「400年前のタイムズスクエアは湿地帯で、配達を受けることもできませんでした」サンダーソンは語りかける。ここでは、70万ビューを超える Eric Sanderson のTED講演を訳し、ニューヨークが都市になる前の景観について理解する。
要約
ハドソンがニューヨーク湾を発見してから400年後、エリック・サンダーソンが、マンナハッタが都市になる前の、山々や川、野生動物に満ちた素晴らしい生態系の立体地図を作った模様を紹介します。その当時、タイムズスクエアは湿地帯で、配達を受ける事も出来ませんでした。
Armed with an 18th-century map, a GPS and reams of data, Eric Sanderson has re-plotted the Manhattan of 1609, just in time for New York’s quadricentennial.
1 マンナハッタ・プロジェクト
物事の目に見えぬ本質 過去の都市 未来の都市 ここオックスフォードで ルイス・キャロルを引用して 鏡に映ったニューヨーク市を見てみましょう。そして私たちの本当の姿を見つけるのです。もしくは別の世界へと行ってみましょう。スコット・フィッツジェラルドの言葉を借りれば “月が高く昇るにつれ 街並みは溶けて消えていった。心に浮かんだのは かつての島 オランダ人の船乗りの目を楽しませた。新世界の新緑の胸中だった”。
私と同僚はこの失われた世界を 再発見する仕事に10年間取り組んできました。マンナハッタ・プロジェクトと呼ぶプロジェクトです。私たちはヘンリー・ハドソンが 1609年9月12日の午後ニューヨーク湾に 到着した際に見たものを再現しようとしています。3幕の物語を語りましょう。そして時間があればエピローグも。
2 第一幕 “発見された地図”
では第一幕 “発見された地図”。私はニューヨーク出身ではありません。出身地は西部のシエラネバダ山脈 ここにあるレッドロックキャニオンです。またそういった幼少期の体験から 私は風景が大好きになりました。大学院で研究する頃になると 私は新しい学問領域の景観生態学を専攻しました。景観生態学は 川の流れ 草原 森 崖がいかに動植物の生息地を 形成するか探究します。この経験や訓練のおかげで 私は野生生物保護協会の仕事に就きました。協会は世界中で野生生物や環境保護活動をします。そしてここ10年間で 私は40以上の国々を旅し ジャガー 熊 象 虎 サイを観察しました。
しかし旅が終われば いつもニューヨークに戻り そして週末には他の旅行者と同じように エンパイアステートビルの展望台に上がり この風景と生態系を見下ろしながら 疑問に思いました。”この風景から どうすれば動植物の生息地が見えるだろう? 私みたいな動物の棲み家はどう作られるのだろう?” タイムズスクエアに行き 美しい女性たちの広告を見ながら 何故誰も背後にある歴史上の姿を見ようとしないのか不思議でした。またセントラルパークによく行っては ミッドタウンの 険しく切り立ったビル群と 対照的な公園の穏やかな地形を眺めたものでした。
3 ニューヨークは1950年に人口一千万人を超えた初の大都市
私はニューヨークの歴史や地理を読み始めました。ニューヨークは1950年に人口一千万人を超えた 初の大都市だった事を知りました。またこのような絵画も鑑賞しました。ニューヨーク出身の皆さん これはウェストサイドハイウェイ下の125番通りです (笑) そこはかつて浜辺でした。またこの絵画では 画家のジョン・ジェイムズ・オードゥボンが岩の上に座っています。そして木の茂るワシントンハイツの山並と 現在ジョージワシントン橋が掛かっているジェフリーズフックが描かれています。
またこの絵画は1740年頃のグリニッチビレッジです。彼らはキングズカレッジ ― 後のコロンビア大学の学生で 谷を見下ろす丘の上に座っています。私はグリニッチビレッジへ行ってこの丘を探しましたが ありませんでした。あのヤシの木も ヤシの木はどうなったのでしょう? (笑)
4 独立戦争が終結した頃のニューヨークの地図
そして調査が進むと私はある地図を見つけました。これがその地図です。これは地理情報システムの一部であり 拡大表示ができます。これはハドソンの時代ではありません。170年後 アメリカ独立革命時にニューヨークを占領した イギリス軍の地図製作者による物です。これは驚くべき地図で キューの国立公文書館に保管されています。縦3m 横1mの大きさです。
ロアー・マンハッタンを拡大すると まさに独立戦争が終結した頃の ニューヨークを見る事ができます。ここがボウリンググリーン ここがブロードウェイです。シティーホールパークです。シティーホールパークまでが主な市街地でした。そしてその向こうに見える地形は 消え去った 失くなった姿です。これはコレクトポンドです。ここはニューヨークの最初200年間と それ以前は数千年間先住民の 水源となっていました。リスペナード草原が 今日のトライベッカへ広がっています。また浜辺がバッテリーから 42番通りまで続いています。
5 タイムズスクエアは湿地帯を形成していた
この地図は軍事目的で作成されました。建設された道路 建物 城塞が 描かれています。しかし彼らは軍事目的以外に 生態学的にも興味がある 丘 沼地 小川を描いています。これはリッチモンドヒルとミネッタ川 かつて グリニッチビレッジを流れていました。グラマシーパークの湿地はここにあります。マリーヒル そしてこれは200年前の マリーヒルにあるマリーの家です。これはタイムズスクエアです。独立戦争終了時のタイムズスクエアには 二つの小川が集まり湿地帯を形成していました。
私はこの驚くべき地図を本で見て 考えました “もし この地図を測位できたなら もし今日の街の地形上に描くことができたなら 私達の知る ブロック状に仕切られた 人々が働き 住み 食事をする場所に重ね合わせて 人々が働き 住み 食事をする場所に重ね合わせて 失われたこの土地の特徴を 再現できるかも知れない” と。そして苦労して測位が完了しました。その結果 この都市の現在の街路 建物 広場などを描くことができました。こうしてコレクトポンドにズームできます。コレクトポンドと小川をデジタル表示できます そして現在の街の地形上どこにあったのか再現できます。かつての地形が 現在どうなっているのか 探すのは楽しいものです。
6 生態学的景観や土地の傾斜の算出
しかし私には他の考えもありました。私達がこの通りを取り除き 建物を取り除き そして広場を取り除くと こうなります。18世紀の特徴を取り除くと 時間を遡れます。私達は生態学的本質である 丘 小川 基本的な水文学 海岸線 浜辺など 生態学的景観の基本的な特徴を取り出せます。
次に地質学的岩盤 氷河が残した表層地質を重ね合わせ 米国土壌保全局が定義する 17種に分類された土壌分類地図を描き 17種に分類された土壌分類地図を描き 更に丘の高さを示す デジタル標高モデルを描くと 土地の傾斜を算出できます。外観を計算表示できるのです。冬の風向きと風速 どう風が吹くか計算できます。地図上のこの白いエリアは冬風が当たらない場所です。
7 コレクトポンド周辺にデラウェア族の居住地があった
私達はデラウェア先住民族の居住情報を全て収集し 彼らが生活していたと想定される場所を地図にしました。地図上の赤いエリアで示すのは 最も持続可能な生活の場所です。水場に近く 魚を取れる湾岸に近く 冬風が当たらない場所です。コレクトポンド周辺にデラウェア族の 居住地があったことが分かっています。また彼らは園芸を行い トウモロコシ 豆 ウリの 3大農作物を 育てる美しい菜園がありました。
そこで私達は その菜園があった場所を推定しました。かつての地続きの土地です。放棄された土地と思うかもしれません しかし実際には草原で 鳥や植物の生息地でした。草原は潅木地帯につながっていました。それらが組み合わされて生態系全体ができました。マンハッタンには55の異なる生態系があったことが分っています。これらは いわば隣町同士で トライベッカ アッパーイーストサイド インウッドのように独自の特徴を持っていました。森があり湿地帯があり また海洋の共同体であり浜辺です。
55は非常に大きな数字です。単位面積あたりマンハッタンは ヨセミテ イエローストーン アンボセリよりも豊かな生態系だったのです。並外れた生物多様性を支える事ができた実に驚くべき景観だったのです。並外れた生物多様性を支える事ができた実に驚くべき景観だったのです。
8 第二幕 “再建された故郷”
それでは第二幕 “再建された故郷”。私達は魚 カエル 鳥 蜂を調査しました。85種類の魚がマンハッタンに生息していました。既に絶滅したヒースヘンという鳥や あらゆる小川に生息したビーバー クロクマ 先住民族がいかに景観を利用し 何を考えていたのか学ぼうとしました。私達はそれらを表現しようとしました。生息環境要件のマッピングを試しました。
彼らはどこで食料を得ていたのか? 水は?棲み家は? 循環資源は? 生態学者にとってはこれらの交差点が生息地です。一般人にとってはこれらの交差点が自分の家です。いわば暮らしの手帳です。どこの家庭にでもある手帳です。ビーバーが必要とするのは “ポプラ ハンの木 柳が近くに茂る ゆったりと流れる小川” それがビーバーにとって最高の場所です。
9 ボブキャットにはビーバーが必要
そこで私達はリストを作りはじめました。これはビーバーです。そしてこれが小川 ポプラ ハンの木 柳です。まるで私達がビーバーを見つけるのを 予測するのに役立つ項目です。モリイシガメに必要なのは 湿った草地 昆虫 日のあたる場所 です。ボブキャットに必要なのは うさぎ ビーバー 洞穴のある場所 です。すると突然 私達はボブキャットにはビーバーが必要なことに気付きました。しかしビーバーにもニーズがあります。それらのニーズを関連づけると これらの種の生態系の 関連図を作ることができるのです。
10 動植物の相関ネットワーク図「ミューア・ウェブ」
ビーバーの専門家から出発して ポプラのニーズを知ることが 可能な事にも気付きました。ポプラに必要なのは 火 乾いた土壌 です。また湿原のニーズを知ることもできます。湿地帯を作り出すためは ビーバーと 他に幾つかの物が必要です。また日当たりの良い場所も語れます。日当たりの良い場所には生息地に限らず 何が必要でしょうか?どんな条件が揃えば良いのでしょうか? 火の場合は? 乾燥した土壌は?これらを縦横千個からなる表の上に 整理して表現できます。そしてデータをソーシャル・ネットワークのように 視覚化できます。
これはマンハッタンに生息した動植物の お互いのニーズを示す 全ての相関ネットワーク図で 地質学的に 時間的に空間的に中核まで遡っています。ミューア・ウェブと呼びます。拡大するとこうなります。それぞれの点が異なる種 あるいは水の流れ 土壌分類を示しています。細い灰色の線はそれらの要素を結びつけます。それらの線は自然の弾力性を生み出しています。全ての構成要素からなるこの構造により 自然が機能するのです。スコットランド系アメリカ人博物学者ジョン・ミューアにちなんだ名前です。ミューア曰く “何かを単独で選ぼうとすると その物は目に見えない千の紐でしっかり 結ばれていて解くこともできず宇宙のすべてにつながっている”。
11 第三幕 “400年前の景観の視覚化”
私達はミューア・ウェブを地図上に展開しました。例えば 85番通り 86番通り レキシントン街 三番街に囲まれたブロックに行くと かつて小川があり 木々があり 花々 地衣類 コケ類や 蝶 小川には魚が 木々には鳥が生息していたでしょう。ガラガラヘビも居たかもしれません。クロクマが歩き周り 先住民族も居ました。このようにデータを用いました。
私達のウェブサイトでご覧になれます。マンハッタンのあらゆるブロックを拡大し 400年前そこに何があったか見ることができます。そうやって見える景観が 第三幕です。私達はハリウッドと同じツールを使い 映画でみるような素晴らしい景観を作りました。
三番街を視覚化してみました。まず景観の地形を描きます。その上に土壌 水 そして景観を投影します。そして 生態系を描きます。さらに生物種を投影します。タイムズスクエアからハドソン川を見て 探検家ハドソンの到着を待つ景色を 実写したかのような映像です。最新技術のおかげで 私達は このような素晴らしい昔の地形を再現できます。マンハッタン中のどのビルの窓からでも 400年前の景観を見ることができるのです。
12 科学と視覚化のコラボ
イーストリバーからの眺め マリーヒルを見上げています。現在 国連本部がある場所です。ハドソン川を見下ろしています。左がマンハッタン 右がニュージャージー 背後に広がるのは大西洋です。タイムズスクエアです。ビーバーの池が見えます。東を見渡しています コレクトポンド リスペナードが遠くにあります。先住民族が耕した畑が見えます 現在の都市の地形にも見ることができます。例えばドラマの”法と秩序”のなかで弁護士が ニューヨーク裁判所の階段を下りていくと 400年前なら コレクトポンドの湖面がありました。これらの映像は私の友人で同僚のマーク・ボイヤーが 制作しました。今日会場に来ています。彼の素晴らしい仕事を みなさんも一緒に讃えましょう (拍手)
科学と視覚化のコラボは大きな力となり 鏡の両面を見るかのような 映像を創り上げることができます。短い時間でしたが マンナハッタが特別な場所だったことがお分かりでしょう。今左側に見える部分は かつて 多様性に基づいて結合された世界でした。現代社会が必要とする弾力性がここにはありました。
13 エピローグ “400年後の話”
しかし 私はこの右側も嫌いな訳ではありません。とても好きです。都市には魅力的な 独自な多様性と弾力性があります。そして高密度な私達相互の結びつきがあります。実際 私には2つの世界はお互いの反射に見えます。ルイス・キャロルが”鏡の国のアリス”で描いたように 私達は2つを比較し 同時に心に留めておくことができます。なぜなら 2つは“同じ場所”ですから 都市は 自然から逃れることはできないのです。これがまさに近未来の都市について学んでいることです。
この物語のエピローグとして 今から400年後の話をしましょう。私達が気付いたことは 都市は人間の生息地であり 人間のニーズを充たしています。例えば 自分の家 食糧 水 住み家 循環資源 そして意義 意義は人間が生息地に求める要件です。TEDでも意義について多く語られています。テクノロジー アート 科学様々な方法を通して テクノロジー アート 科学様々な方法を通して 生きる意味を教えてくれます。その方面だけに注目するあまり 食糧、水 棲み家、そして 子育てに必要なものには 十分な注意を 払ってこなかったように思います。
14 自然本来の生態系と共存する未来の姿
では どのような未来都市を思い描けるでしょうか。マディソン・スクエア・パークに行き 車の代わりに 自転車が行き来し 下水や排水管の代わりに大きな森と小川を想像してみては? アッパー・イーストサイドには 緑の屋上と 街を通り抜ける小川があり 風車が必要な電力を供給してくれるとしたら? もしくは 現在1千2百万人が暮らす ニューヨークの大都市圏が― 将来的にはこの全人口がマンハッタンのわずか36%の 地域に密集するでしょう ― 農地に囲まれ 必要な湿地に覆われた 地域になると想像したら?
思うに これが私達が必要とする未来の姿 マンハッタン同様の多様性と豊かさと ダイナミズムを持ち 同時に 過去の持続可能性から学び 自然本来の生態系と共存する未来の姿なのです。どうもありがとうございました (拍手)
最後に
3幕に及ぶ「マンナハッタ・プロジェクト」。第一幕“発見された地図”。ニューヨークは1950年に人口一千万人を超えた初の大都市。タイムズスクエアは湿地帯を形成していた。コレクトポンド周辺にデラウェア族の居住地があった。第二幕 “再建された故郷”。ボブキャットにはビーバーが必要。動植物の相関ネットワーク図「ミューア・ウェブ」。第三幕 “400年前の景観の視覚化”。科学と視覚化のコラボ。エピローグ “400年後の話”。自然本来の生態系と共存する未来の姿。
和訳してくださったKeiko Maruyama 氏、レビューしてくださった Akira Kan 氏に感謝する(2009年7月)。
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