前回は、公務員が悪いのではなく、制度が悪いだけ ニッポン株式会社のBSについてまとめた。ここでは、経済的独立を教育費と少子化問題から考える 人生設計の基礎知識について解説する。
1 「経済的独立」ということ
日本人の人生の転機
1989年にベルリンの壁が崩壊して米ソの対立に終止符が打たれ、日本の55年体制もなくなりバブル経済が崩壊したことで、私たちの人生にも以下のような転機が訪れた。
- 終身雇用制の崩壊
- 年功序列システムの崩壊
- メインバンク資本主義(メインバンクが企業の面倒を見ることによる資本主義)の崩壊
- 中高年の再就職の難しさ
- 不動産価格の大幅下落
- ゼロ金利政策による個人金融資産の停滞
- 一部の生保会社の破綻による保険金額の減額
- 年金保険料の増額と給付の減額
- 健康保険料と医療費の上昇
- 景気対策のための国債増発
経済的に独立するということ
経済的独立とは、「お金を他人に依存しないですむこと。やりたい仕事を選べ、住みたい場所に住め、子どもたちに最良の教育を受けさせ、自分の趣味を楽しむこともできること」である(R・ターガート・マーフィー、エリック・ガワー)。
真の自由は経済的独立からしか生まれない
このように、経済的独立とは「働かなくても生きていける立場になること」といえる。そうした立場になるのは、65歳でも18歳でも何歳でもよい。
独立に必要な資産
経済的独立の基準は「必要額=資産×運用利回り」という数式から導き出せる。例えば、年600万円(月50万円)の現金を生み出すためには、1億5000万円で5%の運用利回りを見込めば達成できる。
2 教育費と「大出費の10年」
子どもひとりでマンション1戸分
現在の日本では、子どもひとりで最大マンション1戸分(2000〜3000万円)くらいの教育費がかかると言われている(文科省の平成22年度「子どもの学習費調査」と私立大学等の平成23年度入学者に係る学生納付金等調査結果について参照)。前者は3歳(幼稚園入学)から18歳(高校卒業)までの教育費の調査で、後者は私立大学でかかる教育費の調査である。これらの調査と、平成22年度国立大学の授業料、入学料及び検定料の調査結果についてを踏まえると、以下の4つのタイプが導き出せる。
- 幼稚園から高校まで公立:約504万円
- 幼稚園から高校まで私立:約1,702万円(公立の3.4倍)
- 幼稚園から高校まで公立、大学は国公立:約750万円
- 幼稚園から高校まで私立、大学は私立文系:約2,088万円
さらに、大学から一人暮らしを行うとすると、4年間で384万円(仕送り月額8万円で計算)プラスでかかる(ころぐのブログ参照)
教育費の家計負担割合は39%
こうした教育費の負担は家計を圧迫している。日本政策金融公庫の教育費負担の実態調査結果(2012年度)によれば、年収の38.6%が教育費で家計の負担割合が過去最高であった。そこで中教審は、教育支出の対GDP比を1.5倍にする(現状は3.6%)という目的をたてている(OECD加盟国平均は5.4%)。
子どものいる家庭、いない家庭
一般的なサラリーマン家庭のキャッシュフローを考えた場合、20歳で子どもが生まれた場合と40歳で子どもが生まれた場合で、その人生設計が異なる。前者の場合は、前半部分では苦労するが、子育てが終わればその後の年収で効率的に資産形成をすることができる。後者の場合は、子どもが中学に入学する前に十分な貯蓄をしておかないと、定年後には公的年金以外頼るものがないという状況になってしまう可能性が高い。
反対に、子どもがいない家庭は、病気になったときのための医療保険と所得保証の保険などに加入して生活し、余った分を貯蓄(資産形成)に回していけばよい。
子どもがいるなら家は買うな
「子どもがいる夫婦は家を買ってはいけない」と著者は断言している。その理由は、不動産資産を手に入れる代わりに金融資産(貯蓄)を使い果たしてしまうため、現金収入で支出が賄えなくなると借金するほかなくなるからである。もちろん、支出の削減や共働きなどでリスクを分散できるという場合は、この限りではない。
3 少子化は解決できるか
教育費負担を減らす
教育費負担を減らすためには、教育費減税を行えばいい。公立・市立を問わず、入学金や授業料は全額、所得から控除できるようにすれば、それなりの効果はあるだろう。
教育サービスに市場原理を
次に、教育サービス業に市場原理を持ち込み、質を維持したまま価格を下げるような仕組みをつくらなければならない。学校を民営化し、校長に大きな権限を与えて教師をリストラできるようにし、教員免許の有無にかかわらず民間から人材を登用できるようにする。例えば、英語教師としてネイティヴ・スピーカーを積極的に採用したり、退職した商社マンを教員に迎えるなどが考えられる。
また、「子どもの教育費を子ども自身が負担する」という奨学金制度を充実させる必要もある。特に大学でこうしたことを行えば、大学生側も質の高い授業を求めるだろうから、大学教員と学生とのぬるま湯のような関係も変わるだろう。
子どものいる世帯への所得移転
さらに、子どものいる世帯への所得移転を行うことも考えられる。年金の賦課方式が続くのであれば、子どもがいない人の年金も同世代の親たちが育てた子どもたちによって賄われるため、公平な考え方である。例えば、医療費の削減を原資にして、子どもの生まれた家庭に一律で100万円を配るなどが考えられる。バウチャー制などを活用し、教育費のみに利用できるクーポンにしてもよい。また、2013年度に税制改正されたように、祖父母が孫に渡す教育資金の贈与税を1500万円まで免除するといった方法もよいだろう。
退職金制度はいらない
さらに重要なのは、企業の退職金制度(給与の後払い)によって金融資産が高齢者に偏る構造を変えていくことである。退職金制度を廃止して現在の給与を増額し、現役世代の家計のキャッシュフローを改善させることが必要である。受け取るべきものはすべて受け取って、一人ひとりが自分の責任において自分の人生を設計したほうが、ずっと健全である。
もちろん、保育園や託児所の充実を含め、子どもを生んだ女性が職場復帰することを社会全体で支える仕組みも必要である。子どもが生みにくい社会をつくっておいて少子化を嘆くような茶番は終わりにして、各々ができることを実践し、政治に働きかけて変えていけばいいのだ。
最後に
人はみな自由に憧れる。ただし、その程度は個人差が大きい。『自由からの逃走 新版』を読めばわかるように、人にとって自由とは「負担」であり、「逃走」したいものでもあるのだろう。だからといって、不当に他人の自由を制限しては、息苦しい社会になってしまう。せめて、自分や自分の大切な人の人生から「自由(選択肢)」が失われないように、できることから始めてみよう。
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