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変動相場制では財政政策は効果なし 物価の安定が目的の金融政策

「変動相場制のもとでは財政政策は効きません。しかし、金融政策を行えば1〜2年後には効果が現れ、3〜4年後には景気は上向きます」著者は端的に語りかける。ここでは、高橋洋一『この金融政策が日本経済を救う』を7回にわたって要約し、金融政策の基礎を理解する。

目的は物価の安定

金融政策の目的は、物価を安定させることである。言い換えると、インフレ(物価がどんどん上がる)にもデフレ(物価がどんどん下がる)にもならないようにすることである。物価とは、世の中のすべての値段の平均である。

日銀の役割は、インフレのときには世の中に出回るお金の量を減らし、デフレのときにはそれを増やすことで物価を安定させることである。

 

金利の上げ下げでお金の量を調節する

日銀が行う経済政策は、①公定歩合(政策金利)の引上げ・引下げ、②債券・手形市場での売買(公開市場操作)、③預金準備率の引上げ・引下げの3つである。これらはいずれも金利をコントロールして貸出資金量などを通じて、経済活動に影響を与えるものである。

金利とは、今のお金の1年後の姿といえる。例えば、今の1万円は金利が2%なら、1年後の利息である200円を足して1万200円になる。商売を始めるために1万円を借りるとしたら、最低限200円以上増やせる見込みがなければお金を借りることはないだろう。

つまり、金利を下げればお金を借りて投資しようと思う人が増え、世の中にたくさんのお金が出回る。反対に金利を上げればお金を借りる意欲が薄れ、世の中に出回るお金の量が減るのである。

現在、日銀が金利をコントロールする方法は、②の公開市場操作である。①は1994年の金利自由化によって影響力を失い、③は今ではあまり使われていない。公開市場操作とは、国債や手形などの売買を通じてお金の量を調節するものである。

例えば、景気が悪化したとき、日銀は民間の銀行が持つ国債や手形を買う(買いオペ)。日銀は国債などを購入したお金を、それぞれの民間銀行が日銀に持っている当座預金口座(決済用の金利がつかない預金口座)に振り込む。すると、銀行は資金に余裕が生まれ、他の銀行からお金を借りる必要がなくなる。

民間銀行同士がお金を貸し借りする市場のことをコール市場というが、資金に余裕が生まれればコール市場でお金を借りる銀行が減り、需要と供給の関係から金利が下がるのである。

逆に、景気がよくなりすぎた場合、日銀は民間銀行に日銀が持っている国債や手形を売る(売りオペ)ことで、景気の過熱を防ぐことができる。

 

ゼロ金利政策

ゼロ金利政策とは、日銀が民間銀行に貸し出す際の金利をゼロにすることである。この政策は、民間銀行や一般企業が資金繰りに困って倒産するというリスクが減るので、金融危機がひとまず解消される。また、短期金利が低いため、短期でお金を貸すより株式投資や長期でお金を貸すほうが儲かり、株価が上昇しやすくなる。

個人にとっても預金をしているよりも、株式などの債券に投資したほうが有利になる。また、住宅ローンの金利も下がるので、家を購入しようという人も増えるだろう。

 

名目金利と実質金利

金利には名目金利と実質金利がある。名目金利とは、普段目にする数字の金利である。これに対して、実質金利は名目金利から物価上昇率(インフレ率)の予想を差し引いた金利である。そして、経済に影響を与えるのは、名目金利ではなく実質金利である。

実質金利は物価上昇率の予想に働きかけることでいくらでも下げることができる。名目金利がゼロでも、物価上昇率の予想がプラス2%ならば、マイナス2%である。マイナス2%とは、金利をつけてプレゼントしているのと同じである(借金はお金で時間を買う行為 クレジットカードから闇金融まで参照)。これを実現するのが、量的緩和政策である。

 

量的緩和

量的緩和政策は、民間の金融機関が日銀に持っている当座預金残高の量を調節することで、金融緩和を行う。政策金利の誘導と同様に、日銀が公開市場操作を行うのだが、その調節目標が当座預金残高となる。

 

シニョレッジ(通貨発行益)

シニョレッジ(seigniorage:通貨発行益)とは、通貨を発行することによって得る差益のことである。日銀は紙幣をすることで、発行価額に対して99.8%程度の発行差益を得ることができる(0.2%は紙幣を作る経費)。つまり、1万円札を1枚刷るだけで、日銀には9980円の差益が入るのである。

この差益は日銀から国庫納付金となって政府に入る。そして、政府支出として国民に移転する。こうして、日銀の当座預金額が増えれば通貨発行益が増え、世の中に出回るお金も増えて、物価が上がるとみなが予想するのである。

なお、通貨の発行は日銀だけでなく政府にもできる。かつての地域振興券のような手段でなく、通貨という全国振興券を配布すればいいのである。

 

マンデル・フレミング理論

マンデル・フレミング理論とは、変動相場制のもとでは、財政政策よりも金融政策の効果のほうが大きく、理論的には財政政策の効果はないというものである。1999年にノーベル経済学賞を受賞したロバート・マンデルと、ジョン・マーカス・フレミングによって提唱された。その理由は、公共投資(財政政策)の効果が輸出減少・輸入増加という形で海外に流出してしまうからである。

ただし、金融政策が機能していれば、財政政策も意味を持つといえる。その理由は、財政政策によって生じた円高を、金融政策によって円安にして打ち消すことが可能だからである。

また、同じ財政政策でも、公共投資よりも減税のほうがフェアである。公共投資は特定の業界への利益供与につながるが、減税はすべての国民に対して公平に行われるからである。

 

減税の効果はなかった

定率減税(所得税の税額20%、住民税の税額15%の減額)は1999年から導入され、2006年度から07年度で段階的に廃止された。しかし、その間の景気動向指数(DI)を見ても、一貫した説明ができる変動をしていない。ここからも、金融政策による影響が大きいことがわかる。

 

金利を上げると景気は回復する?

「金利を上げると景気は回復する」という意見もある。金利を上げることで金利所得を増やし、消費を拡大させるという論理である。しかし、金利を上げれば貸出金利も上がるため、お金を借りて新たな投資を計画している中小企業などには不利である。

資金を借りようとする人と持っている人とでは、借りようとする人のほうが借りてまで何かをしようとする人であり、経済に対するパワーは資金を持っている人より大きいだろう。これが、金利を下げれば景気が上向き、金利を上げれば景気が悪くなる理由である。

 

円高で景気が回復する?

「円高で景気が回復する」という意見もある。しかし、日本経済は輸出が83兆円、輸入が73兆円と輸出のほうが大きくなっている(2007年度財務省貿易統計参照)。2012年度は輸出が63兆円、輸入が70兆円と輸入が7兆円上回り、まさに円高によって日本のお金が海外に流れ出てしまったのである。

もちろん海外にも投資しているような資産家の人は円高を望むだろう。しかし、日本全体のことを考えれば、円安・株高で景気を回復させることが先決なのである。

 

最後に

デフレの原因は人口減少なのか? バランスシートと金融政策でも述べたように、適切な金融政策を行えば、デフレは解消できる。日本は鎖国していない。成長と安定は共存できる

次回は、世界大恐慌は金本位制によって発生し伝播した 金融政策の理論的根拠についてまとめる。

この金融政策が日本経済を救う (光文社新書)


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