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政府活動の相対化と地方分権の強化 財政投融資の行財政面からの考察

前回は、公的金融は保証や保険の市場補完に転換せよ 公的金融活動の国際比較についてまとめた。ここでは、政府活動の相対化と地方分権の強化 財政投融資の行財政面からの考察について解説する。

1 はじめに

財政投融資の行財政面からの問題点を考察することは、人・権限・資金を通じた行財政の構造改革そして財政赤字克服の取り組みのためにも不可欠な視点である。財政投融資は、産業資本の整備や中小企業の設備投資・運転資金の確保から国鉄清算事業団や国有林野事業の資金繰りの補填に至るまで、広範多岐な資金供給を行ってきた。

一方で、財政投融資は以下の3つの構造的な問題を積み重ねてきた。第一に、郵便貯金・年金資金などを中心とする原資面から行財政の実質的な肥大化をもたらした。第二に、資金供給が補助金と類似の性格を伴って行われ、硬直化した体質とともに責任関係の不明確な実態を生み出す結果になった。第三に、資金供給が中央集権的であり、無償資金と有償資金が複雑に絡み合った制度によって財政民主主義を形骸化させる結果を招いたことである。

ここでは、財政投融資制度についての国の一般会計、特別会計そして地方財政との基本的なかかわりを整理し、市場原理の拡充に加え、財政民主主義の貫徹や地方分権の推進が重要な課題となることをみていく。

 

2 行政の機能と財政投融資

福祉国家と財政投融資

「消極的国家論」から「積極的国家論」

国家、行政の機能に関する歴史的な議論として、まずは18世紀のアダム・スミスの「自由放任主義」「神の見えざる手」の理論がある。イギリスでも「夜警国家」論といった消極的国家論が優勢だった。その後、19世紀後半になり、国家は国民に対し積極的に新興・助成などの機能を展開する「福祉国家」であるべきとする積極的国家論が生まれた。わが国においても、戦後急速に拡大し、特に1950年代から70年代にかけた経済成長とともに産業振興・助成、社会資本整備、年金・健康保険制度の導入などを通じ、政府領域の拡充や財政の拡大をもたらしている。

 

「小さな政府」論

しかし、経済の成熟化に伴った80年代後半、再び国家、行政の機能を問い直す動きが先進諸国を中心に高まりを見せる。アメリカのレーガノミックス、イギリスのサッチャーリズムに代表される動きであり、「小さな政府」を求め、経済・社会全体の効率化を図ろうとする取り組みである。ただし、ここでいう「小さな政府」は、公共性、弱者とは何かを常に問いかけつつ、財政民主主義に基づく財政規律と市場原理の中で実質的平等をめざす強い小さな政府の実現を目指すものである。

 

運用方針の変化

戦後の積極的国家論の台頭、小さな政府論の課程で規模の拡大とともに財政投融資の運用に関する基本方針も総花化している。例えば、1956年の基本方針では基盤産業整備に重点を置き、1964年では国民生活の向上など資金運用の多角化が進んだ。1980年代後半以降は「新たな需要の発生」を理由に、公的部門の領域の拡大をもたらしてきた。肥大化の過程では、官僚組織における「目的の転移」(財源確保)「合成の誤謬」(全体として不合理な結果)、アメリカの社会学者マートンが体系化した「訓練された無能」(画一化と硬直化)の問題があげられる。

 

「官」と「民」の領域

租税国家における行政の機能の本質は「民間の資本蓄積、経済的・社会的な生産活動を阻害する要因を取り除くこと」にある。具体的には、国防や警察等民間では実施できないとされる事項のほか、①民間規制、②民間助成、③民間補完の3つがあげられる。しかし、成熟期・資金余剰時代を迎えた現在、発展途上型に起因する「官」の領域は絞り込む必要がある。3つに対応していえば、①規制緩和、②競争強化、③民営化である。

 

3 財政的側面の問題点

財政との一体化

財政投融資の本質的機能である「期間変換」や「政府保証」を通じたリスク・プレミアムの軽減と必要性・効率性などの評価は、民間活動を主体に相対的に行われる必要がある。しかし、発展途上型財政配分(農業等保護産業への配分)は、既得権の厚い壁により高度成長実現後も温存されている。こうした財政としての問題点は「公的部門の領域・組織・人員の拡大」という状況をもたらしている。

 

リスク管理型財政の確立

リスク(政策の不確実性)管理型の本質は「評価・責任の明確化と選択均等の実現」である。リスク回避型の「負担・責任の転嫁と利益誘導」に対応している。この意味で、行財政改革の最終的な目的は「社会全体のリスク配分の現状を明らかにし、その再構築を図ること」と整理できる。こうした制度を確立するためには、以下の4点が重要となる。

第一に「政府活動の相対性」である。政府が行う活動のパフォーマンスを民間部門の活動を主体として、客観的に評価・検証することである。第二に、官と民における「所得とリスク配分の再構築」である。民間へのリスク移転と、官民を通じたリスク管理機能の拡充を進める取り組みである。第三に、官も失敗することを前提にリスク管理する手法に転換することである。第四に、コーポレート・ガバナンス(企業統治)の考え方の徹底である。現行の財政投融資制度についても、議会、市場、国民などが多面的に監視・評価できるシステムとして確立することが必要である。

 

財政投融資対象機関の赤字と繰越欠損

財政投融資対象機関が抱える赤字を考える前提として、第一に専門化し複雑化する過程で形成された現在の不透明な体質をまず改善すること、第二に一般会計からの会計的制約や所管官庁からの運営上の制約等を明確にすることが必要である。

財政投融資対象機関に対する出資金などの財政資金繰入は、毎年度3兆円を超えている。また、繰越欠損金などの負の遺産についても現在割引価値でのコスト計算なども含めた評価を行う必要がある。その評価については、貸借対照表の資産側に計上されている諸資産の時価評価、公正評価や減価償却、建設仮勘定の計上などを明確にして確定することが求められる。

 

一般会計的拘束からの脱却

公共サービスの費用と便益の明確化を図るため、特殊法人の出資により設立された営利法人を含めた連結情報の開示や公的部門の適正性や効率性を、多面的にチェックできる管理会計的発想による情報の開示などが求められる。従来の「財政主導型の金融政策」ではなく、金融市場の上に立った財政運営が必要となるのだ。

 

補助金型資金供給

補助金行政は、硬直性などその問題点が常に指摘され続けてきた。財政投融資の資金供給が補助金的体質を強く持ってきたことが、政・官・業を通じて既得権益を深める要因となり、財投機関の累積赤字などを拡大させる原因ともなってきた。特に、公庫の組織体においては所管官庁による拘束を強く受け、その分金融としての機能を低下させる側面を有しているのだ。

 

4 資金調達の多様化

財政投融資対象機関では、資金運用部からの資金調達だけでなく、財投機関債の発行など資金調達の多様化が重要である。財投機関債とは、資金運用部が発行する財投債と異なり、財政投融資の出口に位置する各機関あるいはグループ分けされた数機関が直接債券を発行し、市場から必要な資金を調達する方法である。財投機関債の導入により情報開示が促進されることが挙げられる。なお、EIB(欧州投資銀行)の場合も現実の出資金は少なく、多額の授権資本金を明示することで政府保証と同様の信用力を確保している。

また、情報開示の促進は、公団・事業団などによる社会資本整備事業へのPFI手法の導入の基礎ともなる。PFI(Private Finance Initiative)とは公的資本の民間所有の取り組みで、官は評価・企画などの舵取り役に特化すると同時に、財政負担を軽減することを目的としている。具体的には、民間企業が社会資本を建設し運営する、あるいは公的セクターが建設した社会資本を譲り受け運営するなど、様々な形態が選択される。

 

5 地方分権と財政投融資

財政投融資は、地域の貯蓄を郵便貯金などを通じて中央に集め、再び地域に配分する役割を果たしてきた。中央集権的行財政は、行政水準をできるだけ統一化・画一化することに主眼がおかれていたが(ナショナル・ミニマム)、今後は地方の実情・特性に合わせて地域住民のニーズ等を尊重する「シビル・ミニマム」の追求の意味でも重要である。

 

6 まとめ

財政投融資の財政的問題を考える基本理念は、財政と金融を分離し市場原理に立脚した財政運営を実現すること、財政民主主義を貫徹することの2つである。財政投融資は、地域の貯蓄を郵便貯金などを通じて中央に集め、再び地域に配分する役割を果たしてきた。しかし、その資金の質は中央集権的性格を強く持つものであり、地方分権の観点からも問題がある。財政投融資を見直すことは、地方分権や地域金融のあり方にも問題を投げかける重要事項である。

 

最後に

財政投融資を行財政面から考察することは構造改革と財政赤字克服に役立つ。行政に求められる機能は時代に応じて変化してきた。財政面からは評価・責任の明確化と選択均等の実現、金融市場の上に立った財政運営が必要。財投機関債の発行などによる資金調達の多様化を進めることによって、地方分権にも寄与できる。政府活動を民間と比較し、地方分権を強化せよ

次回は、費用便益分析、補助金の情報開示、破綻判定条件の確立 財政投融資と社会資本整備についてまとめる。

財政投融資の経済分析 (シリーズ・現代経済研究)


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