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ブライアン・スケリー 海中に広がる美しい世界とそこで起きている惨劇

「海はスーパーマーケットではありません」スケリーは語りかける。ここでは、90万ビューを超える Brian Skerry のTED講演を訳し、海中の美しい世界に起きている惨劇について理解する。

要約

写真家のブライアン・スケリーは海上、そして海中から海の恐怖と魅力にレンズを向けてきました。海洋生物達の驚きに満ちた写真を共有することで、目に映るイメージがどれほど人を動かす力を持っているかを示します。

Brian Skerry is a photojournalist who captures images that not only celebrate the mystery and beauty of the sea but also bring attention to the pressing issue which endanger our oceans.

 

1 子ども時代に海に恋した

今日はナショナルジオグラフィック誌の 写真家の仕事を通して見た 海のストーリーをいくつか お見せしたいと思います。 海中写真家とフォトジャーナリストになったのは 子ども時代に 海に恋したからだと思います。 海の中で見た驚くばかりの 素晴らしい生物とその興味深い習性について 語りたいと考えていました。 30年もやってきて 30年間、海を探検してきても、 そこで出会う信じられない出来事に 驚きを失った事はありません。 しかし最近になって、海中で頻繁に 恐ろしい事を見かけるようになりました。 多くの人が知らないような事をです。 私はその問題を正しく伝えるために 写真を撮り続けました。 皆さんに海中の素晴らしい世界と 今そこで何が起きているのかを見て頂きたいと思います。

 

2 毎年何十万頭ものアザラシが殺されている

ナショナルジオグラフィックでの初めての記事が 環境問題を自然記事に 持ち込もうと思った最初の記事で 提案したのはタテゴトアザラシについての記事でした。 最初製作したかったストーリーは アザラシが毎年数週間、カナダ北極圏から セントローレンス湾に渡り、求愛して交尾し 出産することに焦点を置いた 簡単なものでした。 これらは風と潮によって 動かされる流氷に 全てが左右されます。 私は海中写真家なので このような零下29度の水中を初めて泳ぐ 子アザラシの写真を使って 海の外と中からこの記事を書きたいと思っていました。 しかし、取材が進むにつれ 無視できない二つの大きな環境問題に気付きました。 一つは、生まれて8-15日のアザラシが 相次いでハカピク(アザラシ狩りの道具)で狩られていることです。 毎年何十万頭ものアザラシが殺されています。 これは、海洋哺乳動物において 地球上で最大規模の虐殺です。

 

3 地球温暖化によって氷が失われている

これはこれで心配ですが タテゴトアザラシにとって最大の問題は 地球温暖化によって氷が失われていることです。 これは、アザラシのシーズンに撮影した セントローレンス湾の航空写真です。 この写真には氷がたくさん写っていますが 昔は見えなかった海面もそこかしこに見えています。 そして氷はとても薄くなりました。 子アザラシには母親にケアしてもらうために 頑丈で安定した氷の大地が必要です。 アザラシは生まれてからわずか12日で一人立ちします。 しかし、12日目を待たずに 海に落ちて死んでしまいます。 これは、まだへその尾が残る 生後5-7日の子アザラシが 薄い氷を踏み外し 海に落ちてしまった写真です。 母親が息をさせようと、足場に戻そうと 必死に我が子を押し上げています。 撮影を始めてからこのような事態は年々増加しています。 昨年、セントローレンス湾のある地域では 子アザラシの死亡率は100%だったと聞きました。 明らかに、多くの問題が悪化しています。 この記事はナショナルジオグラフィックのカバーストーリーとなりました。 結果、かなりの注目を集めることになりました。

 

4 過去50-60年間に大型魚の90%が消えた

このことから、海で起きている他の問題についても 取材してみようと思い 魚類の危機についての記事を提案しました。 理由は、海洋生態がここ30年で 著しく退化たのを目の当たりにしていることと 科学誌で過去50-60年間に 大型魚の90%が消えた事を 読んだからです。 大型魚とはマグロやマカジキ類、サメ類のことです。 私はその数字に目を疑いました。 これは各メディアで一面を飾るんじゃないかと思っていましたが そうはなりませんでした。そこで私は 違った角度で記事を書いてやろうと思いました。 世界中の海で、生物達に何が起きているのかを 戦争写真のようなショッキングな写真を使って 読者達に見せてやろうと 思い付きました。

 

5 過去には重さ1トン、30歳のマグロも存在した

初めの頃の記事は読者に 自分達が食べている海の生物に 感謝する気持ちを持ってもらおうと思って書いていました。 レストランでステーキをオーダーするとします。 ステーキはどこから来たか、皆知っています。 鶏肉をオーダーしても、鶏が何なのか皆知っています。 しかし、クロマグロの刺身をオーダーして それがどれほど素晴らしい生物かご存知でしょうか? 彼らは海のライオンや虎にあたります。 実際、とてもユニークな生き物で 似ている動物は存在しません。 クロマグロは赤道から 北極や南極まで泳ぐことが出来ます。 そして1年に地球を2周する事ができます。 もし過去の乱獲がなかったら、マグロは寿命まで生き延び 重さ1トン、30歳のマグロも存在したでしょう。 しかし、実際には余りに獲り過ぎたために クロマグロの数は世界的に減少してしまいました。

 

6 海はスーパーマーケットではない

これは数年前に撮った写真で 築地市場のセリの様子です。 このように毎日、マグロやクロマグロは 数多くの倉庫に 無残に積み重ねられています。 歩きまわって写真を撮り続けている内に 海はスーパーマーケットではないぞ、と感じました。 将来、深刻な状況になる事を考えつつ 捕らなければければなりません。

この記事では漁業の方法についても いくつか見てもらいたいと考えていました。 世界中で使わる底引き網はその一つです。 これはメキシコでエビ漁に使われる小さい網ですが 底引き網の仕組みは大体どこも同じです。 中央に大きな網があり 両端に金属のドアが付いています。 この道具を海の中で引きずると 水との抵抗によって ドアが開きます。 網の上部に浮きがついており、底にリードラインがついています。 そして今回はエビをとるために海底を引きずります。 想像がつくかと思いますが、エビ以外の生物も根こそぎ捕えてしまいます。 そしてこれは海底の貴重な生態系 他の動物にとって不可欠な環境、例えば海綿動物や 珊瑚のような環境も破壊することになるのです。

 

7 夕食に出てくるエビの本当のお値段

これは一時間底引き網漁を行った後に撮った エビを手にする漁師の写真です。 捕えたエビは7、8匹くらいでしょうか。 船の上の魚たちは一緒に網に入ったものです。 この魚たちはこの漁で死んでしまいますが 売り物にはなりません。 7、8匹のエビと漁で死んだ 約4キロの魚たちの命 これが夕食に出てくるエビの本当のお値段です。 もっと視覚に訴えるため、海にシャベルで 魚の死体を投げ捨てる男性を 漁船の下から撮影しました。 この死の滝のような写真が撮れました。 サカタザメや、エイ、ヒラメ、フグ 1時間前まで海の底で 元気に生きていた魚たちが 今ではゴミとして投げ戻されています。

次に、サメ漁に注目したいと思いました。 今、地球上で毎年 一億匹以上のサメが 殺されています。 写真を撮影する前に 死んだサメの写真をどう撮れば 読者の共感を呼べるだろうかと悩みました。 今でも、唯一良いサメは死んでいるサメと 考える人は大勢いると思います。 ある朝、海に潜った私は刺し網に捕まり 死んで間も無いオナガザメを見つけました。 その胸びれや目はまだ生きているように生々しく 一瞬、はりつけの刑と重なりました。 この写真はナショナルジオグラフィックで 漁業特集のトップ写真となりました。 読者の皆さんに一億匹のサメ問題について 注目するきっかけになっていれば嬉しく思います。

 

8 バハマの魚達はかなり健康的

私はサメが大好きなので、ちょっとこれは病気かも知れませんが サメ保護の必要性を論じる方法の一つとして もっと明るいサメの記事も書きたいと思いました。 そのためにバハマに向かいました。 バハマは世界でも数少ない サメが元気に生きられる場所です。 バハマの魚達はかなり健康的です。 その主な理由は、現地政府が数年前に はえ縄漁を違法としたからです。 通常本誌で取り上げないような種類の魚を何種か お見せしようと、いくつかのロケーションに行ってきました。

その一つはタイガービーチという場所で 北バハマに位置し、イタチザメが 浅瀬に生息しています。 これは低空飛行して撮った写真で ダイビングボートと、そのすぐ後ろで泳いでいる 12匹くらいの大きなイタチザメです。 この記事ではサメを怪物のように描写することは 絶対にしたくありませんでした。 過度に恐ろしく、攻撃的に見せたくありませんでした。 この写真、15ftか 14ftくらいでしょうか この美しい雌のイタチザメの写真で 目標を達成できたんじゃないかと思います。 このサメは小さなバージャック達と泳ぎ 私のフラッシュで顔に影を作りました。 穏やかで、それほど恐ろしさは感じさせず この動物に敬意を払った写真が撮れたと思います。

 

9 シュモクザメもネムリブカもほとんど死滅している

次に、7-10年ほど前までほとんど フィルムに収められたことのなかった シュモクザメについて 取材を行いました。 シュモクザメは単独行動をする動物です。 フロリダとバハマで、科学的に情報不足とされており このサメについては まだほぼ何も分かっていません。 どこから来てどこへ行くのか どこで交尾し、出産するのかまだ解明されていません。 過去20~30年の間で、大西洋に 生息するシュモクザメの80%は死んでしまいました。 このサメについて解明されるより早く、死滅していっているのです。

これはネムリブカの写真です。 ネムリブカは知る人ぞ知る世界で4番目に 危険な動物とされています。 しかし、ほとんどの生息地で 98%が死滅しました。 これは外洋の深海に住む動物で 私達は海底で作業しないため サメ観察用ケージを用意し 友人のサメ生物学者ウェス・プラットが中に入りました。 この写真を撮った写真家はケージに入っていませんね。 どうやら生物学者は写真家より少し利口なようです。

 

10 ゴルフリゾート開発、アパート開発の影響

サメのお話の最後に サメの赤ちゃんの成長に注目したいと思います。 バハマのビミニ島で レモンザメの子を取材しました。 これはレモンザメの子の写真です。 安全な環境を提供するマングローブの森で 最初の2,3年を過ごします。 これはちょっとサメらしくない写真かと思います。 いつもとは違った印象です。 25-30cmくらいの大きさの サメが浅瀬で泳いでいます。 ここはサメにとって、リーフに出られるようになるまでに成長する 2、3年の間最も大事な生息地なのです。 ビミニを後にした私は この生息地がブルドーザーでならされて ゴルフリゾートになる事を知りました。

その他にも、別の脅威により 危機に晒されている代表的な種に スポットを当てた記事が 何本かあります。 その中のひとつがオサガメのドキュメンタリーです。 海ガメの中でも最大種で、広範囲に生息し 潜水に優れており、カメの最古の種でもあります。 一匹のメスが月灯りの中 海の中からトリニダード島に ゆっくりと這い上がってきます。 この動物の血統は1億年前まで遡ります。 上陸し、卵を産み ティラノサウルスが走り回るのを 見ていた時期もありました。 今では這い上がるとアパートが見えます。 しかし、その驚くべき寿命にもかかわらず 絶滅の危機にさらされています。 この写真を撮影した太平洋では 過去15年の間に 90%が死滅しました。

 

11 人為的ストレスには対処できない

この写真では、カメの子は殻を破り 生まれて初めて海水を味わい 長く危険な旅を始めようとしています。 彼らの中で大人に成長できるのは たった1000分の1です。 これは、浜辺で待ち受けている 鷹や、沖にいる肉食魚などの 捕食動物によるものです。 大自然はそれを償うように メスは多数の卵巣を持っており 困難を乗り越えられるように出来ています。 しかし、人為的ストレスには対処出来ません。 夜、オサガメを刺し網で捕獲するこの漁は 人為的ストレスのひとつです。 私は海に飛び込み、この写真を撮影しました。 そして、漁師の許可を得た上で カメを網から切り離し、自由にしてやりました。 しかし、毎年数千頭のオサガメには 今回のような幸運はありません。 彼らの未来に危機が迫っています。

 

12 都市特有の汚染に犯されているタイセイヨウセミクジラ

もうひとつ、特別な生き物として セミクジラも記事にしました。 約100万年前 セミクジラは地球上に 一種類しか存在していませんでした。 しかし陸地の移動によって海は隔離され この種は分断されました。 そして、今日の二種類に分かれました。 ここに見えるミナミセミクジラと タイセイヨウセミクジラです。 これはフロリダ沿岸の親子の写真です。 二種類とも捕鯨により 一時は絶滅寸前にまで追いやられましたが ミナミセミクジラは大分回復して来ました。 なぜなら彼らは人間から 遠く離れた所に住んでいるからです。

タイセイヨウセミクジラについては 現在、最も絶滅に近い生物に挙げられています。 北アメリカ大陸の東沿岸に生息するため 都市クジラと呼ばれ 都市特有の汚染に犯されています。 これは夕焼けのフロリダ沿岸で頭を海から出している写真です。 背後には火力発電所があります。 都市クジラは海に流される毒素や 薬物に対応しなければならず 生殖能力に影響が出ている可能性もあります。 漁の仕掛けにぶつかってしまう時もあります。 これはセミクジラの尾びれです。 白いマークは自然にできた物ではなく 仕掛けに絡まってできた傷です。 72%のセミクジラがこのような傷を持っていますが 多くの場合で、ロブスターやカニ捕りの仕掛けが絡まったままになり その場合、ついには死に至ります。 他には船にぶつかるという問題もあります。 カナダのノバスコシアで船と衝突した クジラの写真です。 浜に引き上げ、死亡原因が 本当に船との衝突だった事を 証明するための解剖を行います。 これら全てがこの種の増加を妨げており タイセイヨウセミジクラは絶滅寸前なのです。

 

13 残された物を大事に保存していくことはできる

汚染された環境のタイセイヨウセミクジラと比較しようと 10年程前に見付かったばかりの 自然のままのミナミセミクジラを取材するため ニュージーランドの南極圏に接するオークランド諸島に向かいました。 行ったのは冬でした。 人間と接した事の無い動物であり 私が初めて会う人間だったかも知れません。 水中でクジラと触れ合い 彼らの好奇心の強さに驚かされました。 海底21メートルのところに立っている助手のそばを 長さ13m、重さ70tもある バスのような、すばらしいクジラが 泳いでいきます。 彼らは完璧な姿をしていました。 健康で、太っていて、がっしりしていて、漁具による傷もなく まさにあるべき姿でした。 入植者が1620年に マサチューセッツのプリマスロックに上陸した時 セミクジラの背中を歩き ケープコッド湾を渡れたと聞いたことがあります。 今日、そのような光景を見る事は叶いませんが 残された物を大事に保存していくことは出来るかも知れません。

 

14 海はもとの自然の平衡状態に戻った

希望の話で締めたいと思います。 海洋保護についてのストーリーで 魚の乱獲、魚類の危機の 解決法となるかもしれません。 私はニュージーランドで取材を行うことにしました。 ニュージーランドは海を守る面で 比較的進んでいるからです。 このストーリーは3つの事に関係しています。 生物の個体数と多様性 そして回復力です。 ニュージーランドのリーに ゴート島という保護区があります。 まずはここを取材しました。 1975年、初の海洋保護区に指定された時には ゴウシュウマダイなど、商業的価値から捕り尽くされ 絶滅仕掛けた魚達が何種か回復してくれるのではないかと期待をしていた、と 現地の科学者達が語ってくれました。 結果として、魚達は回復しました。 そして同時に、予期しなかった事が起きました。 例えば、この魚は ウニを食べます。 この魚が消えてから 海底はウニで 埋め尽くされていました。 魚が戻ってきてから ウニの数がコントロールされ 浅瀬に海藻の森ができるまでになりました。 ウニは海藻を食べます。 魚がウニをコントロールした事によって 海はもとの自然の平衡状態に戻ったのです。 誰も教えてはくれませんが 100か、200年前はこんな海だったのではないでしょうか。

 

15 写真を撮るのは海を守りたいから

次に、ニュージーランド内で他の地方の 美しくてか弱い保護区に行ってきました。 ウミエラが発見されたフィヨルドランドなどです。 小さなブルーコッドが一筋の色を残しながら泳いでいます。 ニュージーランド北部の 水温が少し高めの海に潜りました。 そこで、この大きなアカエイらしきエイが 海中峡谷を泳ぐ写真を撮りました。 海綿動物の上を這っている 小さなウミウシのような動物から カワハギに至るまで この場所の生態系は とても健全なようです。 カワハギは海底を掃除し、新しい生命を促進するので 生態系における非常に重要な生き物なのです。

この写真で締めくくります。 ある嵐の日、海底に横たわり 魚の群れが側を泳いでいくのを 楽しみました。 そこは保護区となり まだ20年しか経っていません。 長年ダイビングしてきた地元ダイバーの話を聞くと 今の海の状態は 60年代より良いと言っていました。 それは保護されたために 魚たちが戻って来たからです。つまり、この話から明らかな事は 海はある所までは寛大で、回復する力がありますが 私たちはしっかりと管理せねばなりません。 私が海中写真家になったのは 海に恋したからです。 写真を撮るのは、海を守りたいからです。 今からでも遅くはないと思います。ご清聴ありがとうございました。

 

最後に

毎年何十万頭ものアザラシが殺されている。地球温暖化によって氷が失われている。過去50-60年間に大型魚の90%が消えた。過去には重さ1トン、30歳のマグロも存在した。夕食に出てくるエビの本当の値段は、7、8匹のエビと漁で死んだ約4キロの魚たちの命。バハマの魚達はかなり健康的。写真を撮るのは海を守りたいから。海はスーパーマーケットではない

和訳してくださったyusi SHANG 氏、レビューしてくださった Ryo SUZUKI 氏に感謝する(2010年4月)。

海中散歩


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