前回は、国政進出、復興、法案作成、教育、公務員制度改革 維新八策の真相についてまとめた。ここでは、橋下徹、実績、弱者救済、文化、公開主義 大阪維新の会の真相について解説する。
20 論理と公開性を重んじるポピュリスト
独裁というより市民重視のポピュリズム
橋下市長は独裁というより、市民重視の立場を取る、いい意味でのポピュリズムに近い。マニフェストを出し、選挙で民意を問う。一定以下のことについては白紙委任状をもらっているとしか言いようがない、スタンスだろう。「言うことがコロコロ変わる」と批判する人もいるが、自分の考えが変わるわけではなく、方法論が変わるだけである。
小泉元首相と似ている点、異なる点
小泉元首相と似ている点は政治手法とマスコミの活用である。政治家である以上、最後は選挙で民意を問う、という姿勢を全面に打ち出している。また、小泉元首相は抵抗勢力、橋下市長は公務員労組、学者や評論家を仮想敵に仕立て、両者ともマスコミを上手く使っている。
反対に異なる点は、小泉元首相は仕事においては寡黙だが、橋下市長は饒舌で集中力も高い。
公開性、論理性、ガバナンスを重視
橋下市長はロジック、ガバナンス(統治機構)を重視する。例えば、教職員が学校行事で「君が代」を起立して斉唱するのを拒んだのを批判し、口パクをチェックしたということが報道された。市長はこれを組織マネジメントの話だと語った。
大阪府教育委員会は2002年から入学式、卒業式での「君が代」起立斉唱を教育現場に指導してきたが、現場が言うことを聞かないため職務命令まで出した。教育行政における最高意思決定機関で決定されたことを教員が無視していいのか、というのが橋下市長の言い分である。教育委員会がそのような指導をできるのは、最高裁で国旗の掲揚、国歌の斉唱は合憲であるという判例が確立しているからである。
21 スピードと実行力、実績は評価できる
府知事就任2年目に赤字財政を黒字に転換
橋下氏は府知事時代、就任2年目に赤字財政を黒字に転換した。大阪府は積立金を年数百億円取り崩してきたため、知事就任時には5000億円ほどの積立不足が生じており、数年後には財政再建団体の一歩手前に陥るという資産もあった。しかし、職員の人件費を削減するなど徹底的なコストカットにより、100億円の収支改善目標を達成している。そして、4年間で府債を5500億円以上返済し、10億円に満たなかった貯金を800億円に増やしている。
国から借金を押しつけられた
ところが、大阪府の借金が増えていると指摘する人がいる。それは臨時財政対策債(臨財債)が増えているのだ。臨財債とは、地方交付税において、総務省が交付したい額と税源との差(不足分)を補うために、国から地方に割り当てられる借金である。以前は交付税特別会計という形で国がお金を借りて調達していたが、議論の末、地方が自ら借金をすることになった。
自治体の努力ではどうすることもできないので、本来ならば地方交付税はいらないと言いたいが、現行の制度ではそれもできない。それが税源を移譲してほしい、という話につながっている。
私立高校無償化で教育を重視
橋下氏は府知事時代から教育にも力を入れている。大阪府の年収610万円未満の世帯は私立高校の授業料が無償、800万円未満の世帯は年10万円の授業料で通うことができる制度をつくった。その結果、高校生のいる世帯の7割が授業料をほとんど気にせずに自由に学校を選べるようになっている。
大阪府の犯罪発生率、失業率、生活保護率の高さを危惧しており、問題の根本として教育改革を行ったのである。また、警察にも予算をつけ、街頭犯罪やひったくりを厳しく取り締まるなど、治安の回復にも成果を上げている。
22 弱者は救済、既得権者には強硬姿勢で挑む
職員の給料は削り、教育、福祉にお金をかける
橋下市長は一定以上になると競争主義だが、弱者は救済する。例えば、大阪府では障害のある子どもたちの支援学校増設が凍結されていたが、これを4校増設。被虐待児を保護する一時保護施設の増設、府立成人病センターの立て替えも決めている。
無秩序な規制強化は新たな利権の温床になる
2012年4月、関越自動車道で大型バスの痛ましい死亡事故があったが、その際マスコミでは規制緩和が遠因であるかのような話が出た。しかし、規制緩和は免許制から認可制に変更しただけであり、安全基準は同一である。免許制と認可制の違いは、需給調整条件があるかどうかである。規制緩和をしたのは2002年だが、バスの料金が下がっただけで、事故率は変わっていない。
大きな問題は、運転手が居眠りをしてしまうような労働の慣行があること、また防壁とガードレールがずれていたためにバスが防壁に突っ込み、死亡者を増やしたことである。国交省の中の旧運輸省側はバス会社が悪いといって管理責任から逃げているし、旧建設省側は道路の管理責任を負うことをしていない。弱者対策といいながら、免許制にして既得権を擁護する方向に動いてはならない。
23 補助金で甘やかすことこそ文化の軽視
優れた文化を選ぶのは行政の仕事ではない
橋下市長の文化事業に対する考え方は「どれが優れた文化なのか、行政が判断するのはおかしい」というものである。「特定の団体に補助金を出すことこそ、文化を軽んじることではないか」として、団体の既得権を認めていることにすぎないと疑問を投げかけたのである。
例えば府知事時代にも、国際児童文学館、ワッハ上方、大阪センチュリー交響楽団にメスを入れた。国際児童文学館は利便性の高い場所に移し、財団法人による運営をやめて府立中央図書館の直営に。ワッハ上方は府の税金投入を年間4億円から1億円に削減。大阪センチュリー交響楽団は年間4億円の税金投入をやめ、20億円の基本財産を渡す代わりに自立を促した。
お金を出さないのではなく、出し方を正しくする
資金を交付することで団体が努力しなくなる可能性があり、そのほうが文化を軽んじることになるのではないか、という発想である。そこで、団体に補助金を渡すのではなく、住民にお金を回すというやり方もある。このやり方なら、行政が選んだ団体ではなく、住民が選んだ団体が生き残ることになる。
大阪府には2つの公立総合大学(大阪府立大学と大阪市立大学)があるが、東京とは4校あったのが首都大学東京1校にまとまった。東京が年間120億円の税金を投じているのに対し、大阪では2校で年間208億円が使われている。橋下市長はそれも集約すればいいと考えているようである。
24 ネットは公開の手段。会議もメールもすべて透明化
公開主義では勉強不足が露呈する
大阪維新の会の政治は部内の会議に至るまで、YouTubeで公開する。市役所の職員も、橋下市長自身も、取材するマスコミも大変である。勉強不足がばれてしまうからである。いろいろなものを透明化すれば、見る人が見たときにわかってもらえる。メールも複数の人へ同時に送信しているのである。
弁護士ならではの公開性の手法?
橋下市長の公開性は裁判から来ているのではないか。裁判は公開が原則であり、公開の場でいろいろな議論を戦わせるため、発言に論理性が求められる。例えば、大飯原発再稼働について政府は4大臣で相談して決めたというが、そのプロセスがオープンではないし、そもそも素人が決められるはずがないだろう。裁判なら、専門的なことについては鑑定人、専門家を呼んで解説してもらい、それをベースに議論するだろう。
マスコミとの談合もない
マスコミが橋下市長を嫌うのは、ぜんぶさらされるからである。基本的にマスコミは属人的な情報をもらって流すのがパターンだが、橋下市長はすべてが公開である。このやり方も、個々の利害関係者にあってはいけない、全部法定でやるというのが裁判のようである。
25 総理の資質は十分
「人に任せられる」という点でも資質はある
橋下市長は自分がやるべき仕事と、任せられることをきっちり分けている。どこに丸投げするかが重要であり、そこで政治家の資質が問われる。橋下市長は顧問に丸投げするが、その顧問を分身と捉え、顧問のミスは自分が責任を負うと考えているだろう。
維新の会には「自由競争の思想」になじむ人が多い?
大阪維新の会のメンバーは、公開性と論理性のほかに、自身でビジネスをやっている人が多いというのも特徴である。お金をとって候補者を集めるという大阪維新の会のようなやり方は滅多にない。若くて事業家として身が立っている人、そうした自由競争の思想になじむ人が維新の会のコアではないだろうか。
総理を狙わない政治家などそもそもいない
橋下市長は公選制で総理に選ばれることを理想とするかもしれない。正式には憲法改正が必要だが、憲法改正なしでも方法はある。国会における首班指名選挙の前に模擬公選制のようなものを行い、そこで選ばれた人を選ばないわけにはいかないという雰囲気を醸成するのだ。
26 お金と主権を地方へ戻す日本の維新
あなたの地域の首長は頼りになりますか?
大阪にある「闇」は全国にあるだろう。橋下市長は大阪市職員の政治活動を禁止する条例を出したが、それは国が禁止しているからというのが彼のロジックである。市役所も、都道府県庁も、現職を応援する。そうした規制すべき側に既得権があったから見逃されてきたのである。
格差を受け入れ、地域に主権を取り戻す
道州制は、まず格差を明らかにするところから始めようという前提に立っている。日本人は平等主義が強いが、差があることを認めるほうが本当の意味で公平である。みんな平等になるなら、誰もがんばらないだろう。
道州制になれば、ダメな首長が率いる地域はジリ貧になっていくかもしれない。格差をいいと思うか、絶対まずいと思うかは価値観次第である。しかし、不公平を放置する「仕組み」は、どれも解消しなければならない。
最後に
政府は2012年6月19日の閣議で「地方公務員の政治活動を規制する条例で罰則を設けることは、地方公務員法に違反する」との答弁書を決定した。これは、市職員への政治活動を規制する罰則付きの条例案提出を、全国で初めて橋下市長が目指していることへの牽制である。
しかし、橋下市長は「閣議決定された答弁書に従う」とし、「地方公務員の地位から排除すれば足りる」という部分を引用して「罰則は設けないが、原則懲戒免職とする」と逆襲したのである。
既得権益の抵抗は大きい。しかし、橋下市長の公開性、論理性、ガバナンスの重視は、広く国民に支持されていくだろう。
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