「『小鳥の脳』にはこれくらいを食わせておけばいい」著者は記者への皮肉を込めて語りかける。ここでは、高橋洋一『日本経済の真相』を5回にわたって要約し、世の中の情報を新しい視点で見る作法を理解する。第1回は、日本経済の真相。
1 円高対策は円を刷ること
円は「絶対量」が少ない。だから円高になって当たり前
為替相場はマネタリーベースによって説明できる。マネタリーベースとは、世の中に出回っているお金と、日銀当座預金残高(民間の金融機関が日銀に無利子で預けているお金)を合計した額をさす。このお金の量が為替レートと大きく関係している。大まかにいえば、日本の円の量を米国のドルの量で割ると、為替レートが計算できるのだ。
円高が嫌なら、お金を刷って円安にすればいい
円高を是正したいなら、円を刷って増やせばいい。実際に、第1次安倍政権の最後の頃は為替レートが120円程度だったが、日経平均株価は1万8000円程度だった。
円安にすれば株価が上がり、税収も増える
円安にしてGDPが増えれば、税収も増える。円安になれば輸入企業は大変だが、国際競争にさらされている輸出企業は生産性が高く、輸入企業より輸出企業に恩恵を与えた方が日本全体の経済効果は大きくなる。この流れで財政再建することも不可能ではない。
2 デフレの原因はお金の不足
「人口」ではなく「お金」が少ないからデフレになっている
円に対してモノの量が多ければ、モノに希少価値がないということだからモノの価値は低くなる。反対に、お金は少ないから価値が高くなる。これがデフレである。つまり、円高もデフレも円が少ないことによる経済現象なのである。
人口減少とデフレに相関性は見られない
世界銀行のデータ集から、約180の国の10年間の人口増加率の平均と、物価上昇率(インフレ率)の平均を散布図にする。すると、散布図には点がバラバラに分散し、無相関という結果になる。つまり、人口増加率とインフレ率には関係性がないのである。一方、お金の量とインフレ率の相関係数は0.7で、かなり関係性が高いといえる。
「価格の低下」=「デフレ」と誤解していないか
デフレとは、「一般的な物価水準の持続的下落」のことで、全品目の加重平均である「物価指数」が下がることをさす。しかし、一般には、耐久消費財などの個別品目の下落をさして「デフレ」と言っていることが多い。
人口増加によってGDPを増やしても、豊かにならない
個人個人の豊かさは、GDPの大きさではなく、1人当たりのGDPに反映される。つまり、1人当たりのGDPを見た方がよく、人口を増やすことも、人口増加によってGDPが増えることもそれほど重要ではないのである。
3 円安にすれば日経平均1万3000円は可能
日銀に60兆円刷らせれば、株価は1万3000円を超える
国内景気が回復すれば、株価は上昇する。国内景気を回復させるには、円を安くすればよい。マネタリーベースでは、米ドルが約2兆ドルあるので、円を200兆円まで増やせば為替は1ドル100円程度になる。60兆円程度お金を刷ればいいだけである。
株価の「予測」はしない
株価は予測するものではなく、分析するものである。円が70円台のとき、株価は8000円台。円が120円のとき、株価は1万8000円。だから、株価を1万3000〜1万5000円にするには円をいくらにすればいいかを逆算しているだけである。
4 不正経理は2社に限らない
財テク規制でバブル時の株価は暴落した
オリンパスが、バブル時に生じた損失を「飛ばし」という手法で隠していたことが発覚。上場企業が20年にもわたって損失を隠していたこと、大手監査法人がその実態を見抜けなかったことなどが問題視された。
他社でも損失隠しが行われているかと言えば、当然行われているだろう。損失隠しは、1989年末に国が株式財テクを規制したことが発端となっている。株式の売買回転率(一定期間の売買高を上場株式数で割った指標)は通常年間に1、2回しか回らないが、1989年には20回程度回転していたのである。ここに規制を行った結果、4万円近かった株価が2万円を割り込んだのである
オリンパスの損失隠しが「氷山の一角」といえる理由
オリンパスの損失隠しが「氷山の一角」といえる理由は、損失を持ち続けて転々としている証券会社の営業マンがまだいるからである。営業マンからすれば、客に「いつか上がる」と言って保有を続けさせ、損失隠しという弱みを握っておけば、その弱みを武器に報酬を受け続けることができるのだ。
オリンパスは上場廃止にするのがルール
オリンパスは上場廃止を逃れたが、会計のルールを破ったのだから本来は上場廃止にすべきである。本業がいいから上場を維持してもいいというのはルールではなく、本業がよければ上場を廃止しても早々に復活できるだろうからだ。
大王製紙の問題の核心は「会社の私物化」ではない
大王製紙元会長は、関連子会社から巨額資金を借り入れて私的流用していたという一族経営で会社を私物化しているとの批判があるが、問題なのはその責任を会社に向けたことである。そもそも、会社を私物化していようと、消費者にいい商品を提供し、会社の業績を上げ、社員を幸せにしていれば問題はない。嫌だったら従業員は辞めればいいし、消費者はその会社の製品を買わなければいいのだ。問われるべきは株主に損害を与えたことであり、株主が訴えるかどうかの話である。
5 需給データ逐次開示は電力会社の利潤独占が目的
不要な計画停電で「1兆円のGDP」が失われた?
計画停電を1ヶ月行うと、日本のGDPは1兆円程度減少するといわれている。東電は2011年7月末の電力需給見通しについて、3月、4月、5月、7月(2回)と5回公表したが、その都度供給見通しが多くなっていった。このことから、原発を再稼働させないと電力が持たないと言いたいがために、供給能力を過少に申告していたと考えざるを得ない。
マスコミと電力会社の関係
マスコミにとって電力会社は巨大なスポンサーであり、原発や電力会社を徹底的に批判するのは都合が悪い。
電力、省庁、学者、もたれ合いの構図が明るみに出た
原発事故によって広く知られることになったが、原発はコストが安いというのは嘘で、原発をつくりたいがゆえに「ほかの電力が高い」と言っているだけである。ほかの特殊法人は、補助金をもらう代わりに天下りを受け入れているが、電力会社は独占利潤を確保するために学者や役人を取り込んでいる。電力会社が負担する補助金や天下りは独占利潤へのお礼である。その結果が「高い電力料金」である(虜理論と天下り バランスシート思考で考える東電問題参照)。
最後に
円高もデフレもお金が少ないことによる経済現象。株価は予測するものではなく、分析するもの。不正経理は2社に限らない。原発のコストは実は高い。
次回は、TPP、ユーロ危機、QE3、中国バブル 世界経済の真相についてまとめる。
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