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増税なし、東電解体、脱原発 復興の原理原則と3つの切り札

前回は、増税問題とは「増税大連立」である 復興増税という財政問題についてまとめた。ここでは、増税なし、東電解体、脱原発 復興の原理原則と3つの切り札について解説する。

1 「リーダーシップ」こそが求められている

今回の東日本大震災のような災害からの復興対策では、ポイントが3つある。①災害復旧法の改正、②豊富な財源、③新組織である。

 

①災害復旧法の改正

まず、前回も述べたように災害復旧法を改正し、津波が来ない高台などに住宅を造ることが重要である。現行制度では現状への復旧とされているからである。

 

②増税によらない財源確保

次に、財源を復興国債の日銀引受や埋蔵金の活用で捻出する必要がある(復興財源は国債の日銀引き受けと埋蔵金の活用 シンプルな復興政策参照)。

 

③復興のための新組織

最後に、復興対策を実施する組織である。例えば、「東北州」をつくるときのように、各省庁の財源、権限、人間をすべて移管して新組織をつくらなければならない。各省の縦割りを排除する必要がある。(国政進出、復興、法案作成、教育、公務員制度改革 維新八策の真相参照)。 

 

「対策本部」だらけ、どうすべきか

東日本大震災のような災害への対応には、地震・津波によるものと原発事故によるものの2種類の災害対応が必要である。つまり、2系統の対策本部があれば必要十分である。しかし、管政権は関係者でも覚え切れないほどの「会議」を官邸内につくってしまい、まさに「船頭多くして船山に登る」状態に陥ってしまった。西岡武夫参院議長(当時)が首相退陣要求をするほど、菅首相にはリーダーシップが欠如していたのである。

 

2 「復興の原理原則」に立ち戻れ

財源をたっぷり用意すると復興がスムーズになる

財源をたっぷり用意すると、現場は工夫の余地ができて復興がスムーズになる。しかし、一時補正予算では「国債発行に頼らず自賄いで対応したい」として、予算規模は4兆円程度と少なかった。

 

災害復旧の財源は国債が常識

公共投資はコスト(費用)とベネフィット(便益)を勘案して、ベネフィットがコストを上回る場合に限り正当化される。今回のような被災地に対する公共投資は、何もないところにインフラをつくるのでベネフィットがかなり大きく、コストを上回ることが確実である。その点から、災害復旧の公共投資はベネフィットが将来世代に及ぶので、国債を財源として行うことが正当化できるのである。

 

義援金はどう配分すべきか

義援金の配分は、これまで慈善団体と関係自治体の間で行われてきた。しかし、4月7日になって枝野官房長官が厚労省に配分委員会の設置を表明し、翌8日には配分基準ができた。なお、これまで集まった義援金は3649億円である(2013年2月28日現在)。

 

国のつくった配分基準に疑問あり

具体的に決まった配分基準は、以下の4つである。

  1. 死亡・行方不明者に1人あたり35万円
  2. 住宅が全壊した世帯に35万円
  3. 福島第1原発の半径30キロ圏内の世帯に35万円
  4. 半壊の世帯に18万円

ここで問題になるのは、原発事故の避難者への配分だ。つまり、東電の責任負担の分まで寄付したいという人は少ないだろう。日赤では、今回の義援金は見舞金であって、補償とは全く別物という考えを協調している。しかし、本来であれば見舞金も東電が負担すべきものである。これは義援金を使わずに国が立て替えるのが筋である。

 

被災者に「平成の徳政令」を

徳政令とは、負債の免除のことである。ただし、これを行うと債権者から見れば債権が消滅してしまうので、可能な限りその補填ができるようにすることが望ましい。

 

債務の減免と資産の回復

例えば、金融機関の持っている個人の住宅ローン、農漁業や企業向け貸付債権を消滅させて、ローン債務や借入債務の免除を行う一方で、事後的に金融機関に公的資金を注入し、債権消滅分を補うようなことができる。これをしないで放置しておいても、被災者には債務返済能力がないため、いずれにしても債権者は債権を失うので、それを管理して行うだけである。

また、資産の回復を図るには、従来は私的財産形成には公的資金を投入しないという原則があったが、そうした原則を見直すことが必要となるだろう。その上で土地等の固定資産を国や自治体が買い上げるのである。現在では、企業二重ローン問題 再生機構の支援、200件到達と徐々に行われているが、これをさらに進めていく必要がある。

 

債務が残っていると復興がうまくいかない

債務が残っている状態で復興が始まると、一部の人に所得があってもそれを債権者が奪い合うようになってしまい、復興そのものがうまくいかなくなる

例えば、住宅対策として、仮設住宅建設をスピードアップ、公営・UR住宅などの空き家活用、民間賃貸住宅・民間施設の借上げを検討し、場合によっては町ごと移住も考えたらいい。がれき処理では、住民ニーズを取り入れた処理、やむを得ない場合は災害緊急事態の布告と自治体判断等を踏まえ撤去、緊急的・事後的に一定の財産補償もしたらいい。

社会インフラ(道路、鉄道、港湾、河川、空港など)の債権では、必ずしも「復旧」でなく、新たな「復興計画」に基づく再建に着手する。例えば、災害を受けた場所に同じモノをつくらないことを「公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法」の「復旧」原則の修正をして行う。さらに、地盤沈下、液状化地域の対策も必要である。

生活再建としては、行政機能(被災者の市町村など)の早期復旧をボランティア・NPO等との連携、地元出身公務員などからの志願者を片道移籍させるなどして行う。ボランティアも大切だが、いつまでも人の善意に頼ってはいけない。少しでも報酬を与えたほうが、長い目で見れば復興活動がうまく回るだろう。こうした災害時にカネを出すことが、政府の役目である。

 

3 支持率回復のための切り札

3つのカード「増税なし」「東電解体」「脱原発」

政権の支持率回復のための切り札は、増税なし、東電解体、脱原発である。後ろのものほど難易度が容易である。

 

原発事故の遠因は「天下り」にあった

原発事故の遠因は天下りにある。その象徴ともいえるのが、2011年1月に石田徹前資源エネルギー庁長官が退任後4ヶ月で東電に天下った件である。

 

天下りに甘すぎる民主党政権

天下り問題について、本来は第三者の立場からチェックする「再就職等監視委員会」を設置すべきなのだが、民主党政権は野党時代に同意人事に3回も反対した。政権交代で与党になっても法律を無視して、この委員会をずっと設置してこなかった。

 

要請した自粛は「当分の間」だけ

民主党は東電への天下り批判を受けて自粛を要請した。自粛とは「本来はいいのだがやめてほしい」という言い方である。しかも、自粛は「当分の間」であり、原発事故を収束させた後は再び天下りを行うのだろう。石田氏は辞任要請を受け、最後まで責任を取ることなく東電を辞めてしまった。

 

「谷垣首相」なら拒否できなかった

3月19日の午後、菅直人首相は谷垣禎一自民党総裁(当時)に電話し、副総理兼防災担当大臣での入閣を要請した。これに対し、谷垣総裁は断った。それは、菅首相が自己保身や責任逃れに使っているのが透けて見えたからであろう。

もし本当に現政権が救国大連立を実現したいのであれば、かつて自社大連立が村山富市社会党党首をかついだように、菅首相が身を引き、谷垣総裁を首相におせばよかったの。これなら谷垣氏も拒否できないが、そこまでの本気度がなかったのである。

 

最後に

復興の原理原則は、災害復旧法の改正、豊富な財源、新組織の3つである。同時に、債務の減免と資産の回復を行う必要がある。また、増税なし、東電解体、脱原発が3つの切り札であるが、残念ながら現在はすべて切られていない。「兵士や下士官は一流だが将校は三流」よい将校を応援しよう

次回は、日本の政治に国民なし 東電と日銀に見る政治主導の問題についてまとめる。

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