前回は、金利変動は国内総生産や物価に影響を及ぼす 金融と景気と物価についてまとめた。ここでは、マネーサプライの安定化が景気を安定させる 金融政策とマクロ経済について解説する。
1 金融政策の目的と手段
金融政策の目的
マクロ経済に関する金融政策の目的は、①物価水準の安定、②適切な雇用水準の維持、③適正な経済成長の維持、④為替レートの安定化などが挙げられる。しかし、中央銀行は金融政策によって、これらの複数の政策目標のすべてを必ずしも同時に達成させることはできない。これを、物価と雇用、または経済成長との間にはトレードオフの関係があるという。
日本の金融政策の手段
日本銀行が用いている金融政策の手段は、①日本銀行貸出、②債券・手形オペレーション、および③準備率操作である。
ハイパワード・マネー
ハイパワードマネーとは、日銀当座預金と現金の合計のことである。ハイパワードマネーはマネタリーベースとかベースマネーとも呼ばれる。
2 金融政策と金利と為替レート
金融政策の波及メカニズム
金融政策の第一の波及経路は、金利を媒介とするものである。マネーサプライの増加は、期待インフレ率に大きな変化がない限り、名目の長短金利の低下を引き起こすからである。第二の経路は、資産効果を通ずるものである。名目金利の低下によって株価や地価が上昇し、資産価格の上昇から民間消費が増加する。第三の経路は、資金の利用可能性の変化を通ずるものである。名目金利の低下によって地価が上昇した場合、土地の担保価値を高めることから銀行貸出を増加させる効果を持つ。
日銀信用とコール・手形レート
金融政策は、まず銀行の日銀当座預金を変化させる。これによって、銀行間での資金の貸借取引の金利であるコール・手形レートに変化を及ぼすことが推測される。
短期金利と裁定取引
コール・手形レートの低下は、オープン・マネーマーケットで取引されるCD(譲渡性定期預金)やCP(コマーシャル・ペーパー)や債券現先などの名目金利をも低下させる。金利の裁定取引によって、短期金融市場の金利は全て低下するからである。
短期銀行貸出金利の変化
コール・手形レートが低下すれば、銀行はコール・手形市場で調達費用が低下した日銀当座預金を調達して、それを所要準備としつつ、非銀行部門へ貸出等を通じて派生預金をより多く供給しようとする。こうして、銀行の短期貸出が増えれば、短期貸出金利が低下するのだ。
長期金利の変化
短期の名目金利が低下するときにインフレ期待に変化がなければ、短期実質金利が低下して在庫投資が促される。長期金利も将来の短期金利の予想に変化がなければ低下する。
金融政策と為替レート
円高ドル安が定着すると日本の輸出は有利になり、輸入は不利になる。そのため、日本の輸出産業と日本国内で輸入材と競争している輸入競争産業とは、ともに生産を拡大しようとする。その結果、GDPと雇用が増大し、景気が拡大する。あるいは、生産能力に限界がある場合にはインフレが起きる。
金融政策の効果を決める要因
不況対策としての金融政策の有効性は、①期待実質利子率がどれだけ下がるか、②期待実質利子率の低下によって民間総投資や消費がどれだけ増加するか、という2つの点に大きく依存している。
平成不況下の利子率と設備投資
90年代初めの平成不況において設備投資が回復しなかった理由は、以下の5点が考えられる。それは、過剰な設備を抱えていた、デフレ圧力が働いた、地価低下による土地担保融資の減少、海外投資への置き換え、銀行の貸出抑制である。
3 金融政策とマネーサプライ
中間目標としての金利重視の問題点
名目金利は高くても、期待インフレ率が高い場合には、前者から後者を差し引いた期待実質金利は上昇していない。これが中間目標として金利を重視することの問題点である。
マネーサプライ重視への転換
広義のマネーサプライとは「M2+CD」で表され、現金通貨と預金通貨(M1)+定期性預金+譲渡性定期預金のことである。これが変化した後、しばらく経ってGDPや物価が変化するという関係が見られた。このとき、「M2+CD」には先行性があるという。
マネーサプライ安定化の意義
マネーサプライ安定化の意義は、景気を安定化させることである。経済が総需要の変動によって変動するときには、マネーサプライを一定に保ちつつ、名目金利と期待実質金利が市場で自由に変動するに任せておくと、自然に総需要の大きな変動を抑制することができ、それによって景気の振り幅を小さくすることが可能になる。
バブル経済とマネーサプライの変動
バブル経済時には、マネーサプライの増加率が二桁台に上昇していた。日本経済の安定的な成長のために適正と考えられるマネーサプライは7%程度と考えられるので、そのことがバブル崩壊を招いた一因とされている。この時期にもかかわらず、しばらく物価が安定していた理由は、継続的な円高によって輸入物価が低下し続けたことと、株価や地価の暴騰に基づいて貨幣需要が資産効果から大きく増大したことが挙げられる。平常時には、マネーサプライの大きな変動を許すような金融政策は採用するべきではない。
最後に
金融政策の目的は、①物価水準の安定、②適切な雇用水準の維持、③適正な経済成長の維持、④為替レートの安定化など。金融政策の波及経路は、金利、資産効果、資金の利用可能性の変化から生じる。広義のマネーサプライの安定化が、景気の安定化をもたらす。期待インフレ率を知るために、物価連動国債(BEI)を活用しよう。
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