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資金を黒字主体から赤字主体へ円滑に移転すること 資金の貸借と金融

前回は、物々交換の限界を打ち破ったものが貨幣 貨幣と日本の決済システムについてまとめた。ここでは、資金を黒字主体から赤字主体へ円滑に移転すること 資金の貸借と金融について解説する。

1 貨幣の機能と金融

貨幣の機能

貨幣は決済手段であり、価値の貯蔵手段でもある。貨幣を手元に貯蔵しておき、将来それと交換に物やサービスを購入したり、子孫に残そうとするのだ。

 

生産における資金の貸借

生産における資金の貸借を考えると、貨幣の機能がよりわかりやすい。何かを生産するためには必要な生産要素(原材料や労働力など)を投入しなければならないことが多い。その場合、販売によって貨幣が得られる前に生産要素の供給者に対して貨幣を支払わなければならない場合がある。このような貨幣を運転資金というが、この資金調達のためには今までに貯めた貨幣を使うことが必要である(自己金融)。

しかし、自己金融には不足の限界がある。この限界を突破する1つの方法が、将来返済することを約束した手形や借入証書を発行して、貨幣を借り入れることである。この貨幣の貸借取引の文脈では、貨幣は資金または資本と呼ばれる。

 

消費における金融

最近では消費者もクレジットカードやボーナス払いといった割賦支払で買い物したりすることができる。この消費における資金の貸借を消費者金融という。

 

支出・収入差と投資・貯蓄差の関係

「支出ー収入=(消費+投資)ー収入=投資ー(収入ー消費)=投資ー貯蓄」と表せる。ただし、「支出=消費+投資 収入ー消費=貯蓄」である。

 

貸出のリスク

貸出のリスクとして、金利の支払や元本の返済の不確実性があげられる。これを信用リスクという。

 

情報の非対称性と取引費用およびリスク負担

信用リスクに伴う問題として、情報の非対称性があげられる。これは貸し手と借り手の間にある資金の返済能力に対する情報の差である。一般的に、借り手のほうが貸し手よりもその情報の正確性が高い。また、こうした取引にかかる費用やリスク負担が大きすぎれば、だれもそのリスクを負担しようとしなくなる。

 

2 資金の調達と運用

部門別の資金過不足の定義

金融の最も重要な機能の1つは、資金を黒字主体から赤字主体へ円滑に移転することである。ここでは、日本の金融にかかわる部門を、①個人部門(消費者と個人企業)、②法人企業部門(金融部門を除く)、③公共部門(中央政府と公団・公社・地方公共団体)、④海外部門の4部門に分割し、各部門の資金過不足を定義する。

①は、ある一定期間の貯蓄から投資を差し引いたものがプラスならば黒字、マイナスならば赤字である。②は、貯蓄(減価償却費+内部留保)から投資を差し引いたものがプラスならば黒字、マイナスならば赤字である。内部留保とは、税引き後の利潤から配当を差し引いたものである。③は、所得(税収や保険料など)から支出(財政支出など)を差し引いたものがプラスならば黒字、マイナスならば赤字である。④は、輸入から輸出を差し引いたものがプラスならば黒字、マイナスならば赤字である。

 

部門別資金過不足の推移

1960年代以降、一貫して黒字部門は①である。②は90年代半ばの一時期を除いて赤字である。③は75年頃から80年代半ばにかけて最大の赤字部門となり、一時期黒字になりながらも、基本的には赤字である。④は65年以後一時期を除いて赤字部門だが、それは日本の経常収支の黒字を反映している。

 

法人非金融部門の資金調達

法人非金融部門の資金調達は、80年代から90年代半ばにかけては金融機関からの借入金だったが、80年代半ば以後は有価証券の比率が上昇した。90年代に入ると、事業債の比率が大きく上昇していった。

 

個人部門の資金運用

個人部門の資金運用は、定期性預金が最大の割合を占めている。定期性預金とは、民間銀行と信託銀行の定期預金や積立預金である。つまり、個人が直接有価証券を購入する直接金融は少なく、いったん金融仲介機関(銀行や生命保険会社など)を通じて有価証券を購入する間接金融が多いのである。

 

最後に

貨幣の機能は決済手段と貯蔵手段である。金融の最も重要な機能の1つは、資金を黒字主体から赤字主体へ円滑に移転すること。日本の資金の流れは、法人部門は直接金融が多くなってきたが、個人部門は間接金融の割合が大きい。資金の流れを個人、法人、公共、海外の4部門で考えよう

次回は、金融仲介機関の機能と企業統治 金融機関と金融仲介についてまとめる。

金融入門 (岩波新書)


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