「家電製品のレーザーを使って、蚊を撃ち落とすのはどうでしょう?」ネイサンは明るく提案する。ここでは、45万ビューを超える Nathan Myhrvold のTED講演を訳し、マラリア問題を解決する新装置のライブデモを紹介する。
要約
ネイサン・ミアボルドのチームによる見事で大胆な最新の発明品は、マラリアのような大きな問題に取り組むために世界は奔放なクリエイティビティを必要としていることを再認識させます。そしてアイデアが染み入るやいなや、彼は蚊を退治する新装置のライブデモを披露します。実際に見るまではきっと信じられないことでしょう。
Nathan Myhrvold is a professional jack-of-all-trades. After leaving Microsoft in 1999, he’s been a world barbecue champion, a wildlife photographer, a chef, a contributor to SETI, and a volcano explorer.
1 楽しみと収益のために発明をしている
私たちは発明をしています。私の会社は 様々な領域で 多様な新技術を発明しています。そうしているのには 2つの理由があります。私たちは楽しみで発明をしています。発明というのはとても楽しいものなのです。そしてまた 発明は収益のためでもあります。この2つは関連しています。収益が得られるまでには長くかかるため 楽しくないと続かないのです。だから私たちのする多くのことは 楽しみと収益のための 発明なのですが 人道的目的の発明をするプログラムも行っており 最高の発明家たちが取り組んでいます。そして世界が抱える問題に対し うまい解決のアイデアを出せないかと考えています。私たちが問題を解こうとするときには 劇的で クレージーで 型破りなソリューションを探します。そういう問題に取り組んでいる 最も聡明な人間に ビル ゲイツがいます。彼は私たちの仕事にも投資しており 感謝しています。それでは 私たちが抱える問題の いくつかを簡単にご説明し 開発中のソリューションを 2つばかりご覧いただこうと思います。
2 子どもたちが予防接種を受けられずにいる
予防接種というのは公衆衛生における 重要な技術であり 素晴しいものですが 発展途上国では ワクチンの多くが 使われる前に駄目になっています。ワクチンは冷却しておく必要があるためです。ほとんどのワクチンは冷蔵する必要があります。冷やさなければ短時間で駄目になります。でもこれは安定した電力網がないと難しい話であり 結果として子どもたちが死んでいます。ワクチンが無駄になるだけの話ではありません。子どもたちが予防接種を受けられずにいるのです。ワクチンはこの様にして 運ばれています。発泡スチロールの箱を使っています。それを人が担いだり トラックに乗せたりして運びます。私たちは別な方法を考えました。あの発泡スチロールの箱は 氷を入れて4時間ほど 低温に保つことができます。
3 電気なしで6ヶ月間持つワクチン輸送法の開発
しかしそれでは十分ではないと思いました それで作ったのがこれです。これは電気なしで6ヶ月間持ちます。失うのは0.5ワット未満なので 電気は全く 必要ありません。これは第2世代のプロトタイプです。現在第3世代のプロトタイプを ウガンダで試験しています。これの実現には2つの鍵となる アイデアがありました。液体窒素や液体ヘリウム保存用の 低温保持装置のような 非常に高い断熱性を 持たせるというのが1つ。もう1つのアイデアは ちょっと面白いんですが 中に触れることができないようにすることです。ふたを開けて中に触れられるようになっていたら 熱が入り込んで ゲームオーバーになってしまいます。だからこれの側面はコーラの自動販売機のようになっていて そこから個々の小瓶が出てきます。このシンプルなアイデアが アフリカやその他の地域でのワクチンの輸送法を 変えることを願っています。
4 年に2億5千万人がマラリアにかかり、43秒に1人の子どもがアフリカで死んでいる
マラリアに話を進めましょう。マラリアは公衆衛生上の大きな問題の1つです。エスター デュフロが話していましたね。年に2億5千万人がマラリアにかかり 43秒に1人の子どもがアフリカで死んでいます。私が話している間にも27人が死ぬことになります。それが当事者にとってどういうものなのか ここにいる私たちが本当に把握するすべはありません。エスターが言っていたもう1つのことは ハイチのような悲劇があると 私たちは反応しますが マラリアの悲劇はずっと継続していることです。私たちにいったい何ができるのでしょう? マラリアの問題に対処するため 長年に渡って様々なことが行われてきました。消毒薬を散布できますが 環境問題が生じます。治療し 啓蒙しようとすることもできます。素晴らしいことですが マラリアが本当に酷い地域には 医療制度がないのです。ワクチンは素晴しいものですが まだ有効なものがありません。長年研究が続けられ 2つほど興味深い候補が出ていますが マラリアに対するワクチンを作るのは非常に難しいのです。蚊帳を配布することもできます。蚊帳はとても効果がありますが 蚊帳として使われずに 魚捕りに使われたりします。みんなに行き渡るわけでもありません。蚊帳はマラリアの蔓延抑止には 効果がありますが 蚊帳でマラリアを根絶することはできません。
5 より良い診断と自動的な診断が必要
マラリアは 非常に複雑な病気です。何時間でも話ができるくらい メロドラマのような生き方をしています。関係を持って 肝臓に潜り込み 血球に侵入します。すごく複雑な病気ですが 私たちは実際そこに関心を持ち 取り組むことにしたのです。可能性がある方法は たくさんあります。1つの方法は より良い診断をすることです。これらの装置のプロトタイプを 今年中に作りたいと思っています。1つは糖尿病の糖度計のように 自動的にマラリアの診断をするものです。血を一滴取り 中に入れてやると 自動的に答えが出ます。現在では込み入った実験手順を踏んで たくさんの顕微鏡スライドを作り 訓練された人間が見る必要があります。
6 白目や爪の血管を見れば直に確認できる
血を採らずに済めば さらにいいでしょう。目を通して 白目の血管を見ることで 血を採らずに 直に確認できるかもしれません。あるいは爪床でも可能でしょう。爪を通して血管を見ることができます。血管が見えれば マラリアも見ることができるはずです。見れば分かるのは ヘモゾインという分子のためです。これはマラリアの寄生によって生成されます。とても面白い結晶構造を持つ物質で 固体物理学者にはとても興味深いものです。これを使ってできることがたくさんあるんです。
7 フェムトセカンドレーザーでヘモゾインを見つけられる
これは私たちのフェムトセカンドレーザー実験室です。フェムト秒の長さの 光のパルスを作ります。実に実に短いものです。光の波長1つ分くらいの長さの 光のパルスです。ひとまとまりの光子が 同時にやってきてぶつかるわけです。非常に高いピーク出力があります。これでいろんなすごいことができますが とくにヘモゾインを見つけるのに使えます。これは赤血球の画像です。赤血球の中の どこにヘモゾインがあり どこにマラリアが寄生しているのか 映し出すことができます。このテクニックと その他の光学的テクニックを使えば 診断ができると思います。他にもヘモゾインを利用した マラリア治療法があります。緊急の場合に 血液からマラリア原虫を濾過して取り除くという 一種の透析のようなもので 寄生生物の毒性を緩和します。
8 1000コアのスーパーコンピュータで効果測定する
これは1000コアのスーパーコンピュータです。私たちはソフトウェア屋で どんな問題に対しても 何らかのソフトウェアで解こうとします。マラリアを根絶したり 減らそうとする上で 問題になるのは 何が最も効果的か分からないことです。蚊帳という話が出てきました 蚊帳をどれくらい使えば良いのでしょう。あるいは薬剤の散布 薬の処方 みんな異なった対処法であり 異なった効果があります。どうすれば分かるのでしょう? それで私たちはスーパーコンピュータを使って 世界最高のマラリアのモデルを作りました それをご覧いただきましょう。
9 経済的・社会的なトレードオフをシミュレーションする
選んだのはマダガスカルです。全ての道 全ての村 ほとんど平方インチ単位のマダガスカルの情報がここにあります。降雨データがあり 気温データがあります。これはとても重要で 湿度や降雨量から 蚊が産卵する 水たまりがあるか判断できます。これで舞台が整いました。それから蚊を導入します。蚊がどのように発生するかの モデルを用意します。最終的に得られるのがこれ マダガスカルに広がる マラリアの状況です。雨期の後半です。乾期に入りました。乾期にはほとんどなくなります。蚊が産卵できる場所がなくなるためです。それから翌年また盛り返します。このようなシミュレーションをすることで 実際に対策を行う前に ソフトウェアの中で何千回も マラリアの根絶や制御を行い 経済的なトレードオフを検討します。蚊帳はどれだけで 散布はどれだけやるか それに社会的なトレードオフも 社会不安が起きるとどうなるか というような。
10 蚊を飛ばなくさせる研究成果の1つがDDT
私たちは敵のことも研究しています。これは蚊の 高速度カメラ映像です。この後に 空気の流れが出ます。蚊の羽の周りの空気の流れを レーザーで発光させた微粒子によって 可視化しています。蚊がどうやって飛んでいるか知ることで どうすれば飛ばなくできるかを知りたいのです。飛ばなくさせる1つの方法は DDT(Dichloro-diphenyl-trichloroethane:有機塩素系の殺虫剤、農薬)です。これは本物の広告です。作り物ではありません。昔はこれが主要な手段で 実際多くの国で マラリアはDDTにより根絶されました。アメリカは1935年に行いました。アメリカでは年に15万の マラリア患者が出ていましたが DDTと大々的な公衆衛生改善の努力により 撲滅しました。
11 家電製品のレーザーを使って駆除するのはどう?
だから対処すべきことのうち マラリア原虫については できることをすべてしました。では蚊に対しては何ができるでしょうか? 家電製品を使って駆除するというのはどうでしょう? 馬鹿げたことに聞こえるかもしれませんが これらの装置には 利用可能な面白いものがいろいろ入っています。ブルーレイプレーヤーには とても安価なブルーレーザー装置が入っています。レーザープリンタには レーザービームを 非常に正確に制御するために使われる検流計が入っています。それによって紙の上に小さな点を描くわけです。そしてもちろん信号処理 デジタルカメラなんかがあります。これらを一緒にして 飛んでいる蚊をレーザーで撃ち落とすのはどうでしょう?(笑)(拍手)。私たちの会社では これを 小指しゃぶりの瞬間と呼んでいます(笑)
12 診断所や自宅の裏庭、農家を守れる
できたらどうなるのでしょう? 疑いはいったん置いておき それができたらどんなことが起きるか 考えてみましょう。診療所のような 価値の高い場所を守ることができます。診療所にはマラリア患者がたくさんいます。彼らは病気で 蚊から自分を守る力がありません。彼らを守りたいと思うでしょう。もちろん 自宅の裏庭を守ることもできます。自然食品会社に売る作物を 農家は守れます。私たちの使う光子は 100%オーガニックですからね 全く自然のものです。
13 蚊が血を吸うのは卵を産むため
実際 これはもっと改善できます。うまくすれば 虫を殺す前に 殺傷力のないレーザーを当てて 羽音の周波数を聞き取り 大きさを計測することができます。そしてそれが退治したい虫か そうでないかを 判断できます。ムーアの法則は 計算のコストを安価にし 個々の虫の命の重さを測って やるかやらないか 判断できるまでになったのです。殺すのはメスの蚊だけです。危険なのはメスなんです。蚊が血を吸うのは 卵を産むためで 日常生活の栄養は 花の蜜から取っています。実際私たちの実験室では干しブドウをエサにしています。しかしメスは血を必要とします。すごくクレージーな話に聞こえますよね? ご覧になりたいですか?(会場 イェーイ)
14 殺傷力のないレーザーを使ったデモ
いいでしょう うちの法務部が作った注意書きをお見せします。これです (すごく恐いレーザー ― 残っている目でビームをのぞき込まないで) (笑) このデモについて少し考えて 殺傷力のないレーザーを使ったほうが 分かりやすいだろうと思いました。エリック ヨハンソンが実際に この装置をeBayで買った部品で作りました。そして向こうにいるパブロス ホールマンが 水槽に蚊を集めています。こちらに装置があります。これからお見せするのは 瞬間的なパルスの 殺傷レーザーではなく 緑色のレーザーポインタです。蚊に長い間当て続けることができます。そうしないと見ても分からないでしょう じゃあエリック 頼むよ。
15 低出力のレーザーで、羽音の周波数を捉えることができる
ステージの反対側に 水槽があります。このコンピュータ画面で 飛び回っている蚊を確認することができます。パブロスがもう少しかき回してくれたら 飛び回っているのがわかるはずです。これはごく単純な画像処理ルーチンです。仕組みをご説明します。飛び回っている蚊を 追尾しています。ちょっと面白いでしょ。次にレーザーを実際に蚊に当ててみましょう。低出力のレーザーです。羽音の周波数を捉えることができます。飛び回っている蚊の羽音をお聞きいただけるかと思います。今鳴っているのが蚊の羽音です。
16 コスト効率を上げるために熱心に取り組んでいる
最後に どんな具合になっているかよく見てみましょう。飛び回っている蚊が照らされています。何が起きているのか分かるように スロー再生しています。高速モードで撮っていました。このシステムはTEDで このようなものが実現可能なことを示すために作ったものです。そしてアフリカのような地域で使えるようにするため どうすればコスト効率を上げられるか熱心に取り組んでいるところです(拍手)
17 羽根の筋肉は非常に弾力があり、落下しながらも動き続ける
本番のレーザーが蚊に当たったときに どうなるかを見なきゃつまりませんよね (笑) (拍手) 満足の瞬間です (笑) この映像は最初にやったときのです。エネルギーが少し強すぎですね (笑) もう1つの映像を ループ再生させて… 面白いのは 何度撃ち落しても 空中で羽が止まったことはないということです。羽の筋肉は非常に弾力があるのです。羽を吹き飛ばしても 落下しながら羽の筋肉は動き続けています。以上です。どうもありがとうございました(拍手)
最後に
発明は世界が抱える問題を解決できる。危険なのはメスの蚊だけ。既存の技術を使って、メスの蚊だけを飛ばなくさせればいい。問題を元から断つ。
TED公式和訳をしてくださった Yasushi Aoki 氏、レビューしてくださった Takako Sato 氏に感謝する(2010年5月)。
![]() |