2014年3月末までに東京モノレール車内で公衆無線LANが導入されるなど、屋外でも高速でネットワークを利用することが可能になってきている。しかし、スマホ利用者の75%は「公衆無線LANを利用していない」という調査結果があるように、まだまだ身近に利用するには至っていない。ここではネットワークに関する基礎知識を7つ選び、コンピュータ同士がつながることの意味を解説する。
はじめに
今回も情報処理推進機構のシラバスときたみりゅうじ氏の「ITパスポート」を参考に、解説する。シラバスにおいては「58.ネットワーク方式」「59.通信プロトコル」「60.ネットワーク応用」に対応している。
1 LANとWAN
LAN(Local Area Network)とは、自宅や事業所など局所的な狭い範囲のネットワークのことである。WAN(Wide Area Network)とは、地理的に離れているLAN同士をつなぐ広域ネットワークのことである。コンピュータの扱うデジタルデータは、こうしたネットワークを介すことで距離を意識せずにやりとりすることができる。
LANの接続形態(トポロジー)
次の3つが代表的なトポロジーである。
- スター型:ハブを中心として、放射状に各コンピュータを接続する形態(イーサネットの100BASE-TXや1000BASE-Tなど)
- バス型:1本の期間となるケーブルに、各コンピュータを接続する形態(イーサネットの10BASE-2や10BASE-5など)
- リング型:リング状に各コンピュータを接続する形態(トークンリングなど)
現在のLANはイーサネットがスタンダード
LANの規格として、現在最も普及しているのがイーサネット(Ethernet)である。IEEE(米国電気電子技術者協会)によって標準化されており、接続形態や伝送速度ごとに、次のような規格に分かれている。伝送速度に使われているbps(bits per second)という単位は、1秒間に送ることのできるデータ量(ビット数)を表している。
バス型の規格例: 規格名称—伝送速度—伝送距離—伝送媒体
10BASE5—10Mbp—最大500mー同軸ケーブル(Thick coax)
イーサネットはCSMA/CD方式でネットワークを監視する
イーサネットは、アクセス制御方式としてCSMA/CD(Carrier Sense Multiple Access/Collision Detection)方式を採用している。
CSMA/CD方式では、ネットワーク上の通信状況を監視して、他に送信を行っている者がいない場合に限ってデータ送信を開始する(Carrier Sense)。もし同時に送信してしまい、通信パケットの衝突(コリジョン)が発生した場合は、各々ランダムにも止めた時間分待機してから、再度送信を行う(Collision Detection)。このように通信を行うことで、1本のケーブルを複数のコンピュータで共有することができる(Multiple Access)。
クライアントとサーバ
複数のコンピュータが組み合わされて働く処理の形態には、いくつか種類がある。中でも代表的なのが以下の3つである。
- 集中処理:ホストコンピュータが集中的に処理をして、他のコンピュータはそれにぶら下がる構成(一貫性の維持管理がしやすい)
- 分散処理:複数のコンピュータに負荷を分散させて、それぞれで処理を行うようにした構成(システムの拡張が簡単)
- クライアントサーバシステム:集中的に管理した方がいい資源(プリンタやハードディスク領域など)やサービス(メールやデータベースなど)を提供するサーバと、必要に応じてサービスを要求するクライアントの2種類のコンピュータで処理を行う構成。現在の主流。
線がいらない無線LAN
無線LANとは、ケーブルを必要とせず、電波などを使って無線で通信を行うLANのことである。IEEE802.11シリーズとして規格化されている。2.4GHzや5.2GHzなどの周波数帯を使って通信している。
無線のため電波の届く範囲であれば自由に移動することができるが、電波を盗聴されてしまう恐れもあるため、通信を暗号化するなどのセキュリティ対策が必要となる。
2 プロトコルとパケット
プロトコルとOSI基本参照モデル
プロトコルとは、ネットワークを通じてコンピュータ同士がやりとりをするための約束事である。現在は「TCP/IP」というプロトコルが広く利用されている。
OSI(Open Systems Interconnection:開放型システム間相互接続)基本参照モデルとは、プロトコルの種類を7階層に分けたものである。以下に上位から並べる。
- アプリケーション層:具体的なサービスの提供
- プレゼンテーション層:データの形式
- セッション層:通信の開始から終了までの管理
- トランスポート層:通信の信頼性の確保
- ネットワーク層:ネットワーク間の中継
- 物理層:物理的なつなげ方
なぜ「パケット」に分けるのか
TCP/IPでは、通信データをパケット(小包)という形に分割して通信路に流している。なぜならば、通信路上に流せるデータ量は有限だからである(例えば100BASE-TXネットワークだと、1秒間に10MBITまで)。もし大量のデータを流すと、そのデータが流れ終わるまで誰もネットワークを利用できなくなってしまうのだ。
3 ネットワークを構成する装置
ネットワークの世界で働く代表的な装置には、ルータやハブ、ブリッジ、リピータなどがある。
LANの装置とOSI基本参照モデルの関係
LANの代表的な装置と、その装置がどの層に属するかについて述べる。
- NIC、リピータ、LANケーブル:物理層に属し、電気的な信号を送ったり受けたり増幅したりする
- ブリッジ:データリンク層に属し、パケットのMACアドレス情報を使って、ネットワーク内のセグメント間を中継する(詳細後述)
- ルータ:ネットワーク層に属し、パケットのIPアドレス情報を使って、ネットワーク間を中継する
- ゲートウェイ:プロトコル変換を行うことで、トランスポート層以上が異なるネットワーク同士を中継する
NIC(Network Interface Card)
NICとは、コンピュータをネットワークに接続するための拡張カードのことである。LANボードとも呼ばれる。NICの役割は、データを電気信号に変換してケーブル上に流し、受け取ることである。
NICをはじめとするネットワーク機器には、製造段階でMACアドレスという番号が割り振られている。これはIEEE(米国電気電子技術者協会)によって管理される製造メーカ番号と、自社製品に割り振る製造番号との組み合わせでできており、世界中で重複しない一意の番号であることが保証されている。イーサネットでは、このMACアドレスを使って各機器を識別する。
リピータ
リピータとは、物理層(第1層)の中継機能を提供する装置である。ケーブルを流れる電気信号を増幅して、LANの総延長距離を伸ばすことができる。
LANの規格では、10BASE5や10BASE-Tなどの方式ごとに、ケーブルの総延長距離が定められている。そのため、それ以上の距離で通信しようとすると、信号が歪んでしまってまともに通信できない。ここでリピータを間に挟むことで、この信号を整形して再送出してくれるのである。
ブリッジ
ブリッジとは、データリンク層(第2層)の中継機能を提供する装置である。セグメント(無条件にデータが流される範囲)間の中継役として、流れてきたパケットのMACアドレス情報を確認、必要であれば他方のセグメントへとパケットを流す役割を持つ。
ブリッジは、流れてきたパケットを監視することで、最初に「それぞれのセグメントに属するアドレスの一覧」を記憶する。以降はその一覧に従って働くため、ネットワークの利用効率向上に役立つ。
ハブ
ハブとは、LANケーブルの接続口(ポート)を複数持つ集線装置である。ハブには内部的にリピータを複数束ねたものであるリピータハブと、ブリッジを複数束ねたものであるスイッチングハブの2種類がある。前者はパケットが流れてくると無条件にすべてのポートへ送出するものであり、後者は宛先MACアドレスに該当するコンピュータがつながっているポートにだけ送出する。
ルータ
ルータとは、ネットワーク層(第3層)の中継機能を提供する装置である。異なるネットワーク(LAN)同士の中継役として、流れてきたパケットのIPアドレス情報を確認した後に、最適な経路へとパケットを転送する役割を持つ。経路表(ルーティングテーブル)を用いて、経路選択(ルーティング)を行うともいえる。
ゲートウェイ
ゲートウェイとは、トランスポート層(第4層)以上が異なるネットワーク間で、プロトコル変換による中継機能を提供する装置である。ネットワーク双方で使っているプロトコルの差異をこの装置が変換、吸収することで、お互いの接続を可能にすることができる(例:携帯メールとインターネットの電子メールのやりとり)。
4 TCP/IPを使ったネットワーク
TCPとIPという2つのプロトコルの組み合わせが、インターネットにおけるデファクトスタンダード(事実上の標準)である。トランスポート層の「TCP」とネットワーク層の「IP」をセットにした呼び名である。こうしたインターネットの技術を、そのまま企業内LANなどに転用したネットワークのことをイントラネットと呼ぶ。
IPアドレスはネットワークの住所
IPアドレスとは、コンピュータを識別する番号で管理されている。コンピュータの住所や電話番号のようなもので、重複がなく一意の番号が振り分けられている。IPアドレスは、32ビットの数値で表され、8ビットずつに区切り、それぞれ10進数で表し、それらを「.」でつないで表記される(例:192.168.1.3)。
グローバルIPアドレスとプライベートIPアドレス
グローバルIPアドレスとは、インターネットの世界で使用するIPアドレスである。世界中で一意であることが保証されなければならないため、地域ごとのNIC(Network Information Center)と呼ばれる民間の非営利期間によって管理されている。
プライベートIPアドレスとは、企業内などLANの中で使えるIPアドレスである。LAN内で重複がなければ、システム管理社が自由に割り当てて使うことができる。いわゆる電話の外線と内線に似ている。
IPアドレスは「ネットワーク部」と「ホスト部」でできている
IPアドレスの内容は、ネットワークごとに分かれるネットワークアドレス部と、そのネットワーク内でコンピュータを識別するためのホストアドレス部に分かれている。つまり、前の24ビットがネットワークアドレスを表し、後ろの8ビットがホストアドレスを表している(例:192.168.1.3は、192.168.1がネットワークアドレス、.3がホストアドレス)。
IPアドレスのクラス
IPアドレスは、一般的に使用するネットワークの規模によってクラスA(大規模)、クラスB(中規模)、クラスC(小規模)と3つのクラスに分かれている。具体的には以下のように決まっている(ネットワークアドレス部をN、ホストアドレス部をHと表記)。そのため、割当可能なホスト数も、順に16,777,214台、65,534台、254台となっている。
- クラスA:先頭ビット0、N8ビット、H24ビット
- クラスB:先頭2ビット10、N16ビット、H16ビット
- クラスC:先頭3ビット110、N24ビット、H8ビット
サブネットマスクでネットワークを分割する
サブネットマスクとは、IPアドレスのどこからどこまでをネットワークアドレスとみなすか指定するビット列のことである。各ビットの値(1がネットワークアドレス、0がホストアドレスを示す)によって、IPアドレスのネットワークアドレス部とホストアドレス部とを再定義することができる。
DHCPは自動設定するしくみ
DHCP(Dynamic Host Configuration Protocol)とは、IPアドレスの割り当てなどのネットワークの設定作業を自動化することができるしくみである。プロバイダなどのインターネット接続サービスを利用する場合にも、最初にDHCPを使ってインターネット上でのネットワーク設定を取得する手順が一般的である。
NATとIPマスカレード
NATとは、グローバルIPアドレスとプライベートIPアドレスとを1対1で結びつけて、相互に変換を行うものである。
IPマスカレード(NAPTともいう)とは、グローバルIPアドレスに複数のプライベートIPアドレスを結びつけて、1対複数の変換を行うものである。IPアドレスの変換時にポート番号(詳細は「5 ネットワーク上のサービス」に記載)も合わせて書き換えるようにすることで、1つのグローバルIPアドレスでも複数のコンピュータが同時にインターネット接続をすることができる。
ドメイン名とDNS
ドメイン名とは、覚えづらいIPアドレスに対して、文字で別名を付けたものである。例えば「www.google.co.jp」とは、「日本(jp)」の「企業(co)」で「グーグル(google)」というと、このネットワークにいる「www」という名前のコンピュータ…ということを表している。なお、comはcommercial(商用)、netはnetwork、orgはorganization(組織、主に非営利団体)を意味する。
DNS(Domain Name System)とは、ドメイン名とIPアドレスとを関連づけして管理しているものである。
5 ネットワーク上のサービス
ネットワーク上で動くサービスには、それぞれに対応したプロトコル(約束事)が用意されている。そしてそのプロトコルを処理するサーバによって、サービスが提供されているのである。
代表的なサービス
- HTTP(HyperText Transfer Protocol):Webページの転送に利用
- FTP(File Transfer Protocol):ファイル転送サービスに利用
- Telnet:他のコンピュータにログインして遠隔操作を行う際に利用
- SMTP(Simple Mail Transfer Protocol):電子メールの配送を担当
- POP(Post Office Protocol):電子メールの受信を担当
- NTP(Network Time Protocol):コンピュータの時刻合わせを行う
サービスはポート番号で識別する
ポート番号とは、自分専用の接続口を示す番号のことで、プログラム側で0〜65,535までの範囲で自由に設けることができる。主だったサービスには、あらかじめデフォルトのポート番号が決められている(HTTPサーバは80番、FTPサーバは20番と21番など)。
6 WWW(World Wide Web)
WWWとは、インターネットで標準的に使用されているドキュメントシステムである。散在するドキュメント同士が相互につながりを持つのが特徴で、そのつながる様がクモの巣を連想させることからWorld Wide Web(世界に広がるクモの巣)と名付けられた。インターネットとWWWが同義語として使われるケースがあるほど、定着しているサービスである。
Webサーバに「くれ」と言ってページを表示する
WWWのサービスはWebブラウザ(クライアント)がWebサーバにファイルを要求することから始まる。ファイルが届いた後はブラウザ側がデータを整形したり、必要なファイルがないか確認したりする。このやりとりに使われているプロトコルがHTTPである。
WebページはHTMLで記述する
WebページはHTML(HyperText Markup Language)という言語で記述されている。言語とは「ある法則にのっとった書式」のこと。HTMLの書式とは、タグと呼ばれる予約語をテキストファイルの中に埋め込むことで、文書の見栄えや論理構造を指定するようになっている(<html></html>、<head></head>など)。
また、アンカータグを使うと、他の文書へのリンクを設定することができる(「<a href=”リンク先のURLなど”>リンクを設定したい文字列</a>」という書式)。
URLはファイルの場所を示すパス
URL(Uniform Resource Locator)とは、Web上で取得したいファイルを示す表記方法である。例えば、https://www.google.co.jp/book/index.htmlというアドレスがあった場合、https:はプロトコル、www.google.co.jpはドメイン名、bookはディレクトリ名、index.htmlはファイル名を表している。
7 電子メール
電子メールとは手紙のコンピュータネットワーク版である。メールアドレスを使ってメッセージをやりとりしている。MIME(Multipurpose Internet Mail Extension)という規格によって、画像や音声など様々なファイル形式を扱えるようになった。
メールアドレスは「名前@住所」
手紙のやりとりに住所と名前が必要であるように、電子メールのやりとりにもメールアドレスという住所+名前に相当するものが使われている。例えばinfo@kaihooo.comだと、info部分がユーザ名(名前)、kaihooo.comがドメイン名(住所)である。
メールの宛先の種類
メールアドレスの宛先には、以下の3つの種類がある。
- TO:本来の意味の宛先。送信したい相手のメールアドレスを記載する
- CC(Carbon Copy):参考として読んでおいてほしい相手のメールアドレスを記載する
- BCC(Blind Carbon Copy):他者には伏せた状態で参考として読んでほしい相手のメールアドレスを記載する
電子メールを送信するプロトコル(SMTP)
電子メールの送信には、SMTPというプロトコルを使用する。郵便に例えると、ポストから相手の郵便受けに届けるまでがSMTPの役割である。
電子メールを受信するプロトコル(POP)
電子メールの受信には、POPというプロトコルを使用する。郵便に例えると、郵便受けから電子メールを取り出すのがPOPの役割である。
機種依存文字に注意(文字化け)
機種依存文字とは、特定のコンピュータでしか表示できない文字のことである。例えば丸付数字(①、②など)、ギリシア数字(Ⅰ、Ⅱなど)、単位(㍉、㌔など)、省略文字(№、℡など)といったものである。
最後に
ネットワークの基礎知識として、LANとWAN、プロトコルとパケット、ネットワークを構成する装置、TCP/IPを使ったネットワーク、ネットワーク上のサービス、WWW(World Wide Web)、電子メールの7つについて解説した。
以前のコンピュータはネットワークとは無縁の存在だった。ファイルの受け渡しはフロッピーディスクを持って人の手で行われていた。しかし、ネットワークが現れてコンピュータ同士がつながれていくことにより、全部コンピュータが自前で行うことができるようになっている。ブログ初心者が覚えておくべき情報セキュリティ基礎知識5選に加え、ネットワークに関する知識もおさえておきたい。
次回はコンピュータについてまとめる。
※11/12追記:ネットワークについてさらに学びたい方は、夏野剛氏の「ネットワーク産業論 2011」(iTunes必要)や東京大学の「情報工学概論A」をおすすめする。映像によって理解を深めることができる。無料で公開されていることに感謝する。
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