papercutting

ベアトリス・コロン 紙から切り取る物語

「私は切り絵師です。はさみと紙を使って入り組んだ世界や街、国、天国や地獄を作ります」コロンは語りかける。ここでは、80万ビューを超える Béatrice Coron のTED講演を訳し、紙から切り取る物語について理解する。

要約

芸術家のベアトリス・コロンは、はさみと紙を使って、入り組んだ世界や街、国、天国や地獄を作ります。タイベックという素材を切って作った華やかなケープに身を包み、ステージを歩き回りながら、自身の創造の過程や、物語が断片からいかに成長していくのかを語ります。

Béatrice Coron has developed a language of storytelling by papercutting multi-layered stories.

 

1 私は切り絵師です

私は切り絵師です (笑) 物語を切り取ります。行うことはとても単純です。紙を手に取って 物語を思い浮かべます。スケッチをする時もあれば しない時もあります。イメージは もう紙の中にあるので 私がすべきことは 物語に含まれない部分を切り落とすだけです。私はすんなりと切り絵の世界に 入った訳ではありません。実のところ 紆余曲折がありました。

私は 生まれながらの 切り絵師ではありません。子どもの頃に切り絵をした記憶もありません。10代の時には デッサンをしたり絵を描いたりして 芸術家になりたいと思っていました。でも人並みな暮らしに対する反抗心もあり 全てを捨てて 長いこと いろいろと風変わりな仕事をしてきました。例えば 羊飼いや トラックの運転手 工場の労働者に 清掃員などもしました。旅行業界にも身を置いて メキシコで1年 エジプトにも1年 台湾には 2年住みました。その後ニューヨークを拠点に ツアーガイドになりました。また ツアーリーダーとして 中国やチベット 中央アジアなどを 行ったり来たりしていました。

 

2 シルエットは物事の本質を表せる

そしていつの間にか40歳近くになり アーティストとしての活動を 始めるべき時が来たと決意しました (拍手) 切り絵を選んだのは 紙は安価だし 軽くて いろいろな方法で 使うことができるからです。また私がシルエットという表現法を選んだのは それが視覚的にとても効果的だからです。それに シルエットは物事の本質を表すことができます。「シルエット」という言葉は 18世紀のフランスの財務大臣 エティエンヌ・ド・シルエットに由来します。彼が財政を大幅に削ったため 人々は 油絵を買う余裕がなくなり 肖像画は影絵 つまり”シルエット”で 済ませるようになったのです (笑) 私はさまざまなイメージを作り 編集し それらを組み合わせて作品を作ります。私の作品を見た人は – 例えばこの「エンパイア・ステート・ビルの36景」などです – 「作品集を作っているのですね」と言います。

作品集にはさまざまな定義があり いろいろな形を取ります。でも私にとって作品集とは 物語を視覚的に語るための 魅力的な成果物なのです。言葉は あってもなくても構いません。私は イメージも言葉も 大好きです。駄洒落が好きですし 無意識との関わりや 様々な言語の持つおかしさも好きです。引っ越す度に現地の言葉を学びましたが どれもマスターするには至りませんでした。私はいつも 別の言語で偶然似ている言葉や 同一の意味を持つ言葉を探しています。

 

3 巻物が便利なのは大きな絵を小さな机の上で描けるところ

おわかりのように 私の母国語はフランス語です。日常では英語を使っています。だから フランス語と英語で 同じ言葉を素材に いろんな作品を作って来ました。その一つが 「つづりの蜘蛛」です。つづりの蜘蛛は spelling bee (つづりコンテスト) の親戚です (笑) でも もっとずっとウェブとつながっています (笑) この蜘蛛は 二ヶ国語でアルファベットを紡ぎます。”活動的な建築”という言葉の単語を並べ替えれば 英語風にもフランス語風にも読むことができます。AからZまでのアルファベットを使って 両方の言葉で形容詞 名詞の同一なものを紡いでいきます。片方の言葉がわからない人にとっては 気軽な学習になります。

昔の本には 巻物という形をとるものがあります。巻物が便利なのは 大きな絵を 小さな机の上で描けるところです。そこから予期せぬ結果が生まれます。絵の一部しか見えないので とても自由な構造になるのです。私は このような窓もよく作品に取り入れます。表面的なところを超えてものを見るため そして 異なる世界を 見るためです。私はしばしば部外者でした。だから 物事の仕組みや何が起きているのか ということを知りたいのです。一つひとつの窓が イメージであり 私がしばしば再訪する 世界なのです。再訪するときに考えるのは 自分たちは何をしたいのか 自分たちは表現手法として どのような言葉を持っているのかという イメージや決まり文句のことです。

 

4 様々なものからひらめきを受ける

すべては仮定です。もし私たちが風船の家に住んでいたら? とても高揚感がある世界になるでしょう。地球への負担も大きく減って 軽い世界になるはずです。時に私は内側から物事を見ます。それがこの自己中心の街と その内側の輪です。別の機会には グローバルな視点を持ち 私たちの共通のルーツや それを 夢をつかむためにどのように使えるのかを探ります。共通のルーツはまた セーフティ・ネットとしても使えます。

私はさまざまなものから ひらめきを受けます。読むもの全て 見るもの全てから 影響を受けています。「死のビート」のような ユーモラスな物語も作っています (笑) 歴史的な物語もあります。これは「キャンディ・シティ」です。ありのままの 砂糖の歴史です。奴隷貿易から 砂糖の過剰消費まで取り上げています。中には甘美な話も含まれています。2010年のハイチ大地震のように ニュースを見て感情的になることもあります。自分の物語ではないことを作品化することさえあります。人々の暮らしや思い出 憧れについての話を聴き 心象風景を作品にするのです。彼らの歴史を作品につなぐことで 人生とその可能性に目を向けるための 場所を提供するのです。それらをフロイトの街と読んでいます。

 

5 人生でも切り絵でも全てはつながっている

作品全てについて話すことはできないので いくつかの作品を タイトルだけ紹介していきます。「慎みの街」 「電気の街」 「コロンバスサークルの上の狂気の成長」 「サンゴ礁の街」 「時の織物」 「混沌の街」 「日々の戦い」 「至福の街」 「浮遊島」 ある時 私が取り組んだ作品は 「Whole Nine Yards (彼方まで続く街) 」 その表現通り 9ヤード(約8メートル)の長さの切り絵です (笑) 人生でも切り絵でも 全てはつながっています。一つの物語が次の物語につながります。私はこの作品の物理的な フォーマットにも興味がありました。歩いて見なければならないからです。

私が切り絵と並行して行ってきたのが ランニングです。切り絵を始めた頃は作品が小さく 走るのも2,3マイルでした。大きな作品を作るようになると マラソンを走るようになり それから50キロ 60キロを走り 80キロを走るようになりました。ウルトラマラソンです。今でも走っている気がします。長距離切り絵師になるための トレーニングなのです(笑)

 

6 「地獄と天国」は自由意志論と決定論についての作品

走ることは大きなエネルギー源になります。これはニューヨークの ミュージアム・オブ・アーツ&デザインで行った 3週間の切り絵マラソンです。完成したのは「地獄と天国」です。2枚組の4メートルのパネルです。美術館では階を分けて設置されましたが 実際には連続した作品です。「地獄と天国」と名付けたのは 日々の地獄と日々の天国を表しているからです。その間に境界はありません。地獄に生まれ 大きな困難を乗り越えて 天国に行く人もいますし その逆ルートをたどる人もいます。それが境界というものです。地獄では無理やりに働かされ 天国に行けば翼をつけてもらえます。場合によっては 同じ行動をしても 天国に行くことも地獄に行くこともあります。つまり「地獄と天国」は 自由意志論と決定論についての 作品なのです。

切り絵では 描いた作品が構造物となるので 壁に縛られることがありません。これは「アイデンティティ・プロジェクト」という 作品集の展示です。自伝的なアイデンティティではなく もっと社会的なアイデンティティです。歩いて後ろに回り 自分に重ねてみることもできます。これらは 私たちの素性や 私たちが外向けに見せる アイデンティティの 異なる層のようなものです。

 

7 作品集とパブリックアート

これがもう一つの作品集プロジェクトです。実のところ この写真の中に2つあります。一つは私が身につけているもので もう一つはニューヨークの センター・フォー・ブック・アートにあります。なぜ私はこれを本と呼ぶのでしょう? この作品は「ファッション宣言」という題で ファッションについての言葉を 読むことができるからです。それに 作品集というのは 定義がとても幅広いものなので 展示場所から取り出して 散歩に持ち出してもよいのです。パブリックアートとして展示することもできます。アリゾナ州スコッツデールに展示されている 「浮遊する記憶」です。地域の記憶が 風に吹かれてランダムに動きます。

私はパブリックアートが大好きです。ずっと昔から コンペに参加しています。8年間落選が続いた後に ニューヨークの「芸術への1%」プログラムで 初めての制作委託を受けて感激しました。救急隊員や消防隊員の 基地に設置するための作品でした。紙の代わりにステンレスに入った 作品集を 作りました。「同じ方向を目指して」という題をつけましたが 両側に隊員の形の風向計を取り付けて 彼らが全ての方向を守っていることを表現しました。パブリックアートでは カットガラスを作ることもできます。ブロンクスにあるカットガラスです。パブリックアートを作る時はいつも 設置する場所と関係の深い何かを 取り入れたいと思っています。ニューヨークの地下鉄では 電車に乗ることと 本を読むことを対比させました。時間に間に合うよう旅行することと 時間旅行をすること という意味です。ブロンクスの文学を語る上で 一番大切なのはブロンクスの作家と 彼らの物語です。

 

8 世界各国の文字が言葉の根

ガラスを使った別のプロジェクトは カリフォルニア州サンノゼの 公共図書館にあります。サンノゼの成長を 野菜に例えてみました。真ん中に ドングリを置き オローニ・インディアンの文明を表しました。牧場主を表しているのが ヨーロッパからの果実で 世界の果実は現代のシリコンバレーです。今も成長を続けています。技法としては 切断しサンドブラストをかけ エッチング処理と印刷をしたガラスを 建物のガラスに仕立てました。図書館の外にも 心の糧となるような場所が欲しかったので 題名に果実という言葉を含む 図書館の蔵書を持ちだして そうした知識の果実とともに 実際の果樹園を歩けるようにしました。そして 「本の木」を植えました。木ですから 幹には言葉の根となるものがあります。つまり言葉を表示する世界各国の文字のことです。枝には 図書館の蔵書が実っています。パブリックアートは 機能と様式を備えた ものにすることもできます。コロラド州オーロラにあるベンチには 特別なおまけがついています。夏に長いこと短パンで座っていると 立ち去る時には 物語の一場面が 太ももに刻印されているのです(笑)

 

9 「未来の種は今日植えられる」

もう一つの機能的な作品は シカゴの南に位置する 地下鉄の駅にあります。「未来の種は今日植えられる」という作品です。変化とつながりについての 物語です。線路と通勤客を保護し 線路の上に物が落ちないようにするための 覆いとしての機能を持っています。フェンスや窓の柵を 花で代用することができるというのは 素晴らしいことです。この3年間 サウスブロンクスの 住宅開発業者とともに 低所得者層向けの住居や 手ごろな価格の住宅に アートを取り入れる活動をしています。一つひとつの建物に個性があります。時には地域伝来の遺産が反映されます。モーリサニアの場合はジャズの歴史です。パリでのプロジェクトの場合は 通りの名前に関することです。プレーリー(大草原)通りという名前なので ウサギやトンボを放し そこで人間とともに 暮らせるようにしました

2009年に ニューヨークの地下鉄の 車内に1年間掲示するポスターの 制作依頼を受けました。身動きのできない人たちが観客なので 彼らに逃げ道を与えられるようなものにしたいと思いました。そして作ったのが「街の至る所で」です。切り絵の作品に コンピュータで色付けしました。テクノロジーを生かした工芸だと言えます。

 

10 世界を理解するために物語を作ろう

私はこのようにいつも 切り絵の作品を作る過程で 他の技法も取り入れています。でも目的はいつも 物語を伝えるということです。物語にはたくさんの可能性があります。数多くのシナリオがあります。どんな物語になるのか 私にはわかりません。私は世界の想像力や決まり文句 私たちが考えることや歴史から イメージを切り取ります。誰もが語り手なのです。全ての人が 語るべき物語を持っているのですから。でもより重要なことは 人は皆 世界を理解するために 物語を作る必要があるということです。あらゆる宇宙において 想像力が動力源になるように 思えますが 目指すべきは私たちの心であり 私たちがいかに本質的なものや魔法との 関わりを取り戻せるかということです。物語を切り取るとはそういうことなのです(拍手)

 

最後に

私は切り絵師。シルエットは物事の本質を表せる。巻物が便利なのは大きな絵を小さな机の上で描けるところ。人生でも切り絵でも全てはつながっている。「地獄と天国」は自由意志論と決定論についての作品。世界各国の文字が言葉の根。「未来の種は今日植えられる」世界を理解するために物語を作ろう

和訳してくださったWataru Narita 氏、レビューしてくださった Akiko Hicks 氏に感謝する(2011年3月)。

切り絵作家gardenの 草花と動物の切り絵図案集


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