前回は、公務員も失業保険に加入せよ 中立性はあれど即応性のない日本の官僚についてまとめた。ここでは、国家公務員の人事管理と国税庁の警察力 「官庁の中の官庁」財務省について解説する。
国家公務員の「人事部」はどこにあるか
国家公務員全体の人事管理は財務省が押さえている。国家公務員の人事を国家全体の仕組みとして管理するには、以下の3つの部門が必要になる。
- 財務省主計局給与共済課(旧大蔵省主計局給与課):給与の額を管理
- 人事院給与局給与第二課:各省の人員を管理
- 総務省人事・恩給局:全体の国家公務員数を管理
1.2.3.は、機構上は別個の組織である。しかし、1.2.3.のすべてに財務省の官僚が出向し、実務を取り仕切っているのである。
官僚の給料と人員配置は、すべて財務省が握っている
1.の財務省主計局給与共済課は、実質的に公務員の給与を決める部署である。「財務省組織令」(財務省設置法に基づく政令)第26条は、給与共済課の所掌事務を規定している。
役人の給与は俸給という。職務の級(等級)と号俸を組み合わせたもので、「行政一職○等級○号俸、月額○○円」といったように、職種別にすべて決まっている。俸給を決める根拠法は給与法(一般職の職員の給与に関する法律)である。
次に、各省に号俸に応じた人員配置をする。これを「級別定数管理」という。級別定数管理は人事院の仕事だが、担当課長は代々、財務省からの出向者なのである。理由は、級別定数が予算の範囲内で設定されるからだといわれる。
さらに、国家公務員は国全体で何人必要かという「定数管理」が必要である。定数管理は総務省の管轄だが、この部署にも「参事官」の肩書で課長クラスが送り込まれている。このように、財務省は予算編成だけでなく、人事管理において全省庁に及んでいる。民間企業でいうと、経理部長と人事部長を兼任しているようなものである。
2008年の福田政権下、公務員制度改革の目玉として「内閣人事庁」創設案が浮上した。公務員の給与、人員は位置、定員、すなわち前述の1.2.3.をすべて官邸に一元化するプランである。渡辺喜美行政改革担当大臣(当時)は捨て身の覚悟で臨んだが、官僚側の抵抗に遭い、このプランは白紙にされてしまった(人事の一元化による大臣の人事権の強化 第二次公務員制度改革の目的参照)。
「われら富士山」
財務省には大蔵省時代からの隠語がある。「われら富士山、他は並びの山」。つまり、他の省庁はどんぐりの背比べで、自分たちだけが富士山のように高くそびえ立っているという表現である。
たしかに財務省は予算と人事を握っているから、他の省庁に対して強圧的でもある。例えば、各省庁はそれぞれ特殊法人(独立行政法人)を所管し、天下り先を確保しているが、「天下る」のは当該省庁の官僚だけでなく、必ず財務省出身者がついてくる。なぜなら、特殊法人を設立するために「予算」と「定員管理」で財務省の力を借りているからである。
大蔵省はGHQの改革をも食い止めた
1945年から1952年まで日本を占領下に置いたGHQは、戦後改革の一環として公務員制度の抜本的改革にも着手した。職階制の導入により、各公務員の仕事内容を厳格に規定するとともに、見合った資格・能力を求め、その仕事内容に応じて俸給を定める制度である。
しかし、大蔵省がGHQとの交渉窓口として「給与法」をたてに時間切れにさせ、改革を行わせなかった。給与法は公務員の仕事内容にまでは触れていないが、等級と号俸を決める仕組みが非常に複雑で、GHQ側も理解が容易でなかったのである。
財務省のもうひとつの力、国税庁
財務省には国税庁という自前の警察力も持つ。どの国でも財務省に相当する政府機関は、ほとんどが傘下に警察的組織を従えている。
脱税だけは逃げられない
政治家でさえ国税庁に怯えるのは、「脱税」とされると逮捕されてしまうからである。政治資金規正法ならば政治家の弁明もある程度効くが、脱税となると逃れようがない。国税庁も脱税を摘発するのが仕事だから、相手が政治家だろうが何だろうが狙っている。情報提供(タレコミ)があったことを端緒(きっかけ)として、調査をしてもいいのである。
同じキャリアでも国税庁と大蔵省には差がある
同じキャリアであっても国税庁よりも大蔵省のほうが上と見なされている。例えば、税務署に出る際の年次でも大蔵省のほうが5年程度早い。また、赴任する税務署の規模でも差がつく。さらに、人事面での昇進にも及び、国税庁のキャリアが国税庁の幹部職員になる確率は低い。
日本の国家予算は財務省が”先に”決める
日本の国家予算は事実上、財務省が先に決めていってしまう。財政制度審議会の提出する「建議」を盾に、8月頭ごろには概算要求基準(シーリング)を発表する。これがそのまま閣議決定されて、その後は財務省の手順通りに進むのだ。つまり、実はほとんどの作業は9月中に終わっているのである。
復活折衝の「握り」とは何か
財務省原案が政府予算案として閣議決定される前に復活折衝がある。復活折衝とは、各省庁(概算要求)と財務省(原案)との間で行われる修正交渉である。交渉内容の難易度・複雑度に従って、事務折衝(各省庁の総務課長級と財務省主計局の主査級)、大臣折衝(各省庁の大臣級と主計局長級)、政治折衝(与党幹部と財務大臣)とレベルアップするのが通例となっている。財務省原案発表後、およそ5日間かけて展開される。
ところが、この復活折衝もあらかじめ財務省の手順に組み込まれている。これを「握り」といい、復活折衝のシナリオを提示して、相手(担当省庁)の合意を引き出すのである。
財務官僚が竹中総務大臣を恐れた理由
財務官僚が竹中総務大臣を恐れた理由は、本当に大臣折衝をするのではないかと疑心暗鬼になったからである。復活折衝では、あらかじめ想定文が作成され、その場で読み上げて終わりになる。したがって、想定外の折衝には対応できないのである。
財源不足は「埋蔵金」で穴埋め
「予算のできない年はない」大蔵省時代からある格言である。もし財源が不足していたら、埋蔵金(特別会計の資産負債差額)などの税外収入で手当てするのである(特別会計には資産負債差額がある 「埋蔵金」とは何か参照)。
「官僚言いなり」が増税を招く
政治が財務省の言いなりとなったら、必ず増税になってしまう。霞ヶ関全体の給与の原資は税金だからだ。税金を減らすことは自分たちの給料を減らすことだから、財務省から「減税」という二文字は出てこないのである。
IMFに「増税」をアナウンスさせたのも日本の財務官僚
2010年夏、メディアに「IMFが日本の増税を提言」という記事が出た。しかし、記事にあるIMF関係者は、おそらく財務官僚である。日本はIMFに対してアメリカに次いで第2位の出資国である。主要ポストも与えられている。
増税を頭から否定するわけではないが、消費税をインボイス方式にしたり(消費税は地方の重要な財源 日本の財政とプライマリーバランス参照)、支出を減らしたり、経済成長を優先させてデフレを脱却することのほうが先決であろう。
最後に
財務官僚は財務省、人事院、総務省という3つの人事管理関連の部署に出向している。財務省の下部組織の国税庁は警察力を持ち、政治家さえも怯える存在である。ヒトとカネ、そして警察力を持つ財務省。
次回は、物事を進めるには言葉の定義と数値目標が必要 期限と数量のない官僚の作文についてまとめる。
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