「海洋における原油、プラスチック、放射能の共通点は、人が引き起こしながらも自然の力にコントロールされていることです」シーザーは語りかける。ここでは、70万ビューを超える Cesar Harada のTED講演を訳し、流出原油を除去するための新しいアイデアについて理解する。
要約
TEDシニアフェローのシーザー・ミノル・ハラダが2010年に起きたメキシコ湾原油流出事故の破壊的な影響について耳にしたとき、彼は理想の仕事を辞めてニューオーリンズに引っ越し、原油を除去するもっと効率的な方法を開発しようと決めました。彼が設計した高い柔軟性と機動性を持つボートは広い範囲を素早くきれいにできます。そして彼はそれで利益を得ようとするよりは、設計をオープンソースにする道を選んだのです。
TED Senior Fellow Cesar Harada aims to harness the forces of nature as he invents innovative remedies for man-made problems like oil spills and radioactive leaks.
1 海洋における原油、プラスチック、放射能の共通点
海洋における 次の3つの共通点は何でしょう? 原油 プラスチック 放射能。一番上はメキシコ湾原油流出事故です。何百万バーレルという原油が メキシコ湾に 流出しました。真ん中は海に集まる 何億トンというプラスチックのゴミです。一番下は 福島の原発から 太平洋に漏れ出した 放射性物質です。この3つの問題に共通しているのは 人によって引き起こされた問題ながら 自然の力にコントロールされていることです。私たちはこれに ひどいという思いを持つと同時に 希望も持つべきです。なぜなら 人間にこれらの問題を引き起こす力があるなら それを直す力だって あるはずだからです。
2 自然の力を生かすことができるか?
でも自然の力はどうすればいいのか? それこそ 今日私がお話ししたいと思っていることです。この人間が引き起こした問題を修復するために 自然の力をどう生かすことができるのか? メキシコ湾の事故があったとき、私はMITで流出原油除去技術開発の 責任者をしていました。そしてメキシコ湾に赴いて 漁師たちに会い彼らが作業する 劣悪な環境の話を聞きました。700以上のこのような小舟が 漁船から改造され作業しています。白い吸着物で オレンジの油を集めています。しかし除去できる原油は表面の3%足らずで 作業者の健康にも 大きな影響が出ています。
3 原油流出がどのように起きているのか研究した
私がMITで携わっていたのは非常に興味深い技術でしたが 極めて長期的視点の プロジェクトで とても高価なものになり 特許化もされるでしょう。私はもっと短期間で安価に 開発することはできないかと思い それはオープンソースだと考えました。原油流出はメキシコ湾だけの問題ではなく また再生可能エネルギーを使うべきだと思ったからです。それで私は理想の仕事を辞して ニューオーリンズに引っ越し 原油流出がどのように起きているのか研究しました。
4 帆走の技術を使って風に押し流される原油をタックしながら捉える方法
現在のやり方では 小さな漁船を使い 汚染された海を線のように掃除しています。同じ広さの原油吸着物を使うと 良さそうです。自然の性質に注意するなら 風上に向かう方が より多く吸着できるのが分かります。装置を多重にして 吸着物を何層にもすれば さらに多く取り除けるでしょう。しかし風や潮流や波に逆らって 大きな原油吸着装置を引っ張るのは非常に困難です。ものすごい力がかかるからです。シンプルなアイデアは 古くからある 帆走の技術を使って 風に押し流される原油をタックしながら 捉えるという方法です。これなら別に新技術は必要ありません。普通のヨットを使い 長くて重いものを引っ張らせてみました。しかしタックしていると 牽引力が失われ 方向も定まらなくなりました。
5 舵が前についた小さなヨットは高い機動性を持つ
それで舵を後ろではなく前につけたら もっとうまくコントロール できるかもしれないと考えました。それでこの舵が前についた 小さなヨットを作り 長くて重いものとして4メートルの帯を 引っ張らせてみることにしました。驚いたことに 14センチ足らずの舵で4メートルの吸着物を うまくコントロールできました。喜んだ私は このロボットで実験を続けました。ご覧のように 前に舵があります。普通は後ろにあります。やっていて これの機動性の高さに 驚きました。障害物を直前になってからよけることができます。通常のヨットよりずっと高い機動性です。
6 船全体が制御点で船の形を変えられる「プロテイ」
ネットでいろいろ公開し始めると 韓国の人たちがそれに興味を持ち 前と後ろ両方に 舵の付いたヨットを作り 互いにやり取りするようになりました。改善はごくわずかで 逆にバランスが悪くなりましたが その後 制御点をもっと増やしてはどうかと考えました。船全体が制御点で 船の形を変えられるとしたら?それで・・・(拍手)ありがとうございます(拍手)。そうしてプロテイが生まれました。制御のために船体の形を すっかり変える 史上はじめての船です。その帆走性能は 通常のヨットよりもずっと優れています。サーフィンするように舵を切り 風上に向かう場合も効率的です。風が弱い低速時に 機動性が大きく向上します。ここでジャイブします。帆の位置に注目してください。船体の形が変わるので 前帆と主帆が風に対して 違った位置になります。風を両面で捉えられるのです。長くて重いものを引っ張るときには まさに望ましいことです。牽引力や方向を失わずに済みます。これを実用レベルに持って行けるものか 知りたくて 大きな帆のある 大きな船体を作りました。船体は空気で膨らませたごく軽量なもので 接水面も小さく 大きなサイズ・パワー比が得られます。
7 やるべきことはまだたくさんあった
その後 システムを 自動化できるか見るため 同じものに骨格を付けて うまく動かせるかやってみました。同じ空気注入方式を使い テストへと持ち出しました。これはオランダで行いました。カバーもバラストも付けずに水に浮かべ うまく動くかやってみました。それから制御用にカメラを付けましたが 下部にもっと重みが 必要なことが分かり 作業場に持ち帰って カバーを付け 電池と遠隔操作装置を載せてから 水に浮かべて 様子を見ました。ロープを引かせ うまくいくことを望みました。そしてうまくいきました。でもやることが まだたくさんありました。この小さな試作機でうまくいきそうなことは 分かりましたが やるべきことはまだたくさんあったんです。
8 私たちがやっているのは帆走技術の進歩を加速させること
私たちがやっているのは帆走技術の進歩を 加速させることです。後舵を前舵に変え 2つ舵から多数舵 変形する船体へ 先へ進むほど デザインはシンプルで 可愛らしいものになっています (笑)ここで魚をお見せしたのは 魚とすごく違うからです。魚はこのように体を動かして進みますが 私たちの船は 風の力で進みながら 船体で軌道を制御します。このTEDのステージで プロテイ8号を初お披露目します。最新のものではないのですが デモをするのにちょうど良いので。画面で示しているのは 帆船の軌道をより良く制御できる 可能性です。風を捉えられずに立ち往生する ことがありません。いつでも風を 両面で受けられます。帆船には新しい性質です。船体をこの方向から見ると 飛行機の羽根の断面のようです。この方向に進むとき 上向きの力が働いて離陸します。同じシステムを垂直にして 折り曲げ この方向に進むなら そちら側に曲がると思うでしょうが 十分に速く進んでいるなら 側方揚力と呼んでいる力が働いて 風上や風下に進むことができるんです。
9 プロテイは船体のデザインによって抵抗を小さくできる
また別の性質ですが 普通のヨットでは 真ん中に垂下竜骨と 後ろに舵があって それが水の抵抗と 水流の乱れを 引き起こします。しかしプロテイには 垂下竜骨も舵もないので この船体のデザインによって 抵抗を小さくできると期待しています。もう1つ 船はあるスピードに達すると 波にぶつかって 水面を打ち 前進する力が失われます。しかし流れに乗るなら 力で進もうとするのでなく 自然のパターンを見て流れに従うなら 環境的なノイズや 波の力を吸収して 前進する力を 保つことができます。こうして 長く重いものを引っ張る 効率的な技術を 開発することができたわけですが もしそれを必要とする人の手に渡らないとしたら 技術に何の意味があるのでしょう?
10 私たちが本当に望んでいるのはイノベーションが継続的に起きること
通常の技術はこのように開発されます。誰かが面白いアイデアを考えつき 他の科学者や技術者が それを上のレベルへと引き上げ 理論を作り あるいは特許を取って どこかがその製造と販売をする 独占契約を結んで 最後に買い手がそれを買い 我々としては 良いことに使われることを期待するだけです。しかし私たちが本当に望んでいるのは イノベーションが継続的に起きるということです。発明家や技術者 それに製造者 みんなが同時に働くということですが 交わることなく並行して進むとしたら何も生み出さないでしょう。本当に必要な姿は逐次的でも 並行的でもありません。イノベーションのネットワークです。私たちが今やっているように みんなが同時に働くということですが それはみんなが情報を共有しようと決めて はじめて実現できます。オープンハードウェアはまさに そういうものです。競争を協力で置き換えるのです。新製品を新しいマーケットに変えるのです。オープンハードウェアとは何でしょう? 基本的にはライセンス 知的所有権のあり方です。誰もが ただで使い 改良し 配布することができます。その代わりに求められるのが プロジェクト名のクレジット表記を付け 改良したものをまたコミュニティで共有する ということです。とてもシンプルな条件です。
11 一番重要なのは可能な限り頻繁に水の上で試作機を試し、早く失敗してそこから教訓を学ぶこと
私はこのプロジェクトを ニューオーリンズのガレージで 1人で始めましたが 情報を公開し共有したいと思い クラウド資金調達プラットフォームのKickstarterで募集を始め ひと月ほどで3万ドル集まりました。そのお金で世界中から若い技術者を集め オランダのロッテルダムに 工場を借りました。一緒に学びながら 設計し ものを作り プロトタイピングしました。一番重要なのは可能な限り頻繁に 水の上で試作機を試し 早く失敗して そこから教訓を学ぶということです。韓国のプロテイメンバーです。右側のはメキシコのチームが提案した 複数マストの設計です。このアイデアがニューヨークの ガブリエラ・レヴァインを触発し 彼女はその試作機を作ることにしました。そして その過程を 発明共有サイトの Instructablesで公開しました。1週間もせずに アイントホーフェンの工科大学のチームがそれを作り もっとシンプルにした 設計を公開しました。彼らもInstructablesで公開し 1週間もせずに 1万ビューを達成し たくさんの新しい友達を得ました。私たちも若い人たちといっしょに 複雑ではないシンプルな技術に取り組んでいます。それからこの メキシコの恐竜みたいな年配の人たちとも (笑)
12 環境なくしては何もない
プロテイは今や船体変形による 帆走技術のためのイノベーションの 国際的ネットワークとなりました。私たちを結びつけているのは 「ビジネス」という言葉の世界で一般的な理解と それが本当はどうあるべきかという共通の意識です これが今日広く見られるあり方です。ビジネスでは最も重要なのが 利益を上げることで そのために技術を使い 人間はそのための 働き手であり 手段であり 環境は通常優先度が低く 環境保護を装って高い値段を付けるための 方法でしかありません。私たちがやろうとし 信じているのは これが世界の本来のあり方であり 環境なくしては何もないということです。人間があって互いに守り合う必要があり 私たちは技術の会社で 利益はこれを実現するためにあります (拍手)どうもありがとうございます (拍手)これが世界の本来のあり方であり これが選ぶべき優先度であると 理解し認める勇気を持つなら 環境技術を開発するために オープンハードウェアを選ぶのは当然のことです。情報を共有する必要があるからです。
13 今後は1メートルくらいのリモコンおもちゃを作りたい
今後の計画ですが、このような 小さな1メートルくらいの リモコンおもちゃを作りたいと思っています。それをアップグレードして Androidと Arduinoマイクロコントローラーで リモコン部分を置き換え 携帯やタブレットから 操作できるようにします。それから6メートルのものを作って 最大性能を確認したいと思っています。すごく高速なやつです。想像してみてください。柔軟な魚雷の中に横になって 高速で帆走し 足で船体の形を制御しながら 手で帆を操ります。それが私たちの開発しようとしているものです (拍手)
14 海をもっと理解し、守りたい
それから人間なしでやります。たとえば放射能測定をする場合とか 人間を乗せたくはないですよね。バッテリー モーター マイクロコントローラー センサーを載せます。これは私たちが夢見ていることです。いつか流出原油を除去したい。あるいは海にある プラスチックのゴミを回収したい。あるいはマルチプレーヤービデオゲームの ゲームエンジンでコントロールされた たくさんのロボットで 珊瑚礁の監視をしたい。あるいは漁業の監視をオープンハードウェア技術を使って 海を もっと理解し 守りたいというのが私たちの願いです。ありがとうございました (拍手)
最後に
舵が前についたヨットは高い機動性を持つ。船全体が制御点で船の形を変えられる「プロテイ」。シーザーたちがやっているのは帆走技術の進歩を加速させること。オープンハードウェアは、新製品を新しいマーケットに変える。環境なくして何もなし。
和訳してくださった Yasushi Aoki 氏、レビューしてくださった Yuki Okada 氏に感謝する(2012年6月)。