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イザベル・アジェンデの情熱物語

「真実よりも忠実なのは物語です」5歳でフェミニストを自認したアジェンデはこう語りかける。ここでは、220万ビューを超える Isabel Allende のTED講演を訳し、世界を良くするために必要なことを物語を通して明らかにする。

要約

作家であり活動家であるイザベル・アジェンデが女性、創造性、フェミニズムの定義、情熱について語ります。

Novelist Isabel Allende writes stories of passion. Her novels and memoirs, including The House of the Spirits and Eva Luna, tell the stories of women and men who live with passionate commitment — to love, to their world, to an ideal.

 

1 「真実よりも忠実なのは物語」

どうもありがとう。知識人中の知識人に囲まれて緊張しています。情熱の話をしたいと思います。私が大好きなユダヤの諺があります。真実よりも忠実なのは? 答えは物語です。作家として語りたいのは共通の人間性に関する事実に忠実なこと。私はどんな話にも興味を持ち、それを書くまで脳裏から離れないこともあります。

 

2 オリンピックで旗手を務めるまでは無名の作家だった

よく浮かぶテーマは正義、忠実、暴力、死、政治問題、社会問題、自由。この世の神秘を自覚しているので、偶然の一致、予感、感情、夢、自然界の力、魔法を題材に執筆しています。過去20年間に私は数冊出版していますが、2006年2月トリノオリンピックで旗手を務めるまで無名の作家でした。以来私はセレブでデパートで気づかれるようになり、孫からかっこいいと思われています。ハレの瞬間を紹介させてください。

 

3 私は何を着るの?

オリンピック開会式を準備するある方から、私が旗手の1人に選ばれたと電話がありました。私は運動とはかけ離れた人間だから、それは人違いだろうと言ったんです。歩行器なしでスタジアムを回るなんて私にできるのかどうか(笑)。笑い事ではないと言われました。女性だけでオリンピック旗手を務めるのは初めてだったのです。五大陸を象徴する5人の女性と、オリンピック金メダル受賞者が3人。もちろん私の質問は、私は何を着るのかでした。ユニフォームだと言われサイズを聞かれました。私のサイズですよ。ミシュランマンのようなふわふわのアノラック姿の自分を想像しました。

 

4 心とは人を駆り立て運命を定めるもの

2月中旬に80チームに声援を送る80チームに声援を送る群衆がいるトリノに私はいました。選手はメダルを賭けて犠牲を払ってきたのです。誰もがメダルに値するけれど、運という要素も欠かせません。微量の雪、数センチの氷、風の力が競技結果に影響を及ぼすのです。しかし、訓練や運以上に肝心なのは心。勇敢な動かぬ心のみ金メダルを手にするのです。すべては情熱です。トリノの通りは大会スローガンを書いた赤いポスターでいっぱいでした。“情熱はここに息づく”常にそうなのでは?心とは人を駆り立て運命を定めるもの。私の本の主人公には欠かせません。情熱的な心。一匹狼、反体制者、冒険家、異端者、反逆者。疑問を持ち、規則を曲げ、リスクを冒す人たち。ここにいる方達のようにね。常識を持つ良い人は魅力的な主人公にはなりません。善良な別れた伴侶の役ならいいけれど(笑)(拍手)。

 

5 情熱的な2人の女性

スタジアムの控え室で他の旗手に会いました。選手3人と女優のスーザン・サランドンとソフィア・ローレンです。そして情熱的な2人の女性。ノーベル平和賞を受賞したケニアのワンガリ・マタイ。彼女は3000万本の木を植樹し、アフリカ各地で土壌・天候を変え、たくさんの村の経済状況を変えた人です。そして、児童買春と闘うカンボジア人活動家のソマリー・マムです。彼女は14歳のときに祖父に売春宿へ売られました。処女の少女との性交でエイズが治せると信じている男に強姦された少女の話や、毎日売春宿の少女は5〜15人の相手を強いられ、反抗すれば電気拷問される話を聞きました。

 

6 「美の秘訣は?」「姿勢よ」

控え室ではユニフォームを渡されました。私が普段着るような服ではなかったけれど、私が懸念していたミシュランマンとはほど遠く、そこそこのものでした。私はまるで冷蔵庫(笑)。美と情熱の象徴であるソフィア・ローレンを除き、ほとんどの旗手もそうでした。ソフィアは70歳を超えるのに容姿端麗です。セクシーですらりと長身で褐色の肌。でも褐色の肌でシワがないのはなぜかしら?ある番組で”美の秘訣は?”と聞かれて、彼女は“姿勢よ。背筋は常にピンとして老人くさい音は出さないの”と答えていました(笑)。世界最高の美女の1人から無料のアドバイスです。不平不満、咳、喘ぎ声、独り言、オナラに注意しましょう。厳密にはそう言わなかったけど(笑)。

 

7 たいていの男なら喜ぶ場所よね

真夜中頃に私たちはスタジアム脇に呼ばれて、オリンピック旗掲揚が放送され音楽が始まりました。ちなみにここでも流している凱旋行進曲です。私の前に立っていたソフィアは私より30cm長身なんです。ふわふわの髪の毛を勘定せずにね(笑)。彼女は肩の位置に旗を保ち、サバンナのキリンのように優雅に歩く後ろで私は小走り。つま先立ちで腕を伸ばして旗を持っていたから、私の頭は旗の下に隠れてたのよ。もちろんどのカメラもソフィアに注目。おかげで私も多くの写真に写っていました。でもその大半はソフィアの脚の間。たいていの男なら喜ぶ場所よね(笑)(拍手)。

 

8 人生の最高な4分間はスタジアムで過ごした時間

私の人生の最高な4分間はスタジアムで過ごした時間です。私の夫にこれを言うと起こるのですが、夫と二人きりでやることはだいたい4分未満で終わっちゃうのよね(笑)。だから個人的にとるべきではないんです。脳細胞がやられたときに忘れたくないので、あのすばらしい4分の思い出の切り抜きはすべてとってあります。オリンピックのキーワード”情熱”は永遠に心に留めておきたいのです。

 

9 若き難民女性ローズ・マペンド

こんな情熱物語があります。1998年場所はコンゴのツチ系難民の捕虜収容所。ちなみに世界中の難民と流民の8割は女性と女児です。この収容所は殺されなければ病死か、餓死するため強制収容所とも呼べます。主人公は若き女性ローズ・マペンドと彼女の子どもたちです。彼女は妊娠中で未亡人。兵士に夫が拷問され殺されるのを、彼女は強制的に見せられました。彼女は7人の子どもを守り抜き、数ヶ月後未熟児の双子の男の子を出産します。彼女はへその緒を枝木で切り、自分の髪で縛ります。収容所指令者の機嫌を取るため双子にはその男の名前をつけ、母乳不足のため紅茶で育てます。兵士が長女を強姦しようとしたときは、頭に銃を突きつけられても彼女は身体を張って娘を守ります。その家族は16ヶ月生き延びて、驚くべき運と若い米国人男性サーシャ・シャノフの情熱的な心のおかげで米国救急搬送器に乗せてもらえます。ローズと9人の子どもはアリゾナ州フィニックスに落ち着き、現在そこで元気に暮らしています。スワヒリ語でマペンドは大いなる愛を意味します。私の本の主人公はローズ・マペンドのような強い心と情熱を持った女性です。私は主人公を作り上げることはしません。本にしたい人はたくさんいますから…。女のために女同士で取り組んできたので、女には熟知しています。

 

10 私はただの変な子でした

私は大昔、この世の果ての家父長的カトリックの保守的な家に生まれました。どおりで5歳でフェミニストになったわけです。当時チリにはその考え方がなかったため、私はただの変な子でした(笑)。私は間もなく自由の獲得と家父長制に対する異議には、高い代償が要ることを知ります。でも代償を喜んで払い、一撃を受けるたびに2倍にして返しました。

 

11 フェミニズムは決して廃れていない

娘のポーラが20代のとき、フェミニズムは時代遅れだから先に進むべきだと言われました。忘れられないケンカをしました。フェミニズムが時代遅れ?恵まれた立場であればそう言えますが、早期結婚や売春や強制労働をさせられ望まぬ出産をした女性や、貧困から子どもを養えない女性は違います。彼らの体も生活も支配されているのです。教育も受けられず自由もありません。強姦、暴行、時に起こる殺人も咎められません。今日ほとんどの若い欧米人の女の子にとってフェミニストと呼ばれるのは侮辱です。フェミニズムはセクシーではないけれど、私は色目だって使うし、滅多に男には困りません(笑)。フェミニズムは決して廃れていません。時代が変わって呼び方が嫌なら変えればいいだけのこと。アプロディーテ、ヴィーナス、ふしだら女、何でもいい。内容を理解して支持するならば名前なんて関係ありません

 

12 米国人歯科衛生士のジェニー

もう1つの情熱物語は悲しい話です。2005年バングラディシュのある村の小さな女性診療所での出来事です。米国人歯科衛生士のジェニーは、3週間の休暇を使いボランティアとして診療所へ行きます。歯の掃除をするつもりが現地には医者も歯医者もおらず、診療所はハエがたかるただの小屋。外には治療のために何時間も女たちが列を作っています。

 

13 小声で祈りながら抜歯を始めた

1人目の患者は数本の臼歯が腐って、痛み苦しんでいます。唯一の解決策は抜歯だとわかっていても、ジェニーにはその資格も経験もありません。彼女は怯えながらもリスクを冒します。必要な道具すらありませんが、幸運にも局所麻酔薬を持参していました。勇敢で情熱的なジェニーは、小声で祈りながら抜歯を始めます。抜歯で楽になった患者は彼女の手にキスをします。その日彼女は何人もの抜歯をします。

 

14 顔の腫れと抜歯は無関係

翌朝ジェニーが診療所に行くと、昨日の1人目の患者が夫とともに待っています。彼女の顔はスイカのように腫れ上がり、目がどこにあるかもわかりません。激怒している夫はジェニーを殺すと脅します。ジェニーは自分がしたことに怯えますが、顔の腫れと抜歯は無関係だと通訳者が言います。前日夫の夕食を作る時間に戻らなかった妻を夫が殴ったのでした

 

15 女性が保有する世界資産は1%未満

今日何百万人もの女性がこのような状況にいます。彼女らは貧困中の貧困です。世界の労働の3分の2は女性がしているのに、女性が保有する世界資産は1%未満。同じ仕事をしても無給もしくは男より低く、経済的自立が成り立たず弱い立場にいるのです。そして常に搾取、暴力、虐待にさらされているのです。女性に教育、仕事、自身の収入管理、資産相続、所有権を与えられれば社会の利益につながるのは事実です。女性に公的権限が与えられれば、子どもも家族も豊かになるでしょう。家族が繁栄すれば村も繁栄し、結果として国全体が繁栄するでしょう。

 

16 女性の事業には1ドル、男性の事業には20ドルの寄付

ワンガリ・マタイがケニアの村へ行き、不毛な土地は木を切り倒し売った結果だと女たちに説明しました。そして植樹をしてもらい、時間をかけて木を育てます。5〜6年でその土地は森に成長し、土壌は肥沃になり、村が救われました。最貧国や多くの後進社会は、いつも女性を押さえつけています。なのにこの明白な事実は、政府や慈善団体にも無視されています。女性の事業に1ドル寄付されるところ、男性の事業には20ドル寄付されています。女性は人類の51%を占めています。技術、デザイン、娯楽よりも何よりも、女性に力を与えられればすべては変わるはずです。私が約束できるのは、女性が繋がり、指導され、教育されれば、この哀れな地球に平和と繁栄をもたらせます。現在起きている戦争の犠牲者の大方は一般市民で、多くが巻き添えとなった女と子どもです。男が世界を操り、その結果がこれです。我々が望む世界とは?大概の人が抱く基本的な疑問です。今の世界の風潮に乗るのは穏当でしょうか。皆の生きる権利が擁護され、生活の質が豊かな世界を望んでいるのです。

 

17 貧困層にいる男でさえ虐待できるのが女と子ども

私は1月にUCバークレーの図書館でフェルナンド・ボテロの展覧会を見ました。アブグレイブ刑務所をテーマにした作品のため、ボテロの作品を所蔵しているニューヨークのギャラリーを除き、アメリカでこの作品を展示しようとした美術館やギャラリーは今のところありません。拷問と権力の乱用を、独特のボテロの作風で描いた巨大な絵画です。その絵画が残像となって私の心から離れません。

私が一番危惧するのは迫害です。権力の乱用や悪用される権力も心配です。人間界では男の指導者が現実を定義して、現実の受容と規則を守るために群れをねじ伏せます。規則は常に変わりますが、規則は常に男のためにあり、この場合経済では効かないトリクルダウン効果(富める者が富めば貧しい者へも富が渡るというもの)が完璧に作用します。不正は梯子の上から下まで浸透します。下底にいるのは女と子ども、特に貧民。一番貧困層にいる男でさえ虐待できるのが、女と子どもです。性別、収入、人種、階級を通して振るわれる権力にはうんざりです。

 

18 男の中に女性の力を育てる必要がある

我々の文明に根本的な変化を起こすときが来ています。しかし、真の変革には世界を取り締まる女性の力が必要です。力を持つ女性が山ほど必要で、男の中に女性の力を育てる必要があります。もちろん私が指すのは若い心を持った男です。老年男は望みがないので絶息するのを待つしかありません(笑)。ソフィア・ローレンの長い脚や伝説の胸は羨ましいけれど、選択肢があるならワンガリ・マタイやソマリー・マム、ジェニーやローズ・マペンドの勇士の心を選びます。

 

19 情熱的に働きかけよう

この世界を良くしたいのです。より良くではなくて、良くしたいのです。その証拠にこの会場を見渡してください。知識も活力も才能も技術もあります。今こそ動き出し、腕まくりをして、情熱的に働きかけましょう。もう少しで完璧な世界を創り出すために。ありがとうございます。

 

最後に

とんでもねえババアだ。話を聞いてると男がクソ野郎に聞こえる。でもそんな男がいることも事実だ。自虐的に笑いをとりつつも、すばらしい女性たちを称えている。緊張で声を震わせながらも、伝えるべき物語をしっかり話している。広く、公平な視点で世界を見ている。とても尊敬できる、勇敢な心と情熱を持つクソババアだ男も女も関係ない。良い世界を作ろう

和訳してくださった Takako Sato 氏、レビューしてくださった Kayo Mizutani 氏に感謝する(2008年1月)。

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