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トビー・エクルズ 「投資で社会変革を」

「民間のお金を使って受刑者の再犯防止という社会問題の解決をしませんか」トビーは語りかける。ここでは、50万ビューを超える Toby Eccles のTED講演を訳し、ソーシャル・インパクト・ボンドが持つ可能性について理解する。

要約

興味深い統計があります。イギリスでは、男性短期受刑者の63%は、出所後1年以内に再犯し、刑務所に逆戻りしてしまうというのです。社会復帰を支援するためには、職業訓練や教育、心理カウンセリングなどが必要で、それができれば大きな成果を上げるでしょう。しかし、政府にはそんな財源がありません。トビー・エクルズは、この状況を覆すための画期的なアイデア「ソーシャル・インパクト・ボンド(社会インパクト債権)」について話します。この債権は今までにないもので、民間のお金を使って社会問題の解決に取り組み、さらに、それが成功すれば、政府が利子を付けて投資家に資金を払い戻すというものです。

Toby Eccles has created a radical financial instrument that helps private investors contribute to solving thorny public problems.

 

1 社会変革に向けた新しいビジネスモデル

今日は 社会変革についてお話ししたいと思います。と言っても新しい治療法やケアでも 子どもとの新しい接し方でもありません。社会変革に向けた新しいビジネスモデル― 新たな問題解決方法についてです。イギリスでは63%の 男性の短期受刑者が出所後 1年以内に再犯をしています。では これら前科者による 犯罪件数の平均はどれくらいだと 思いますか? 43回です。では 過去何回刑務所に入っていたのでしょうか? 7回です。

 

2 再犯者を減らすことの価値はいかほどか?

私たちは 司法省に行き こう聞きました。再犯者を減らすことの 価値は いかほどでしょう? 何らかの価値はあるはずでしょう。お金をかけて刑務所を運営し 警察も使い裁判手続きなどもして 再犯者に対処しているわけですから。その価値は いかほどになるでしょう。もちろん 私たちは社会的価値を大事に考えています。私が立ち上げ支援をしたソーシャル・ファイナンスという組織も 社会問題を重視しています。でも 私たちは経済面も論じたかったのです。というのも経済性が示せれば これを行う価値は覆しようのないものとなるからです。再犯率を下げることの 価値と 成果を測る基準について 合意することができれば とても面白いことができるのです。

 

3 「ソーシャル・インパクト・ボンド(社会インパクト債権)」という仕組み

「ソーシャル・インパクト・ボンド(社会インパクト債権)」と呼ばれる― この考え方は要するに 政府と合意が取れれば 契約を結んで成功報酬制で 活動をするというものです。ですから 政府は新しいことを試せる一方で 失敗した上にお金まで払う― 無様なことになる心配もありません。政府機関の多くにとって これは重要な問題ですから。

 

4 成果検証に時間がかかるため、社会貢献型投資家から資金を募る

皆さん お気づきの通り ここで一つ問題があります。期待された成果が得られたか 検証するまでには長い時間がかかることです。ですから 資金を集める必要があります この契約をもとに 社会貢献型投資家から資金を募ります。社会貢献型投資家とは 面白い考え方もあるものでしょう? 実際 機会さえあれば 社会に役立つことに 喜んで投資をするという人は たくさんいるのです。ですから 機会を用意しました。政府が より良いお金の使い方を 見つける手伝いもしませんか? 刑期を終えた人を放っておいて 再犯をするのを待ってまた刑務所に入れるのではなく 実際に 彼らと向き合い 別の道を歩めるよう手助けし 結果的に犯罪を減らし 被害者も減らすのです。

 

5 事業運営者も投資家も政府もメリットがある

私たちは投資家を見つけ 投資家は事業活動の費用を支払います。もしそれが成功すれば 良い結果が得られますし 再犯率が減ることで 政府は支出が抑えられ その節約できた分で 成果について対価を支払います。投資家は投資を回収するだけではなく 運用益が得られます。

 

6 支払いがされるのは再犯率を10%以上削減できた場合

2010年3月 私たちは 世界初のソーシャル・インパクト・ボンドの 契約を結びました。司法省とで ピーターバラ刑務所の 3,000人の受刑者を対象としたものです。受刑者を1,000人ごとの3つのグループに分け 各グループについて 出所後2年にわたり 追跡調査をします。1年以内に再犯をしたとして 裁判手続きに6ヶ月かかりますから。そして その調査結果を検証します。全英警察データから可能な限り似た― グループを抽出しそれと比較するのです。支払いがされるのは 再犯率を10%以上削減できた場合で 起こらなかった犯罪件数に応じた額を受け取ります。つまり 防いだ犯罪に対して支払われるのです。もし3つのグループすべてで10%削減ができれば 投資家は 年利7.5%の リターンを得られます。それよりもよい結果が出た場合 最高で 年利13%の リターンが得られます。悪くない数字ですね。

 

7 司法省や社会や犯罪者にとってもよい仕組み

このスキームでは誰もが得をするのです。司法省は新しいプログラムを試せ しかも お金を払うのは成功したときだけです。投資家は2つの機会を得られます。まず 社会変革に投資できます。さらに 合理的な運用益も得られます。投資家はよく承知している通り こうしたものに最初に投資するのは 確固たる信念を持ち 社会貢献に関心がある人に限られます。でも 実績が積み重ねられれば 5年か10年後には この投資家コミュニティーは広がります。この商品を信頼する人が増えるからです。事業運営者もここで初めて 事業を運営する機会を得て とても建設的な取組みの 結果を積み重ねて 学習し その価値を示せるようになります。5年とか6年後の話で よくある1、2年の話ではありません。社会も恩恵を受けます。犯罪も被害者も減るからです。実は 犯罪者にとっても良いのです。数千円を手に出所しても 半分は どこに行けばよいかも 分からない状況です。でも 誰かが刑務所にやってきて 自分の問題に耳を傾けてくれ 出所の日には門で待っていて 住むところまで連れて行ってくれ さらに いろんな福祉や仕事 薬物更生 メンタルヘルスなど 必要なものへ導いてくれるのです。

 

8 児童養護の取組みにも応用できる

ここで 別の事例を見てみましょう。児童養護の取組みです。今 とても高いお金をかけて 良い成果が出せていないどんな分野でも ソーシャル・インパクト・ボンドは うまく機能します。養護施設の子どもたちは 悪い方向に進む傾向にあります。16歳で義務教育修了時に受ける統一試験GCSEの5科目で 基準点を取れるのはたった13%だけです。全国平均は58%にもかかわらずです。さらに悪いことには服役中の犯罪者の27%が 養護施設で過ごした経験を持ちます。もっと心配なのは 内務省の統計によれば 売春婦の70%も 養護施設に入ったことがあります。国は あまり良い親ではないのです。でも 養護の必要な思春期の子どもには もっと良いプログラムが色々あるのです。養護施設に行く子どもの30%は 思春期でもあります。

 

9 エセックス県がお金を支払うのは支援費用を節約できたときだけ

そこで 私たちはエセックス県庁とプログラムを立上げ 集中的な家庭サポートを試すことにしました。思春期の子どもがいる家庭が 対象になっています。エセックス県がお金を支払うのは 支援費用を節約できたときだけです。投資家からは約5億円が集まり 先月 プログラムは始動しました。他にもあります。ロンドンのホームレス問題や 全国の 若者、雇用、教育といった分野です。今や イギリスでは13のソーシャル・インパクト・ボンドがあり このアイデアは世界中から高い関心を集めています。デーヴィッド・キャメロン首相も約34億円を 社会成果基金に提供しこのアイデアを支持しています。オバマ大統領もこうした事業に 約300億円の国家予算を当てて 進めていくべきだと言っています。そして たくさんの国が 高い関心を示しています。

 

10 皆に受け入れられやすい形で新しいアイデアを試せる

なぜ こんなに盛り上がるのでしょうか? 何が違うのでしょうか? 1つ目は さきほどもお話ししましたが イノベーションです。皆に受け入れられやすい形で 新しいアイデアを試せるようになるからです。

 

11 成果を目指してデータを検証し、課題解決に取り入れる必要がある

2つ目は 厳密だからです。成果を目指してデータを検証し 課題解決に取り入れる必要があるからです ピーターバラ刑務所の例でいえば 私たちは ケースマネジメントを 共に活動を進めているすべての組織に取り入れました 皆が 受刑者に対して どんな取組みをしているか共有し 同時に司法省からも情報を得ました。また私たちも 何が起こっているか 再び逮捕されるかどうかデータを追って調べました。それを見て 私たちはプログラムを調整するのです。

 

12 長期的視点で柔軟にプログラムを調整できる

これは3つ目にもつながります。今までにない― 柔軟性です。通常 契約をするときは 政府のお金を使っている― 私たちのお金税金を使っているわけで そのことは 事業担当者もよく認識しているので お金をどのように使うか細かく管理したくなります。ここにいる起業家のみなさんはお分かりだと思いますが ビジネスプランのバージョン1.0は うまく行かないものです。こうしたことを試すときは 柔軟にプログラムを調整して行く必要があります。ピーターバラ刑務所の話に戻るとここでも― ある計画を持って始めたわけですが同時にデータも収集し プロジェクトを進めるにつれて 計画を微調整し変更を行い 新たな要素も加えて行きました。サービスを適応させ 長期的なニーズにも 短期的なニーズにも合うようにしたのです。受刑者からより大きなコミットを そして長期のコミットを得るようにするのです。

 

13 パートナーシップを形成しやすい

最後のポイントはパートナーシップです。最近 こんな陳腐な議論をよく耳にします。このようなプログラムは 国がすべきとか公共セクター、民間セクターがよいとか 第三セクターがよいとか。でも 社会変革を起こすなら 私たちはこれら関係者すべての 専門性を結集させて 解決に当たらないといけません。このことを通して すべてを結びつける仕組みを作り上げます。

 

14 私たちは社会変革に投資する手段を手にできる

このアイデアで何が変わるのでしょう? この取り組みで私たちは 社会変革に投資する手段を手にできるのです。これまで 社会変革に投資する機会を求める― 何千 おそらく何百万という人に会ってきました。一方で 公共部門ではこうした取り組みに関心の高い― 素晴らしい方々にお会いしました。このモデルがあれば この2つを結びつけられるのです。ありがとうございました。

 

最後に

ソーシャル・インパクト・ボンドの仕組みは、事業運営者も政府も投資家も社会も犯罪者にもメリットがある。その要因は、イノベーション、厳密さ、柔軟性、パートナーシップを持つから。堀江貴文(@takapon_jp)氏も言うように、投資で社会問題も解決できる

和訳してくださった Yuko Yoshida 氏、レビューしてくださった Natsuhiko Mizutani 氏に感謝する(2013年12月)。

刑の一部執行猶予:犯罪者の改善更生と再犯防止


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