nanopatch

マーク・ケンドル より安全で低コストな注射針を使わないワクチン・パッチ

「注射針と注射器の発明から160年後も私達はワクチン投与の際に使っていますが、進化の時です」ケンドルは語りかける。ここでは、80万ビューを超える Mark Kendall のTED講演を訳し、1cm×1cmの正方形型ワクチン「ナノパッチ」について理解する。

要約

注射針と注射器の発明から160年後も私達はワクチン投与の際に使っていますが、進化の時です。生物医学工学者のマーク・ケンドルがナノパッチのデモンストレーションします。ナノパッチは1cm×1cmの正方形型ワクチンで、痛みを伴うことなく皮膚に貼れます。この小さなシリコン片が、低コストで現在の注射針と注射器の4大欠点をいかにして克服したのかを説明します。

Mark Kendall aims to shake up how vaccines are delivered with the Nanopatch.

 

1 ワクチンは最も寿命を延ばすことのできる技術

注射針と注射器の発祥地 ここスコットランド エディンバラで お話できることを嬉しく思っています。こちらの方角で ここから1.6 kmも離れていない場所で 1853年 あるスコットランド人が 初めて注射針と注射器の特許を申請しました。彼の名前はアレキサンダー・ウッドで 英国内科医師会で申請しました。これがその特許です。今日使われている注射針と 大差ないことに 非常に驚かされました。それから160年経ちました。

ここでワクチンについて考えて見ましょう。160年前と変わらぬ器具を使ってワクチンを 注射針と注射器で投与します。いろんな意味で ワクチンは 成功した技術だと言えます。清潔な水や公衆衛生とともに ワクチンは最も寿命を延ばすことのできる 技術です。これを超えるのはかなり難しいことです。

 

2 注射針と注射器は欠陥の大きな部分を占めている

しかし 他の技術と同じように ワクチンにも欠点があるのです。注射針と注射器は 欠陥の大きな部分を占めています。古い技術なのです。当たり前のことですが 注射針や注射器が好きでない人は多いです。気持ちは分かります。しかるに 20%の人が 注射針恐怖症なのです。注射針が嫌いというレベルを超え 注射針恐怖症のため 積極的に ワクチン接種を避けようとするのです。これがワクチンの展開での問題となるのです。

また これに関連した主要な問題に 針刺し損傷があります。世界保健機関の統計によると 年間約130万人が 針刺し損傷による 二次汚染で死亡しています。早過ぎる死の原因なのです。

これら2つの問題を ご存じの方もおられるでしょう。でも まだ聞いたことのないような 注射針と注射器の欠点が あと2つあるのです。1つ目は 免疫反応において 次世代ワクチンを 阻害する可能性があることと 2つ目は低温流通の問題を生み出している 可能性があるのです。

 

3 約4,000もの小さな突起がある「ナノパッチ」

私のチームがオーストラリアの クイーンズランド大学で行っている 4つの問題に対処する技術の 研究に関しお話しします。それはナノパッチという技術です。これがナノパッチの見本です。肉眼では 切手よりも小さい 正方形のように見えます。しかし 顕微鏡で見ると 人間の目には見えない 何千もの小さな突起が見えます。注射針と比べると この正方形には 約4,000もの小さな突起があるのです。私はこれら突起が皮膚の免疫系と一緒に 作用するよう設計しました。それは ナノパッチと結び付いた とても重要な機能です。

深掘り反応性イオンエッチング という技術で ナノパッチを制作します。この特殊な技術は 半導体産業から借用したので 低コストで 量産することができます。

 

4 ナノパッチは針を必要とせず、目に見えない突起を使う

ナノパッチの突起に 乾燥ワクチンを付けて 肌に貼り付けます。指を使えば とても簡単に 貼れますが ちょっとした制約もあるので 貼付機器を作ってみました。それはとても単純なもので 精緻な指とでも言えます。ばね仕掛けになっています。このようにナノパッチを肌に貼ります (カチッ) 貼った直後から作用します。まず初めに ナノパッチの突起が 固い皮膚の表皮を貫いて ワクチンが素早く投与されます。実際 1分もかかりません。そして ナノパッチを剥がして 捨てます。貼付機器は再利用可能です。

ナノパッチの概念と 主要なメリットをすぐに ご理解いただけたと思います。ナノパッチは針を必要とせず 目に見えない突起を使うのです。もちろん注射針恐怖症の問題も 避けられます。

 

5 免疫反応の改善と低温流通の解消

これ以外の2つの重要なメリットについて 考えてみましょう。1つ目は注射の際の免疫反応の改善 そして2つ目は低温流通の解消です。

まずは1つ目の免疫原性から始めましょう。頭を回転させるのに 少し時間がかかるので やさしい言葉で説明します。ワクチンがどのように作用するのか 簡単に説明します。ワクチンは体内に安全な病原菌 つまり 抗原と呼ばれる物質を 取り込ませることで作用します。安全な病原菌 つまり抗原により 人体に免疫反応を引き起こし 病原菌にどのように対処するのかを 学ばせたり 記憶させたりします。体内に本当の病原菌が侵入したとき 体は直ちにワクチンで準備された 免疫反応を引き起こし 感染を抑止します。だから 効果があるのです。

今日でも注射針と注射器が使われています。この従来の技術と針で 大抵のワクチンが投与されるのです。注射針が免疫反応を阻止している という異論もあります。皮膚の中の免疫力の高い所を 分かっていないのです。この考え方を説明するために 皮膚について調べる必要があります。皮膚にナノパッチを貼った場合 その突起の1つから始めてみると このようなデータが得られます。これは本当のデータです。皮膚に貼ったナノパッチからの突起の1つが 画面に映されており 細胞層が色分けしてあります。分かりやすく大きさを示すと 注射針がここにあるなら 大きすぎるのです。画面のサイズより10倍大きく 10倍深いのです。全然画面には収まりません。皮膚の中に突起があるのはすぐに分かります。赤い層は角質の堅い外層ですが 茶色の層と赤紫の層には 免疫細胞が詰まっています。例として この茶色の層には ランゲルハンス細胞という免疫細胞が 私たちの体表面のあらゆる部分に 大量に含まれています。またこの画像では染色されていませんが 他の免疫細胞もあります。ナノパッチが 正しく差し込まれたことが分かるでしょう。皮膚の表面から 毛髪の太さほどの深さまでにある 何千もの特定の細胞を標的にしています。

 

6 ワクチンが突然10ドルから10セントに下がった

さて ナノパッチを考案した者として この結果に私はワクワクするのですが でもそれが 何なのででしょうか? 細胞を標的にしたからと言って 何なのでしょうか? ワクチンの世界で どういう意味があるのでしょうか? ワクチンの世界は日々進化しており 体系化が進んでいます。しかし 腕まくりをして ワクチンを接種してから しばらくたたないと 効果があるか分からないのです。今日でさえ ある種の賭けなのです。

それで賭けをしなければならなかったのです。インフルエンザワクチンを入手しました。ワクチンをナノパッチに塗ってから 皮膚に貼り 効果を待ちました。生きた動物で試しました。これが 1カ月待った 研究結果です。

これは ナノパッチを使った場合と 注射針と注射器で 筋肉内注射をした場合の 免疫反応の比較グラフです。横軸はナノグラムの用量で 縦軸は免疫反応です。破線は保護の閾値です。破線より上なら 保護されています。破線より下なら 保護されていません。大部分の赤い線はこの線よりも下にあり 一つの点だけが注射針で 保護を達成できたのです。しかもそれは6,000ナノグラム という高用量でです。青い線が全く異なった曲線を 描いていることは一目瞭然です。それがナノパッチの成果です。ナノパッチの投与用量は まったく異なった免疫原性の曲線を示しています。とても新鮮に感じました。突然 ワクチンの世界で 真新しい手段を得て 未知を切り開いたのです。従来の注射針でワクチンの効果をあげるのに 費用がかかりすぎていましたが ナノパッチでは 用量は1/100で済みます。ワクチンが突然10ドルから10セントに下がったのです。発展途上国では特に大切なことです。

 

7 あまり効果のないワクチンを閾値線上に上げて保護できる

また 別の見方もできるのです。現在あまり効果のないワクチンを 閾値線上に上げて 保護できるようにするのです。そうすることが ワクチンの世界で 重要になってきます。HIV マラリア 結核という 3大病を見てみましょう。年間700万人が亡くなっており いずれも効果的なワクチンはありません。だから 新しいナノパッチを試してはどうでしょうか。お役に立てると思うのです。それらのワクチンの効果を 閾値線上に押し上げます。私の研究室では 様々なワクチンも研究しており インフルエンザの例で成功したのと同じような 反応とカーブを得ています。

 

8 ワクチンは液体で液体は冷蔵が必要

さて 今日のワクチンのもう1つの欠点として 低温流通を維持する必要があることを お話していきたいと思います。その名の通り 注射する時までずっと ワクチンを低温に保つ 必要があるのです。流通上の問題もありますが 方法はあるのです。これは最たる例ですが 特に設備が整っていない所で ワクチンを低温に保ち 低温流通を維持するという 流通上の問題点を説明しています。ワクチンが温かすぎると駄目になりますが 面白いことに 冷たすぎても駄目になるのです。

ワクチンが駄目になると大変困るのです。世界保健機関によると アフリカで使用されるワクチンの半数までが 適切に作用しない模様です。低温流通がどこかで破綻しているからです。それは大問題で 注射針や注射器とも関連しています。ワクチンは液体で 液体は冷蔵が必要なのです。

 

9 ナノパッチのワクチンは乾燥している

ナノパッチの主な属性は ワクチンが乾燥していることです。乾燥していると冷蔵する必要はないのです。私の研究室では1年以上も ワクチンを23℃で保管して 活性が失われないことを示しました。それは重要な進歩です (拍手) 私達もその結果に満足しています。研究室内でナノパッチの有効性が 十分に証明されたことになります。科学者として 私は科学者であることや 科学が好きですが エンジニアとして 生物医学工学者として 人間としては 研究室の外でこれを展開し 多くの人々 特に最もそれを必要としている人々に ワクチンを投与するまでは 満足しないつもりです。

そのために ナノパッチを広めるようとしています。変わったやり方で広めようとしています。パプアニューギニアから始めました。発展途上国の例として パプアニューギニアを挙げました。フランスと同じ大きさですが 今日のワクチンの世界に存在する 多くの障害に苦しんでいます。流通面での問題があります。パプアニューギニアにはワクチンを冷やす 冷蔵庫が800台しかありません。このポートモレスビーの冷蔵庫のように 古かったり 壊れていたり 必要としている高地になかったりします。難しいけど遣り甲斐があります。HPV ヒト・パピローマ・ウイルスは 子宮頸がんの[危険要因]ですが パプアニューギニアでの感染率は 世界第1位です。お金がかかりすぎるので ワクチンを多くの人々に投与できません。これらの問題を解消するため 現地に赴き パプアニューギニアにナノパッチを展開し すぐに追跡調査を行う予定です。

 

10 感染症が原因で死亡する年間1,700万人を救いたい

この種の仕事はたやすくはありません。難題ですが 私の使命だと思っています。将来を見据えた 私の考えをお話しします。いつの日か 現在感染症が原因で死亡するという 年間1,700万の人がいるということが 過去の話となることです。そしてその過去の話というのは 劇的に改良されたワクチンによって達成されるものです。さて 今日ここ 皆さんの前に立って 160年の歴史を持つ 注射針と注射器の発祥地で 別のアプローチである ナノパッチについてお話ししました。注射針を使わず 痛みもなく 低温流通体系に頼らず 免疫原性を高めるのが ナノパッチなのです。ご清聴ありがとうございました (拍手)

 

最後に

ワクチンは最も寿命を延ばすことのできる技術。注射針と注射器は欠陥の大きな部分を占めている。約4,000もの小さな突起がある「ナノパッチ」。免疫反応の改善と低温流通の解消が可能。ワクチンのコストを10ドルから10セントに下げた。あまり効果のないワクチンを発見できる。ワクチンは液体で液体は冷蔵が必要。ナノパッチのワクチンは乾燥している。注射針を使わず、痛みもなく、低温流通体系に頼らず、免疫原性を高めるのがナノパッチ

和訳してくださったMasako Kigami 氏、レビューしてくださった Masaki Yanagishita 氏に感謝する(2013年1月)。

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