っています。そしてグラフィックデザイナーとしての 戦略があるとしたら 私の作品は 心の赴くまま 興味のあるものを追いかけることです。自我の導きに従って 自分とクライアントが 共に満足する作品を創ることです。でもこれはデザイン業界では 異色です。自我はグラフィックデザインに 反映されるべきものではないからです。それでも私の場合 いつも必ず 自分自身の作品として 個人的な作品として 取り組めば取り組むほど その作品が成功し 人に訴えかけ 面白いと人気が長続きします。ですから私は一般的なデザイン思考からは 少し外れた所にいます。数値化できる成果は何かと考えるのでなく 掴みどころのない価値を目指す傾向にあります。例えば「やっていて楽しいか?」とか 「驚嘆させるものがあるか?」とか 「好奇心がわいてくるか?」ということです。

ところでこれは科学的な図です。説明する時間はありませんが DNAとRNAに関連したデザインです。このような特有な想像力のあるアプローチでビジュアルアートを制作しています。私が制作時に関心を持つのは 視覚的構造 意外性 そしてどうなっているのか考えさせる要素です。そういう理由から特に 体系的なものやパターンに惹かれます。私の脳みそがどう働くか いくつか例をお見せします。

 

3 作ること自体がパズルみたいだった

これはイギリスの ガーディアン紙のために制作したものです。G2という雑誌を出版しているのですが その雑誌の2007年の パズル特集のため制作しました。作ること自体がパズルみたいでした。まず個々のタイルをいくつも創ることからはじめました。これらのタイルの中に アルファベット文字の一部が組み込まれるよう 意図的にデザインしました。そうすればタイルを並べて 抽象的なパターンの中に アルファベットそして単語を作ることが できるからです。同時にいろいろなやり方で タイルを裏返したり回転したり 組み合わせたりして 対称パターンや 抽象的パターンを創ることもできました。最初の puzzle という単語です。そしてこう抽象的なパターンで囲みました。見てのとおり読むのはとても困難です。でも文字の一定の部分に 色をつけるだけで 単語を背景のパターンから 浮かび上がらすことができます。でもちょっと簡単すぎるかもしれませんから 背景に少し色を入れて 単語そのものにも もう少し色を付けます。このようにして アート担当者と相談しながら ちょうどいい具合に調整できます。何か文字が隠されていることが分かり 読者の頭を悩ませますが 全く読めないわけではない。

 

4 私が家庭にあるアルミホイルで作れるもの

変わった素材を使って デザインするのも好きです。よくある素材を変わった方法で使うのも好きです。それには元来の特性を最大に生かしつつ その素材を思うように扱うため どうしたらいいか考えなくてはいけません。最終的な目標は 何か思いもつかないものを創造することです。TEDで3回講演している ステファン・サグマイスターの依頼でも これを念頭において 砂糖で制作しました。このプロジェクトは基本的に 自宅のキッチンのテーブルで始まりました。私は小さな頃から朝食にはシリアルを 食べているのですが これは小さい頃から テーブルに砂糖をこぼしては 指でなぞって遊んでいたということでもあります。そして後になって この技法を使って アート作品を制作しました。その後また同じ技法でステファンの著書 「僕が今までの人生で学んだこと」のために 6作品制作しました。これらは下書きなしで フリーハンドで制作してあります。白い平面に砂糖を出して 動かしながら 文字とデザインを創りました。最近私は 安っぽいパスタを使って 高級っぽいバロック様式の枠も作りました。これは私の本のある一章に使うためですが この章は敬意について書かれているので 少し意外な組み合わせです。でも見方によれば 子どもが親のために 学校で作って親にプレゼントする マカロニアートのことを考えると 敬意を表するものだと言えます。これは家庭にあるアルミホイルで作れるものです。というか 私が家庭にあるアルミホイルで作れるものです(笑)

 

5 言葉の意味をかけて遊ぶ本

私は不思議なデザインも 不思議に思うことにも同じくらい関心があります 「I wonder」と言うと 疑問がある 質問するという意味ですが 「To experience wonder」は畏敬の念を持つことです。そういうわけで今私は 言葉の意味をかけて 遊ぶ本を作成しています。同時に自分のアイデアや疑問を クジャクのような高尚な ビジュアル表現をもって 探求しています。世の中は不思議で満ちています。でもグラフィックデザインの業界では ほとんどの場合そうではありません。ですから自分の本で 言葉とデザイン画の間に 魅惑的な相互依存がある本の テストをしています。宗教でさすがと思うことの1つが メッセージを伝えるのに 視覚的な驚きを 利用することですが この基本的なアートと情報の融合は 大人向けの書籍で悲しいほど利用されていません。どうして視覚的効果が 知識を高めるのにもっと利用されないのか 不思議に思います。このような作品を見ると 私たちは児童書を連想する傾向にあります。装飾は真面目な内容を損ねるという 感覚があるようです。でもそのような感じ方を 変える機会を作れればと願っています。この本にはなんだか時間がかかっているのですが もうすぐで完成します。話の途中に 休憩を入れたらいいんじゃないかと なんとなく思ったので これが休憩です。皆さんと私が一息つくためです(笑)

 

6 バレンタインカードを手書きする

ところで私はバレンタインカードを贈っています。2005年からかなり大量に バレンタインカードを贈っています。これらは2005年から2006年にかけての 私のバレンタインカードです。やり始めたときは このような単一のデザインを 1人ずつに送っていたのですが 2007年に あり得ないアイデアを思いつきました。私のアドレス帳のひとりずつ全員に バレンタインカードを手書きするということです。宛名リストを150人に絞り ひとりひとりに それぞれ違ったバレンタインカードを描き 相手の名前を書いて 番号をつけて署名して郵送しました。信じられないかもしれませんが これは時間を節約しようと考えたやり方でした。その年の初め 私はとても忙しく 1種類のバレンタインカードのデザインをして 印刷する時間が取れそうもなかったのです。それでこのように少しづつ 移動時間にやればできるのではと思ったのです。厳密にはそうなりませんでした。いろいろあったのですが 時間内に全部仕上げることは出来て 大好評を得ました。100%近くの反応率を獲得しました(笑) 返事をしてくれなかった人については 今後私から何か送られることはありません (笑)

 

7 貴方が気にしている癖は強く心を惹き付ける

去年のバレンタインデーには もっと概念的なアプローチを取りました。ミステリアスなラブレターのようなものを 相手が受け取ったらいいかもと 思いつきました。郵便受けに残された断片のようなものです。その人に宛てられたものでも 私に署名されたものでもなく 相手に一体これは何だと 思わせるようなものにしたいと 思いました。それで特別に 繋がりのない4ページの手紙を書きました 4つの違うバージョンの手紙です。そしてわざと 文の途中から始まって 文の途中で終わるように書きました。普遍的で特定の名前や 場所が出てこない一方 内容は親密です。自分宛てのラブレターかもしれないと 本当に思い込んでもらいたいと 思ったわけです。そのうちのひとつをこれから読みます。

「貴方はあまり自信を持てないようですが 私が確信を持って言えるのは 貴方が気にしているこの癖は 強く心を惹き付けるということです。笑顔と共にこぼれる貴方らしさ それに気付く者は目にするだけで 幸せな気持ちになるのだと ただ受け止めてください。貴方とすごす時間は小鳥を追って捕らえるようなもの 引っかき傷やフンの心配はないですが」(笑) 「つまり言いたいのは 貴方の思いやりと言葉は ちらりとしか見えず 時にはつかみどころがないけれど 掴んでよく見ると 本当に素敵ということ とてもうれしいご褒美だということ 貴方といると時間を忘れ 得るものばかり 永遠にとっておきたい。そして同時に 解き放ちたい時間を重ねるばかり あり得ない?でも本当です。貴方は照れ臭いと思うでしょう。真っ赤になっているのが目に浮かびます。でもどうしても貴方に伝えたかった 貴方は自分を疑うことがあるようだから どんなに素敵なのか貴方自身が 分かっていないと思うとじれったいのです。どんなに人を元気づけて楽しい人なのか そして本当に心から完全に…」 (笑)(拍手)

 

8 やる価値があるのは何か

あと数日で バレンタインデーなので これらが今世界中の 郵便受けに配達されているところです。今年ははっきり言って かなり素晴らしいアイデアを思いつき レーザー切断で 使用済みのクリスマスカードを切り抜いて バレンタインのハートをつくることにしました。そこで友人たちに 使用済みにクリスマスカードを送ってもらい 500枚作りました。それぞれ全く違っていて もう本当に素晴らしい出来です。他に何も言えません。すごくうまくいきました。

仕事にももちろんかなりの時間を割いています。最近よく考えていることの1つは やる価値があるのは何かということです。仕事として 私が時間と人生を費やす 価値のあることは何だろう? 商業の世界で働いていると 時々悩まなくてはならないことです。実際にお金に左右されることもあります。でも根本的にはそれは価値のある目標でないと思っています。私にとってやりがいを与えてくれるのは クライアントや一緒に仕事する人たち 仕事の環境 私が影響を与えることのできる観衆 つまり私が考えるのは「誰のためなのか?」 「何を訴えるのか?」 「どんな影響を与えるのか?」です。

 

9 美学について語っている

ところでちょっと告白したいのですが 私のような者がこのカンファレンスの ステージに上がるのは簡単ではありません。皆さんのような 信じられないくらい頭が切れて 世界を変えたり人生を変えたりする アイデアや技術など 大局的なことを考えている人たちを 前にするのですから。またデザイナーやビジュアルアーツの人間は 世の中に十分貢献していないと 感じていることが 非常に多いのです。それどころか 自分たちのしていることは ゴミを増やしているだけだと思うこともあります。そんな中 私は皆さんに 綺麗なデザインを見せて 美学について語っているのです。でも本当に想像力あふれる作品は 私たちの社会で非常に重要だと 確信を持つようになりました。

 

10 インスピレーションは相互に働く

私はあらゆる種類の 本や雑誌 人との会話や映画などから インスピレーションを得ていますが 同じように 私がマスメディアに作品を出したとき その作品が面白くて変わっていて 興味をそそるもので 好奇心をかきたてるものなら 大衆に想像力の種を 植えていることになるのだと思うのです。そしてそこから誰が何を得て 全く違うものを生み出すか わからないと思うのです。なぜならインスピレーションは 相互に働くものだからです。だから私の作品のひとつが 脚本家や小説家や科学者に インスピレーションを与えるかもしれません。そしてそれが今度は 医師や慈善家 はたまたベビーシッターなどに 刺激を与えるもとになるかもしれません。これは数値化できることではないですし 追跡して測定することもできません。私たちは社会の中で測定できないものを 過小評価する傾向があります

でも私は心から きちんと廻っている豊かな社会では このような種があらゆる方面から あらゆる分野から来ていることが 創造性と想像性の歯車を スムーズに回して 大きくするのに必要だと思うのです。ですからこれが私のしていることの理由です。だからこんなに時間と労力を費やしているのです。隔離された場所で個人的に美術作品を創る代わりに 商業的で人目にふれる仕事としてやっているのも このためです。出来る限り多くの人に作品を見てもらい 気付いたり惹きつけられたりして 何かを得てもらいたいからです。この地球上での貴重な限られた時間を このようにして過ごすのは 実際価値のあることだと 私は思うのです。このことを伝える機会をありがとうございました(拍手)

 

最後に

作ること自体がパズルのような作品や、家庭にあるアルミホイルで作れる作品。言葉の意味をかけて遊ぶ本。貴方が気にしている癖は強く心を惹き付ける。やる価値があるのは何か。インスピレーションを相互に働かそう

和訳してくださった Sawa Horibe 氏、レビューしてくださった Natsuhiko Mizutani 氏に感謝する(2010年2月)。

すべての人に知っておいてほしい グラフィックデザインの基本原則


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