前回は、円・外貨預金と投資信託による販売手数料の水増し セット商品についてまとめた。ここでは、長期の円定期預金は中途解約の可否を確認せよ 長期預金とインフレについて解説する。
1 長期の円定期預金
意外に難しいクイズ
「8年満期の年1%」か「5年満期の年0.8%」の定期預金のどちらかを選べと言われたらどうするか。預入金額やネット専用預金等の条件もあるが、最も重要なのは「満期前に中途解約ができるか否か」である。
インフレの恐怖
中途解約できない預金の場合、インフレが起きたときに大損する危険性がある。インフレとは物価が上昇し続ける現象である。例えば、物価が毎年5%ずつ上昇すると、現在100万円のものは5年後に128万円となり、5年後の100万円は現在の78万円と同じ価値しかなくなるのだ。
ここで「実質金利=名目金利—予想インフレ率(物価上昇率)」と定義される。つまり、予想インフレ率が名目金利よりも上回ってしまうと、カネを貸す側や預金をする側は実質的に損をしてしまうのだ。
過去のインフレ率と結果としての実質金利
預金の価値がインフレによって目減りする可能性は2つある。1つは、利ざや(銀行のコストや利益)が実質金利よりも大きくなったときで、もう1つは、予想を超えたインフレが生じるケースである。
普通預金・決済用預金・定期預金の違い
普通預金・決済用預金・定期預金の違いは、①流動性、②金利の有無、③ペイオフの対象範囲という点である。まず流動性は、普通預金と決済用預金がいつでも引き出し自由という意味で優れている。次に金利の有無は、普通預金と定期預金は金利がつく。最後にペイオフの対象範囲は、3つすべてが対象だが、普通預金と定期預金は1000万円とその金利までという範囲が限定されている。総合すると、デフレ下においては普通預金が優れた資産運用方法だったのだ。
インフレと定期預金
インフレが予想以上に進んだ場合、定期預金を中途解約して高い金利の定期預金に入り直した方がよい場合もある。例えば、5年ものの金利2%の定期預金を始めた後、インフレが1%から5%に加速したとする。その場合、当初の定期預金を満期まで保有するよりも、2年後時点で3年ものの金利5.5%の定期預金に乗り換えた方が、最終的に預金額が増えるのだ。
2 期間延長特約付き円定期預金
恐ろしいワナを秘めた定期預金
「期間延長特約付き円定期預金」は、インフレが起きた際に銀行が損をしないための商品である。特約は銀行にとって有利なものが付けられているため、途中解約をすると多くの場合は解約費用などがかかるのだ。例えば、満期までインフレ率が1%のままならば、規定の年に銀行は払い戻しをするだろう。しかし、預け入れ後にインフレ率が上昇した際には、銀行は預入期間を延長して満期まで保有しても中途解約しても大損するような商品にしてしまうのだ。つまり、こうした商品には「金利のオプション取引」という将来の金利に対するギャンブルが組み込まれているのである。
中途解約時の悲劇
「中途解約時によって生じる再構築額を差し引く」という記述は、将来の金利動向に関する賭けに負けた分を支払ってもらうということである。一般的な定期預金では、銀行側は預金者の中途解約に伴う損失を押しつけられる可能性があったのに対し、オプション取引を組み込むことで、損失を中途解約者に負担させることができるのである。良心的な銀行はこうした商品を販売しないが、注意して金融広告を見るべきなのは言うまでもない。
最後に
長期の円定期預金はインフレのリスクがある。期間延長特約付き円定期預金にはオプション取引というギャンブルが組み込まれている。中途解約できない長期の定期預金は、ギャンブル性の高い資産運用商品である。
次回は、予想される結果のばらつきと平均的に予想される利益 リスクとリターンの定義についてまとめる。
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