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発議要件の緩和と所属会派の機関承認慣行の改善が必要 議員提出法案

前回は、省内外根回し、内閣法制局審査、与党審査等の11段階 政府提出法案についてまとめた。ここでは、発議要件の緩和と所属会派の機関承認慣行の改善が必要 議員提出法案について解説する。

議員立法を支えるスタッフ

国会議員の立法を支えるスタッフは、合計1700人近い人数がいる。数からいえば議院内閣制を採用する先進国の立法スタッフと比べて遜色はない。ただし、1つの組織としてではなく、秘書や立法補佐機関、そして事務局スタッフという3つに大きく分かれている。

 

政策秘書

国費で雇える秘書は国会議員1人につき3名(国会法第132条)。そのうち1人が政策担当秘書で、政策立案・立法業務をサポートする公設秘書である。年1回行われる政策担当秘書資格試験の合格者もしくは資格審査認定者のうち、国会議員によって採用された人たちをいう(722人)。担当する業務内容は議員事務所によって異なるが、国会議員の政策立案や国会活動のサポート、各種政策関連資料の収集および作成といった政策・立法関連業務だけでなく、事務所管理・運営、国会議員のスケジュール管理、政治資金管理・経理業務、広報活動など幅広く行っている。

 

立法補佐機構

立法補佐機構は以下の3つがあり、合計約800名の調査・立法スタッフがいる。①議院法制局(衆議院・参議院それぞれ約75名)、②国立国会図書館調査および立法考査局(11室、約170名)、③議院調査室(衆議院調査局約270名、参議院常任委員会調査室・特別調査室約200名)である。

議院法制局は両院議長の直属機関として設置されていて(国会法第131条)、国会議員からの依頼に基づき、法案要綱の作成や条文化作業などを行っている。②国立国会図書館調査および立法考査局(国会法第130条、国立国会図書館法)は、国会議員の調査研究などを助けることを目的に、諸外国の制度や立法事例などの様々な政策調査、国内外の既刊出版物や学際的資料を中心とした情報提供などを行っている。③議院調査室は、両院の常任・特別委員会に応じて設置されており、両院各委員会での審議にかかわる各首長さ、審議に必要な資料の作成などを担当している。立法補佐機構の問題点は、中央省庁との人的交流や出向・天上がりを通じて、行政府へ情報が筒抜けとなってしまうことである。

 

議員立法のプロセス

議員提出法案の立法プロセスは、以下の6つのプロセスを経る。

  1. 議院法制局への依頼
  2. 協議・調整
  3. 協議(修正・確定など)
  4. 協議(チェック・条文化など)
  5. 議院法制局の審査
  6. 所属政党内の手続

まず、1.国会議員もしくは政策担当秘書などが議院法制局に政策の法案化を依頼することから始まる。国会議員は議員秘書のサポートを得て、国会図書館や議院調査室、所管府省やシンクタンクなどを通じて調査資料や政策情報などを事前に集める。次に、2.法的観点から立案職員は依頼者との協議を通じて政策の基本的な骨組みをまとめ、さらに、3.懸念となりうる点を修正しながら法案要綱として確定していく。そして、4.依頼者側からその了承が得られれば、条文化作業を行う。条文化が終わった段階で、5.議院法制局の部長審査が繰り返し行われる。ただし、議院法制局は国会議員の立法行為に対する審査権は持っていない。こうして議院法制局の条文化作業・審査が終わると、6.所属政党内の手続きを経て、国会発議される。

 

日本ではなぜ少ないか

法律案の年間成立率を見ると、政府提出法案が80%前後で推移しているのに対し、議員提出法案は20%程度である。議員提出法案が日本で少ない理由は、以下の2つが挙げられる。1つは国会議員の発議要件が法的に制限されているからで、もう1つは所属会派の機関承認を必要とする慣行があるからだ。前者は、例えば衆議院で21議席(参議院は11議席)に満たない小政党は、法律案そのものを提出することができない(国会法第56条)。後者は、国会発議には所属政党の政調会長などの代表者の職務印と、所属議院の法制局長公印が必要なのである。

 

外国ではどうか

大統領制のアメリカなどでは法律は議員がつくるものというのが一般的な考えである。ただし、アメリカは行政府に法案提出権がないため、連邦議会議員1人でも法律案を提出することが可能なのだ。そのため、個々の連邦議会議員が多数の議員スタッフ(上院議員は1人当たり約40人、下院議員は1人当たり約15人)を採用し、行政府からの委任立法や法律案の審議・審査だけでなく、積極的な立法活動も行っている。

一方、議院内閣制のイギリスなどでは、議員立法よりも政府提出法案の方が圧倒的に多い。ただし、イギリスでは大臣が議員の資格で議案を議会に発議することが慣例となっているなど、必ずしも内閣が法案提出権を有しているとは限らないのだ。

 

議員立法の未来

日本の議員立法は1997年を境に、年平均100本近く提出されるようになった。この時期は山一證券や北海道拓殖銀行といった金融機関の倒産が相次ぐなど、金融危機への対応に迫られていた時期である。政治面でも、自民党単独政権が終焉し、連立政権時代に入った。その結果、臓器移植法(1997)や特例非営利活動促進法(1998)など、省庁間の対立で進展しない法律案や横断的な政策課題などに関する法案が、議員立法によって法案化していった。議員立法によって政治主導を発揮するためには、立法プロセスにおいてそれを手助けしていくための人的・制度的サポートを充実させていく必要があるだろう。

 

最後に

議員立法を支えるスタッフは合計1700人近くいる。政策秘書、立法補佐機構(議院法制局、国立国会図書館調査および立法考査局、議院調査室)、事務局スタッフの3つに分かれる。議員立法のプロセスは、議院法制局への依頼、協議、議院法制局の審査、所属政党内の審査を経る。議員提出法案を増やすためには、発議要件の緩和と所属会派の機関承認慣行の改善が必要。議員立法を人的・制度的にサポートしよう

次回は、国会提出、委員会審議、本会議審議 国会で法律ができるまでについてまとめる。

ニッポンの変え方おしえます: はじめての立法レッスン


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