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ジョシュア・プリンス=ラマス 自らを再構築する劇場を建てる

建築家が設計工程を再立案すれば、すばらしい結果をもたらすでしょう」プリンスは語りかける。ここでは、45万ビューを超える Joshua Prince-Ramus のTED講演を訳し、自らを再構築する劇場を建てる過程を紹介する。

要約

ジョシュア・プリンス=ラマスは、建築家が設計工程を再立案すれば、すばらしい結果をもたらすと考えます。ダラスのTEDxSMUでの講演で、地元ワイリーシアターを、ボタン一つで自らを再構築する巨大な”機械劇場”として作り変える過程を紹介します。

Joshua Prince-Ramus is best known as architect of the Seattle Central Library, already being hailed as a masterpiece of contemporary culture. Prince-Ramus was the founding partner of OMA New York—the American affiliate of the Office for Metropolitan Architecture (OMA) in the Netherlands—and served as its Principal until he renamed the firm REX in 2006.

 

1 建築家は装飾にすぎない

今日は媒体としての建築についてお話しします。今こそ 飾りや象徴ではなく 何かを成せる建築の再来の時です。これは二年前の着工式でいただいたヘルメットです。当時 僕と事務所が手掛けたなかで 一番大きなプロジェクトでした。とても嬉しかったです。なにしろ僕だけですから ステージで 銀に輝くヘルメット! 建築家の重要性をよく表している なんて思いました。家に着いても まだ 興奮していました。でも ベッドにヘルメットを放り投げて 寝転がったら気づいたんです― 内側の注意書きに…”これは装飾用につき 保護帽としては使用不可。安全は保証されません” 非常に上手い喩えですね。まさに 建築と建築家の現状を言い当てています。そう僕らは装飾にすぎない のです (笑)これは一体 誰のせいでしょう。もちろん建築家自身のせいです。過去50年間にわたり― 設計と建設業は 一層複雑になりました。訴訟も頻発するようになりました。その上 建築家は臆病者ときています。それで僕ら 責任問題に直面すると どんどん後ずさりしてしまったんです。あいにく 責任の生じるところには 権力が付きまといます。それで 気がつくと僕らは 隅へ隅へと追いやられて こんなところに取り残されてしまった…。

2 建て方を知らなくても設計はできる?

さて どうしたことか? 僕らは臆病者― でも 利口な臆病者ですから この隅っこを 建築の地として 再定義することにしたんです。「建築さん こちらへお越しください。僕らだけの定義で 工程管理をやっていきましょう」 と。その上 建築職に痛ましいことすらやりました。そう 僕らは 創作と建設を 人為的に分裂させてしまったのです。まるで “建て方を知らなくても 設計できる” とか “設計できなくても 施工はできる” とでも言わんばかりに…。他にもあります。僕らは世界に こう触れ込みました― 建築というのは ひとえに優れたスケッチを 描いた人の技能のたまものであるゆえ 建物の完成までの 長年にわたる 並々ならぬ尽力については 特筆に値しないばかりか むしろ 単なる”施工作業”として 片付けておけばいいでしょう と。しかしこれは ばかげた話でしょう。30分の性交が創造的行為で 9ヶ月の妊娠期間と 24時間の出産は 単なる施工作業だなんてとんでもない話です。

 

3 建築家は物を生み出す代わりに、もう一度工程を生み出すべき

では 我々建築家はどうすればいいのでしょう? 創造と建造を 再度つなぎ合わせるのです。建築家は 物を生み出す代わりに もう一度 工程を生み出すべきなのです。そうすれば 僕らは50年前のように 再び 媒体や社会工学を 建築へ吹き込めるはずです。確かに 建築家には 覚えることが山ほどあります。例えば 契約の管理や 契約書の書き方 調達手順を理解しておくことや― 見積もりや 時間としての金銭感覚も必要です。

 

4 主要論点の見極め、見解一致、意匠図の提出

しかしここでは 建築家の作業の第一歩を 衒学的ではありますが 3つの声明にまとめたいと思います。 1.主要論点 の見極め。驚きでしょう?建築家がこんなこと口にするなんて!2.見解一致 建築家としての論拠を示し クライアントと見解を統一する ここより 建築家とクライアントは 共にビジョンを描いたり 業者を選んだりできるのです。両者が一丸となって取り組むことが不可欠です。これを経て 初めて 建築家は 建築的見解を示す3.意匠図 を 提出できるようになります クライアントも建築家も同様に 両者の論拠に基づいて 意匠図を批評する権利があります。この手順を踏めば きっと素晴らしいことが起こります “失われた生産的管理緩和術” です。最終的にどこへ落ち着くか予想できません。でも約束しましょう。十分な頭脳と ほとばしる情熱を持って ひたすら打ち込めば 常識をくつがえす まったく新しい境地へ到達できる と。それは 当初は予想もつかなかった― また単独では思い描けなかった。建築物になっているはずです。

 

5 媒体機能やビジョンを示すこと

では これを簡単な数枚のスケッチに まとめたいと思います。これが今日の手口です。私たちは 36mのスパルタ人(ビジョン)を トロイアの門(クライアント)まで運びますが 通してもらえず頭を悩ましている…ですよね? こうしてみてはどうでしょう。トロイア勢の欲しがる物を持っていくんです。少々危険な例えではあります。なぜなら 周知の通り トロイアの木馬には 槍を持った兵士が潜んでいるからです。じゃあ例えを変えて トロイアの木馬を あなたが 門(プロジェクトの制約)を くぐりぬけるのに使う 大きな乗り物だと見立てましょう。この段階で あなたとクライアントは 乗り物に何を積むか 考え始められます。つまり 媒体機能やビジョンです。あなたが責任を持って これをやり遂げれば スパルタ兵の代わりに 美しい乙女を届けられるはずです。これを一枚のスケッチにまとめると こうなります。僕らが 本当に技能に長けているなら プロジェクトやクライアントの制約を 難なく切り抜けられる 意匠図を作成することが できるはずですよね? それを念頭に置いた上で 今から ご来場の皆さんにとって大切な― あるいは 身近なプロジェクトをご覧に入れましょう。まさに来週オープンする ダラス劇場センターの新たな拠点 ディー&チャールズ・ワイリー・シアターです。

 

6 ダラス劇場センターが非常に高い知名度を誇っている理由

先ほどと同じ用語でご紹介します。論点 見解 意匠図 でしたね。最初に向き合った論点は ダラス劇場センターが 非常に高い知名度を誇っている点でした。普通これほどの知名度は 三大劇場都市 ニューヨーク シカゴ シアトル以外では考えられません。熱意やリーダーシップはさることながら 一風変わった要因もあったのです― 実は このひどい小劇場 それ自体でした。どうしてこんなひどい小劇場が 名声や革新の要因となっているのでしょうか? それは 劇場に好き放題できたからです。ブロードウェイのプロセニアムなんか とても壊せません。しかしこの建物はときたら 芸術監督が 「桜の園」を上演するときに ステージ上で井戸から人を登場させたければ 単純に ショベルカーで穴を掘るまでです。なるほど 面白いですね。一流の芸術監督 舞台監督 役者達が 他では到底出来ないことを ここでやるために 全国から集まっていたんです。

 

7 労働力さえあれば色々な様式に対応できた

そこでまず 次の見解を示しました。”よもや建築家がやってきてー ピカピカの劇場を建ててしまい おんぼろ劇場のもたらしていた自由を 奪い去るようなことがあってはならない”。次の論点は 一つ目とかぶりますが これが多様式の劇場であるという点でした。つまり 労働力さえあれば 色々な様式に対応できたのです。プロセニアム 張り出し舞台 平舞台 アリーナ トラバース なんでもこいです 労働力さえあれば 対応可能でした。しかしそうは言ってられなくなりました。ここに限らず 世界各地の劇場に 通じて言えることですが 運用費や予算の調達が 困難になりました。安価な労働力も 手放さねばならず 結果として 組織を凍結せざるを得なくなり 劇場は 低品質の”張り出セニアム”に成り下がりました。

 

8 家の表と裏を引きはがし、上と下に組み換えた

よって 我々は二つ目の見解を打ち出しました。運用費に影響されずに 自在に舞台を構築できるような 劇場を建てること。いいですか?低予算運営です。これが出来上がった意匠図ですが 率直に言って 少々間抜けです… 家の表と裏を引きはがし 上と下に組み換えたのです。一目見て “おいおい ばかげているよ 一体何になるんだ?” と思うでしょう。私達はスーパーフライなるものを生み出しました (= 超イカす) スーパーフライとは 舞台機構(フライタワー)の自由度を 劇場全体に適応するコンセプトです。たちどころに芸術監督は 様々な舞台・観客席形態を 編みだせるようになります。劇場内の各部が昇降可能なので 残りの環境は暫定的なものになります。切ったり開けたり 打ったり留めたり 塗り替えたり 取り換えたりが 低費用で できるようになるのです。

 

9 2/3を基礎構造、1/3を建築物に再分配した結果生まれたもの

予想外にも 三つ目の利点が 浮かび上がりました。思いがけず 劇場周辺に 自由に使えるスペースが出現したのです。芸術監督はこのスペースを活用して 観客を 虚構の世界に引き込めるのです。つまりこの浮遊物体の底辺で ありとあらゆる活動を 自由に考え出せるようになりました。それだけでなく 例えば「マクベス」の最終幕で 今いるダラスや実生活を思い起こさせる― 舞台空間作りにより 寓話の中の 虚構世界と 現実世界が融合するよう 仕掛けられるのです。実現のためには 僕らとクライアントは 大胆に出なければなりませんでした。実際は クライアントのお陰です。クライアントは 私達の見解を受けて もともと予算の 2/3が建築物― 1/3が基礎構造 という割り当てを 逆にする必要に迫られ 2/3を基礎構造 1/3を建築物に再分配しました。クライアントにとって 完成を目にする前に この決断をするのは 並大抵ではありません。しかし 僕らの見解を基に “これなら!”と 清水の舞台から飛び降りてくれました。その甲斐あって完成したのが 機械劇場なるものです。

 

10 観客の頭から今いる建物を忘れさせることが重要

この機械劇場は とても優秀で 一連の舞台構築が ステージにいる数人と ボタンひとつで ほんの短時間で できてしまいます。また 多様な舞台様式だけでなく 複数様式の同時進行も可能なのです。つまり 芸術監督は 必ずしもロビーから入らなくてもいいのです。様々な劇場に足を運んでみて分かったのですが 彼らは建築家が嫌いなんです。彼らいわく 上演開始から最初の5分は 必ずやることがあって それは 観客の頭から 今いる建物を 忘れさせることだそうです。ところがこの劇場は 芸術監督の一存で 観客を直接客席へと 招き入れることもできます。建物には 一般的な”招きの形式”があります― この建物で言えば ロビーへ入り 好き嫌いに関わらず このブラブラしてるやつを通り過ぎ 階段から客席へ向かう というものです。

 

11 建築家自身で自らの主導権を奪い、芸術監督の手に渡した

または 建物外から直接 迎え入れることもできます。ここでは ワーグナー的な入場を意識して 直接 観客席へ招き入れています。こういう感じです。劇場には 大きな回転扉が二つあり 観客も俳優も同様に 外から中へ また中から外へ 移動することができます。これは何を意味するのでしょう。正直なところ 時間的制約から まだ実現には至っていませんが もしこれを一歩進めることができれば 色々なことが自由にできるようになります― ワーグナー的入場に始まり 張り出し舞台での第一幕 ギリシャ式の幕あい、アリーナでの第二幕 ブラブラのある ロビーを抜けて退場! 私に言わせれば 建物の演技 です。言ってみれば 建築家自身で 自らの手中にあった主導権を奪い 芸術監督の手に渡したということです。

 

12 3つの基本的な形態

今から基本的な形態を 三つご紹介します。これが平舞台です。プロセニアム・アーチは無く バルコニーは吊り上げられ 座席もありません。客席の床は平らです。一つ目は分かりやすかったですね。二つ目の形態です。バルコニーが降りてきます。一階席が傾斜していますよね?そっち側が正面です。そして座席が入ります。三つ目は 少々分かりにくいかと思います。ご覧のとおり 張り出し舞台を出せるように バルコニーが取り払われます。またそれに併せて 一部 座席の方向と傾斜を 変えてやらなければいけません。

 

13 「ベータテストだけはしてくれるな」

もう一度ご覧に入れます。プロセニアム用のサイドバルコニーです。そして これが張り出し舞台の状態です。これを可能にしたのは クライアントの 教育的支出もいとわぬ覚悟でした。1つ 重要な要請を受けました。”ベータテストだけはしてくれるな“と。つまり 他で検証されていないことは やらないでくれということでした。しかし検証済みの 絶対確実な技術なら この劇場に適用していいとのことでした。それで バルコニーに関する解決策として スコアボードの昇降技術を採用しました。スコアボードを 土や ウィスキーの上に 落とすようなことがあっては たいへんですよね。スコアボードをアリーナから出せず 次の晩 アイスショーができなくても これまた困ります。既に安全実証済みの この技術なら 自由自在に舞台形態を変更できるはずだと 劇場もクライアントも 自信を持って採用に踏み切れました。

 

14 傾斜や一階席からの鑑賞角度を自在に操れる

この劇場に応用した2つ目は オペラハウスの舞台袖で 使用されている技術でした。その技術を応用して 一階席の床を 持ち上げ 回転させ 傾斜を変え 平舞台にし 再び傾斜をつけたりしています。要するに 傾斜や一階席からの鑑賞角度を 自在に操れるようになったわけです。座席が回転し プロセニアムや エンドステージから 張り出し舞台になる様子が分かると思います。私達の知る限りこれが世界で初めて プロセニアム・アーチを完全に空間から排除できる建物です。客席上方には 様々な音響バッフル― 吊り物や キャットウォーク(通路)が見えますね。そして フライタワー内には 各場面を作る 舞台セットがあります。

 

15 劇場周辺とダラスがたちどころに絡み合うようになった

申しました通り これらが柔軟かつ手頃な 形態設定を可能にします。もう一つ 利点が現れました― 劇場周辺とダラスが たちどころに絡み合うようになったのです。日よけが閉じている状態です。まるでだまし絵です。実は カーテンではなく ビニル製ブラインドで― 窓自体に組み込まれています。これもまた 安全検証済みの装置です。ブラインドは引き上げられるので 裏方の作業やリハーサルを あえて見せることも可能です。また同時に 観客に ダラスの街を見せたり 背景幕として使えたりします。

 

16 一番説得力があったのはスライドが物語る可能性

では 見ていきましょう― まず初期のコンセプトスケッチです― 今までお話した全てを統合すると こういうものになるのかと思います。役者や小道具 大道具を 直接搬入できます。「アイーダ」では象を入れることができます。場内の様子を ダラスの街にさらしたり 逆に ダラスの街を 観客の目にさらせます。一部を開け放つことにより 進行に変化をつけたり 幕あいや上演前 または 終演後の入退場が可能です。そして バルコニーは動かせるだけでなく 完全に視界から消すこともできます。プロセニアム・アーチは吊り上げられ 大きな物体も 直に運び込めます。ですが予算の見直しにこぎつけるのに 一番説得力があったのは このスライドが物語る可能性でした。もちろん建物の柔軟性は これに限りませんが 少なくとも雰囲気は伝わるかと思います。

17 イベント会場としてレンタルできる平舞台に作り変えられる

この建物は 迅速に イベント会場としてレンタルできる 平舞台に作り変えることができます。もしアメリカン航空の関係者がいらっしゃいましたら どうか ここでクリスマスパーティを開催して下さい (笑) ここをイベント会場として貸し出せれば もっと大きな会場と 運用費をめぐって 張り合わなくても良くなるのです。この恩恵は計り知れません。そういうわけで 劇団は 外界の影響を受けず― 光も音も思いのままに すばらしい音響で― 親密なシェークスピアをやれます 同時に ベケットを ダラスの地平線を背景に 上演も可能です。平舞台として設定したのがこれです。今は試運転の最中です。

 

18 たった2人の労力で短時間で作業できる

これがエンドステージの設定です。美しいですね。ロックバンドが来ています。外から音響をチェックしてみました。こんな演奏は見えても 音は聞こえません。なかなか不思議な感じでした。そして張り出し舞台の設定です。最後に 肝心の 催し物会場としての設定です。運用予算を調達し 会社の一番の悩みを克服します。これはまさに建物の成せる業です。手短に作業経過をご覧に入れましょう。申しました通り たった二人の労力で 短時間でできてしまいます。これは 初めて試運転した時だったので みんな興奮して参加したがって 文字通り 何千人もの人々で溢れかえっています。ですから 動き回るアリの大群は無視して 実際には数人で足りることを頭において観てください。繰り返しますが 数人だけでできるんですよ (笑) 本当ですよ そして 出来上がり! (拍手)

 

19 単独では思い描けなかった意匠図

まとめとして 数枚のスライドをご覧に入れます。AT&Tパフォーミングアートセンターの ディー&チャールズ・ワイリー・シアターです。これが夜の様子です。そしてAT&Tパフォーミングアートセンターの全貌です。右手に ウィンズピア・オペラハウス 左手に ディー&チャールズ・ワイリー・シアターです。思い出して頂きたいのは これが 何かを成した建築物の実例です。僕らは おぼろげにも 会社とクライアントが直面していた 一連の問題を手がかりに ここへ たどり着きました。皆で見解を統一し それを基に 建築的見解を打ち立て 当初は予想もつかなかった― また単独では思い描けなかった 意匠図へと たどり着いたのです。ご清聴 ありがとうございました (拍手)

最後に

建築家は物を生み出す代わりに、もう一度工程を生み出すべき。主要論点の見極め、見解一致、意匠図の提出が必要。建築家自身で自らの主導権を奪い、芸術監督の手に渡した機械劇場。一番説得力があったのはスライドが物語る可能性。単独では思い描けなかった意匠図。劇場の主導権を芸術監督の手に委ねよう

和訳してくださった Caoli Price 氏、レビューしてくださった Tsuyoshi Orihashi 氏に感謝する(2009年10月)。

音楽ホール・劇場・映画館 (建築計画・設計シリーズ)


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