jason-pontin

ジェイソン・ポンティン 「技術革新は人類の問題を解決できるのか?」

「技術の終結した姿はアプリや株式売買のアルゴリズムだけでしょうか?」ジェイソンは語りかける。ここでは、50万ビューを超える Jason Pontin のTED講演を訳し、技術革新が人類の問題を解決するために必要な4つの要素について理解する。

要約

1969年、バズ・オルドリンの月面への一歩から、人類はテクノロジーが持つ可能性を秘めた時代へと大きく飛躍しました。その後も技術の革新で、次々と人類が持つ課題が解決されていくと思われました。しかし、現在の状況はどうなっているのでしょう?技術の集結した姿は、モバイルのアプリだけなのしょうか?ジャーナリストのジェイソン・ポンティン氏は、人類が抱える本当の課題に注目し核心に触れ、テクノロジーを有効に使おうと訴えます。

Jason Pontin is the editor-in-chief and publisher of MIT Technology Review.

 

1 我々は人類の課題を解決していた

我々は人類の課題を解決していたものです。1969年7月21日 バズ・オルドリンはアポロ11号の月着陸船から 月の「静かの海」に降り立ちました。アームストロングとオルドリンの2人だけでしたが 灰色の月面に降り立つことは 人類が総力をあげた結果でした。

 

2 アポロ計画はアメリカ史上で最も誇れる平和時代の力の集結

アポロ計画は アメリカ史上で最も誇れる – 平和時代の力の集結です。NASAはこの計画に 今の価値にして約千八百億ドル 国家予算の4%をつぎ込み 40万人が作業を行い 2万の会社 大学 政府機関が力を注ぎました。アポロ1号の乗組員も含め亡くなられた方々もいます。アポロ計画が終了するまでに 24人の宇宙飛行士が月に旅立ち 12人が月面に降り立ちました。去年アームストロングが亡くなり 今一番の古参はオルドリンです。

 

3 我々の住む地球は小さく儚く見えた

彼らはなぜ月に行ったのでしょう? 多くは持ち帰ってはいません。381kgの石 そして 帰って来た24人が口を揃えて唱えたそうです。我々の住む地球は小さく 儚く見えたそうです。なぜ月に行ったのでしょう?そのシニカルな答えは ケネディ大統領がソビエトに ロケットを見せつけたかったからですが ケネディ大統領は1962年 ライス大学でのスピーチで このように説明をしています。

 

4 目標を目指すのは安易だからでなく難しいから

(ビデオ)ジョンF・ケネディ:なぜ月へ行く事を 目指すのか問う人もいます。その人達はこうも尋ねるでしょう。なぜ一番高い山を登るのか? なぜ35年前に大西洋を飛んだのか? なぜライス大はテキサス大との試合に挑むのか? 我々は月に行く事にしました。月に行くことにしたんです (拍手) この10年で月に行くと決めたり 他の目標を目指すのは 安易だからでなく難しいからです。

 

5 テクノロジーの超越したパワーを賛嘆するもの

当時の人々にとって アポロは冷戦中のソビエトに対する 勝利を意味しただけではありません。テクノロジーの超越したパワーを 賛嘆するものでもありました。大きなチャレンジ故に行ったのです。月面に着陸した頃は 他にも数々の技術が成功を収めていました。20世紀前半には工場の組み立てライン 飛行機やペニシリン 結核のワクチンが生まれました。20世紀の中期には ポリオも天然痘もなくなりました。当時の技術は1970年にアルビン・トフラーが唱えた 「加速的推進力」を備えていたかのようでした。それまでの人類の歴史のなか 馬や帆船より速く動くことは できませんでした。しかし1969年 アポロ10号は 時速4万kmで旅立ちました。

 

6 テクノロジーの力に対する楽観的期待はどこかに消えてしまった

1970年以来 誰も月に行っていません。誰もアポロ10号以上の速度で 旅をしていません。テクノロジーの力に対する楽観的期待は どこかに消えてしまいました。技術の力で解決されると思われた – 火星に行くとか クリーンエネルギー、癌治療 食糧問題などの大きな問題は 手に負えないと思われるようになりました。

 

7 生きている間に必ず火星コロニーが実現すると確信していた

アポロ17号の発射が今でも目に焼きついています。私は5歳でした。サターンV型ロケットから出る 炎のようなガスを見つめないように母が言いました。これが最後の月旅行だと 薄々理解していましたが 私が生きている間に必ず 火星コロニーは実現すると確信していました

 

8 テクノロジーが持つ問題解決能力に何かが起きた

その後 テクノロジーが持つ 問題解決能力に何かが起きたと 我々は思うようになりました。よく聞く事です TEDでもこの2日間話題に上がっています。技術者達は我々の関心を逸らし iPone、アプリ、ソーシャルメディア 株売買をスピードアップするアルゴリズムなどの 些細なもので自分たちを豊かにしているかの様です。これらはいけないことではありません。我々の生活を豊かにし広げています。でも人類の課題は解決できません。

 

9 シリコンバレーに問題がある

何が起ったのでしょう? シリコンバレーのお決まりの答えは Intelや MicrosoftやAppleやGenentechなどへ 投資していた時代に比べ 野心的な会社への投資が減ったと言う事です。シリコンバレーはこれを市場の責任にし 特にベンチャーキャピタルの企業家へのインセンティブが 原因だとしています。シリコンバレーによると ベンチャーキャピタルは革新的なアイデアから離れ ちょっとした改良や実際にない問題にまで 投資するようになりました。でもそれだけではありません。シリコンバレーに問題があるのです。ベンチャーキャピタルがリスクを好んでいた時でさえ 10年以内に資金回収の条件の 小規模の投資が好まれました。ベンチャーキャピタルは 多額の資金を要し開発期間が長い エネルギーなどのテクノロジーへの投資からは なかなか利益を得られず 人類の課題を解決するような 即 商品価値を生み出さない技術には 見向きもしませんでした。でも 人類の課題を解決できない理由は 実はもっと複雑で深刻です。

 

10 火星に行くよりも地球にはもっと大切なことがあると信じている

我々が抱える大きな問題にはときにはわざと手を付けないこともあります。火星に行きたければ行けるのです。NASAにはその計画案があります。でも火星に行くことは政治がからみ 世間の支持無しには決して実現しないでしょう。皆 火星に行くよりも 地球にはもっと大切なことがあると 信じているからです。

 

11 政治の機能不全もある

人類の課題を解決出来ないときは 政治の機能不全による事もあります。現在 世界のエネルギー消費の2%以下が 太陽光 風力 バイオ燃料など 先端技術による再利用できるものです。2%にも足りません。その理由は経済的なものです。石炭や天然ガスは 太陽熱や風力より安く 石油はバイオ燃料より安い。それに変わる安いエネルギーは 必要とされているのにないのです。さて 技術者 ビジネスリーダー 経済学者達は 新しいエネルギー開発を奨励する 国内外の政策に賛成しています。それらは主にエネルギーの研究開発推進と それ等は主にエネルギーの研究開発推進と 炭素価格制度の法制化についてです。でも 今の政治の風潮では このような世論を反映したアメリカのエネルギー政策や 国際条約は期待出来ません。

 

12 飢餓は政治的な危機が起こす食料供給の大惨事

また 技術的なものと思った人類の課題が 必ずしもそうではないこともあります。飢餓は長いこと食料の供給に 原因があると思われてきました。でも30年経って研究の結果は 政治的な危機が起こす 食料供給の大惨事だったのです。テクノロジーによって農産物や貯蔵 運輸システムは改善できますが 政府が改善しなければ飢餓は続きます。

 

13 我々が問題自体を把握していないものもある

そして 人類の課題は解決されないときもあります。それは我々が問題自体を把握していないからです。1971年 ニクソン大統領は癌の撲滅を宣言しました。でもその後 分かったことは いろいろな癌があり 治療が効かない厄介なものが多いとわかりました。やっとこの10年で 効果的で具体的な治療法が 現実となって来ました。難しい問題は手強いです。

 

14 問題解決するには4つの要素が必要

テクノロジーで大きな問題を解決出来ないのではありません。きちんと解決するには 4つの要素が必要です。政治のリーダーと一般市民が 解決に向けて問題に取り組み、各機関はそれを支持すること。実際 技術的な問題であるかを見極め、それを理解する事も必要です。

 

15 チャレンジは次々とやってくる

アポロ計画が 人類の課題を解決する 技術の力の象徴だと思われていたのは これらの要素を満たしていたからなのです。でも将来これと同じことはできません。今は1961年とは違い 冷戦のような人々を奮い立たせる競争もなく ケネディ大統領のように 危険や困難に立ち向かう人を英雄扱いしたり 太陽系探検のような 人々の心を掴むSF神話もありません。それに 何よりも月に行く事は 簡単だったのです。たったの3日で行けたのです。それにより何か大きな課題が 解決したわけではないのです。そんな現代に生きる我々にとって 未来の課題は更に高く立ちはだかります。チャレンジは次々とやってきます。ありがとうございました。

 

最後に 

大きな問題を解決するには、リーダーと市民の問題意識の共有、各機関の支持、技術的な問題か否かの判定、その理解の4つの要素が必要。家入一真(@hbkr)氏は草の根的に、小泉純一郎氏は演説で1つの方向性を提示している。

和訳してくださった Reiko Bovee 氏、レビューしてくださった Miki Togo 氏に感謝する(2013年10月)。

イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>