pension

年金は決して破綻しない バランスシートで見る民営化と年金

前回は、デフレの原因は人口減少なのか? バランスシートと金融政策についてまとめた。ここでは、年金は決して破綻しない バランスシートで見る民営化と年金について解説する。

1 バランスシートと民営化

特殊法人の経営状況を把握する「政策コスト分析」

政策コスト分析(policy cost analysis)とは、政府からの貸付金や出資金と、特殊法人の実際の資産との差額を毎年計測するものである。この差額分は税金で補填され、特殊法人の資産残高のほぼ5%になっている。これが大きくなりすぎれば事業中止を考え、逆にマイナスになれば民営化することができる。

 

道路公団は資産超過だった

民営化した例で非常にうまくいったケースが2つある。1つが営団地下鉄で、もう1つが道路公団である。道路公団は当初、年間3000億円の税金を継続的に投入しないと民営化できないといわれていたが、バランスシートを計算したところ資産超過だったのである。

資産価値は、資産から将来生み出される収入に依存する。将来生み出されると見込める収入のことを「将来キャッシュフロー」という。資産の現在価値は、この将来キャッシュフローを現在に割り戻して足したものである。道路公団の場合、持っている資産は道路で、そこから生み出される収入は利用料となる。

当時、アメリカで高速道路に100キロ乗ると200円(2ドル)だったにも関わらず、日本では10倍の2000円程度支払っていた。こうした経験をもとに、著者はしっかりとバランスシートを計算すれば資産超過になると踏んでいたのである。

 

UR(都市再生機構)も資産超過

独立行政法人のUR(都市再生機構)は、2010年4月に行われた事業仕分け第二弾で、賃貸住宅部門は原則民営化(高齢者・低所得者向け住宅供給は自治体や国に、それ以外は民間に移す)とされた。しかし、国交省で検討された結果、「債務が14兆円あるから」として民営化しない方針になった。

URのバランスシートを見てみると、たしかに負債は14兆円あるが、資産も15兆円あるため資産超過なのである。こうした民営化に有効なツールとして財務省が公表している「政策コスト分析」がある。これは事業の継続にあたって、必要な補助金総額を計算したもので、これがプラスなら税金投入が必要だが、マイナスなら税金投入なしで事業ができる可能性があるのである。

 

2 年金のバランスシート

年金は決して破綻しない

年金もバランスシートがわかると理解が深まる。年金のバランスシートでは、右側に将来給付すべき年金を計算して責任準備金として置く。これは人口や年齢構成、国民所得などから算出される。左側にはそれに応じて徴収されるべき保険料を置く。そして責任準備金と保険料は常に一致している。

年金破綻をバランスシートで考えると、保険料が予想以上に小さくなるか、責任準備金が予想以上に大きくなるかのどちらかである。しかし、前者の場合はそれに応じて責任準備金(年金支給額)を減らせばいいし、後者の場合は少子高齢化が進む中で年金支給額を増やすのは現実的ではない。つまり、年金をバランスシート発想で設計している限り、年金システムが破綻することはあり得ないのである。

 

日本の年金は意外に健全

日本の年金の給付額の目安(リプレースメント・レシオ)は平均所得の30〜40%であり、世界的に見ても低いことから健全であるといえる。これに不満を持つ人は「もっと給付を多くしろ」と主張するが、給付をを多くすれば保険料が増えるか、年金財政が脆弱になるかというだけである。

元々年金は、先に生まれた人が有利で、後から生まれた人は不利になる制度である。そもそも年金制度は親に仕送りするようなもの(賦課制度)なので、税金だと考えたほうが理解しやすいだろう。身寄りのない高齢者が路上に倒れるような事態が起きる社会よりは健全である。

 

保険料未納は「脱税」と同じ

その意味で、保険料未納は「脱税」と同等に扱うべきである。以前、保険料を税にするという議論が行われていた。しかし、税方式にしても社会保険料方式にしても年金の額は変わらないし、実務的に極めて煩雑な作業になるため意味がない。

今の社会保険料方式ならば、自分がもらえる年金の金額が払った金額にリンクするようになっている。こうした仕組みは残したまま、年金機構と国税庁を一緒にした「歳入庁」をつくるのが最も賢明である。

 

最後に

バランスシートを学ぶと、民営化の基準や年金に対する確かな見識を持つことができる。同時に、残念ながらそれを悪用することもできる。世の中には様々な議論や意見があふれている。その意図は何か、悪意は存在しないか。定性的でなく定量的につかもう

次回は、消費税は地方の重要な財源 日本の財政とプライマリーバランスについてまとめる。

バランスシートで考えれば、世界のしくみが分かる (光文社新書)


「年金は決して破綻しない バランスシートで見る民営化と年金」への0件のフィードバック

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>