前回は、安価な医療サービスが過剰受診の原因 国民健康保険と国民皆保険制度についてまとめた。ここでは、公務員が悪いのではなく、制度が悪いだけ ニッポン株式会社のBSについて解説する。
8 日本国の家計
日本国のBSを作ってみよう
日本国の官庁会計の基本は、歳入と歳出で会計年度ごとに資金の出入りを把握する現金主義の単式会計である。しかし、この状態では資産と負債の関係はわからない。
そこで、1999年になってPHP総合研究所や政策シンクタンク「構想日本」などが試算した日本のBSが公開された。前者は367.9兆円の債務超過、後者は902兆円の大幅な債務超過だとされた。しかし、高橋洋一氏が『バランスシートで考えれば、世界のしくみが分かる』で指摘したように、2008年度末時点でも300兆円の債務超過程度であり、決して今すぐ増税しないと財政破綻するといった心配はない。
増税とハイパー・インフレ
国家の歳入は、ほとんどが税収と国債の発行によるものである。ただし、国債を発行するとさらに借金が増えるだけなため、税収を増やす以外に債務を減らす方法はない。つまり、増税するか景気を回復させるかの2択になる。
現在のアベノミクスに対して「ハイパー・インフレを起こして借金を帳消しにするつもりだ」などと主張する者もいるが、(戦争や大災害が起きてモノ不足に陥らない限り)急激にハイパー・インフレになることはなく、もしインフレになったとしても金融引き締めを行えば収まる。
国の「資産運用」はどうなっているか
国の資産運用は、ほとんどが大きな赤字を作っており、その利回りはマイナスである。例えば、高度成長期に北海道に世界有数の工業コンビナートを作ることを目的にして始まった苫小牧東部開発は、進出企業がほとんど決まらないという参上のままで破綻し、運営主体の北海道東北開発公庫は日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)と統合し、開発銀行の準備金を取り崩して655億円を債権放棄した。
また、通産省(現・経済産業省)が「国産油田の開発」を掲げて始めた石油公団の油田開発事業は、1996年末で投融資残高の55%に当たる7745億円が回収不可能・利息未払いなどの問題債権化していることが明らかになった。
一方、地方財政の借入金残高も2013年度末で201兆円が見込まれ、1991年度末に比べ2.9倍、131兆円の増加となっている。これは景気対策のための地方債の増発や、減税による減収のための補填が原因である。
1200兆円の個人資産の場所
日本には1200兆円(2012年現在1500兆円)の個人資産があるといわれている。そのうち約28%は「保険・年金準備金」ですぐに現金化することが難しいが、それ以外の「現金・預金55%」「債券2.3%」「投資信託4.0%」「株式・出資金6.5%」は現金化が容易なため、約1000兆円の流動資産を持っていることになる。
ニッポン株式会社の企業統治
ニッポン株式会社の企業統治は以下のようにたとえられる。
- 株主:国民(ひとり1票)
- 株主総会:選挙
- 取締役:国会議員
- 取締役会:国会
- CEO(最高経営責任者):内閣総理大臣
- 各事業部:省庁
- 執行役員:国務大臣
- 副執行役員:政務次官
- 会社:政府
- 部長:事務次官
- 課長:局長・審議官
- 係長:課長・課長補佐
- 子会社:地方自治体(社員:地方公務員)
民間企業との違い
民間企業と比べたニッポン株式会社の特徴は以下の通り。
- 自ら法を作り、執行する
- 警察・軍隊などの暴力装置を合法的に保有している
- 法にしたがって自らの意思を強制することができる(徴税など)
- 成果を数値化しにくい(国民の幸福)
- 各事業部は予算消化率と予算の拡大を競う
- ほとんどが独占事業
- 終身雇用制
- 賃金体系が年功序列
- 幹部社員には再雇用(天下り)が保証
- 入社時に特殊な試験に合格した社員以外は管理職になれない(キャリア採用)
- 人事制度に横の交流がない
- 事業部長(事務次官)が人事権を持っている
- 経営陣は外部の人材で、実務部門と全く切り離されている
国家はコストを最大化する
上に挙げた「成果を数値化しにくい」ことから、国家(自治体)は無限大に組織を拡大しようとする自己増殖性という特徴を持つ。公的部門の活動予算は、税金など民間部門の市場活動によってもたらされるため、公的部門が大きくなりすぎると民業圧迫になる。
ここから、内閣総理大臣の最も重要な仕事は、政府部門の自己増殖を抑制し、民間部門に自由に生きる場所を与え、経済的活力をよみがえらせることだという政治的主張が生まれた。これが、レーガンやサッチャーの推進した「小さな政府」論である。
公務員は市民社会の敵である
こうした政治的主張を先鋭化させて、1980年代以降のアメリカを席巻したのが「リバータリアニズム」である。リバータリアンは絶対自由主義、共生的自由主義などと訳される。彼らの主張は「公務員は市民社会の敵である」というものである。
これは、公務員がちゃんと仕事をすればするほど公的部門が自己増殖し、民間部門(市民社会)が窒息死していくというものである。それは、公務員が無能だったり、悪人だったりするからではなく、公的部門に内在する自己増殖のメカニズムによって、必然的にそうなるほかはないのである。
一人ひとりが経済的独立を獲得するために
「現在のサービスを維持したままで公的部門を縮小しろ」そんな主張は通らない。ジョン・F・ケネディが国民に向けて言ったように、市民全員が公務員としての気概を持つことが必要である。
Ask not what your country can do for you―ask what you can do for your country.
国があなたのために何ができるかを問うのではなく、あなたが国のために何ができるかを問いなさい
最後に
公務員が悪いのではない。制度が悪いだけ。国家公務員制度改革により、①国の行政機関の内外から「国家戦略スタッフ」および「政務スタッフ」を登用する、②幹部職員人事の内閣による一元管理、③国家議員と官僚の接触の透明化、④キャリア制度の廃止と新しい採用方法の導入、⑤「内閣人事局」の設置、早期に実施せよ(古賀茂明×高橋洋一)。
次回は、経済的独立、教育費、少子化問題 人生設計の基礎知識についてまとめる。
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