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スティーブン・シュバイツバーグ 「外科医のための万能翻訳機」

「手術教育の普及と言葉の壁の克服を目指して、ビデオ会議技術に字幕と翻訳の機能をつけました」シュバイツバーグは語りかける。ここでは、30万ビューを超える Steven Schwaitzberg のTED講演を訳し、低侵襲医療における問題解決手段を学ぶ。

要約

腹腔鏡手術は切開をできるだけ小さくする 低侵襲医療の一例です。患者さんの痛みが小さく、回復も早いのが特徴です。しかし、これらの技術を世界に広めるためには問題が2つあります。言語と距離です。ビデオ会議と多言語翻訳機を組み合わせて使い、スティーブン・シュバイツバーグ氏はこの問題にテクノロジーをもって立ち向かいます。(TEDxBeacon Street にて収録)

Dr. Steven Schwaitzberg is on a mission to teach surgeons around the world to perform minimally invasive surgery. But first, he’s had to find the right technology to allow communication across the language barrier.

 

1 手術教育の難しさと言葉の壁の関係

今日は2つの事について お話しします。1つ目は 手術の知識や技術を教える事は とても難しいということ。そして2つ目は 言葉の違いが いかに世界の人々の 壁となっているかという事です。私の専門とする領域では この2つの問題が関わり合っているのです。この関わり合いを説明します。

 

2 手術における多言語翻訳機を探すに至った

さて 手術を好む人なんていません。手術を受けた事がある方はいらっしゃいますか? 望んで受けましたか? 望んで受けた方は手を挙げたままにして下さい_ いませんね。特にいやなのは 体に大きな穴をあけてこんな道具を使う手術です。激痛を伴い 長期 欠勤や欠席を余儀なくされ 大きな傷が残ります。どうしても手術を避けれない状況なら 傷を最小限に抑えた低侵襲手術 がいいですよね。今晩お話し したいのは この種の手術を行い その技法を教える過程で 多言語翻訳機を 探す事に至った経緯です。

 

3 低侵襲手術とは難しいもの

低侵襲手術とは難しいものです。最初に患者さんを眠らせます。そしてお腹に炭酸ガスを入れ 風船のように膨らませます。先が尖った道具を お腹の中に挿入します。このように 危ない物です。この先に付いたカメラでモニタリング出来るようにします。このようになります。これは胆のうの手術です。この手術はアメリカだけでも年間に100万件ほど行われます。これは実映像です。血は出ていませんね。手術をするチームの緊張した様子 どれだけ集中力を要するものか 表情からも伺えます。教えるのはとても難しいし習うのも簡単ではありません。おそらくアメリカ国内で500万件 世界中では おそらく2000万回ぐらい行われています。

 

4 外科医は少しずつ訓練されるもの

こういう事を聞いた事はありますよね 「彼は生まれつきの外科医だ」。ですが外科医は産み落とされるものではありません。造られたわけでもありません。外科医を培養するこんなタンクなんて ないんです。外科医は少しずつ訓練されるものです。まずは基盤 つまり基礎技術を学ぶ所から始まります。そして手術室にまで連れて行けるようにします。そこで まず助手として使い 外科手術を見せながら教えます。そして5年間程 このように訓練されると 待ちに待った 免許が与えられるのです。手術を受けるなら きちんと免許を持つ 外科医にやってもらいたいですよね。免許を持つと 自分で手術が行えるようになり うまく行けば 難しい手術もこなせるようになるのです。

 

5 低侵襲手術を行う外科医は全員 FLSの資格を収得すべき

基盤はとても大事です。そこで 我々は 米国最大の外科学会であるSAGESの医師達で 1990年に訓練プログラムをスタートしました。低侵襲手術を行うすべての外科医が しっかりした基礎知識と技術を身につけ 現場で手術ができるようにするものです。このプログラムの効果は科学的に立証され 米国医学会は外科専門医の免許を取るために このプログラムの履修を義務付けました。講義や 単なる講座だけではなく それらプラス 資格試験です。難しいものです。昨年のことですが パートナーの米国外科学会と共同で 低侵襲手術を行う外科医は全員 FLS (基礎腹腔鏡手術) の資格を収得すべきであると 声明を発表しました。

 

6 普及における問題の1つが「距離」

アメリカとカナダだけではなく 世界中の外科医「全員」が対象です。この教育とトレーニングを世界レベルで引き上げるのは とても大変なことです。世界様々な国を訪れとても素晴らしい事だと実感しています。SAGESは世界中で手術を行い外科医の教育をしています。しかし ここで問題になるのがまずその1つが「距離」です。どこにでも行けるわけではありませんので 世界を縮める必要があります。そのためのツールを開発できると思います。私が特に気に入っているツールはビデオです。

 

7 リアルタイムビデオを使って手術を教える事ができる

その可能性を見せてくれたのが トロントに住む友人のアラン・オクライネックです。彼が証明したのは リアルタイムビデオを使って 手術を教える事ができるという事です。これがアランです。英語を話すアフリカの外科医に 低侵襲手術を行うための 基礎技術を教えています。素晴らしいですね。しかし この非常に難しい資格試験を行うには 1つ問題があります。英語を一応話せるという生徒でも 合格率は14%です。彼らにとっては 手術の知識ではなく 英語のテストなのですから。

 

8 言葉が通じない人と話し、治療をするのは予想以上に大変

身近な場所でも 問題があります。私の勤務するケンブリッジ病院は ハーバード大医学部の付属病院ですが 63ヶ国語に対応できる様100人の通訳と提携しています。こんな規模の病院ですら 膨大な費用がかかります。とても人手のかかる仕事です。世界レベルで考えれば 患者さんと話すだけ– 外科医の教育抜きでただ患者さんと話すだけでも 通訳が何人いても足りません。この需要を満たすためには技術の力が必要になります。私たちの病院にはハーバードの教授から 先週 この国に来たばかりの人まで様々な患者が訪れます。言葉が通じない人と話し治療をするのは 予想以上に大変なんです。通訳の都合がつかない場合もあります。

 

9 だから多言語翻訳機が必要

ですから 何かツールが必要です。多言語翻訳機が必要です。ここで お話している事は 「こうあるべきだ」という一方的な意見ではありません。これから「何ができるか」皆さんで考えて欲しいのです。まだまだ学ぶ事が沢山あります。アメリカでは患者一人当たりの医療費が他国に比べ高いわりに 医療効果が優るとは限りません。他の国のやり方から学ぶ事もありそうです。

 

10 「学びたいが母国語でないと難しい」

私は基礎腹腔鏡手術 (FLS) の技術を世界に広めたいと強く思っています。昨年は南米と中国を訪れ FLSの基礎を紹介しました。行く先々で 壁を感じました 「学びたいが 母国語でないと難しい」ということです。こうなれば良いと思いませんか? 出席者それぞれの母国語を使って 様々な言語で同時に講義ができたら良いですね。アジアや南米 アフリカやヨーロッパ様々な地域に住む人々に 技術の力を借りてスムーズで 正確に コスト効率よく 話をしたいのものです。もちろん相手の話も理解できなければいけません。何か教えてもらえることがあるはずです。

 

11 医療関係、外科関係の専門用語集が必要

壮大な計画です。すでに多言語翻訳機が存在するか探してみました。現在 ウェブページや携帯ですら翻訳機能が使えますから。でも手術を教えるのに使えるものはありませんでした。レキシコンが必要だからです。つまり専門用語集のようなもの 医療関係の専門用語集が必要です。更に 外科関係の専門用語集も必要です。でもそんなもの ありません。これは作る必要があります。

 

12 ビデオ会議技術に字幕と翻訳機能をつける

それでは我々が今行っている事をお見せしましょう。まだ研究段階で 普及してはいませんが IBM研究所と共同で いくつかのテクノロジーを組み合わせ多言語翻訳機を制作しています。まずは枠組みです。外科医が講義を行っているとき 画面に字幕を付けられるフレームワークを使います。そこにビデオ会議技術を付け足すわけです。まだ字幕が出ていないので3番目の技術を加えます。これで字幕が付きます。ここに翻訳の機能をかぶせます。枠の中に字幕が出たら 魔法のように言語を変えるのです。これが4つ目の技術です。現在11言語が使えます。世界をさらに縮めるためにもっと言語を増やしていきます。試作品をお見せしましょう。普段バラバラになっているこれらの技術を集結させ 素晴らしいものが出来ました。

 

13 手術における成功と失敗の差は手先の動作のわずかな違い

腹腔鏡手術の基礎 第5章: 手術手技の練習 言語を選んで母国語で字幕を見ることができます。

南米の学習者は 「スペイン語で見る」のボタンをクリックします。するとリアルタイムでスペイン語の字幕が見られます。もし北京で授業を受けていたら この技術を使えば 同じように 中国語で字幕を見ることが出来ま。ロシア語でも何でも 人を介せずに同時通訳が可能になります。でもそれは講義だけ。

冒頭で FLS(基礎腹腔鏡手術)についてお話しましたが この手術には知識と技術が必要です。手術において 成功するかしないかの違いは 手先の動作のほんのわずかな違いです。ですのでもう一歩踏み込みました アランに再び登場してもらいます。

今日は縫合の練習をします。このように針を持ってください。針の先を持つのです 手がブレないように 黒い点をめがけて ループをこちらに向けて。では切ってください。オスカー よく出来ました。それでは また来週。

 

14 様々な技術の統合の良い例がカメラ付き携帯

多言語翻訳機の開発過程を お見せしました。情報の往復交換ができるようにしたいのです。教えるのと同時に学べるものが必要です。このツールにはたくさんの使い方があるでしょう。様々な技術の統合の良い例が カメラ付きの携帯の普及です。これは様々な分野で活用できます。医療や看護 エンジニアリング、法律、会議、ビデオの翻訳など どこでも使えるツールです。

壁をなくすために 誰とも意思の疎通ができるように 通訳の技術の開発を進めなければいけません。いろいろな所で必要になります。より世界を近づけるために。ありがとうございました(拍手)

 

最後に

言葉の壁がなければお互いの距離が縮まる。カメラ付き携帯は発明。通訳は架け橋

TED公式和訳をしていただいた kenji sudo 氏、レビューしてくださった Akiko Hicks 氏に感謝する(2013年1月)。

消化器がんに対する腹腔鏡下手術のいろは―技術認定に求められる基本手技の鉄則


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