前回は、お金儲けはクリエイティブな仕事として起業とビジネスについてまとめた。ここでは、人間とは「労働力」なのかとして労働と失業について解説する。
1 労働とは—経済学による解答
経済学は人間を「労働力」と見ている。価値を生み出す(アウトプット)ためには資本と労働という2つのインプットが必要だと捉えている。その労働力の価値を高めるために教育が行われる。また、仕事に対する向き不向きの判定をするためにマーケットがある。これを労働力のアロケーション(allocation:配置)という。さらに、一生懸命働かせるために賃金を調整している。
ケインズは「経済学者の仕事が終わったときに、本当の人間の問題が始まる」と言った。「衣食足りて礼節を知る」のように、みんなが食べていけるようになれば経済学者の仕事はなくなり、どう生きるべきかといった人間の問題が起こるということである。しかし、世界の大部分の人が飢え死にしているという現実がある。言い換えれば、政府は貧困や失業をなくすという最終的な目的を果たせていない。
失業は生活の存亡に関わるとともに、人間の価値を生み出したいという基本的な願望が満たされなくなるという意味でも問題である。例えば、日本に典型的な「女性の生きがい」問題においてM字型就労が取り上げられる。それは、女性の労働者は20歳前後で女性の労働者が増えるが、20代後半から減り続けて35歳あたりから再び増加に転じるというものである。一回辞めたらパートしかできない、という環境はアメリカなどでは少ない。
こうした問題は雇用主と被雇用者の力関係によってもたらされてきた。その結果、多くの国では労働組合や団結権といった仕組みが作られてきた。日本でも単純に雇い主の事情で被雇用者の首を切れないといった、不当解雇が禁止されている。しかし、最近では解雇規制緩和を巡るニュースが飛び交うなど、労働の配置を自由化し、生き方の選択肢を広げようとする試みが行われている。
2 本当に日本の失業率は低い?
経済学と経済政策の最大の目標は失業を防ぐことである。日本の失業率は4.1%(2013年3月)とされているが、15〜24歳までの若年者の失業率は8.1%(2012年)と12人に1人が失業している。
また、日本の失業の定義は「職を探しているにもかかわらず職がない人」である。「職を探している」とは、ハローワークに行って実際に職探しをする人である。つまり、新聞の広告やインターネットで職探しをしている人や、そもそもあきらめてハローワークに行っていない人は失業者に入らないのである。
さらに、統計に出てこない失業者がいる。いわゆる「窓際族」で、実際には職がないが企業がクビにしていない人のことである。これを「企業内失業」といい、国から多種多様な雇用関係助成金をもらうことで雇用を維持しているケースが多い。
失業をなくすためには仕事を増やせばよい。仕事を増やすには2つの方向性がある。1つはダムや道路を作るといった公共事業を行うことで、もう1つは1人当たりの賃金を下げて仕事を分け合うことである。前者はケインズの「有効需要」に基づいたもので、需要が足りなければ失業が出るから政府がむりやり需要を作ってやればよいという考え方である。しかし、ブキャナンが指摘したように、民主主義社会においては失業をなくすために需要を作り始めたら、財政は徹底的に拡大して赤字になるという問題点がある。
後者は1980年代の新保守主義に基づくもので、小さな政府や規制緩和して市場メカニズムを重視するという考え方である。例えば、イギリスのサッチャー、アメリカのレーガン、西ドイツのコール、日本の中曽根康弘などがこうした路線である。
最近では積極的労働市場政策という新しい考え方が出てきた。これは労働者側に教育投資をすることで、労働の需要と供給のミスマッチを解消しようとするものである。失業には循環的失業と構造的失業の2種類がある。前者の場合は有効需要を刺激するだけでよいが、後者の場合は需給のミスマッチがあるため労働者側を変える必要があるということである。
3 経済学が役に立たないといわれる理由
経済学が役に立たないといわれる理由は、過度な期待があったからである。政治学や社会学、数学や物理学に対しては日常生活で大して期待していないのに対し、経済学には不景気を直すことや生活を豊かにしてくれるといった期待が大きかった。
昔からある経済学は単純系で、人間を要素に還元していくと欲望になると捉えている。安ければ買う、高ければ買わない、金を儲けるためだったら何だってするというものである。現在の経済学は複雑系で、人間は様々なものに影響されているものと捉える。例えば、ソフトバンクのお父さん犬の影響でケータイを買うとか、キリンの一番搾りがイチロー効果で売れるというものである。
こうしたモデルはまだまだ発展途上である。例えば、カリフォルニア大学バークレー校の新ケインズ派のローマーや、ハーバード大学のマンキューといった人たちが、そういう新しい考え方を出している。
また、シュンペーターというケインズとほぼ同じ時代の経済学者で、現代に非常に大きな影響を与えている人がいる。シュンペーターは、資本主義社会を発展させる原動力は企業の革新、イノベーションだと考えた。イノベーションとはアニマルスピリットを発揮して生まれる、何か湧き出るものである。彼はその湧き出る何かを「革新」という言葉で表して、これこそが資本主義のダイナミズムだとした。「不況を気にするな。不況があるからこそ悪い企業は潰れていき、よい企業だけが残る。だから資本主義は進歩する」というダイナミックな議論をした。
最後に
イノベーションは「新結合」と訳されている。「ちょっといい」くらいのアイデアではない、本当にいいアイデアや言葉。いろいろな立場の人の問題を一気に解決してしまうアイデア。それは不断の努力の後に生れ出るもの。多くのインプットされたものがふとつながり合って出てくるもの。積極的な学びは前提。
次回は、競争か共存かについて解説する。
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