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ダイアン・ケリー 「知られざるペニスの解剖学」

「解剖学は終わった科学じゃない。だって哺乳類の勃起はどのように起こるか、誰か説明できる?」ケリーは語りかける。ここでは、100万ビューを超える Diane Kelly のTED講演を訳し、身体の基本的な部分にすらまだ知られていないことがあることを理解する。

要約

解剖学は終わった訳ではありません。 ゲノム、プロテオミクス、それに細胞生物学の研究はとても進んでいます、しかし、 TEDMEDにおいてダイアン・ケリーは身体の基本的な部分にすら未だ知られていないことがあるのだと提唱します。例題「哺乳類の勃起はどのように起こるのでしょうか?」

Diane Kelly studies vertebrate anatomy, in particular the connection between the design and the function of reproductive organs.

 

1 「友達から聞いたんですけど…」で始まり「本当なんですか?」で終わる

私がパーティーに行けば セックスを研究する 科学者であることが すぐにばれてしまいます。すると色々と質問が飛んでくるわけなんですが これには特定のパターンがあるようです。質問はこう始まります 「友達から聞いたんですけど…」 質問の終わりはこうです 「本当なんですか?」。幸いにもほとんどの 質問にはお答えできますが お答えできないこともあります。「申し訳ありません。それは私の研究分野ではないんです」と 言わざるを得ない時もあります。

 

2 私は臨床医ではなく解剖学を研究する比較生物学者

私は臨床医ではなく 解剖学を研究する比較生物学者です。私は様々な動物を観察しながら 正常な組織や器官の働きを研究しているのです。ですから問題が起きた時の 解決策を探る臨床医とは やってることが 少し違います。生物学上の簡単な問題に対する 解決策の中の類似点と相似点を 探っているのです。

 

3 人類全員の健康と密接に関わっている営みの研究

さて 本日ここでお伝えしたいのは このような営みは研究者の 専売特許ではないことと より幅広い動物の 種族、組織、器官系を 研究することで得られる見識は 私たち人類全員の健康と 密接に関わっているということです。このことは最近行った性別による脳の違いの研究と ペニスの機能・解剖学の研究の 両方において正しいことが 証明されています。私のパーティー好きの理由がおわかりですね(笑)

 

4 ペニスとは精液をある個体から別の個体に送り込むためのもの

さて 本日は私のペニスの研究から 一例を紹介して ある器官系から得られた 情報が異なる領域に どのように情報を提供し得るかご説明します。皆さんはご存じだと思いますが9歳の息子は ペニスのことをよくは知らなかったので説明をしました。ペニスとは精液をある個体から 別の個体に送り込むためのものだと。後ろのスライドは 動物界で見られるペニスの ほんの一例です。動物界のペニスは本当に多種多様で 筋肉管 足 ひれが変形したものもありますし 哺乳類のものは膨張する肉のような管状器官です。もちろん皆さん… 少なくとも半数の方はご存じだと思います(笑)

 

5 体内受精の進化に伴ってペニスが誕生した

こんなにも多くの種類があるのは 生物学上の基本的な問題を 効果的に解決するためです。つまり 精子を卵子に到達させて 受精卵を作るためです。実は体内受精にペニスは必要ありません。逆に体内受精の進化に伴って ペニスが誕生したのです。

 

6 骨とペニスは密接に関連している

この話をするといつも聞かれるんです 「なんで興味を持たれたんですか?」 その答えは「骨」です。骨とペニスが密接に 関連しているとは普通は思いませんよね。ですから 骨なんていうのは 速度や力を生み出すための 単なるカチカチのレバーと思われがちです。私が初めて携わった生物学の研究は 学部時代に行った恐竜化石学でした。生物学の分野では非常にまともなものでした。

 

7 ペニスは歴史的に見れば柔軟で曲がりやすい器官だった

しかし生物力学を学ぼうと大学院へ進むと 骨の機能についての知を深められる プロジェクトテーマを見つけたくなりました。色々と試しましたが ほとんど実りはありませんでした。しかし ある日 哺乳類の ペニスはどうかと考えました。なんと言っても特異的な構造をしていますから 体内受精に使用される前に 力学的挙動になにか 壮大な変化があったはずです。歴史的に見れば柔軟で曲がりやすい 器官でした。しかし 性交渉に使用される際は 硬直して 簡単には曲がらないように ならなくてはいけません。もちろん正常に機能する必要もあります。生殖機能が不順な個体には 子孫ができないため 遺伝子プールから排他されてしまいます。

 

8 静水力学的骨格には2つの要素が必要

そこで考えました。「骨が問題を提起しているんだ」 このような骨ではなく こちらの類の骨格です。組織を支え 力を伝えるものは全て機能的には 組織を支え 力を伝えるものは全て機能的には 骨格と呼ぶことができるからです。ミミズのような動物は大抵 骨格にもたれかからずに 身体を支えていることは 既に知っていました。その代りに身体は補強水風船みたいになっており これを静水力学的骨格と呼んでいます。静水力学的骨格には2つの要素が必要です。加圧流体と それを覆う壁の部分です。これに線維状タンパク質が加わり堅さが生まれます。これに線維状タンパク質が加わり堅さが生まれます。この相互作用が最重要であり 二つ揃って初めてサポートが得られます。体液だけがあっても これを囲う壁がなければ 圧力は上がり続けて ただの水たまりになってしまいますし 壁だけでは 水圧がなくなりますから 小さなボロ切れしか残りません。

 

9 ペニスの断面図を見ると静水力学的骨格の特徴がよくわかる

ペニスの断面図を見てみると 静水力学的骨格の特徴が よくわかります。中心部は 勃起性の海綿状組織であり 血という液体で満たされています。更にコラーゲンという硬い 構造タンパク質が豊富な壁で覆われています。しかし このプロジェクトを始めた当時は ペニスの勃起について最も筋の通った説明と言えば 海綿状組織とそれを覆う周辺組織の中にある 血液が圧迫されることで ジャジャーン!勃起するというものでした。

 

10 ペニスを曲げるのが困難になるメカニズムの説明はなかった

膨張現象についてはこれで説明できます。血液が流入し組織が膨らむんです。しかし 勃起の完全な説明とはいきませんでした。というのも曲げるのが困難になる メカニズムの説明は含まれていなかったのです。周辺組織の体系的観察もされていませんでした。そこで この壁が謎を解くための 重要な鍵だと考えたのです。

 

11 「この道を進むなら気をつけろよ。成功する保証はないぞ」

ちょうどその頃 大学院のアドバイザーに言われました 「ちょちょっと待て!落ち着くんだ」 私がプロジェクトのことを半年も話し続けるうちに 彼は気づいたのでした。私が真剣にペニスについて考えていることを(笑)。彼は警告をくれました 「この道を進むなら気をつけろよ。成功する保証はないぞ」 道を踏み外してしまうのではと心配をしてくれたのです。世間一般では気恥ずかしいと考えられているこの問題に対する 私の出した回答が彼には とりわけ興味深く思えなかったのです。その理由とは 当時 自然界で発見されていた 静水力学的骨格は全て 基本的には同じだったからです。中心に液体があり それを覆う壁があるのです。壁の内部には軸があり この周囲を交わり合う繊維の 螺旋が走っているというものです。

 

12 交差する螺旋状の骨格組織の一部の画像

後ろの画像は 交差する螺旋状の骨格組織の一部を写したものです。表面が見えるようスライスしてあります。矢印は中心軸です。青色と黄色で色づけされた 二重の層の配列は均等に 並んでいることが伺えますね。繊維の断面を観察しなければ 軸を中心とした 単なる螺旋に終わっていました。ちょうど指を入れると抜けなくなる 中国式フィンガートラップの柄に似ています。

 

13 繊維は骨格の動きに合わせて再配向しており柔軟性がある

この骨格構造には特異な行動が見られます。それを今からお見せします。これは風船を 布で覆って作った 螺旋状繊維の模型です。布には斜めに切り込みが入っています。螺旋状に包まれているところが見えますね。繊維は骨格の動きに合せて再配向しており 柔軟性がありますね。内外からの力に順応する形で 伸びたり縮んだり曲がったりします。

 

14 ペニスは勃起している最中に動き回らない

私のアドバイザーは「ペニスの壁が 他のものと一緒だったら?」 という心配をしていました。研究の意味がなくなってしまいますし 生物学に新たな知識を 提供することができなくなります。そこで思ったんです「確かにその通りだな」 そして長く長く悩んだのですが 一つ気に掛かることがありました。ペニスは勃起している最中に 動き回ったりしないということです (笑) つまり何か仕掛けがあるんです。

 

15 ペニスには内と外の2つの壁がある

そこでペニスの壁の組織を入手して 勃起させて 切り取りスライドガラスに載せて 顕微鏡で観察してみました。もちろん交差する螺旋状のコラーゲンが見えると思っていました。しかし実際は ペニスには 内と外の二つの壁があったのです。矢印は骨格の軸です。

 

16 軸に対して繊維が直角に交錯する組織を見つけた

これには本当に驚きました。他の人にも見せましたが みんな同様に驚愕していました。なぜみんな驚いたのでしょうか? 先ほどとは異なる繊維配列でも 理論的に静水力学的骨格が 成立することはわかっていました。それは軸に対して繊維が 直角に交錯する場合でした。しかしこのような組織は見つかっていませんでした 私はちょうどそれを眺めていたのです。

 

17 この組織があることで骨格に特異な行動が見られる

繊維がこの角度で交錯することによって 骨格に特異な行動が見られるようになります。同じ材料で作った 模型をお見せしましょう。同じ風船に同じ布でできています。内圧も同じにしてあります。唯一違う点は 繊維の交わり方です。二重螺旋構造とは異なり こちらは伸び縮みもしませんし 曲がってもくれません。

 

18 壁の組織はペニスの骨格の一部を成している

ここから分かることは 壁の組織は血管組織を 単に覆っているだけではなく ペニスの骨格の一部を成しているのです。勃起組織の周りの壁がなければ このように硬くはなりません。膨張して変形はしますが 曲がってしまうので 機能を果たさなくなってしまいます。

 

19 この観察は医学的な方法で人間にも応用することができる

この観察は医学的な方法で 人間にも応用することができます。しかし義肢学やソフトロボティクスをはじめ 形や硬さの変化が重要な分野であれば 基本的に全てに 関連があると考えています。

 

20 人体のなんの変哲のない構造にもまだまだ学ぶことはある

まとめると 20年前は 「解剖学に少し興味があるの」と 大学で言えばアドバイザーに 「解剖学は終わった科学だよ」と 言われたものでした。このことは全くの間違いでした。人体のなんの変哲のない構造にも まだまだ学ぶことはあると信じています。分子生物学や遺伝学だけではなく 身体の表面にある肉の部分にも学ぶところはあります。時間には限りがあります。ですから1つの疾病、モデル、問題に 囚われてしまいがちですが 私の経験によると時間を掛けて より大きな視点に立って アイディアを当てはめ 結果を考察することが大切なのです。最終的には脊椎骨格に関するアイディアから 哺乳類の生殖器官についての 情報が得られた訳ですから、他にも未だ発見されていない相互関連性のある 情報がまだまだあるかもしれないのです。ありがとうございました(拍手)

 

最後に

ペニスとは精液をある個体から別の個体に送り込むためのもの。ペニスには内と外とで2つの壁があり、それは軸に対して繊維が直角に交錯している。この組織があることで、ペニスは独自の特徴を持てる。解剖学は終わった科学ではない

TED公式和訳をしてくださった Takahiro Shimpo 氏、レビューしてくださった Yusuke Yanagita 氏に感謝する(2012年6月)。

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